…夜戦。
それは航空機にとって最大の活躍場である。
レーダーを積んだ機体の索敵力は暗視装置を遥かに上回り、夜間に投入される鉄血の兵器は大概トロい。
ヴァルチャーにとっては正に狩り放題という訳だ。
だがそれなりのリスクは存在する。
ソーラーパネルは使い物にならず、機上レーダーは結構電気を消費する。
モノによっては飛べなくなる機体もあるだろう。
視界の全てを塗りつぶす闇は、一部のパイロットに空間識失調を起こさせる。
正にハイリスク・ハイリターンという訳だ。
星明り一つ無い正に闇夜。
暗視装置を着けなければ一切外の状況を見渡す事が出来ないだろう。
こんな真っ黒な視界では、深緑に塗られた双発の機体が飛んでいても目立つ事は無い。
「~♪~♪~♪」
その機内で鼻歌を歌うほど俺は上機嫌だった。
何故なら、工場の連中がやっと新型機の製造を始めたからだ。
ペルシカが新型の高性能人形を開発したという嘘(という訳でもない)情報を持ち帰る事により、彼女をライバル視している工場の連中が遂に本気を出した。
今は工場に篭って新たな戦力を生み出している最中だ。
ペルシカには悪いが、これからも起爆剤として利用させてもらおう。
彼らの心理を分析しこの作戦を編み出したフタバにはホールケーキを贈った。
いつもなら眠気と戦いつつ嫌々やる夜間任務も、喜々としてやっている。
夜間戦闘機『月光』
…と言ってもこいつはそのプロトタイプである『十三試双発戦闘機』という機体で、当初は長距離侵攻する爆撃機を援護する戦闘機として設計された。
機首には7.7mm機関銃2挺と20mm機関砲1門、胴体後部に7.7mm連装遠隔操作動力銃座を装備している。
だがこの重たい銃座が仇となり、機体性能が悪くなって開発は中止された。
この機体が後に二式陸上偵察機になり、更に月光へと転身していくわけだが…。
このプロトタイプはオールドカミングプロジェクトで再設計された結果銃座が軽くなっており、零戦以上の速度と単発戦闘機とも戦える格闘戦性能という要求仕様どおりの性能を発揮している。
その高性能は夜戦ならず昼戦でもしっかりと働く。
俺の第二の愛機だ。
オールドカミングの再生産時にレーダーの追加とバイオ燃料で動く発電機が追加されており、空飛ぶレーダーとして夜一杯活動可能である。
工場での改造は遠隔操作のためのドラグーン人形のみだ。
とはいえ応急品な上に火力不足なので何らかの改修は必要だろう。
というより、本格的な夜戦である電光を製造して欲しい。
『アルファよりギリマト、作戦領域に到達』
「ギリマト了解。各チーム、着陸ポイントまで移動されたし」
『了解』
今回投入された任務は、最近発見された鉄血の工場を占拠する作戦のお手伝いである。
その名もシェエラザード作戦。
前に陽動作戦という形で支援した作戦で新兵器の情報が見つかったらしく、その製造元を占拠してあわよくば現物を奪取しようという魂胆らしい。
白昼強襲しても増援がわらわらよってくるだけなので、夜間にこっそり奇襲して占拠する。
グリフィンのチームが調査した後に工場を破壊する。
夜間戦力は陽動作戦で基地もろとも爆散しているので抵抗自体は少ないだろう。
問題はその新兵器の存在だが…。
状況次第だな。
『ギリマト、指定ポイントに到着しました』
「よし、降下を開始せよ」
『出発!』
この作戦のような占領が絡む任務は戦術人形が必要となる。
だがあくまで彼女らは占領する為の要員なのだ。
夜戦に強いメンバーや徹甲弾持ちのライフルやマシンガンを配置したりするなどの配慮はしているが、大体暇なメンバーから選び出す形で編成する。
今回はアルファ、ブラボォ、チャーリィの3チームを編成して派遣した。
まぁどう組んだとしても人形部隊を編成したときはこの大体コールサインで呼んでいるが。
