鎮守府が、異世界に召喚されました。これより、部隊を展開させます。   作:Red October

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書き溜めストック解放…にして、さっそくの書き溜め切れ。
しばらく更新遅いです。その点了解願います。

さあ諸君……地 獄 を 作 る ぞ



093. 堺の案件 舞うは航空機と竜、轟くは竜の伝説

 中央暦1640年12月18日早朝、カルアミーク王国を含む島を囲む輪状山脈から、南西に300㎞離れた海域。

 そこに展開するロデニウス連合王国海軍第13艦隊を中心とする第二特務艦隊は、早朝だというのに慌しく物々しい雰囲気を(かも)し出していた。警報ブザーが艦内に鳴り渡り、妖精たちや兵士たちが素早く持ち場に着いて、兵装のチェックを行っている。特に物々しいのが2隻の航空母艦と1隻の航竜母艦だった。2隻の航空母艦…第二航空戦隊の「(そう)(りゅう)」と「()(りゅう)」の飛行甲板には、完全装備の戦闘機や爆撃機がズラリと並び、どの機体も暖機運転の轟音を響かせている。そして1隻の航竜母艦……アマオウ型竜母「アマオウ」のエレベータは引っ切り無しに飛行甲板と格納庫を往復し、(よろい)を着用した竜騎士たちが相棒の飛竜……ワイバーンロードに騎乗して、発艦の時を待っていた。

 そんな中、

 

「あ、あ、マイクチェック、マイクチェック。よし、総員傾注!」

 

 艦隊()(かん)・航空戦艦「()()」の艦橋で、堺が各艦への無線及び魔信の通信回線を開いた。

 

「現在、我々が護衛してきた国交使節団の皆様方、及び護衛に当たっている陸軍の軍人たちが、“命の危険”に晒されている。カルアミーク王国政府からの情報によれば、現在カルアミーク王国にて1人の大貴族が国家転覆を狙って反乱を起こし、王国軍は劣勢とのことだ」

 

 『王国軍が劣勢』というのは、あくまでも堺の“推測”である。だが堺は、国交使節団を護衛している軍人たちの話から、“カルアミーク王国軍は劣勢だ”と踏んでいた。

 

「反乱軍は多数の魔物と火喰い鳥に乗った騎士団、そして超大型の魔物1体に火炎放射を行う装甲戦闘車輌複数を投入し、圧倒的な戦力を以て王国軍を破り、次第に王都アルクールに接近しつつある。このままでは、使節団の身の上に危害が及び、これまでの外交交渉も無駄になる恐れがある。

また、壊滅したカルアミーク王国諸侯団の生還者によれば、敵の(しゅ)(かい)と見られる男は、“カルアミークから見て西方に”多数の国家があることを知っていたそうだ。そして、『私の軍の圧倒的な強さを以てすれば、如何なる国、如何なる軍でも負けぬだろう』と言っていたそうだ。

では、カルアミーク王国から見て西にあるものは何か? 問うまでもない、フィルアデス大陸だ。そう、第三文明圏、そして大東洋共栄圏だ。

これはまさしく大東洋共栄圏、そしてそれを主宰する我が国に対する()()()()に他ならない。このまま反乱軍を放置すれば、彼らはさらに強くなった状態で我が国と対峙することになるだろう。そうなれば、我が国に破滅が訪れる可能性も否定できない。

故に、我々はこの毒草が葉を茂らせ花を咲かせ実を付ける前に、()の段階で摘み取ってしまわなければならない。従って、本部隊の指揮官である私、堺 修一は、ここにロデニウス連合王国政府及び軍部の命令を得て、カルアミーク王国王権政府に味方し、反乱軍を撃滅することを決断した」

 

 そう。ここにきてついに、ロデニウス連合王国軍航空隊の戦力が、カルアミーク内戦への参戦(介入)を決定したのだ。

 

「索敵機によれば、反乱軍は現在、王都アルクールの南方に展開中であり、あと1時間ほどで王都に接近、攻撃を開始すると見られている。よって、これより直ちに第一次攻撃隊を繰り出し、敵航空戦力を叩き潰して制空権を確保すると共に、敵地上戦力の掃討を開始する。この攻撃には、使節団の皆様の安全、そしてカルアミーク王国の運命が懸かっている。各自心して作戦に当たれ」

 

 ここまで説明した堺は、一旦言葉を切った。そして息を吸い込むと、声を大にして通信を送る。

 

「目標、反乱軍地上部隊及び航空部隊! 第一次攻撃隊、発進せよ! 井戸の中のカエルに、海の広さを思い知らせてやれ! そして暁の水平線に、勝利を刻むのだ!」

 

 午前5時(マルゴーマルマル)、ついに攻撃隊の発進命令が下された。ちなみに電文中にあった「索敵機」とは、ディグロッケのことである。

 

「最大戦速! 風に立て!」

 

 号令一下、2隻の空母と1隻の竜母が護衛の駆逐艦と共に転舵し、風上に向かって突進を開始。ほどなく3隻ともトップスピードに乗り、航空機や竜の発進準備が整った。

 

『行くよ! 二航戦、攻撃隊、発艦始め!』

『よしっ! (とも)(なが)隊、頼んだわよ!』

 

 お決まり(いつも)の台詞と共に、"蒼龍"が艦載機を繰り出し始めた。甲板に並ぶ多数の航空機、その先頭に立っていたのは低翼の戦闘機だが……零戦ではない。何故なら、主翼から20㎜機銃の銃身が4つも飛び出し、機首の機銃も2丁あるからだ。「試製(れっ)(ぷう) 後期型」でもない。何故なら、逆ガル翼ではないからだ。

