鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。 作:Red October
なお私は基本的に、原作と大きく変わらないところは描写をカットするスタイルです。その点ご理解のうえご了承願います。
あと、今回が実習前最後の更新です。これ以降、しばらく更新が遅い状態が続きます。予めご了承願います。
中央暦1640年12月14日、カルアミーク王国 王都アルクール付近の山林地帯。
ロデニウス連合王国国交使節団の護衛として、この国にやってきていた竜騎士ムーラは、若い女性が何か“魔物のような生物”に襲われているのを目撃した。
「良かった、何とか間に合いそうだ」
まずはワイバーンの咆哮により、魔物の注意を逸らす。
魔獣の動きが一瞬だけ止まったその隙を衝き、彼は女性と魔獣の間にワイバーンごと割って入った。
「人間を襲うなんて、お仕置きが必要だな。相棒、火炎放射だ」
今回ムーラが選択した攻撃手段は、「火炎放射」だった。火炎放射は導力火炎弾に比べると射程が短いが、火炎を吐き出す
人間とは隔絶した魔力によって放たれる、竜の火炎放射。魔獣はその強力な炎に灼かれ、断末魔を上げながら火だるまになっていく。そして、僅か数秒の火炎放射で、6本足の魔獣は真っ黒焦げの屍体と化して動かなくなった。
「食ったらマズそうだな……」
上手に焼かれた丸焦げ屍体を見て、竜騎士ムーラは素直な感想を漏らす。そこではたと気付いて振り返ると、女性が自分を見上げ震えていた。
(怖がる女性には、まず警戒心を解くことが必要だな)
ムーラは、ワイバーンの背中から地面に滑り降りると、女性の前に立った。そして戦闘用の金属製ヘルメットを脱ぎ、笑いかけつつ手を差し伸べる。
「無事か? ケガは無いか?」
女性は少しの間固まっていた。命が危なかったのだから無理もないが。
少しして、女性はゆっくりと手を出す。
「あ……ありがとうございます」
彼女はムーラの手を取ってゆっくりと立ち上がった。そしてムーラを見る。
何故か女性の頬は仄かに赤く、目が潤んでいる。やけに見詰められるが、ムーラは気にしなかった。
そこへ、ガサガサと生い茂った草を掻き分ける音がして、使節団の護衛に当たっていた兵士のうち2人が走ってやってきた。距離が比較的近かったとはいえ、この走り難そうな地面を、貢物を始め重い荷を持って走ってきたにも関わらず、随分と早い到着である。それだけ兵士たちが鍛えている、ということの証だった。
「大丈夫ですか、ムーラ中佐?」
「ああ、この女性を襲っていた魔獣は片付けた。女性も無事だよ」
そう言いながら、ムーラは黒焦げ屍体になった魔獣を指差した。
「流石です、ムーラ中佐」
「いや、大したことはない。使節団の皆様は?」
「まだこちらへ向かっている途中です。ですが、あと5分ほどで到着するかと思います」
ムーラと兵士たちが言葉を交わしていた頃、危ういところで命を救われたエネシーは、感動に震えていた。
(私が死を覚悟し神に祈った時、神様は私に1人の騎士様を
普通の騎士様が現れても、私は心を奪われたことでしょう。しかも、私の前に現れた騎士様は、伝説や物語でしか見たことのないドラゴンに乗っていたわ。竜の騎士……ドラゴンナイト様よ!
竜の騎士様はドラゴンを操り、私を襲おうとした強い魔獣をたった1騎で、しかも僅かな時間で倒してしまったわ。その御力は人間の力を大きく超えているわね。
しかも騎士様は私の前に降りてきて、私を想い、声をかけてくださった。その声は少し低く、包み込まれるようで、声をかけられただけで蕩けてしまいそう。
しかも頭に装着した防具を脱いだ素顔……イケメンじゃないの!)
(さらに、竜の騎士様の差し伸べた手……少しゴツゴツして男らしいわ。エネシーはもう、貴方の
そんなことを考えながら、エネシーが竜騎士を見詰めていると、森の先からくすんだ緑色の服を着て汚らしい格好をした男たちが2人やってきた。
その格好は一言で言えば「野蛮」であり、彼女がその場で「森の蛮族」と命名したほどだった。
「大丈夫ですか?」(注: ここにはエネシーの脚本が入っています)
(汚らしい格好なのに、私と騎士様に声をかけてくる。ああ、なるほど、竜騎士様の配下の者ね。
しかし、竜騎士様はこんな野蛮な者たちでさえ、嫌がらずに食べさせるために養うなんて、なんと心の広い方なのでしょうか……!)
エネシーは完全に舞い上がっており、自分に都合の良いような解釈しかしなくなってしまっていた。
そこへ、きっちりとした服を着た男たちが何人か、息を切らしてやってくる。もちろんこれは、外交官のリヴァロ・コーデルを始めとする国交使節団の面々であった。
(しっかりした格好だけど、何者かしら? まあ良いわ。ともかく神様は、私と竜騎士様を引き合わせたのよ……!)
