土曜日ということもあってエレメンタルランドはかなりの賑わいだ。目に入るアトラクション全てに長蛇の列ができており、普通に並べば30分以上は待つことになるだろう。だが、それに関しては抜かりはない。
「それにしてもファストパスとは、さすが効率重視の優介パイセンだ」
「ほんとほんと、これで今日は一日中ジェットコースターに乗れるね!」
一日中ジェットコースターは勘弁してほしいが、遊び放題なのは事実だ。朱里からデートを発案されたあの日、優介は講義の合間に図書館のパソコンを使ってファストパスを4人分予約しておいたのだ。ファストパスがあれば一般入場するよりも優先的にアトラクションを利用できる。それゆえ枠がうまるのがとても速いのだが、連休でも長期休みでもない日にファストパスを利用してまでアトラクションに乗ろうとする人はいなかったのか、簡単に予約できた。とはいっても、この賑わいからして単に運が良かっただけなのかもしれない。
「手島先輩って遊園地とか結構来ます?」
朱里は早速隆盛に話しを振る。
「ん?そうだな~。最近はあまり来て無かったかも。バイトと学校で忙しかったからな」
バイトはともかく学校ではほとんど寝て過ごしていると思うのだが、そんなツッコミをいれて会話を壊すわけにもいかないので黙っていることにする。
「バイトしてるんですか~。なんのバイトですか?」
「居酒屋の厨房だよ。わざと多く作って余った分つまみ食いとかしてる」
「わ~ワルですね先輩」
「スタッフ足りないって店長言ってたし、朱里ちゃんどう?今忙しくなければだけど」
「え、いいんですか!わたし料理とか好きなんで、すごく興味あります!」
取りあえず順調に話しが進んでいるようなので優介はほっとする。
「そっか。望、帰り一人増えるけど大丈夫か?」
「え……?」
朱里がちいさな声で疑問を示す。
「もちろんオッケーだよ!私のドライビングテクニックに酔いしれるといいよ!」
「なんの拷問だよまったく」
そういえばバイト帰りは望の車で送ってもらっていると以前隆盛が言っていた気がする。が、そんなことよりも朱里の表情が曇っているのが問題だ。せっかく切り出した話題からのろけにつなげられてはたまったもんじゃないだろう。仕方ないので優介は助け船を出すことにする。
「隆盛、最近俺の家来る日以外って何してんの?」
少し強引な話題変更。だが隆盛は特に疑問も持たずに話してくれる。
「そうだな~優介の家でゲームとかはしてるわけで、他の日はカウンセラーの勉強してたりな」
「え、手島先輩ってカウンセラー目指してるんですか?」
朱里も上手く話題に入ってこれたようだ。
「ああ。スポーツカウンセラーってやつで、スポーツ選手のケアやサポートをする仕事なんだ」
「ほえ~なんかかっこいいですね!」
小学生並みの感想だが、隆盛も自分の夢をほめられて悪い気はしないだろう。
「でも隆盛っていっつも図書館で寝落ちしてるよね~」
そんな流れは望の言葉によって崩れ去ってしまう。確かに、隆盛が勉強している時、望が隣にいることは多いがよりにもよってこのタイミングでそれを言ってしまうとは。
「お前、せっかく後輩の前でカッコつけてんだから余計な事言うなよ~」
「えー。でも後輩に嘘はよくないと思うよ~?」
「うるせえ、このあほ!」
隆盛は望の脇腹を小突く。
「いたっ!やったなこの~」
望は反撃するかのように隆盛の背後に回り込み脇腹をくすぐる。隆盛の後ろをとるとは、流石バスケ部。
「ちょっ、やめろ望!く、くすぐったい!」
「隆盛の弱いところは全部知ってるんだぞ~」
公衆の面前でいちゃつくことに抵抗がないのだろうかこの二人は。こういうカップルをみて一人身の男は陰で毒づいたりして、非行に走ったりするのだろう。これ以上反社会勢を増やさないで欲しいものだ。
「……」
そして朱里も、再び意気消沈してしまっている。やはり、どんな方向に話題を持っていっても隆盛と望が二人でいるといちゃつく方に話が向いてしまう。
「エレメンタルジュースはいかがですか~!カップも当園限定!味もたくさんありますよ~!」