 それは、「試製烈風 後期型」と並び得る性能を持つ優秀な艦上戦闘機「()(でん)(かい)()」だった。飛行甲板の長さが足りないため、両翼に使い捨ての発進用ロケットブースターを取り付けている。それによる強烈な加速を得て短距離走の選手もびっくりの勢いで飛び出し、飛行甲板の先端を蹴って次々と飛び立っていく。戦闘機の発進が終われば、次は彼女の最大の航空戦力、「(すい)(せい)(()(ぐさ)隊)」の番だ。

 一方の"飛龍"も負けていない。攻撃隊を護衛する戦闘機「紫電改二」を飛ばした後、彼女の最大の航空戦力・「(てん)(ざん)一二型(友永隊)」の「天山」艦上攻撃機が重い800㎏爆弾を抱え、ロケットブースターの加速を得て青空に飛び立つ。それは非常に勇ましく見えた。

 そして、

 

「マールパティマ少佐、出撃します!」

 

 竜母「アマオウ」艦上でも、指揮官を務めるマールパティマ少佐以下の竜騎士たちが次々と飛び立ち始めていた。

 艦そのものの速力と天然の風、それに飛行甲板に埋め込まれた魔石「風神の涙」の魔力発揮によって、通常の陸上滑走路よりも短い距離で、そして従来の木造帆船型竜母よりも遥かに効率的な竜の発艦を可能とした、画期的な竜母「アマオウ」。その甲板を蹴り、ワイバーンロードが力強く羽ばたいて、空へと舞い上がっていく。

 上空に飛び上がったワイバーンロード隊は10騎。ロデニウス連合王国空軍の予算規模では、まだ一部の精鋭部隊にしかワイバーンロードを装備できておらず、その貴重なワイバーンロードのうち10騎も投入したこの小規模竜騎士団は、緊密な編隊を組みカルアミーク王国を目指して一路飛び去っていく。それを追いかけるようにして、美しい密集隊形の編隊を組んだレシプロ航空機が飛んで行った。第一次攻撃隊が飛び立ったのである。

 

「続いて第二次攻撃隊、発進準備急げ!」

 

 第一次攻撃隊全機の発進を確認し、堺は急ぎ「第二次攻撃隊発進準備」の命令を出した。

 第二次攻撃隊は、第一次攻撃隊よりやや数が増えており、一時的に"(しょう)(かく)"から"蒼龍"に配置転換された「天山一二型((むら)()隊)」が中心戦力となる。そこに2空母の護衛戦闘機隊と、「飛龍」の艦上爆撃隊、それに「日向(ひゅうが)」の「(ずい)(うん)」爆撃隊を加えた編成だ。残りの戦闘機と通常型ワイバーン22騎(本来の格納庫容量なら32騎入るのだが、騎士団の一部部隊の練度不足のため空きができてしまった)は、上空直衛戦力として艦隊でお留守番となる。

 第二次攻撃隊の準備が急がれる中、竜と航空機の混成部隊である第一次攻撃隊は北東の空へと消えていった。

 

 

 一方、王都アルクールのウィスーク公爵邸でも動きがあった。

 

「ムーラ様、早く一緒に避難を!」

「いや、すまない。本国から命令が出た。私は戦わなければならん。

私のことは良い、貴女は早くお逃げなさい」

 

 本国から「カルアミーク王国王権政府に味方し、反乱軍を討ち取れ」と命令を受けたため、ムーラは相棒のワイバーンに騎乗して出撃しようとしていたのだ。それをエネシーが押し留めようとするが、彼は丁重な物言いであっさりと拒絶する。

 

「し、しかし、聞くところによれば、敵は多数の火喰い鳥を操っているとか! そんな中にお一人で出撃すれば、ムーラ様のお命が危のうございます!」

 

 なおも食い下がろうとするエネシー。だが。

 

「魔獣の数は多い。確かに、単騎ではどうにもならないかもしれない。しかし今、ここにいる者たちの中で、“空の敵と戦う力”があるのは私だけだ。非戦闘員を大量に、しかも一方的に虐殺するという行為は、私の……竜騎士としてのプライドが、それを許すことができない!

それに、先ほど言った通り『軍部からの命令』だからな。従わなければ、抗命罪でさらに酷いことになってしまう。最悪の場合、処刑は避けられないだろう。そのためにも……私は行かなければならん! 行くぞ相棒!」

 

 そして、エネシーのそれ以上の制止も聞かず、ムーラは相棒のワイバーンに乗って飛び立ってしまった。残されたエネシーは、その場に崩れ落ちる。

 

(とてもカッコイイ事を言って、彼は飛び去って行った……。ムーラ様が幾ら強くても、とても単騎で統率の取れたマウリの軍に勝てるとは思えないわ)

 

 だがそれでも、一瞬の制止すらできなかった。

 

(ああ……行ってしまったわ。止めることが……出来なかった。

でも……凄く……かっこ良かった♡)

 

 

 一方、

 

「フハハハハハハ!」

 

 典型的な悪党じみた笑い声を上げているのは、マウリ・ハンマン本人である。その傍らには軍師ともいうべき大魔導師オルドが控えていた。

 現在、彼らの軍は王都アルクールの南に展開している。カルアミーク王国軍主力部隊を破った後ではあるが、ほとんど消耗した様子はない。そして彼らの前には、アルクールを囲む城壁がある。()()で最も強い防御力を持つと謳われた王都アルクールであるが、これから十二角獣を始めとする強力な魔獣たち、全長20メートルを超える巨体を持つ超魔獣ジオビーモス、そしてこの世界(なおハンマンのいう「この世界」は、輪状山脈に囲まれた“この島”に限った話である)において止められる者のない無敵の戦力・魔炎駆動式戦車20輌と、火喰い鳥を使った有翼騎士団70騎という圧倒的な攻撃力にかかれば、一瞬にして破ることができるだろう。

