相変わらずの見切り発車クオリティですが許してください。
ヴァルチャー【Vulture】
空を生業とする傭兵の通称。
金の為にあらゆる任務を引き受け、戦場であらゆる物品を回収して売りさばく事を生業としている点は”陸の傭兵”ハイエナと変わらない。
特定の拠点を持たず単独で行動することの多いハイエナとは違い、航空機の保守点検にある程度の人員を要するヴァルチャーはチームで特定の拠点を構える事が多い。
この点は”海の傭兵”ホエールと共通している。
ハイエナやホエールと比較して任務報酬が割高になることが多いと言われている。
上位からS級~D級とランク付けされている。
―ウィルタニカ百科事典より転載―
ヴァルチャーファイルNo.8 海烏【うみがらす】
“烏天狗”の通称で知られる烏丸猛をリーダーとするヴァルチャーの一団。
オールドカミングプロジェクトで生産された旧大日本帝国海軍の軍用機を4機運用する。
チーム名はリーダーの名前である烏丸から取ったものと推測されているが、真偽の程は不明。
海烏の別名であるオロロン鳥をもじって『オンボロ鳥』と呼ばれる程に旧式兵器を運用しているが、搭乗者の練度は高く任務成功率は9割を超えている。
また他のヴァルチャーに依頼するよりも任務報酬は4割ほど安く、高級ハイエナの任務報酬とさほど変わらないのも特徴である。
【ヴァルチャークラス】S級
【リーダー】烏丸猛(からすま たける)
【所属人員】不明
【拠点】鷲峰島(S09区域付近の島:製造拠点・エネルギー自給拠点アリ)
【運用兵器】九六式艦上戦闘機、九七式二号艦上攻撃機、九九式艦上爆撃機、零式艦上戦闘機、一式陸上攻撃機
【追記】烏丸猛には指揮官の適正があると思われる。
―グリフィン&クルーガーの報告書より転載―
民間軍事会社グリフィン&クルーガーの本部内にある第三応接室。
この会社の上級執行官であるヘリアントスは、小さな机を挟んである男と向かい合っていた。
彼の年齢は20代後半と言われている。
人に不潔感を与えない程度のボサボサの癖毛はややセミロングの長さで切られていた。
ざっくりと七三に分けられた前髪と整えられた口髭を合わせても、彼に軍人らしさは何処にも見当たらない。
むしろ海賊帽と眼帯とオウムがあれば完璧な海賊船長になれるだろう。
彼の一張羅である改造された軍服がより一層海賊っぽさを演出していた。
体格はやや引き締まった中肉中背。服の下からでも鍛えられた筋肉が見える。
初めて彼を見たものは癖のある船乗りだと思うだろう。
彼の名は烏丸猛、うちのお抱えヴァルチャーだ。
「で、この任務は依頼状の通りで良いんだな?」
低く渋い声が漏れる。
彼の口調は傭兵という職業を考えると物静かな部類だ。
同時にそれは彼の性格を物語っている。
常に冷静沈着で何事にも眉を動かすすることすらない。
正に人の皮を被ったロボット。
他人から彼がアンドロイドだったと言われても誰もが納得するだろう。
グリフィンの職員の間で『ウチの戦術人形よりも人形らしい』と言わしめるほどだ。
依頼主として烏丸と何度も対面したヘリアンでも、薄ら笑いの表情から彼の喜怒哀楽を読み取ることは出来ない。
「ああ、あの通りで間違いない」
「”いつもの”という訳か」
グリフィンは彼に『いつもの』と言わせるほどに偵察、攻撃、戦術人形の支援などあらゆる任務を任せてきた。
破壊系の任務であれば戦術人形を使うより着実でコストが安く、何のイデオロギーも無いからどんな汚い事でも引き受ける。
薄ら笑いで淡々と話す態度こそ不遜だが、烏丸は絶対に嘘をつかない。
彼が『やる』といったらどんな危険な任務でも必ずやり遂げ、それ以上の結果を叩き出す。
だからこそ彼は選ばれる。
正直言ってヘリアンや彼女の上司も正式に雇いたいと思っている程に。
だが、グリフィンへの入社の打診は何度も断られていた。
恐らくあの島に執着しているのだろう。
「それで、頼んでおいたアレは出来ているのか?」
