そして、あっという間に時は流れデートの当日となった。時刻は10時15分。優介は鞄から水筒を取り出しお茶を一口飲み再び鞄にしまう。空は青く澄み渡り、春先だというのに太陽は自己主張が激しい。まあ、晴れていることはいいことだ。デートの日に雨だなんてムードのかけらもない。朱里もそう思うことだろう。
「で、俺が一番のりと……」
自嘲気味に笑いながら優介はエレメンタルランドの入り口で呟く。デートの発案者の朱里、その相手の隆盛よりもはやくついてしまったのはもはやギャグとしか思えないが、そもそもこのデート自体がいろいろおかしい状況なのでそんな些細なことを問題にする気にもならない。集合時間は10時半。それまで太陽に晒されながら携帯でゲームをする。5分くらいすると優介の肩を叩く人物が現れた。
「おはよー、ゆーすけ先輩!」
元気に挨拶する朱里は白のワンピースに、女優帽のような帽子をかぶっている。メイクもいつも以上に気合いが入っているのか、目がいつもよりもぱっちりしている。髪に関してはいつもと変わらないように見えるが、それは自信の現れなのだろうか。
「おはよう、朱里さん」
「一番乗りかと思ったけどまさか先越されてるなんてなー。ちょっと残念!」
この光景だけ見ると優介と朱里のデートにしか見えないのだが、当然そんなわけは無い。あくまでこれは朱里と隆盛のデートなのだ。ただ、少々複雑なデートではあるのだが……。
「朱里さん。ごめん。こんな形になっちゃって」
「何で謝るの?ゆーすけ先輩の案が無かったらそもそも今日は無かったんだからむしろ感謝してるよ?」
とはいっても発案者は優介ではなく小雪なのだが。そんなことは露知らず、朱里は鞄から鏡を取り出し、念入りに眺める。それをずっと見ているのも気が引けるので優介は再びゲームを続ける。ステージクリアでたまったジェムを使ってキャラガチャを10回まわしてみるも、レアが全く出ない。顔をしかめながらゲームを閉じ、なんとなくインターネットの今日のニュースを眺める。その中に誕生日占いの項目があったので適当に自分の誕生日を入力する。すぐに占い結果が出るが、どの項目も当たり障りのないことしか書いていない。なんというか、まったく信じる気にならない。呆れながらもスクロールすると、恋愛運の項目が目に入った。
『あなたの今日の恋愛運は最高であり最低でしょう!』
「いや、意味が分かんないんだけど……」
「なにが意味不なんだ?」
急に声をかけられ、びっくりして携帯を落としてしまう。
「なに漫画みたいな反応してんだよ優介パイセン」
呆れた顔をしながら優介の携帯を拾うのは、今日の主役である隆盛だった。
「よ、よう。隆盛」
機械のようにぎこちない笑みをうかべ携帯を受け取る。
「お、おはようございます手島先輩!」
朱里が勢いよく頭を下げる。それと同時に帽子が落ちそうになったが、朱里はすぐに頭をあげ、隆盛の方を見つめる。その姿はまさに恋する乙女と言えるだろう。
「おはよう、朱里ちゃん」
名前を呼ばれた事が嬉しかったのか、朱里は後ろを向きガッツポーズをする。そんな姿を見て、すこし心苦しくなるのは、隆盛の隣の人物がいるからだろう。
「おはよう桜井君!そしてはじめまして!朱里ちゃん!」
その人物こそ、バスケ部元キャプテンにして、現在心理学科4年生、隆盛の彼女である高坂望だった。いつもバスケ部の青いジャージ姿しか見たことがなかったが、今日は青いパーカーにピンクのミニスカートという、女の子らしい格好だった。よく見るとそのパーカーは以前隆盛が来ていた気がする。なんとまあ仲のいいカップルだ。あんまり朱里の前で仲よくされるのはよろしくないのだが、隆盛達には悪意は無いのだから何とも言えない。
「今日は誘ってくれてありがとう桜井君!遊園地なんて久しぶりだからドキがムネムネだよ!」
望がばしばしと背中を叩いてくる。相変わらずのオーバーコミュニケーションだ。
「ほんと、優介が誘ってくれるとは思わなかった。しかも遊園地なんて。なに、ナンパすんの?」
「するかそんなこと!というかボケがベタすぎるわ!」
「毎回違うボケするのも難しいんだぜ?」
「最初からボケなければいいと思うけどね!」
さて、そろそろこの状況を説明しよう。小雪に言ったように望という彼女がいる隆盛が他の女子である朱里のデートに応じる可能性は微塵もない。ならどうするか、小雪が出したアンサーは、『二人で行く』というデートの前提を無視すること。つまりはデートではない普通のお出かけに名目をすり替えるということだ。そのために優介が参加し、隆盛が来やすいように望も誘ったということだ。そしてころ合いを見計らって朱里と隆盛を二人にし、告白、というのが小雪が考えたプランだ。あくまで目的は告白。そのために他の要素をばっさり切り捨てるというムードもへったくれもない計画だが、ほかにとれる手段もないので優介はそれに乗ることしかできなかった。
「どうした優介、そんな神妙な顔して。今更ビビってんのか?大丈夫。一人くらいひっかかるさ」
「だからナンパはしないって!」
ツッコミをいれつつも、自分の顔を携帯カバーについている鏡で確認する。なるほど、隆盛の言うとおり神妙な顔をしている。なんとか口角を上げたりして自然な表情を装うが、そもそも自然な表情と言うものがどういうものかすら分からなくなってきた。
そもそも、どうして優介がこんなに緊張しているんだろうか。本来一番緊張するべきは朱里のはずなのだが、とうの朱里はいつの間にか隆盛と楽しそうに話している。その様子を眺めていると、隆盛の隣で二人の会話を聞いていた望と目があった。少しびくっとしつつもなんとか愛想笑いをうかべる。望はそれをどう受け取ったのかわからないが、無邪気にウインクしてきた。取りあえず、この状況への疑念は無いようだ。今望に感づかれると今日のお出かけは最初からクライマックスを迎えてしまう。常識的に考えて、自分の彼氏を狙う女子とのお出かけなんて百害あって一利無しなのだから。
「さて、それじゃあそろそろ入場しようか」
隆盛の言葉によって優介の意識は現実に引き戻される。すでに隆盛達は入場ゲートにむかって歩き始めている。真ん中に隆盛、左に朱里、右に望。両手に花という言葉が正しいのかは分からないが、優介は完全に蚊帳の外だ。だが、蚊帳の外では困る。これから朱里が告白しやすいようにあれこれサポートしなくてはいけないのだから。
「おーい優介。早くしろよ~」
「先輩、はやくはやくー!」
「おいてっちゃうよー」
こうして、桜井優介の前途多難な一日が幕を開けるのだった。