俺のコールサインであるギリマトはウミガラスの事だ。
「さてさて、敵の様子を見てみよう」
月光のレーダーを起動する。
レーダーチャートにはぼんやりとした点しか映らないが、長く使い慣れてきたのでその大きさや反応の強さによって大体の敵の種別が分かってくる。
作戦前に輸送型ブーメランが飛行していたのが確認されているが、大規模な戦力の投入は無いと見ていいだろう。
その理由はヴァルチャーの存在である。
鉄血の夜戦用の兵器は重量があるのであまり多くは積み込めず、それなりの戦力を揃えようと思ったら結構な数の輸送機の数が必要となる。
だが鉄血が大規模な輸送機の編隊を組むと、お宝の匂いを感じたヴァルチャーによって全機叩き落されるのだ。
特にこの付近にはA級ヴァルチャーの『緋色大隊』が居を構えている為、まず有り得ないといっても良い。
更にブーメランは消費電力の関係上夜間運用は出来ないので、増援は考えにくい。
よし、思ったとおりだ。
レーダー上は昼戦でも使う人形達が主体で、夜戦用の戦力は少ない。
このまま進めても大丈夫だろう。
「よし、シェエラザード作戦を開始する」
○○○
「アルファは南へ前進、飛行場で補給」
「ブラボーは北東に前進。近接人形が居るので注意」
「敵の移動を確認。チャーリィは西に前進せよ」
開始から45分後。
オペレーション・シェエラザードは順調に進行中。
部隊は順調にレーダーサイトや航空基地を占拠し、目標の直前あたりまで前進した。
レーダーで常に敵が把握できるというのは大きな強みだ。
こんな月明かりすらない夜でも味方を誘導できる。
いつもならば味方の救出や共同作戦を行う軍側の都合といった理由で時間制限に追われる夜間作戦だが、こうしてのんびりと遂行するのもいいものだな。
いや、任務の性質上今回も素早く行かないと行けないんだが…。
ん、通信か?
あー…ちゃんと君をレーダーで捉えているよっと。
あいつは夜戦要員としては使えるんだが、いちいち相手をするのが面倒だな。
5分毎とか忙しないぞ。
おっと、装甲兵の部隊がチャーリィの居る方面に向かっている。
たまにはこちらも働かないとな。
弾数が少ない20mm機関砲を温存し、7.7mm機関銃で数少ない装甲兵を蹴散らす。
「よし、排除…ん?」
レーダーチャートが微妙な反応を示している。
反応はマンティコアっぽいが、固まっているのか点が大きい。
あんな思考戦車でも人形には脅威だ。
「マンティコアらしき反応を探知した。注意せよ」
『了解…対空型マンティコアを発見』
『いや、マンティコアだけじゃない…奥に大型兵器を確認』
『マークしました』
「確認する」
マークされた地点に向かい、暗視ゴーグル越しに目標を確認する。
対空型マンティコアが何かを守るように6台ほど陣取っているな。
奥のデカ物が目に入った瞬間、思わず『何だアレは』と呟いてしまった。
サイズはマンティコアの4倍で、遠目で見れば戦車にも見えなくも無いシルエットだ。
推定の重量は40tから55t。
巨大な図体を支える脚は恐らくマンティコアの物を流用したもので、その8本の脚が蜘蛛の様に配置されている。
タランチュラみたいだな。
胴体の上に乗る砲塔は130mmクラスだろうか。
こんな砲弾が直撃すれば、どんな弾であろうと戦術人形はダミーごと木っ端微塵になる。
「アルファとブラボォは直ちに退避。あれは相手にならん」
『了解』
『直ちに下がります!』
「こちらはタランチュラを攻撃する」
『ご武運を』
あのタランチュラ(仮称)は軍やハイエナの戦車に攻撃するための兵器だろう。
戦車にとって速度の遅いマンティコアはカモであり、夜戦において1台の戦車が数個中隊を一方的に殲滅した事例もある位だ。
恐らくそんな戦車に対抗してこの新型思考戦車は造られたのだろう。
闇の中でも銀色に光る無塗装の車体は、造ったばかりか試作機である事を伺わせる。