「もう機体に搭載している頃だろう」
「そうか。…そちらの条件だったが、そちらの用意した機器を積み込むことと、任務達成後にここに戻ってくる事だったな」
「それで問題ない。何か不都合なことが?」
「いや、金さえ貰えれば問題ない。ここにサインを」
「分かった」
書類にサインしたヘリアンが顔を上げると、烏丸はそっと部屋を出るところだった。
いつの間に席を立ち、歩いていったのか…。
認識を超える行動の速さ。
彼が烏天狗と呼ばれる所以がここにある。
彼の微かな足音が消えたのを確認し、ヘリアンは内線電話を手に取った。
「クルーガーさん、ちょっとよろしいでしょうか?」
〇〇〇
…三十分後。
第三次世界大戦によって廃墟となったコンクリートジャングルの上を、一機のプロペラ機が飛行している。
核戦争の影響によって石油の供給に制限がある2060年代においてプロペラ機というのは珍しくない。
エンジンと燃料をモーターとバッテリーで代替できるプロペラ機やヘリコプターは寧ろこの世界の飛行機としてはメジャーである。
そこで世界各国の航空機メーカーで第二次大戦時のプロペラ機が再設計・再生産されることになった。
それが『オールドカミング・プロジェクト』である。
烏丸が乗る九七式二号艦上攻撃機もこのプロジェクトによって生産された機体で、数々の改良により旧式な固定脚ながら彼の持つ機体で一番の積載量を持つ。
そんな機体の胴体と主翼には日の丸が、垂直尾翼には海烏のシンボルマークである大波と烏のシンボルマークが描かれている。
腕と信用で全てが成り立っている傭兵は自らを宣伝する必要があるからだ。
このシンボルマークを入れる事により『この作戦は我々がやりましたよ』という宣伝になり、次の仕事が受けやすくなる。
「ふーむ…」
烏丸はこの任務に不審を抱いていないわけではなかった。
任務はいつもの鉄血への爆撃任務だが、後部座席に変ちくりんな機械を積み込むことと、本部に行き帰りするだけでいつもの3倍の報酬。
これで不審を抱かない訳がない。
しかし依頼を受けた上に装備品を頼んだ以上、ここで引くわけには行かない。
後ろに積んでいる謎の機械もジャミング装置か偵察用のカメラだろう。
鉄血工造の連中に恨みはないが、これも仕事だ。
「まずは腹ごしらえだ」
彼は三時間の長旅に備え、固形レーションを口に含んだ。
〇〇〇
…三時間後。
烏丸を乗せた九七艦攻は無事に目標の空域に到着した。
彼は機体を少し傾け、外の様子を偵察する。
だだっ広い平地にこれでもかというほどに灰色のコンテナが並べられている。
コンテナの側面には鉄血工造のマーク。
あの中に鉄血のドローンや戦術人形がギッチギチに詰め込まれている。
グリフィンの情報通り、鉄血の大規模な戦力集積地と見て間違いなさそうだった。
その規模からして300体以上。
だが、味方であるグリフィンの戦術人形は一体も見当たらない。
彼の頭脳はこれが単なる占領前の破壊任務ではなく陽動作戦であると瞬時に理解した。
まぁ、烏丸にとっては些事な変更に過ぎない。
問題は胴体と主翼にぶら下げたグリフィン製の爆弾がきちんと作動するかどうかである。
「さて、狩りを始めるか」
烏丸はそう呟くとそのまま集積地に侵入した。
けたたましい警報が鳴り響くが、彼は構わず中央まで突入する。
コンテナが密集して積み上げられた場所で、九七艦攻は腹に抱いた大型爆弾を投下した。
胴体から離れた爆弾は水面に落ちる様にコンテナの隙間に潜り込む。
…三秒後。
その場所で激しい爆発が起こり、まるで噴火でも起こったかのようにコンテナが宙を舞った。
もうもうと煙が立ち上り、中身の詰まった鉄の箱があられの様に落ちて潰れていく。
ぐしゃりと表現するには激しすぎる金属音はコンテナが発する悲鳴の様だ。
その光景に彼は思わず呆れた。
『1t前後で出来るだけ破壊力の強い爆弾』
彼がグリフィンに頼んだアレの一つだったが、予想以上の爆発だった。
遅延信管でなければ間違いなく九七艦攻ごと木っ端微塵になっていただろう。