 

「これが……この“圧倒的な戦力”が私の力だ!」

 

 配下の魔獣や戦車を見渡しながら、ハンマンは得意気な声を上げた。そしてオルドに声をかける。

 

「オルドよ!」

「はっ!」

「カルアミーク王国を掌握した後は、この世界を残らず征服し、その後は世界の外へ軍を進めるぞ!」

「ははっ! マウリ様の圧倒的軍事力を以てすれば、世界征服はもちろんのこと、世界の外の国々も瞬く間に制圧し、マウリ様に(ひれ)()すことになるでしょう」

 

 そんな言葉を交わし合う二人だが……彼らは全く気付いていない。島の外の国々がどういった力を持っているのか、ということを。

 カルアミーク王国を内包するこの島から見た場合、西方へ進むと真っ先にぶつかるのがフィルアデス大陸だ。つまり、カルアミーク王国から西へ進んだ場合、マウリ・ハンマンの軍が最初に対峙するのは第三文明圏の諸国家、または大東洋共栄圏の諸国家になるのである。

 第三文明圏ならば、リーム王国のような国家であっても“そこそこの技術力”がある。まして大東洋共栄圏となると、その技術力は第三文明圏外とは思えないほどに高い。

 ではここで、仮に彼らが()()()()でロデニウス連合王国と対峙したとして、その軍事力を比較してみよう。

 

〈陸〉

各種魔獣(肉弾戦メイン) vs 陸軍歩兵(ボルトアクション式ライフル銃や半自動小銃、機関銃、野戦砲等装備)

魔炎駆動式戦車(装甲貫徹力皆無の火炎弾を撃つ) vs IV号戦車H型、Ⅲ号突撃砲F型、パンターG型改戦車、ティーガーⅠ戦車

 

〈空〉

火喰い鳥(最高時速110㎞、攻撃手段は短射程の火炎放射) vs 竜(最高時速235〜350㎞、攻撃手段は導力火炎弾)、戦闘機(軒並み時速500㎞オーバー、攻撃手段は機銃、場合により空対空ミサイル)

 

 圧倒的(不利)ではないか、マウリ・ハンマン軍は。これでは、勝ち目などどこにもありはしない。

 陸上では“魔獣の数の力”で攻めたとしても、機関銃の前にあっさり溶けてしまうだろう。また、魔炎駆動式戦車はその攻撃手段である火炎弾に装甲貫徹力が無いので、IV号戦車の側面すら貫くことができず、逆にIV号戦車やⅢ号突撃砲の48口径75㎜砲は魔炎駆動式戦車の前面装甲をも()()()()撃ち抜ける。パンター改やティーガーⅠなら、余裕で勝てる。

 空にしても、火喰い鳥では通常型のワイバーンすら太刀打ちが難しい。ましてワイバーンロード、そしてそれより速い戦闘機(しかも、神がかった練度に片足突っ込んだバケモノ搭乗員多数)にかかれば(がい)(しゅう)(いっ)(しょく)、勝負にすらならない。しかも、「F-86D改 セイバードッグ」がある時点で察している方もいるかもしれないが、短距離()()狙えないし問題点山積みとはいえ「AIM-9B サイドワインダー」空対空ミサイルがあるのだ(ただ、相手が赤外線を発することの少ないものばかりであるため、現時点ではこのミサイルはあまり意味がない。そのため、"(くし)()"指揮の下で赤外線“画像”誘導方式の弾頭の設計が急がれている)。

 また、海上戦力にしても、マウリ・ハンマン軍が造船技術を得たとして、現段階で建造可能なのはバリスタを装備した木造帆船が良いところだ。そんな艦隊を待ち受けているのが、航空母艦や陸上飛行場・水上機基地から発進した航空隊、そして戦艦「大和(やまと)」を先頭にした第二次世界大戦レベルの大艦隊である。どちらが勝つかなど、考えるまでもない。

 その上、仮にロデニウス連合王国を除いたとしても、神聖ミリシアル帝国、ムー国、エモール王国を始め名だたる国家がズラリと揃っている。そんな国々が相手だとは、彼らは露知らないのである。まさに「井の中の(かわず)、大海を知らず」。

 

 まず王都攻略の先鋒として、マウリは有翼騎士団による攻撃を命じた。城壁にいる敵兵を焼き払い、魔獣たちと戦車の接近を容易ならしめなければならない。

 ところが、有翼騎士団が飛び立った時だった。

 

「ギュォォォォォォーーーン!」

 

 背筋が凍るような(ほう)(こう)が、朝の空気を震わせた。

 何事かと空を見上げたマウリとオルドの前に現れたのは、“見たこともない生物”だった。

 

「何だあれは!? 空を飛んでいる!」

 

 マウリが声を上げている間に、それは火喰い鳥より速いのではないかと思える高速で飛びながら、炎の塊を発射した。直撃を受けた火喰い鳥の1羽が、騎乗する騎士ごと火だるまになって落下し、地面に叩き付けられる。

 

「よくやった、相棒!」

 

 そう。それは味方の航空部隊が到着するまでの時間を稼ぐべく、単騎で戦場に突入してきたムーラと相棒のワイバーンであった。

 

「ちぃっ!」

「あの攻撃、なんという長射程……そして速度が速い!」

 

 マウリが悪態を吐き、オルドは目を見開く。

 

「オルド! あの敵を片付けろ!」

「はっ! 何やらよく分からない敵だが、相手は1騎だ、数で圧殺しろ!」

 

 マウリの命を受け、オルドは慌てて指示を出した。

 

 