この“運命の出会いの場”に、配下の下々の者たちは似つかわしくない。だが、エネシーは“旅は一人ではできない”ことも承知している。
(まずは、ウィスーク公爵家の娘として、きちんとお礼をしなければ)
エネシーは口を開き、竜騎士ムーラとコーデルたち一同に向けて話し始める。だが、その目は
「あの……竜騎士様。助けていただいて、ありがとうございます」
しかも、エネシーは
「いや、いい。気にするな」
(短い言葉で伝えるその御姿が以下略)
まずムーラにお礼を伝えた後、エネシーは着ている衣服の端を摘まみ、貴族式の挨拶をしながら自己紹介を行った。
「竜騎士様の配下の方々、私はカルアミーク王国三大諸侯のウィスーク公爵家の娘、エネシーと申します。
竜騎士様に助けていただいたことを感謝し、是非お礼に家でご一緒にお食事をと思っています。配下の方々も、よろしければご一緒にどうぞ」
「は……配下の方?」
ここで、外交官のコーデルは彼女の“勘違い”を正すべく、説明をしようとした。だが、エネシーと名乗った女性はそれに気付くことなく話を続ける。
「この先を抜けると城門があります。
どこの国の方かは存じませんが、あなた方は私の命の恩人です。是非いらして下さい」
ひとまずファーストコンタクトの経過が良好そうなのを見て、ようやく「新人」の称号が取り去られかけている外交官、リヴァロ・コーデルはほっとした。
“公爵家の娘の命を助けた”とあれば、心象も良いことだろう。それに、今回のこの出来事が切り口となって、外交が良好に推移していく可能性も高い。
そんなコーデルをよそに、エネシーはムーラの方を向いていた。
「竜騎士様、お名前をお聞かせください」
「ああ、ムーラという」
「ムーラ様、素敵なお名前……」
ムーラの簡潔な返答であったが、エネシーは
「私の将来の
この呟きが聞こえた一同のうち、外務省の面々は何とも言えずに沈黙し、軍人たちは互いに顔を見合わせた。
ムーラは、軍の中では「愛妻家」という評判で通っている。そして、彼と親しい付き合いがなくとも、ムーラが既に子供を授かっているらしいことも知られていた。つまり…色恋絡みで“厄介なこと”になりそうな予感を抱いたのである。
「? 好意を持ってくれるのは嬉しいが、私にはつ……」
「ちょちょちょ!」
発言しようとしたムーラを、慌てて制止したのはコーデルだった。
焦ったような様子のまま、コーデルはムーラに小声で話しかける。
『ちょっとムーラさん! 外交の糸口が見えた時にそれを潰すような真似はやめて下さい!』
『いや。しかし私には妻がいるし、きちんと断っておかなければ彼女にも悪いだろう』
『外交に私情は不要なのですよ』
『いや、私は外交官ではありませんし』
『ぐっ……!』
痛いところを突かれ、コーデルは言葉に詰まった。
『良いですか? もし貴方が
少しだけ……公爵と接触するまでの間だけで良いですから、この機会を潰さないでください。お願いします』
『ま、まあ、そこまで言うのなら……』
ムーラは、しぶしぶコーデルに応じた。
「やん! 好意を持ってくれるのが嬉しいだなんて!」
エネシーは、ムーラの発言の“ほんの一部”しか聞いていなかった様子である。
どうして良いのか分からないムーラをよそに、一行はカルアミーク王国の王都アルクールへ向かうのだった。
そのしばらく後、王都アルクールの一角を占めるウィスーク公爵邸。
(いったい何なんだ?)