なんという威力の爆弾だ。
ちらりとガイガーカウンターを見て安堵する。
投下した爆撃機をも吹き飛ばしかねない爆弾だったが、それに見合った効果はあったようだ。
コンテナは爆風や落下によってひしゃけ、閉じ込められた鉄血の機械たちは出る事すら叶わないだろう。
集積地を包む業火はそんな鉄の牢獄をを溶かしつつどす黒い煙を上げている。
だが、烏丸はこれを眺めている余裕はない。
もくもくと集積地に上る黒いのろしを目指し、東西南北から鉄血の部隊が押し寄せてくるからだ。
何処から湧いてきたのかは知らないが、ざっと目算で500体。
その中には夜戦でしか出てこないはずの装甲化されたユニットもいた。
マンティコアと呼ばれる自立式多脚戦車もいる。
陽動の第一段階は成功、あとは殲滅するだけ。
烏丸の口角が少し上がった。
ある塊に向かうと、九七艦攻の翼から小型の何かがパラリと一つ落ちる。
すぐに尾部のパラシュートがふわりと開き、真っすぐ縦に落ちていく。
人形たちはその不思議な物体に対し、何の攻撃もせず見守るだけに止まる。
それが地面に着地した瞬間、周りにいた人形やドローンが一瞬でバラバラになった。
超低空垂直爆弾、またの名を”制動傘減速破片爆弾”
後部のパラシュートによって垂直に着弾する爆弾で、爆発すると広範囲に破片をばら撒いてあらゆる敵を破壊する。
グリフィンに頼んだ2つ目のアレで、100kgの爆弾を両翼に10発搭載。
この爆弾1発で10mmの装甲を貫通する破片が2400個飛散する。
そんなグリフィン謹製の素敵なプレゼントにより、ぞろぞろと寄ってくる鉄血の兵隊たちが次々と粉砕されていく。
まるで蚊取り線香でパラパラと落ちていく蚊のようであった。
鉄血側の必死な対空射撃も烏丸の卓越した操縦能力の前には無力で、逆に九七艦攻から機関砲弾をプレゼントされた。
爆破、粉砕、爆破、銃撃、粉砕、爆破…。
500体もいた鉄血の部隊が一塊、また一塊と消えていく。
彼が最後の爆弾を使い切った頃には、辺りは鉄くずの山になっていた。
残りはマンティコア6台。
マンティコア。
この鉄血の思考戦車は地上部隊にとっては恐ろしい存在だが、航空部隊にとってはチョロい…というかカモに等しい。
コイツはシャカシャカと軽快に動く方だが、当然ながら航空機と比べると致命的に遅い。
そして主砲であるチェーンガンをおなかにぶら下げてる関係であまり上に向けられない。
…そもそも地上部隊を攻撃する兵器だし、核戦争の影響で空軍が著しく弱体化しているのでこれは仕方がないとも言える。
ライフル弾を受け付けない装甲こそ固いが、ヴァルチャーにとっては的も同然である。
中にはコイツを撃破することを入隊条件にするヴァルチャーもいるらしい。
普段は周囲に護衛が付いているが、奴らは先程の攻撃で全滅しているので対空攻撃の心配はない。
爆弾も無いが地上銃撃で何とかなるだろう。
烏丸は思い切って超低空で接近し、マンティコアを光学照準器いっぱいに収めた。
翼内に搭載された6門の20mm機関砲が火を噴く。
弾丸は次々と装甲をぶち抜いて炸裂し、内部の機械を破壊する。
一回目の通過でまずは2体を破壊した。
思考戦車は回避行動を取り始めたが、既にもう遅い。
旋回して2回目の攻撃を仕掛け、3体のマンティコアを破壊する。
そしてもう一度旋回を掛けた所で、どこからか対空射撃が飛んできた。
烏丸は慌てて機体を右に横滑りさせて回避機動を取ったが、撃ってきた奴を見てすぐに馬鹿らしくなった。
マンティコアが仲間の残骸を踏み台にして、明らかに無理な姿勢で主砲を撃っていたからだ。
まるで赤ん坊が必死につかまり立ちをしているようだった。
本人(?)にとっては決死の努力だったのかもしれないが、それを撃った反動でコテンとひっくり返っている無様な光景を見た烏丸は思わず吹き出しそうになる。
笑いが込み上げるのを抑え、マンティコアのでべそに向かって銃撃する。