 だが、それから30分が経っても、戦況は何ら好転していなかった。敵の未知の生物は、相変わらず速度差を生かしての一撃離脱戦法に徹しており、戦場を引っ掻き回し続けていた。反対に、有翼騎士団は数十騎で挑んでいるにも関わらず、いまだに未知の敵生物を討ち取れないばかりか、マウリやオルドが見ている範囲で、5騎も失ってしまっている。

 

「ええい! 何をやっておる!?」

 

 先日とは打って変わって思い通りに行かない戦況に、マウリ・ハンマンは()えた。

 敵はたったの1騎、対してこちらはまだ50騎以上が健在だ。これだけ数の差があれば、そのうち敵もスタミナ切れを起こすだろう。

「今回の戦いに勝つことは間違いないだろう。だが……」

「はい。あのような“化け物”が存在するならば、世界の外へ侵攻する場合は、航空兵力を整える必要がありますな」

 

 マウリ・ハンマンとオルドは、今後の自軍の展開について考察していた。

 

 

 一方の竜騎士ムーラはというと、

 

「くそ! やはり数が多いな……」

 

 空中で悪態を吐いていた。

 既に7騎を撃墜し、「精鋭竜騎士(エースドラゴンナイト)」の称号を獲得する条件の()()「5騎以上の飛行生物を撃墜すること」を満たしているが、まだ50騎以上の敵騎が空を舞っている。あまりにも数の差が大きいのだ。

 急加速、急旋回、そして導力火炎弾の発射を繰り返したため、相棒がバテてきている。このままではワイバーンの体が保たない。そしてついでに、称号「精鋭竜騎士(エースドラゴンナイト)」獲得条件の残り半分「生きて帰ること」も満たせない。

 ムーラは、圧倒的な数の差に焦りを感じ始めていた。

 

 理解はしていた。想定もしていた。

 しかし、実際に騎乗する竜が体力切れを起こし始めると、やはり辛いものがある。

 

「まずいな……どうする……?」

 

 ムーラが自問する間にも、ワイバーンの動きが徐々に鈍くなる。そしてそれと同時にムーラの体力も限界に近付き……それは結果として“集中力の途切れ”となり、致命的な隙に直結した。

 一瞬ムーラが見落とした隙に、1騎の敵が太陽を背に急降下し、体当たりを仕掛けてくる。

 

「し……しまった!!」

 

 ムーラが気付いた時には遅かった。回避運動の暇もなく、敵の足の爪がワイバーンの頭に当たったのだ。鈍い音が響く。

 そして最悪なことに、この一撃でムーラの相棒は失神してしまい、竜は錐揉み状態になって墜ちていく。

 全身を駆け巡る風、そして死の恐怖。

 

 ムーラは何とか竜にしがみつく。顔に叩き付けられる合成風と共に、過去の出来事が走馬灯のように彼の頭の中で再生されていく。その中で一瞬、妻と子供の笑顔が脳裏に浮かび、その顔が泣き顔に変わる。

 

「死んで……こんな所で死んで(たま)るか!

 

 彼は、決して生を諦めないことを決意し、竜の手綱を強く握り込む。だんだんと地面が近付いてくる。

 

「上がれぇぇっ……!!」

 

 自身の意識も(もう)(ろう)としかけているムーラが、最後のありったけの力で叫んだ、その時だった。

 

「ギュォォォォォォーーン!!!!」

 

 戦場の大気を震わせて、大きな咆哮が響き渡った。それは、ムーラにも聞き覚えのある竜の咆哮。しかし、通常のワイバーンより圧倒的に声量が大きく、力強い咆哮。

 それを聞いた瞬間、飛びかけていたムーラの意識は、無理矢理現実に引き戻された。

 

(この声は……!)

 

 ムーラがその咆哮の正体に思い当たったその瞬間、咆哮を聞いて何とか意識を取り戻したムーラのワイバーンは、ギリギリで地面への衝突を回避した。

 

 

 そう、マールパティマ率いるワイバーンロード隊の到着が、間一髪で間に合ったのだ。

 

 

「全騎に告ぐ! ムーラ中佐はよく戦ってくださった。後は我々の仕事だ!

せっかく、航空隊の連中が我々に一番槍を譲ってくれたんだ! 航空隊が来るまでの間に、我々だけで制空権を確保するぞ!」

『『『了解!』』』

 

 意気高く答える部下たちの声を魔信越しに聞きながら、マールパティマは一気に急降下で突っ込んだ。そして、突然の事態に対処できていない敵騎に狙いをつける。

 

「くたばれ!」

 

 一声叫んで、マールパティマは己の新しい相棒……ワイバーンロードに合図を出した。

 ワイバーンロードの口内に強力な炎の塊が形成され、次の瞬間にはそれが導力火炎弾となって放たれる。狙い過たず、それは碌な回避運動もできなかった火喰い鳥の1騎に命中した。ワイバーンよりも高い威力を持つワイバーンロードの導力火炎弾。その威力は凄まじく、着弾と同時に爆発が発生し、硬い筈の火喰い鳥の翼が片方、根元からちぎり飛ばされた。そして、片翼の火喰い鳥は火だるまになった騎士を振り落とし、そのまま大地へと落下していく。

 

「よし、次!」

 

 致命傷を負った敵を(いち)(べつ)もせず、マールパティマは次の敵を探す。そして、ちょうどこちらへ向かってきている敵騎を発見し、挑発して巴戦(ドッグファイト)に持ち込んだ。相手もマールパティマを仕留めんとして、マールパティマの背後を取ろうとする。

 しかし、火喰い鳥の最高速度は時速110㎞。対して、ワイバーンロードの最高速度は時速350㎞に達する。加えて、ワイバーンロードの方が身体が流線型に近い分、空気力学的に相手に対して優位に立てる。そのため、戦闘機には流石に負けるものの旋回半径が小さく、運動性能も高い。