カルアミーク王国三大諸侯の1人、ウィスーク公爵は内心頭を抱えていた。その原因は、目の前にいる見たことのない服装をした何人かの人間、そして娘エネシーの説明である。
彼女が興奮気味に語った内容をざっとまとめると、以下の通りである。
まず本日、娘エネシーは、ウィスーク公爵本人が駄目だと言ったにも関わらず、王国の建国祭の際に着るドレスの飾りとして花を、「王都の外側に」
次に、花を取りに行った先の山で、この付近では活動が確認されていない十二角獣と出会い、死にかけた。これは、命の危険が生じたということに他ならない。ウィスーク公爵は、もう“護衛を付けない状態での娘の外出”は認めるまい、と心に決めていた。
最後に、窮地に陥ったエネシーの前に颯爽と「竜に乗った騎士」が現れ、十二角獣をあっさりと倒し、エネシーの命をも救った。これは、物語にしてもタイミングが良すぎである。あまりにも出来すぎた話だ。
そして……今ウィスーク公爵自身の目の前にいる、くすんだ緑色の衣装を着た汚らしい格好の者たち……一言でいえば「蛮族」だ。エネシーの説明によれば、竜騎士の配下の者らしい。
今、公爵の眼前で“まともな格好”をしているのは2人だけ。娘が自信満々に説明したムーラという竜騎士と、コーデルと名乗った異国人だけである。
そのムーラの話によると、竜は森に置いてきたという。まあ、娘の命の恩人にきつく当たることなど、決してできない。
「娘を助けて下さって、ありがとうございます。
詳しいお話は中で。ちょうど食事の用意ができております、食事でもしながらお話しましょう」
飾らない笑顔でそう言って、ウィスーク公爵は竜騎士とその配下の者を屋敷内に通す。彼らの格好を見て、ウィスーク公爵はますます呆れるより他無くなった。
「エネシー……何だか変なのを連れてきたな」
ウィスーク公爵は呆れ顔で、誰にも聞こえない小さな声でぼそりと呟くのだった。
そして、食事会の席上にて。
「……という訳で、その時のムーラ様は強く、素敵でとてもかっこ良かったのですわ、お父様!」
「はいはい……」
もう何回同じ話を聞いたやら。ウィスーク公爵は、興奮した口調で語られる娘の話を、軽く聞き流していた。
エネシーが連れてきたこの者たちが具体的に何をしたのかは知らないが、竜なぞ本でしか知らない。まして人が乗れるなど、聞いたことが無い。
(この者たちの話は、何だか
考え事をしていた公爵は、娘の呼びかけに気付くのが遅れた。
「お父様、聞いてるのですか!?」
「ああ、何だったかな?」
「ムーラ様に、庭のお花畑を見せて差し上げたいのですが、席を外してよろしいですか?」
「ああ……良いぞ」
一瞬だけ考え、公爵はエネシーに許可を出した。それを受けて、ムーラとエネシーは席を外す。
「さて……と」
娘が席を外している間に、この者たちが娘に近付いた意図を探るべく、色々と尋ねることを決めた公爵であった。
今回の場合は今までの経験上、褒美という言葉をちらつかせて尋ねることが効果的だろう。そう考えて、公爵は口を開く。
「改めまして、我が娘を助けてくださってありがとうございます。お礼をしたいと思うのですが、何か欲しい物はございますか?」
それに答えたのは、コーデルと名乗った立派な服装をした男だった。
「物ですか? 物は特に必要ありません」
この答えは、公爵には予期せぬものであった。驚いたため、公爵の声の調子が少しだけ変わる。
「ほう、無欲ですな。しかし知ってのとおり、私はこう見えても、“王国三大諸侯”の1人です。娘の命を助けていただいた恩人に“何もしなかった”のでは、ご先祖様に顔向けが出来ません。何かさせていただきたく存じます。
そういえば、見慣れない服ですが、あなた方はどちらの地区のご出身でしょうか?」
「ウィスーク公爵閣下」
ここでコーデルが立ち上がった。ここからは
「改めまして、自己紹介させていただきます。私はロデニウス連合王国外務省の外交官、リヴァロ・コーデルと申します。
我が国、ロデニウス連合王国は、貴国から見て南西方向にある島国です。我々は貴国と国交を開設することを目的として、その事前の接触のため……つまりファーストコンタクトを取るために、やって参りました。
公爵閣下のお手を煩わせてしまい申し訳ありませんが、この国の外交担当部署にご紹介いただければ幸いです」
ウィスーク公爵は目を見開いた。
ロデニウス連合王国なんて国、“聞いたこともない”。しかも彼は、「カルアミーク王国から見て
色々と気になるが、公爵はひとまず彼らの依頼に対する返答を出した。
「外交担当への取次でございますか、承知致しました。外交担当に取り次ぐことはできましょう。しかし、国交がそれで結ばれるかの保証は致しかねます。これは、『他国を排除している』という意味ではございません。国交開設のために貴国が出す条件を吟味すると共に、貴国がどんな国かを理解しなければ判断の難しいところがあるだろう、という意味です。
また、“海の先”から使節団が来た事例がございませんので、失礼ながら本当に、あなた方の仰る国があるのか、といった審査もある、と思います」
カルアミーク王国側はロデニウス連合王国がどんな国なのか知らず、そして相手がどんな条件を出してくるのか不明な状況である。そんな状況下では、それはごく自然な考え方だった。
カルアミーク側としても、不平等条約を押し付けられたのでは堪ったものではないからである。
「はい、承知しております。そうなりますと、少し時間がかかりそうですね?」
「ええ、おそらく数日程度はかかるものと考えられます。
しかし……海の先から使者が来るとは、本当に驚きました。こんなことは、私の知る限りでは我が国の歴史上、初めてのことなのです。