近くの屋台からそんな呼びかけが聞こえる。そちらを見ると、長蛇の列ができている。
「望先輩!ジュースありますよジュース!買いましょう!」
優介は望の腕をひっぱる。
「え、急にどうしたの桜井君?」
「い、いややっぱりここに来たらエレメンタルジュースでしょ!ほら行きましょう!隆盛と朱里さんはここで待っててくれ!あんまり大勢でならんでも他の人の迷惑だし!」
「おーわかった。それじゃあ俺メロン味な。朱里ちゃんは?」
「あ、わ、わたしもメロン味で!」
「おっけー!」
そう答えると優介はものすごい勢いで望をひっぱり列へと並ぶ。かなり強引な運びだが、これでしばらく朱里達を二人に出来るはずだ。
「桜井君、そろそろ手を離してくれるかな?」
望が困惑気味に言ってくる。
「それとも、私のすべすべの手が気に入ったのかな?」
「ぶっ!ち、違いますよ!」
慌てて手を離す。
「そ、そういえば望先輩は進路どうするんですか?」
勘ぐられる前に優介は話を始める。
「私の進路?気になるの?」
「は、はい。やっぱりバスケのチームから呼び声とかかかってるんですか?」
「呼んでくれてるところもあるんだけどね。私は一般企業に就職するつもり」
「え?」
望の答えが意外過ぎて、間抜けな声を出してしまう。
「なんでって顔してるね」
「そ、そりゃそうですよ」
望のバスケの才能は去年大会を見に行った優介にはよくわかるし、隆盛だって望にバスケを続けてほしいのではないだろうか。
「別に、バスケをするのが嫌になったとか、そういうわけじゃないんだよ?」
困惑する優介に察してくれたのか、望は話を続けてくれる。
「でも、学生として100パーセント楽しいってだけでやるバスケと、プロとして、仕事としてやるバスケは違うかなって。今は仮に負けちゃっても次頑張れるけど、プロでの一敗って私たちが考えるよりずっと重いんだよ」
「……」
「もちろん、プロを否定するわけじゃないよ。プロとして輝いている選手たちは尊敬するし、あこがれもある。ただ、私には向いてないってだけ。それに……」
「それに?」
「いつか、隆盛と結婚する時にバスケをやめなくちゃいけない時が来るしね」
結婚。恋人たちの行きつく先。ゴールにして新たなスタート。その概念を理解はしていたが、知人が結婚することなど遠い世界の話だと思っていた。でも、望と隆盛が今後も関係を続けて行けば、いつかはそうなるのだろう。
「なんていうか、ちゃんと考えてるんですね」
「そりゃそうだよ。いつまでも子どものままじゃいられないからね」
「そう……ですよね」
大学を卒業したその先。優介だって小説家になるという夢はあるが、それを明確に、どんな生活をしているかを明確にイメージすることは出来ない。果たして、一年後の優介は、望のように結論にたどり着けるだろうか。
「桜井君は、狭霧ちゃんと連絡とかしてるの?」
「……!」
狭霧、狭霧麻耶。去年知り合った元引きこもりにして天性の文学少女。彼女と出会い、彼女に憧れ、彼女に恋したからこそ今の優介がある。
だが、福岡に引っ越し離れ離れになった優介たちを気遣ってか隆盛達友人は話はしても彼女の名前を口にすることはなかった。
「連絡はしてないです」
「そうなの?連絡先、知らないの?」
「知ってますよ。大家さんが教えてくれたんで」
「じゃあ、なんで?」
今度は望が優介に疑問を投げかける。
「あいつを、麻耶を見送った日に約束したんです。いつか麻耶に追いついて、作家としても、人間としてもあいつの隣にふさわしい存在になるって。それまではお互いに小説に打ち込もうって」
どうやったらそこにたどり着けるのか、明確な答えは無い。でも、今のままじゃ駄目なことは明らかだ。今麻耶に触れればきっと駄目になる。麻耶が好きだからって自分の全てを捨てて何もない人間にはなれない。だから、今は作家としての腕を磨くのだ。
「それに、あいつは『さよなら』とは言わなかったんで」
「……そっか。それなら、二人なら大丈夫だね。私も隆盛もそれを応援するよ!」
「ありがとうございます。いつかきっとお礼もしますよ」
「それじゃあ、ジュース奢ってよ。ちょっと金欠でさ」
「いつかくるの早すぎるでしょ!」