 相手の火喰い鳥が横ロール1周もしないうちに、マールパティマは相手の背後を取った。そして、相手に振り切る隙も与えずに導力火炎弾をお見舞いする。直撃弾を喰らった相手は、黒い煙の尾を曳く赤い流星となって落下、城壁に激突してシミに変わった。

 

「次だ!」

 

 息を吐く暇も惜しいとばかりに、マールパティマは次の相手を探し始めた。

 彼の周囲では、部下たちも思い思いの敵に狙いを定め、導力火炎弾で片っ端から撃墜している。そして地獄を見ていたのが、さっきまで“自分たちは無敵だ”と信じ込んでいたメッシュ率いる有翼騎士団だった。

 

「我が最強の騎士団が……! 奴らはいったい何者だ!?」

 

 マウリ・ハンマンの部下として有翼騎士団を率いていたメッシュは、焦りを隠せない口調のまま叫んだ。

 ()()()1()()の敵に悪戦苦闘しやっと討ち取れる、と思った時に突如として現れた、新手の竜。僅か10頭の竜によって、無敵だった()の有翼騎士団は、あっという間にその数を減らしていく。

 

『そ、そんな! 相手が速すぎる! 化け物だ! ギャアアア!』

『くそっ、後ろに付かれた! ふ、振り切れない! グワーッ!』

 

 魔信から聞こえてくるのは、部下の悲鳴ばかり。

 敵の竜は、あまりにも速すぎる。後ろを取ってもすぐに振り切られ、逆に後ろを取られたら、どれだけ足掻いても逃げられない。そして、竜が放つ火炎弾の一撃を受け、断末魔の悲鳴を挙げて燃えながら落ちていく。その先にあるのは死だけ。

 

 自分たちは、無敵だったのではなかったのか。そして、自分自身はアルクールを攻め落とし、マウリ・ハンマン様の下で最強の航空部隊の栄えある初代隊長となり、そしてこの世界の統一に、そして世界の外への外征に力を振るい、何もできない敵を片っ端から焼き払う筈ではなかったのか。

 メッシュが呆然としている間にも、味方の騎士は次々と敵の攻撃を喰らい、まるでハエのように落ちていく。そしてメッシュ自身にも、「その刻」が迫っていた。

 

「はっ!」

 

 背後から殺気を感じたメッシュが振り返ると、敵の竜が1頭、高速でこちらに迫っている。メッシュは咄嗟に手綱を引き、火喰い鳥を急旋回させた。が、相手は寸分違わずピタリと尾いてくる。

 右へ左への急旋回。急降下、そして急上昇。あらゆる戦術機動をやってのけた。だが、そのどれをやっても、敵の竜は振り切れなかった。

 もう自身の火喰い鳥は完全にヘバってしまっている。対して、敵の竜は疲労した様子が全くない。背中に乗った騎士の鎧の模様が見えるほど、近くまで近付いてきている。

 

(ふ、振り切れない……!)

 

 そう思った瞬間、後方を振り返って敵の竜を見ていたメッシュの視界が真っ赤に染まると同時に、彼の背中に凄まじい高熱が走った。その直後、生涯で最後に聞く轟音、そして生涯で最後に感じる衝撃と共に、メッシュの意識と人生は永遠に閉ざされた。

 

 

「敵騎撃墜! ……これで最後か」

 

 燃えながら落ちていく名も知らぬ敵……実はそれがメッシュだった……をちらっとだけ見て、マールパティマは呟いた。既に撃墜数(スコア)は9に達しており、彼はめでたく「精鋭竜騎士(エースドラゴンナイト)」の称号をゲットする資格の()()を得たのだ。

 

『上空に新たな敵影なし。制空権確保しました!』

 

 部下からの報告の声も弾んでいた。

 

「よし、マールパティマから全騎へ。皆よくやった。航空隊の到着まであと少しだ、これより対地掃討に移る! あと一息だ、皆心してかかれ!」

『『『了解!』』』

 

 マールパティマ以外にも「精鋭竜騎士(エースドラゴンナイト)」の資格の半分を得た者が多く、士気が非常に高い状態のままワイバーンロード竜騎士団は対地掃討に移った。ところが、

 

「ん!?」

 

 地上から、火炎弾が次々と上ってくるではないか。

 火炎弾の速度は、地球でいうと“ピッチャーが投げた野球のボール”くらいの速度しかない。対してこちらは高速移動しているため、当たることは無いだろう。だが、発射元が20箇所近くあり、しかも5秒に1発くらいの間隔で撃ってくるため、狙われているとストレスが溜まる。

 

「お……おのれ! 戦車に空の敵を撃破するように伝えろ!!」

 

 そして地上では、マウリ・ハンマンが怒りに震えていた。

 有翼騎士団は、マウリ・ハンマンにとって“多くのコストを注ぎ込んで作った虎の子”であり、その戦いぶりはまさに鬼神の如き強さを誇っていた。それが、先ほど現れた竜の騎士たちによって、まるで虫のように次々と撃墜され、あっという間に全滅。今や空には正体不明の竜11頭が乱舞している状態である。

 今まで苦労に苦労を重ねて築き上げてきたものが瞬時に壊されたため、マウリ・ハンマンの中で怒りが込み上げていたのだ。

 

「全騎、火炎弾を撃ってくるあの“変な奴”を黙らせろ!」

 

 マールパティマの号令一下、竜騎士団は上空に攻撃を行っていた物…マウリ・ハンマン配下の魔炎駆動式戦車に対して導力火炎弾を撃ち出した。それは次々と命中し、大きな爆発が発生する。

 

「何……だと……!?」

 