ご存知のとおり、この世界は海へ降りるためには崖を下らなければなりません。それすらも難しいところがあるのです。
過去に、何とか小舟を造り、崖からそれを降ろして海に調査団が出た事がありました。しかし、かなりの距離を船で走った後、不毛の地で構成された大山脈が現れたのです。調査団の面々は大変な苦労をして、何とか山脈を超えたのですが、その先にはさらに広大な海が広がっていた、と調査団の報告書には記されています。
海の先に人が住む土地があるかもしれないという指摘はされていましたが、あの輪状山脈の外から人間が来たという公式記録は1つもありません。まして軍を送ることなぞ不可能と言い切って良いでしょう。
今我々が『世界』と言えば、不毛の山脈に囲まれたこの島のことを指します」
「
公爵閣下にも、我が国のことを知っていただきたいと思います」
そう言ってコーデルが鞄から取り出したのは、「
ウィスーク公爵は、写真の中で動き回る人々に大変驚き、見入っている様子だった。
その日のウィスーク公爵の日記より抜粋。
今日、私の世界観が変わった。
なんということだろうか。今日私の元に、“世界の外”から来た人々が訪れたのだ。しかも、彼らは娘の命を救ってくれた。
彼らの国「ロデニウス連合王国」を紹介され、広報用らしいちょっとした書物を見せて貰ったが、そこに貼ってあった魔写の中では、魔写に写る人々がまるで生きているかのように動き回っていた。どうすればあんな魔写が撮れるのか、想像も付かない。そして、同じ魔写に写った建物その他を見る限り、ロデニウス連合王国は非常に発展していた。もしも見せられた魔写が真実ならば、王国が100年かけて発展したとしても追い付けないかもしれない。
ロデニウス連合王国との外交は、王国が発展するという一点においては、とんでもないチャンスだ。しかし相手の出方によっては、王国は存亡の危機に晒されるかもしれない。
明日、外交局に話を通して彼らとの国交開設の手続きを引き継ぐつもりだが、私はこれから国に起こるであろう変化を考えると、年甲斐も無くわくわくしてしまう。そして同時に、怖くもある。
この国、カルアミーク王国は、いったいどこに向かうのだろうか。
翌日、中央暦1640年12月15日。
ウィスーク公爵邸で一泊させてもらったロデニウス連合王国国交使節団は、ウィスーク公爵同伴の下カルアミーク王国の外交担当部署・外交局に招かれていた。
王国三大諸侯の一人が同行したこと、そしてロデニウス側の出自から最速で手続きを経て、書類は上、つまり国王ブランデや各大臣の元に上がる。そして、使節団に同行してきたウィスーク公爵は途中で席を外し、王への事前報告、いわゆる“根回し”に向かったのだった。
担当の扱いは、これまで例のない相手であることもあって、非常に丁重なものだった。そして最終的にロデニウスの使節団に告げられたのは、
「決裁処理に2・3日ほどかかります。その後、上の者との面談となります。
日程につきましては、決まり次第ご連絡致します」
ということであった。まあ、これくらいは已むを得ないところもあるだろう。
手続きの間、ロデニウス使節団はウィスーク公爵の強い希望により、ウィスーク公爵邸に滞在することになったのだった。
だが、彼らは知らなかった。
すぐ近くにまで、“恐るべき魔の手”が忍び寄っていることを。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ロデニウス連合王国の使節団がエネシーと出会い、ウィスーク公爵の元に案内されたその日、中央暦1640年12月14日。
その遺跡の周辺には、簡易的に作られた人工の集落があった。こんな人里離れたところに集落がある時点で“怪しさ”が漂うが、集落の中にいる人々は皆黒いローブを羽織っている。それがまた、怪しさを増幅させていた。
その中に、似つかわしくないほどの派手な装飾を施した服を着る男が1人、傍らに控える大魔導師と話をしていた。いや、今の場合、「話をする」というよりは「報告を受ける」という方が適切だろう。
「マウリ様、魔炎駆動式戦車が完成致しました」
大魔導師が口に出した「マウリ」という名前。それはカルアミーク王国三大諸侯が一つ、マウリ侯爵家の名である。
「そうか。して、性能は?」
その派手な装飾の服を着た男……マウリ家現当主「マウリ・ハンマン」は、臣下として控える大魔導師オルドに、「魔炎駆動式戦車」とやらいう兵器の性能を尋ねた。
「簡単に申し上げますと、全長はおよそ5メートル、幅と高さは3メートル。その車体の全面に、厚さ10㎜の鉄板を張っております。移動する速度はおよそ時速15㎞前後です。
人間の放つ攻撃魔法のほとんどを、弾くことができます。車輪も、4つとも鉄にしていますので、この魔装炎戦車を止められる者は、この世におりません」
「ほう、そうか」
オルドの答えに、マウリ・ハンマンは満足気な笑みを浮かべた。
「ところで、遺跡の解析はどこまで進んでいる?」
「正直に申し上げますと、技術があまりにも高度すぎて、ほとんど進んではいません。しかし、僅かに解読できた情報で作ったものであっても、今回の戦車のような
手足となって操ることが可能な魔獣の作成も、遺跡にあった情報によるものです」
そこで一度台詞を区切った後、オルドはある名前を……「この世界」の人々にしてみればアレルギー反応すら起こしかねない名前を口にした。
「素晴らしいものですよ、こんな技術をもたらしてくれるこの遺跡、そしてそれを造りしもの……
そう。オルドが何とか解析していたこの遺跡は、かの「
中央世界、つまり第一文明圏があるミリシエント大陸に遺跡があるなら分かるが、何で“こんなところ”にそんな遺跡があるのか、って? それについては、ちょっとした話がある。