つまり戦闘経験は少ない…かもしれない。
そしてAAマンティコアが護衛しているという事は、対空能力はさほどないか機動性に致命的な問題を抱えているかのどちらかだ。
…よし、殺れる。
「転ばぬ先の杖とはよく言ったものだな」
高度を下げ、攻撃準備に入る。
この機体は1000kgまで爆装することが出来、今日は250kg爆弾を2発吊り下げている。
念のために持ってきておいて成功だったな。
中に詰まっているのはギリシアの火薬なので、新兵器が例えどんなにカチカチに固めていても綺麗に吹き飛ばしてくれるだろう。
よし、緩降下爆撃で仕留める。
爆撃進路に入ったところで鉄血はこちらが狙っているのを察知したらしい…のだが。
予想通り、タランチュラ(仮称)は遅いマンティコア以上にトロかった。
パワーはあるようだが、ガションガションと動く姿は遅い。
しかも護衛機であるAAマンティコアとの連携もバラバラだ。
その余り余ったパワーで僚機を弾き飛ばしている。
対空攻撃しようにも奴の砲塔旋回速度は遅く、砲の仰角も取れない。
本当に対戦車用だったらしいな。
ま、こんな遅さじゃ産廃モノだが。
「終わりだ」
AAマンティコアの対空射撃をかわし、標的に爆弾を投下する。
投下された250kg爆弾は砲塔上面に当たり、タランチュラは護衛機3台を巻き込んで爆発した。
襲い掛かってきたAAマンティコアを銃座の一斉射撃で黙らせ、一旦離脱する。
十分離れた所で反転し、20mm機関砲で残っていたマンティコアを殲滅した。
序に工場の入り口に固まっていた装甲人形も薙ぎ払っておく。
今度こそアルファ、ブラボォを前進させ、彼女らと共に警備している部隊を撃破した。
これだけ工場の外で暴れたんだ、陽動としては十分だろう。
「ふぅ…」
『こちらチャーリィ。工場を占領』
「よし、各班はこのまま警戒を継続。回収チームが到着するまで待機せよ」
『任務完了!待機する!』
『ご主人様のご要望は一応達成しました。これより待機に入りまーす』
『待機…ようやく眠れる』
「全く…誰とは言わないがサボるなよ。こちらは付近の哨戒に入る。ギリマト、アウト」
『あっちょっと待t』
余計な通信が来る前に通信機を切り、工場の上をゆっくりと旋回する。
暫くは画面と睨めっこだ。
…月光をここまで使ってきたが、やはり火力が微妙すぎる。
まず20mmの弾数がかなり少ないので、弾幕を張る事が出来ない。
機関砲弾は先ほどの攻撃で弾切れになった。
例え長時間飛べたとしても、弾がなくなれば意味は無い。
そして徹甲弾入りとはいえ7.7mm機関銃では威力はたかが知れている。
今回のタランチュラのような装甲をガッチガチに固めた敵には太刀打ちできないだろう。
そうなると人形達はどうしようも無くなる。
やはり火力と装弾数のある機体を生産するしかないだろう。
「ふぁ…作戦成功」
…まぁ良い。
今は押し寄せる眠気と戦いつつ回収班が到着するまで彼女らを見守るだけだ。
○○○
…数時間後。
調査班の到着と部隊の回収を見守っていたら、いつの間にか夜明けとなっていた。
発電機用のバイオ燃料もギリギリだ。
なるべくモーターの出力を絞り、何とか巣へ戻る事が出来た。
鷲峰島へと帰還して早速、工場長に月光の武装強化を要望してみた。
するとやる気満々な彼らは俺が昼寝している間に換装を終えてしまった。
機首武装は20mm機関砲2門と37mm機関砲1門となり、銃座は12.7mm連装機関銃へと進化した。
多少の性能低下は致し方ないが、本格夜戦が完成するまで月光は存分に働いてくれるだろう。
電光欲しいな。
十三試双発戦闘機の名称を天雷だとする説もありますが、当小説ではその後の発展系もあり月光という扱いとしています。
あらかじめご了承ください。
では、来年もよろしくお願いします。