 手綱を引いて相棒を急上昇させながら地上を振り返ったマールパティマは、目を見開いた。

 何発もの導力火炎弾が命中した筈なのに、敵は何事も無かったかのように、空に向かって火炎弾を撃ってくるではないか。そこでマールパティマはようやく、相手が鉄で覆われているらしいことに気付いた。

 

「くっ! だが、鉄で覆われているんじゃ仕方ないな。幸いにして航空隊が到着したみたいだ、あれは彼らに任せるとしようか。

マールパティマより全騎へ、爆撃が始まるぞ! 全騎上空に退避!」

 

 

「何だ……あれは……」

 

 王都アルクールを守る市街地外側の城壁の上で、マウリ軍に相対しようとしていた王下直轄騎士団長ラーベルは力無く呟いた。

 敵が火喰い鳥を操っていると聞いて、死ぬ覚悟をしてここに来てみたら、なんと“お伽話の存在”でしかない竜が、背中に人間を乗せて火喰い鳥を追い回し、片っ端から撃墜しているではないか。信じ難い光景である。

 

「あれは竜!? コーデル殿、もしやあれも貴国の軍か!?」

「はい。我が国が誇る、空軍の精鋭竜騎士団でございます」

 

 そこへ、自らの手勢を率いて敵を迎撃すべく城壁まで来ていたウィスーク公爵と、危険を覚悟で前線に(おもむ)いたコーデルの声が聞こえてきた。

 

「そして公爵閣下、これでもまだ(ぬる)い方でございます。ちょうど、我が国でも()()()()()の航空戦力が到着致しました。あの空をご覧ください」

 

 コーデルに言われて、ウィスーク公爵は空を見上げた。上空を乱舞する竜たちの向こう側に、何やら黒い物が多数、空を飛んでこちらへ向かってくる。ブオオオオン……という、耳慣れない音も聞こえてきた。

 

「あれは?」

「あれは航空機。簡単に申せば、『空を飛ぶ機械』でございます。空中の敵と戦うための機体ならば、最高時速は500㎞を超える高速を発揮できます」

 

 コーデルの説明に、ウィスーク公爵は思考が追い付かなくなった。

 この世界で“最強の航空戦力”である火喰い鳥でも、最高速度は時速110㎞。だというのに、その4倍以上の速度を()()()()()出せてしまう存在が、ロデニウス連合王国にはあるのだ。

 

「何……だと……!? じ、時速500㎞超え!? 馬鹿な……」

 

 隣でこの話を聞いていたラーゲルも、開いた口が塞がらない。

 

 

「さあ、ついにこの時が来たぞ!

空軍竜騎士団の連中は、約束通り制空権を確保してくれた。ならば、我々も負ける訳には行かん! “人殺し()(もん)丸”に鍛えられし第二航空戦隊の栄光、見せてやれ!

 

 日本機としては珍しい液冷エンジンを搭載した艦上爆撃機「彗星」のコクピットで、仲間内で“江草(たか)(しげ)”と呼ばれる妖精は無線に叫んだ。

 戦闘隊形を組んだ多数のレシプロ航空機が、一糸乱れぬ姿で向かっていく。空母「蒼龍」「飛龍」から発進した、第一次攻撃隊だった。先ほど「敵発見、突撃隊形作れ」の無電と共に「突撃隊形作れ」を意味する「トツレ連送」のモールス信号が送られ、全機が突撃隊形を作っていたのである。

 攻撃隊の先頭に立つのは、高度1,000メートルの低空を飛ぶ「蒼龍」の戦闘機隊。そのすぐ後ろに「彗星(江草隊)」が高度2,000メートルの低空を飛び、さらにその後方に高度5,000メートルの高空を飛んで「天山一二型(友永隊)」が護衛戦闘機と共に続いている。

 不意に無線機から、独特のモールス信号が流れてきた。

 

トトツートト、トトツートト、トトツートト、トトツートト、トトツートト……

 

 それは「全軍突撃せよ」を意味する、「ト連送」と呼ばれる信号だった。攻撃開始の合図である。

 

『全軍突撃せよ!』

 

 さらに、攻撃隊の総指揮官を務める妖精“友永(じょう)(いち)”の声が、無線に乗る。

 

『蒼龍戦闘機隊、増槽を捨てろ(ドロップタンク)かかれ(アタック)!』

 

 真っ先に動いたのは、「蒼龍」所属の「紫電改二」だった。

 9機の「紫電改二」が一斉に増槽を捨て、機体を翻してフルスロットルで突っ込んでいく。先頭に立った1機の両翼に強烈な発射炎が煌いた。4丁の20㎜機銃が火を噴いたのだ。地上に茶色の土煙、そして黒い煙が舞う。黒い煙を噴き上げたのは、頭部を失ったグランドマンだ。20㎜機銃弾の直撃によって首が吹っ飛んでしまったのである。

 続いてその「紫電改二」の機体下部から黒いものが2発、投下される。2発の250㎏爆弾だ。

 「紫電改二」は、零戦には()()()()()()()()()として「250㎏爆弾2発を抱えて“戦闘爆撃機”として運用する」ことができる。戦闘爆撃機として開発された零戦62型が抱えられる爆弾は、250㎏爆弾1発または500㎏爆弾1発だというのに、それを凌駕する量の爆弾を持てるのだ。このため、4丁の20㎜機銃と相俟って、対地襲撃能力が比較的高いのである。

 

ドガアァァァン……!

 

 落下した250㎏爆弾は信管が作動し、強烈な閃光と炎を噴き上げる。周辺にいた魔物が一瞬で消滅し、至近弾を受けた魔炎駆動式戦車の1輌が燃えながら横転した。「紫電改二」はそれに委細構わず、機銃を撃ちっ放しにしながら上空を通過していく。

 続いて別の「紫電改二」が魔炎駆動式戦車の1輌に狙いを定める。魔炎駆動式戦車は必死に火炎弾を撃って対空射撃をしているが、「紫電改二」には1発も当たらない。

 

ドドドドドドッ!!