奴は四つの足をバタつかせる暇も無く爆散した。
「ミッション終了」
九七艦攻のなかで烏丸はそっと呟く。
鉄血の撃破数は推定800体と彼が経験した中でトップ10に入る大戦果だった。
だが、烏丸に喜びはまったくない。
彼にとってはいつもの通りの仕事をこなしているだけなのから。
しかもまだ任務が残っている。
「基地に帰るまでが任務…ってダサいな」
機体を傾けて進路を戻す頃には太陽が沈み始めていた。
〇〇〇
「不味いな…」
3時間後、暗くなった機内で烏丸はそう呟く。
陽動作戦を終えて帰り始めた頃には日が傾き始めていたが、グリフィン本部に付く頃には辺りは既に真っ暗になっていた。
機体が電気とモーターで飛ぶ以上、バッテリー残量は常に気になる事項である。
昼間は機体表面にある太陽電池で電気を供給するのだが、夜となるとそうはいかない。
バッテリーの残量を確認すると、グリフィン本部から自分の基地に帰還出来るか出来ないか位の残量しかない。
仕方ない、補給を受けるしかないようだ。
管制官の誘導に従い、彼を乗せた九七艦攻はゆっくりとグリフィン本部の滑走路へと降り立った。
本部へと再び舞い降りた烏丸は再び応接室へと通される。
ヘリアンは会議なのか部屋にはいない。
これは長く待たされそうだ。
烏天狗は待つのも得意であったが、何もなしに待つのは流石に暇すぎる。
本でも読んで待つか。
そう考え、応接室の本棚に手を掛けたその時だった。
「海賊っぽい人、海賊っぽい人っと…。あ、すいません。烏丸さんですよね?」
オレンジ色のサイドポニーが印象的な少女が入ってきた。
ここの職員らしい。
失礼な枕詞を聞き流し、彼は少女の方へと振り向く。
「なんだ?」
「ヘリアンさんはまだ会議中ですので、これでも解いて待っていてください」
「ああ…」
少女はタブレット端末を手渡すとさっさと出ていってしまった。
中身は何かのクイズ集の様だ。
烏丸はそわそわしていた少女とヘリアンの不在、そしてこの問題集の入ったタブレットに不信感を抱いていないわけではなかった。
しかし、それをあの少女なりヘリアンに指摘してしまえば面倒事になる。
いつものグリフィンの茶目っ気という事でさっさと片付け、暇になった頭脳で問題を解き始めた。
だが…。
「よし、喰いついたな」
ヘリアンは既に会議を終え、とあるモニターを見つめていた。
傍らには先程烏丸にタブレットを手渡した少女が居る。
画面には烏丸が居る応接室の中が映っており、彼が普段通りの体制で問題を解いている姿が見える。
こんな姿もロボットの様だ。
「カリーナ、彼は何問解いた?」
「もう5問目まで行ってますよ!早い」
「そうか…」
ヘリアントスは依頼した作戦で建前を、先程までの会議である許可を手に入れていた。
彼女が欲しいのは口実。
この口実が烏丸自身の手によって段々と出来上がっていく。
彼女の手筈通りに。
「戦術指揮官登用試験…合格ラインを突破しました!」
「よし、例の書類は用意したな?」
「はい、全部揃っています」
「行くぞ」
ヘリアントスはカリーナを連れ、烏丸の待つ応接室へと入る。
彼は彼女を見るなり、暇そうな表情から例の薄ら笑いへと微妙に変化した。
いつもならばここで任務報酬の交渉と受け渡しが始まる。
彼はそれを見越しているのだ。
「ようやく来たか…で、金の用意は出来たのか?」
「残念ながら金ではない、書類だ。お前をわが社の戦術指揮官に強制的に任命するためのな。これには『昨今の指揮官不足に伴い、本日2039時を持って烏丸猛を戦術指揮官として緊急採用する』と書いてある」
「…そうか。で、お断りは効くのかね?」
「強制的にと言った筈だぞ。指揮官」
…その瞬間、室温が絶対零度まで落ち込んだ。
同時に目の前の人間から生気が消える。
「はぁ!?」
烏丸猛という名前のロボット人間が人生で初めて動揺した瞬間だった。
まぁ、この時の面白い表情を拝めたのは二人しかいなかったが。
どうなるか分かりませんがよろしくお願いします。