読者の皆様は、違和感を抱かなかっただろうか? 『ある島が海岸もない断崖絶壁ばかりで構成され、さらにそれを高い山脈で環状に囲まれる』なんていう地形が、果たして
この島は、ラヴァーナル帝国の「兵器研究所」、それから「大地造形の実験場」だったのである。あと、ついでに「強制収容所」だった、とも言うべきか。
ラヴァーナル帝国に住んでいた単一民族……「光翼人」は、大地造形の実験と収容所に入れた囚人の脱走阻止を兼ねて、あの輪状山脈を作り上げたのだ。また、それと同時に島の海岸を全て埋め、崖にしてしまったのである。こうなれば、囚人たちは脱走なぞしようがない。そして、囚人たちが連れてこられた理由はもちろん、“人体実験”のためであった。
連れてこられた囚人たちは、人間・エルフ・獣人・ドワーフの4種族である。このうち獣人とドワーフは数が少なかったのと、光翼人が何より重視している魔力が低かったため、収容された人数はあまり多くなかった。
こうした囚人たちを
帝国の転移に伴い、光翼人たちもこの島を去った。研究所等の建物を始めとした設備一式、一部の機材、そして奴隷としていた囚人たちを置き去りにして。
そして光翼人たちがいなくなった後で、連れてこられていた囚人たちは島の中で“自力で”生活し始めた。長い時間をかけて、元囚人たちの集落は村から街へと変わり、そしてついには国となった。その際、数が少なかった獣人とドワーフは協力し合い、2種族で連合して国家を形成した。これが、カルアミーク王国を始めとする三国の誕生だったのである。ヒト族の国家がカルアミーク王国、獣人とドワーフの国がポウシュ国、そしてエルフ族の国がスーワイ共和国だった。
また、長い年月が経つうちに、光翼人が残した建物や機材は遺跡・遺物と化した。本当は、囚人の連行や物資輸送などに使う滑走路もあったのだが、そちらは放置された挙げ句、森に沈んでしまっている。タウイタウイ泊地のディグロッケが“滑走路に適した平坦な土地”を見付けられなかったのは、このためだった。そりゃあ、森に沈んだ滑走路を空から見付けろ、なんて酷な話である。
オルドの発言に、マウリ・ハンマンは悪い笑みを浮かべた。
「そうかそうか。しかし、魔装炎戦車はそれほどか? ちょっと見てみたいな」
オルドも、主人に負けず劣らず邪悪な笑みを浮かべる。
「そう仰ると思いまして、今からこの戦車の性能をお見せしたいと思います。中央闘技場で行いますので、是非ご観覧下さい。
もちろん、魔装炎戦車の獲物となるものも、しっかり準備してありますよ」
「ほう、それはそれは。実に楽しみだ」
そう言って、マウリ・ハンマンとオルドは中央闘技場へ移動していった。
なお、さらに解説を加えておくと、この「魔炎駆動式戦車」はその名の通り、魔法によって生み出された炎を動力源として動く戦車である。しかし、相当量の魔力を必要とするため、現在のオルドの部下の魔導士の力では、4人がかりでなければ1輌を動かせない。また、攻撃手段はおよそ5秒に1発発射できる“単発撃ち”の火炎弾なのだが、装甲貫徹力は皆無である。従って、軟目標には大きな力を発揮するが、装甲化された相手にはあまり威力を発揮できない。
しばらくの後。
「フ……フハハハハ!! よくやったぞオルド!!」
中央闘技場に、マウリ・ハンマンの高笑いが響いた。魔炎駆動式戦車の性能は、彼を十二分に満足させるものだったのだ。
「はっ! お褒めに与り、光栄にございます。この世に戦車に勝てる者はございません。
但し今の鉱石量では、20輌作るのがやっとであります」
「ほう、あんな化け物が20輌も我が手に入るのか! 十分だ。いや、十二分と言っても良い。
その20輌の数が整い次第、行動に移るぞ!」
得意そうにそう言うハンマンに対し、オルドが付け加えた。
「いえ、数はほとんど揃えてしまいました。ハンマン様にお見せしたのは、性能試験まで済んだ完成品のうちの1輌です。既に19輌が完成し、1輌が現在最終調整中でございます」
「おお、そうか! よし。それではその調整が終わり次第、いよいよ行動開始だ! 手始めにイワン公領の街、ワイザーを落とすぞ! あそこは、魔鉱石をたんまりと貯め込んでいるようだしな。
王国を我が手に!!」
マウリ・ハンマンは手を高く挙げた。
ここに、カルアミーク王国の三大諸侯が一人・マウリ・ハンマンは、カルアミーク王国転覆の計画を実行に移そうとしていた。
その日のうちに、マウリ・ハンマンは行動を開始。多数の魔獣を率いて、カルアミーク王国三大諸侯の1人、イワン公爵領の領都ワイザーに攻め込んだ。
主人たるイワン公爵が不在にしている時に攻め込まれたイワン公領軍は、ワイザーに駐屯していた精鋭部隊の1つ「
壊滅した鳳凰騎士団の生き残りの兵士が命からがら逃げ出し、王都アルクールまでたどり着いてもたらした情報によれば、ハンマンはこう言っていたという。
『この世界を手中に収め、そして世界の外を目指すのだ。
世界の
この発言を含む「ワイザー陥落」の情報は、激震を以て王都アルクールに伝えられた。そして事態を極めて重く見た国王ブランデは、翌日に非常事態宣言を発し、王国全土に厳戒態勢を敷いたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「号外! ごうがーい!」
アルクールの通りを大声で叫びながら新聞売りが走り、新聞を売り歩いている。人々は次々と新聞を買い求め、その中にはウィスーク公爵家の使用人や、情報収集がてら王都を視察していたロデニウス連合王国の使節団の面々もいた。
「なんとなんと! あの王国三大諸侯の1人であらせられるマウリ・ハンマン侯爵が、謀反を起こしたよ!!