 

 逆に「紫電改二」の両翼に発射炎が閃く。20㎜弾の真っ赤な太い()(せん)が次々と魔炎駆動式戦車に殺到する。

 

ガン! ガン、ガキン!

 

 命中した20㎜弾のうち約半分は、突入角度が悪かったのか魔炎駆動式戦車の前面装甲に火花を散らすだけに終わる。だが、残り半分の弾は厚さ10㎜しかない前面装甲を貫通し、車内へと飛び込んだ。魔炎駆動式戦車の前面装甲に、次々と穴が開く。

 

「ぐあっ!」

「!?」

 

 当然、車内へ飛び込んだ20㎜弾は凶器と化して暴れ回る。魔炎駆動式戦車の車内にいた4人の魔導士のうち1人が一瞬で蜂の巣にされて声も無く絶命し、もう1人が床を跳弾した機銃弾にヘッドショットされて、自らが流した血の海に崩れ落ちる。3人目は、

 

「腕が……! 俺の腕が……!」

 

 20㎜機銃弾の直撃で、左腕を上腕部の真ん中から切断されてしまっていた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

 辛うじて無事だった4人目の魔導士が、慌てて3人目に回復魔法をかける。だが身体欠損なんて重傷は、いくら回復魔法でも簡単には治癒しない。

 その時、気配を感じた2人は一斉に空を見上げた。そして2人の目に飛び込んできたのは……空から落下してくる黒い物だった。

 

「「あっ」」

 

 気の抜けたような2人の声。それが最期の声となった。直後、魔炎駆動式戦車は「紫電改二」が投下した250㎏爆弾の直撃を受けてペシャンコに潰された後、爆発によって木っ端微塵に吹き飛んだ。

 ここに限らず、「紫電改二」は機銃掃射を見舞い、爆弾を投下して敵を吹き飛ばしていく。十二角獣のような高い防御力を持つ魔獣であっても、「紫電改二」の13㎜機銃や20㎜機銃には抗し得なかった。そこへ、“金属質の甲高い音”が響く。

 それは、「彗星(江草隊)」が反転急降下に移った証だった。ダイブブレーキの作動音がドップラー効果を伴って高く響き始めたのだ。

 初めて聞くダイブブレーキの音に、先ほどからの機銃掃射でパニックになっていた魔獣たちの足が竦み、魔炎駆動式戦車の動きも止まる。それを見逃すような江草隊の面々ではなく、35機の急降下爆撃隊は魔炎駆動式戦車をターゲットにして突っ込んでいく。しかし隊長妖精の“江草隆繁”だけは、別の獲物を狙っていた。

 

「ヒトフタ(高度1,200メートル)! ヒトマル! マルハチ!」

 

 風圧によってガタガタと揺れる風防、後部座席で高度を読み上げる機銃手、尻と背中が固いシートに食い込むような感覚。“いつもの感覚”を覚えながら、妖精江草は照準器中に捉えた特大の相手……全長20メートル超の大型魔獣「超魔獣ジオビーモス」に向けて突っ込んでいく。ジオビーモスは(シュトゥーカの「悪魔のサイレン」ほどでないとはいえ)サイレンじみた不気味な高音に足が(すく)んでいるらしく、動いていない。

 

「マルヨン(高度400メートル)!」

「てっ!」

 

 2つの叫びが重なった。

 機体の下で金属質の作動音が響き、重い500㎏爆弾が投下される。そして、「彗星」は機首を引き起こし、水平飛行へと移行した。

 もちろん、「艦爆の神様」“江草隆繁”が狙った獲物を外す筈がない。投下された500㎏爆弾は、見事にジオビーモスに命中し、ジオビーモスは断末魔の咆哮を上げて爆炎の中で息絶えた。そしてそれと同時に、魔炎駆動式戦車には「彗星」が放った500㎏爆弾が次々と命中し、魔炎駆動式戦車は残らず粉微塵に破壊されてしまう。戦車は基本的に、航空機には無力なのだ。

 

『ヒューッ! たまには戦車を狩るのもいいねぇ!』

『ああ、思ったより面白い!』

うち(タウイタウイ)の空の魔王は、こういったことをずっとやってたんだな』

『戦車狩りもなかなか一興じゃねえか! くそ、もう少し早く知っておけば良かった』

 

 どうやら「彗星」の他の妖精たちも、“初めての戦車狩り”を楽しんだようだ。

 

「全機、そろそろ水平爆撃隊が来るぞ! 地上の敵に対して機銃掃射、なるべく一箇所に追い詰めろ!」

 

 妖精江草は、早くも思考を切り替えていた。

 

 

 そしてアルクールを囲む城壁の上では、突然現れた航空機を“新たな敵”と勘違いしてパニックになり、航空機めがけてバリスタを発射する兵もいた。幸いにして航空機には命中しなかったが。

 

「やめろっ、撃つな! あれは味方だ!」

 

 ウィスーク公爵が泡を食ったように叫び、ラーベル以下の王下直轄騎士団の面々は、慌ててバリスタから兵を引き剥がしにかかる。

 

「ウィスーク公爵、これはどういうことだ? 何が起きている?」

 

 そこへちょうど、国王ブランデ自らがお出ましになった。

 

「はっ、陛下。これは、我が国と国交開設の手続き中だったロデニウス連合王国の軍が、我らに加勢してくれたものにございます。あの空を飛ぶ者たち全てが、ロデニウス連合王国の軍なのです」

「何、ロデニウス連合王国? ああ、そなたが言っておった、“外から来た人々の国”か」

「左様にございます。こちらのコーデル殿の話では、あの竜ではない空を飛ぶ者は、時速500㎞もの高速を出せるとか。信じ難い話ではありますが」

 

