ワールドリワインド   作:恒例行事

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地獄へ⑥

 二十一

 

 基地を襲撃してきたトリガー使いは、結局全員で五人。どうやら隠密に特化した連中で基地の探索装置を潜り抜けて侵入してきたらしい。

 

 一人は俺たちのいた食堂に、指揮官室に二人、訓練中の正規兵に喧嘩売ったアホが一人、住み込みしてる区域に侵入したのが一人。

 

 指揮官室の二人は指揮官にズタボロにされて捕虜になってた。この世界って戦えないと指揮官役になれないっぽいな、覚えとこう。

 

 訓練中の正規兵に喧嘩売った奴は……うん。五人くらいに囲まれてボコボコにされてた。馬鹿じゃないかな。

 

 住み込みしてる地区に侵入した奴は、ただの掃除の業者の持っていたこれまたクソ効率の悪い護身用トリガーで刺されてトリオン体解除されて囲まれてボコられてた。

 

 なんか俺らのとこに来た奴だけ殺意高くねぇか……?

 

 そして俺が殺した奴を除いて四人が捕虜として捕らえられた。捕まえられても自殺しないってのは、味方が助けに来てくれるって信頼があるからなのか単純に自殺するっていう方法を思いつかないのかどっちだ。

 

 そして敵を捕まえたことで、救助する為に大規模な攻略が行われる可能性が高くなった。指揮官直々に防衛の指揮を執り万全の体制で構えるらしい。

 

 俺たち三人は遊撃、向かう場所は通信設備で案内してくれるらしい。無線みたいな何かを持たされた。風呂ないのに無線はあるんだな。

 

 試しにボタン色々弄ってめっちゃシェイクしたり叩きつけたりしたけど全然壊れない。これすげぇな、俺にこんくらいの耐久力ある腕当てとかくれない?

 

『喧しいからやめなさい!』

 

 通信先の人に怒られた、正直申し訳ないと思ってるが反省はしてない。いやほら、これまでの経験上ね?色々試さないといけないかなーって思ったんだよ。

 

「急にトチ狂ったのかと思ったよ」

「何か不安な事があるなら相談してくださいね!」

 

 やめろお前ら、確かに色々狂ってるけどそういう意味ではまだ狂ってないから。不安な事しか無いが――ああいや、不安な事なんて無いさ。安心しろよ。

 

 

 

 

 

 

「はー、さっぱりしましたー」

 

 風呂上がりの少女がほかほか湯気を発しながら部屋に入ってくる。中々ここでの生活にも馴染んできたかもしれない。

 

 しかし困ったな、レーダーの仕組みは知らないがレーダーをすり抜けて来るって言う技術が敵に存在してるのはマズイ。また夜の間に基地が侵略されてお陀仏とかありそうだ。

 

 そうなると嫌だなー、これから先ずっとそんな逃亡を繰り返して繰り返してじゃいつまで経っても進めやしない。ここで攻撃に出るべきか?

 

 けど焦っても仕方ない、くそ。焦れったいな。

 

「あれ?髪の毛に白髪混じってますよ。抜きますか?」

 

 俺はまだそんな歳じゃねぇ!まぁいいや、抜いてくれ。こう、根元からな。プチっと千切るんじゃなく、根元からするっと。

 

「はい!」

 

 ブチっ!

 

 この野郎……てへっと苦笑いで逃げようとする空腹少女を捕まえて、アイアンクローで頭を握りしめる。

 

 あがががうごごごと悶えながらギブアップする空腹少女にアイアンクローをかけ続け、この後どうするべきかを考える。ちゃんと考えるべきか?アレクセイと少女に話を通すべきか?

 

 俺はちゃんと話すべきだと思う。この死に戻りという謎現象は置いといて、俺の将来的な目的を。

 

 そうだな、信用して話すべきだ。二人は仲間なんだから。

 

 

 

 

 

 

「正直君が元いた場所に帰りたいと思っているのは知ってた」

「まぁ私も」

 

 なん……だと……?

 

「普通元の国に帰る方法を聞いて、あるって答えてあんな笑顔になってたら気付くさ」

「何となくわかります!」

 

 アレクセイはともかく空腹少女の理由が納得いかない。いや逆に納得行くけど。

 

「ふっ、気にするな。私は仮にもこの国の正規兵だが、生きる為に死に物狂いで努力した結果さ。それに今は君達の国に興味がある」

 

 こいつ風呂と食い物に釣られやがった……食事は実際大切だけどな。日々のストレスってのは食事や運動によって解消するものだ。特に戦場っていう状況下に置かれている生身の人間とかは無意識にストレスが溜まる。俺みたいにある程度特殊な事例だと少し違うかもしれないが。

 

 にしてもそうか。とっくにこいつらは気が付いてたんだな。気が付いた上で、触れようとせず邪魔をしないようにしてきたのか。

 

 生きる為に利用して、何度も死なせた俺を――こいつらは。

 

 そうか……そうか。

 

「……君、そんな表情も出来るんだな」

 

 あ?なんだそれ、そんな変な顔してたか。そう思って頬を掌でぐにぐに触るが特になにもわからない。そりゃそうだ。

 

「……ふっ、ははは」

「……ふふっ、あははは!」

 