マウリ・ハンマンは、どうやったか知らないが、優秀な魔導士と恐ろしい伝説級の魔獣をうじゃうじゃ引き連れて、イワン公爵領の領都ワイザーに攻め入り、なんと街の民を皆殺しにしてしまったよ!!」
まだ新聞を買う列に並んでいるだけなのに、とんでもない情報が耳に飛び込んでくる。どうにか新聞を買えた者は、往来の邪魔にならないように通りの隅っこに移動して新聞を広げる。そこへ買い損なった者や買ってもいないのに情報が欲しい野次馬がわんさか集まって、何とかして新聞を見ようとする。
「国王ブランデ陛下は、各騎士団に王都防衛を下命! 更に全土に非常事態を宣言したよ!
マウリ・ハンマンが攻めてくるぞ!! 戦争だ戦争だぁー!!
詳しくはこの、モルーツ新聞の号外を買ってくれ! さあ大変だ大変だぁ!!」
何というタイミングの悪さだろうか。使節団の1人が何とか入手した新聞を読んで、ロデニウス連合王国外務省の外交官コーデルは頭を抱えたくなった。
このままでは、自分たちも内戦に巻き込まれてしまう。
「なんてこった……」
こうなった以上、何とかして本国と連絡を取って、指示を仰がなければならない。まだこの国とパイプすら出来ていないこの状態で内戦が起きたとすると、自分たちの身が危ない。かといって、ロデニウス連合王国を簡単に内戦に巻き込む訳にもいかない。
彼は同行してきた護衛の軍人たちに通信を頼み、本国に指示を仰ぐのだった。そして、軍人たちと使節団の随員たちは情報収集のため、王都へと出て行った。
「何? カルアミーク王国にて反乱発生?」
国交使節団が手に入れた情報は、本国に送られるついでに輪状山脈の外側で待機していたロデニウス艦隊にも伝えられていた。そしてその情報は当然、艦隊の指揮官である堺にも届いていた。
「はい。使節団が手に入れた情報によれば、カルアミーク王国の大貴族の1人が反乱を起こしたようです。現在カルアミーク全土に非常事態が宣言されている、とのことです。現在国交使節団は、王都アルクールのウィスーク公爵邸に滞在し、情報収集に努めています」
堺に報告を行っているのは、航空戦艦「
「了解した。使節団には引き続き情報収集に当たって貰おう。それと伊勢、本土に通信を繋げ」
「本土に? 何のため?」
重要な報告を済ませるや、あっという間にいつもの口調に戻った"伊勢"に、堺は答えた。
「決まってるじゃないか。万一に備えて、“使節団防衛のための軍事行動”の許可要請さ。この一件、もしかすると俺たちも動かなきゃならんかもしれん」
そして堺が本土に連絡を取っている間に、王都での事態はさらに悪化していた。なんと、
「という訳で暫くの間、外交交渉は不可能に近い状態となり、さらにあなた方も王都からの出入りが不可能になってしまいました。
大変申し訳ございませんが、ご了承願います」
ウィスーク公爵はコーデルに頭を下げ、上記の内容を告げたのだった。
「そんな……では我々は一時本国に避難し、事が落ち着いてから再度交渉に参りたいと思います。
“王都からの離脱”だけでも許可していただきたいのですが……」
コーデルがそう言うと、ウィスーク公爵の表情が曇った。
「『スパイ防止』のため、勅命により何人たりとも出入りが出来ません。
既に国交のある外交官の方でしたら別かもしれませんが、あなた方はまだ“国として認知すらされていない”ため、難しいでしょう。
陛下の命令により、我が国の軍の主力部隊が全力を挙げてマウリ討伐に当たりますので、1週間もすれば、反乱は鎮圧できていると思われます。その間は我が家に滞在していただいてよろしゅうございますので、王都から動くのは控えていただきたい」
「では、お庭を少しだけお貸しいただいて、王都に我が国の飛行機械を入れ、空から去ることは可能でしょうか?」
コーデルは苦肉の策でそう尋ねたが、これにもウィスーク公爵は首を横に振った。
「いえ、マウリ・ハンマンは魔獣を使役している、との情報が入っています。
映像で見たあの飛行機械……"おーとじゃいろ"でしたか、そんなものが飛んで来たならば、今の王都の者たちはマウリの手の者としか思わないでしょう。
戒厳令が出ている中でそのような行動に出れば、再度の交渉は絶望的になる可能性があります」
こうまで言われては仕方がない。コーデルはしぶしぶ一時避難を諦めた。
「ご心配召されるな、コーデル殿。
一諸侯と王国の軍、戦力差は隔絶しており、この王都も見てのとおり鉄壁の城塞都市です。マウリの軍如きにやられはしません」
そう言って、コーデルを慰めるウィスーク公爵であった。
ともかくもロデニウス連合王国使節団は、王都アルクールで足止めを喰らってしまったのだった。