 ここでブランデは、コーデルの存在に気付いた。

 

「そなたが、ロデニウス連合王国の使者か?」

「はい。ブランデ陛下、このような“略式の礼”で申し訳ございませんが、お初にお目にかかります。私はロデニウス連合王国から参りました、外交官のリヴァロ・コーデルと申します」

 

 コーデルは急いで頭を下げた。

 

「コーデル殿、面を上げられよ。あれが貴国、ロデニウス連合王国の軍だというのは、本当なのか?」

「左様でございます。我が国が誇る軍の精鋭たちです」

「そ、そうか。あれが……貴国の軍なのか」

 

 見たこともない、それでいて凄まじい力を振るうロデニウス連合王国の航空部隊に、ブランデ以下のカルアミーク人たちは驚きを以てその光景を見詰めていた。

 

 

「ば……バカな! そんなバカな!!」

 

 一方で、マウリ・ハンマンと部下の大魔導師オルドは驚愕し、そして絶望していた。

 予想だにし得ない存在の登場で、ほんの一瞬の間に戦況は完全に引っ繰り返された。先ほど有翼騎士団が全滅したと思ったら、なんと今度は虎の子の魔炎駆動式戦車も超魔獣ジオビーモスも、全てが倒されてしまった。マウリの()()()は全て失われてしまったのである。

 今や空を乱舞しているのは、自軍の誇る有翼騎士団ではなく、謎の竜と、そしてそれ以上に謎の空飛ぶ何か。羽ばたかずに空を飛べる時点で、マウリ・ハンマンとオルドにとって信じられない存在だが、羽ばたかずに飛んでいるのにその速度は火喰い鳥より圧倒的に速い。そしてその鼻先や翼をチカチカと連続で光らせ、ドドドドドドッという奇怪な連続音と共に魔獣を次々と倒していくのである。

 そして、まだ“真打”が待ち構えていた。「天山(友永隊)」の水平爆撃である。

 

ヒュウウウウウ……ドドドドドドーン!!!

 

 いくつもの笛が一斉に鳴ったような甲高い音の後、マウリとオルドの視界一面が黒い爆煙と真っ赤な爆炎、そして茶色の土煙で満たされる。それらが収まった時には、彼らの主力であった魔獣たちは、見るも無残な襤褸(ボロ)のような姿で地面に倒れ、動かなくなっていた。既に魔獣の6割が失われ、生き残った魔獣たちもパニックを起こして満足に戦えなくなっている。

 

「馬鹿な……我々は、“何を”相手にしてしまったというのだ……?」

 

 絶望のあまり、マウリ・ハンマンは膝から地面に崩れ落ちた。

 

「あのような魔導……見たことが有りませぬ。

古代の超文明を解析し得た力を以てしても勝てぬとは……信じられません」

 

 オルドも唖然としてしまっていた。

 

グオオオオオン……

 

 そんな彼らの頭上を、レシプロエンジンの凱歌を響かせて「天山(友永隊)」が越えていった。

 そしてこの直後、第一次攻撃隊の航空隊が引き上げにかかると同時に第二次攻撃隊が到着。「天山(村田隊)」を主力としてありったけの爆弾と機銃掃射がお見舞いされ、マウリ軍主力は完全に瓦解して、組織的戦闘力を失った。

 しかも、第二次攻撃隊は竜騎士団と共に戦場上空に留まり、機銃掃射と導力火炎弾で相手の退路を断ち続けた。その間に、これを好機と見たブランデの命令によって、カルアミーク王国軍が全力で撃って出たのである。

 

「突撃だ! 目指すはマウリの首のみぞ! 奴を捕らえた者には陛下御自らの恩賞がある!」

「行けぇぇぇぇ!」

 

 強力な味方を得たことで、カルアミーク王国軍の士気は天元突破しており、彼等は強力な魔獣に対しても勇敢に立ち向かい、マウリを捕らえようと血眼で戦場を駆け巡った。そしてそう時間を置かずして、マウリ・ハンマンとオルド以下の者たちはカルアミーク王国軍に捕らえられたのである。

 中央暦1640年12月20日午前8時。ここに、カルアミーク王国の内戦は終結した。

 

 

「第二次攻撃隊より入電。『トラ・トラ・トラ』」

「了解。作戦成功だな」

 

 航空戦艦「伊勢」の艦橋で、通信長妖精から報告を受け取った堺は大きく頷いた。その彼の手には1通の電文が握られている。索敵機もといディグロッケからの報告だった。

 

『第二次攻撃終了、敵軍ハ完全ニ瓦解シ、戦況ハかるあみーく王国軍ニヨル残敵掃討ニ移行セリ。敵首魁ヲ捕縛シタ模様。第三次攻撃ノ要無シ』

「勝ったわね、提督」

「ああ、大勝利だ。“大本営発表”じゃない、()()のな」

 

 この状況下での冗談めかした堺の言い草に、ぶふぅと"伊勢"が噴き出した。




はい、当然も当然&当然のように、ロデニウス連合王国軍が参戦したとたん、マウリ反乱軍は鎧袖一触で殲滅されました。
??「まあ、そうなるな」

ちなみに現在進行中の「艦これ」イベントにつきましては、私はE1から順に甲、甲、丙と攻略して、現在E4乙第二ゲージラスダンです。3連休の間に、何とかしてアトランタゲットしたい…


次回予告。

カルアミーク王国の内戦に参戦し、反乱鎮圧に貢献したロデニウス連合王国。そして、ほとんど停止していた国交開設の手続きが再開され、堺曰く「面倒な」事後処理も始まる…
次回「堺の案件 事後処理とその他諸々」


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