 おいおいなに笑ってんだ、全くよくわかんねぇ奴らだな。そう困惑する内心とは裏腹に、何故だかいつもより頭はスッキリしていた。二人の笑いのツボはわからないが――いつもより安心して寝れる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅあぁ……そろそろ寝ます」

 

 おう、お休み。いつも通りの時間に欠伸をしながら寝床に向かう空腹少女を見送りつつアレクセイが持ってきた謎の飲み物に手をつける。

 

 湯気が立ってるからある程度熱いはずだけど正直どうでもいいので一口で行く。ぐいーっと口に入れ喉を通す。

 

「……毎度思うが君の口の中はどうなってるんだ?」

 

 味がしないし熱さも感じないし、まぁ魔境?少なくとも人間が普通に生きてたら味わえない感覚だとおもうよ。感覚ないけど。ふーっふーっと息を吹いてから飲み物を口にするアレクセイ。なんかちょっとした動作の一つ一つが割と丁寧なんだよな。

 

「うん?ああ、私は正規兵になる時にある程度教育を受けたからな。この国は体裁も気にするんだ。上に立つものの振る舞い、というものかな」

 

 その割には奴隷兵士にパシられたりしてますけど。

 

「あれはノーカン」

 

 真顔でそう言い切られると俺も何も言えないわ。それでいいのか正規兵。片手で通信機をゆらゆら揺らして遊びながら、先程二人と話した内容を思い返す。

 

 敵襲があるとすれば、夜。それが結論だった。レーダーをすり抜ける手段があって、尚且つそれを一番活かせるとすれば視界が良くない夜になるだろう。それぞれローテーションを組んで夜待機して襲撃に備える。

 

 空腹少女の寝床――というか同じ部屋で寝てるので最初の基地の様な事にはならない。部屋を一つに纏めてあるので前回の様に助けに行く手間もない。まぁ空腹少女には悪い気がするが、少女自身は気にしないと言っているからそのやさしさに甘えた。

 

 いつか敵がやってくるのをわかってるので、心境的に楽だ。突如敵が来るよりかは対応しやすいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たわ、居住地区にトリオン兵が出現。数は大体――二十くらい』

 

 

 通信機から聞こえてきたその声に反応する。アレクセイは仮眠を取っている為、この知らせを聞いたのは俺しかいない。仮眠してるアレクセイをペシペシ叩いて起こして、爆睡かましてる空腹少女を起こす。

 

「む……ああ、来たのか」

 

 居住地区だってよ。俺たちの出番があるか知らないけど、取り敢えず起こしとくぞ。

 

「ああ。いつ新手が来るかはわからないからな」

「ふ……あぁぁ」

 

 お、起きたな。

 

『三人の居る場所に反応が向かってるわ!注意して!』

 

 噂をすればなんとやら――流石の空腹少女も意識を覚醒させて戦う気満々である。こうなると心強

 

 

 

 

 

 

 

 

 二十二

 

『三人の居る場所に敵が向かってるわ!注意して!』

 

 チッ、部屋ごととかいくら何でも大雑把すぎるだろ。遠距離から、っていうか敵は囮だなこりゃ。本命はさっきの砲撃。

 

 取り敢えず二人を抱えて窓から飛び出す。射程がどれくらいまであるかは分からないが、逃げる。それを知る為ともいうのだが。飛んできた砲撃が部屋を破壊する。うお、建物ぐしゃぐしゃじゃねぇか。

 

 着地――くそ、マジk

 

 

 

 

 

 

 

 

 二十三

 

『三人の居る場所に反応が向かってるわ!注意して!』

 

 窓から飛び降りた先にトリオン兵が出待ちしてた。あークソ、これ抱えて出れねぇな。二人に窓から外に出るよう伝えて俺が先に出る。

 

 窓に足をかけて、さっきトリオン兵が居た場所へ跳ぶ。砲撃を準備しているけどもう遅い。発射される瞬間に腕を大きく振ることで軌道を変えて回避する。一体しかいなかったから一撃で終わった。アレクセイと空腹少女も普通に着地したようだ。

 

『三人はとりあえず、居住区に居る敵を片っ端から倒してって』

 

 無線がそう伝えてきたので、アレクセイと空腹少女に伝える。また戦ったことのないタイプが敵に居るな。あんだけの砲撃をバスバス撃たれちゃ溜まったもんじゃない――だからどうした。近づいて殺す。

 

「さっきの砲撃がどこから飛んできたかは流石に分からないな……わかるか?」

「すみません、わかんないです。……あ、でも方向だけならわかりますよ」

 

 そう言って空腹少女が指さす方向には、軍司令部がある。オイオイマジかよ、もう手遅れって事か?いや、まだ焦る状況じゃないな。無線は飛んできたし、全滅はしてない筈だ。なら、先に軍司令部の援護に行くのがいいか。

 

「そうだな。私もそれでいいと思う。居住区は何だかんだ言って正規兵が何人もいるからそこまで心配はしなくていいだろう。司令塔を崩されるともう撤退しか選択肢がなくなるからな」

 

 アレクセイがそう言うなら、この選択で間違ってないんだな。よし、それじゃあ司令部に向かうか。

 

 

 

 

 


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