「やれやれ、厄介なことになったな」
ロデニウス連合王国本土に通信を送り、航空戦艦「伊勢」の艦橋に戻ってきたところで、続報を受け取った堺は溜め息を吐いた。
「それで提督、本土との連絡は?」
「伝えるもんは伝えたよ。だが、協議しなきゃならないみたいで、回答にはしばしかかるってさ。それまで、俺たちも待ちぼうけだ」
そう言いながら、堺は指揮官席にどっかと腰を下ろすと、背もたれを倒してもたれかかった。疲労しているような様子が見て取れる。
「疲れてるの、提督?」
「疲れてない……といえば嘘になるな。だが一番しんどいのは、"
実に堺らしい理由であった。
ちょうど"大和"の話が出たため、彼女が指揮を執っている筈の魔王討伐戦について"伊勢"は尋ねる。
「そういえば提督、トーパ王国の方の戦況は何か分かったの?」
「ああ、無事に到着したってさ。明日から作戦開始だとよ。皆無事に勝って帰ってきてくれると良いがな」
呟くように答えた堺の顔には、例にない憂色が浮かんでいた。それは"大和"の無事を含むトーパ王国の戦況を思いやってのものか、はたまた
◆◇◆◇◆◇◆◇
だがその4日後、中央暦にして1640年12月19日の夕刻、王都に凄まじい衝撃が走った。カルアミーク王国軍主力がマウリ軍に撃破され、王都まで敗走してきたのだ。マウリ軍討伐に出撃した歩兵・騎兵・魔導士合わせて9,000人の兵力のうち、実に5,600人を失っての大敗である。
敗走兵から語られる敵の強さは、常識では考えられないほどだった。強力な魔獣の群れも脅威だが、何よりも脅威なのが、“最強の空の覇者”である火喰い鳥を50騎以上も投入し、そして弓も槍も魔法も通じない鉄でできた馬のない馬車のような何らかの乗り物、という尋常ではないモノを敵が操っていたという事実は、聞く者全てを震撼させた。
統率の取れた火喰い鳥が襲ってくると、こちらからは攻撃出来ないため、一方的に撃破されるだろう。敗走兵の証言が事実なら、王都の強力な防御力に致命的な穴が開きかねない。
国王ブランデは頭を悩ませるのだった。そしてそれは、王都アルクールのとある酒場に詰める酔っ払いたちも同じだった。
「まさか、王下直轄騎士団までもが出陣して、一諸侯に負けるとはな……」
「ああ。しかし、マウリ軍は火喰い鳥を操っていたらしいぞ」
「火喰い鳥だと!? あの猛鳥、いや魔鳥か?」
「火喰い鳥? それって、ええと……たしか……」
「時速100から110㎞くらいで飛び、人くらいの重さなら余裕で運ぶだろう。空から地上に向かって噴き付ける火炎は、その射程距離が20メートルにも及ぶ。羽は固く、性格はプライドが極めて高いんだ。人間を乗せるなぞ、考えられないが……」
「敗走してきた兵士たちの話が本当だとすると……」
「空からの攻撃なぞ、神話でしか聞いたことがない。
本当ならば、王国軍の苦戦は免れないぞ」
「ああ。しかも、弓も魔法も通じない鉄の馬車みたいなのも厄介だ」
「いったいどうなってしまうのだろうな」
酔っ払いどもの話は延々と続いた。
そして、夕焼け照らすウィスーク公爵邸にも頭を悩ませる者が1人。言うまでもなく、コーデルである。
ウィスーク公爵に状況を尋ねても、国に関する保秘事項であるようで、口が堅い。だが、周りの状況や兵たちの血走った目、そして彼らから漂うピリピリとした緊張感から、マウリ討伐が失敗に終わったのではないかということが推測できる。
自室として割り当てられた部屋でこれからの行動方針を考えていたコーデルの元に、王都へ情報収集に行っていた使節団のメンバーと護衛の軍人の1人がやってきた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様。して、どうだった?」
「はい、反乱軍討伐が失敗に終わったのは間違いないようです。酒場で話を聞きましたが、どうやら反乱軍は『火喰い鳥』と呼ばれる、火を吐く鳥を多数前線に投入してきたようです。また、火炎弾を発射する我が国の戦車に似た乗り物らしきものも投入してきたようです。
戦車といえば、例え初歩的なものであっても、この国の文明レベルでは明らかに太刀打ちできません。おそらく、カルアミーク王国軍主力はこの反乱軍の強大な兵力によって撃破されてしまったようです。
また、敗残兵からの報告を聞くに、敵はどうやらこの王都の攻略を狙っています。あくまで推測ですが、明日の朝にはここを攻撃してくるでしょう。この街は巨大な城壁に囲まれてはいますが、おそらく敵の攻撃に耐えられないと考えます」
情報収集班のメンバーを代表しての軍人の報告に、コーデルは頭を抱えた。
「そうか……。では、これからどうすれば良い?」
「はい、まずは本国にこれを連絡するべきかと。本国に状況を伝えれば、何らかの命令があると考えます。国外で待機している第13艦隊も、動いてくれるかもしれません。まずは急ぎ連絡をお願いします。それと、脱出の時に備えて荷物をまとめておいた方がよろしいか、と存じます」
「分かった。ではまず、私は本国に今の状況を連絡しよう。
ありがとう、下がって夕食まで休んでくれ」
「はい。では失礼します」
情報収集班が退室すると、コーデルは部屋の窓を開け、バルコニーに無線機と魔信の機械を設置した。
本国に連絡を取ろうとして、コーデルがふと下の庭を見下ろすと、悩みとは無縁の人物が見える。
「ムーラ様、このお花をご覧ください。とっても綺麗ですね」
「あ……ああ」
「このお茶は、お味は如何ですか?」
「ああ……うまいな」
「嬉しいっ! 私、ムーラ様を想って作りましたの」
「ありがとう」
「その仕草、キュンと来ますわ」
というか、この悩みとは無縁の人物はどう見てもエネシーである。こんな非常事態に、彼女はムーラに絡んでいるようだ。
思わず大きな溜め息が、コーデルの口から出た。
「全く、
自分だけが悩んでいる。だが、詳しい情報が入ってこないのであれば、悩んでも悩まなくても行動は同じであり、その結果もまた変わらない。
眼前の“お花畑な”光景を見て、少しだけ彼は悩む事をやめた。
「さて。まずは、艦隊と本国に連絡だ」
彼はまず、魔信の機械を弄り始めた。
「カルアミーク王国軍の敗北?」
「はい。隠しようもない大敗です」
「そうか……」
午後8時、すっかり陽が落ちて暗くなった航空戦艦「伊勢」の艦橋で、シフト交代のため艦橋に上がってきた堺は、"伊勢"から報告を聞いていた。
「反乱軍の戦力はどんなもんだ?」
「詳細には分からない部分が多いですが、
「装甲戦闘車輌? つまり実質火炎放射戦車か」
「そう見て良いと思います。また、使節団からの報告によれば、反乱軍はまずカルアミーク王国を、次に島全土を制圧し、そして島の外、つまり我が国と大東洋共栄圏を武力で制圧するつもりのようです。
索敵機によれば、敵は王都に向けて進軍中とのことであり、明日の朝には王都に到達、攻撃を開始すると推測される、とのことです」
「りょーかい」
"伊勢"から報告を聞いた堺は、徐ろに下を向き、帽子を深く被り直した。そして顔を上げた時、そこには不敵な笑みを満面に広げていた。
「そんなら、尚更負けてらんないな」
「どういうこと?」
「さっき、本国から『使節団防衛のための軍事行動の許可』を貰ったんだけど、それと一緒に“トーパ王国での戦況報告”が入ったんだ。『
「じゃあ、勝ったってこと?」
「ああ。"大和"はよくやってくれた。ならば、こっちも負ける訳にいかんだろう?」
「ふふっ、そうね」
ここで会話が途切れ、"伊勢"はふわぁと大きな欠伸をした。
「それじゃ提督、ここはよろしく。私は一度休んでくるわ」
「ああ。戦いの刻は近いだろう。よく休んでおいてくれ」
「はーい」
ひらひらと手を振りながら艦橋を出て行く"伊勢"。それを見送って、堺は顔全体に真っ黒な笑みを浮かべた。
「さて……
そして彼は、夜間照明の赤色灯が照らす艦橋の中で、机に向かって作戦計画書と艦隊への命令電文を書き始めた。
はい、今回カットしたのは「魔炎駆動式戦車」の性能試験の場面です。ここは原作と変わらないので、原作コピー疑惑の防止(と、描くのが面倒だったこと)のため丸ごとカットしました。カットするに当たり、なるべく違和感がないようにしたのですが、もし違和感がございましたら、申し訳ありません。
外伝「竜の伝説」は、Web版原作(「小説家になろう」に掲載されている分)で公開されていますので、拙作と合わせてそちらをお読みいただけると、よりイメージしやすくなると思います。
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評価8をくださいましたKOTmusen様
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ありがとうございます!!
また、新たにお気に入り登録してくださいました皆様、ありがとうございます!
次回予告。
ついに反乱を起こしたマウリ・ハンマン。自らの野望を果たす第一歩として、彼は王都アルクールの攻略を目指す。一方、本国から「使節団の安全確保のための軍事行動の許可」を得た堺、彼が取った行動は…
次回「堺の案件 舞うは航空機と竜、轟くは竜の伝説」