ワールドリワインド   作:恒例行事

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地獄へ⑧

 二十九

 

 防衛任務が無い時は、ひたすら剣を振る。鋭く、速く、そして正確に。寸分違わず狙いすました箇所を斬る緻密さ――一瞬の勝負に於いて無駄になる物はない。そう俺は思っている。

 

 中には初見で意味不明な動きもする天才とかもいたりするけど、そういう例外を除いて全てを左右するのは経験だと思う。初見殺しの攻撃を、既に知っていたら――それほど強いモノは無い。

 

 既に二週間はそうして過ごしている。トリオンは相変わらず増える気配は無いが、日々の鍛錬の中で少しずつだが自分が成長しているのが分かる。アレクセイと戦って勝てるようになってきたし、空腹少女にも喰らいつける様になった。……いや、おかしくない?空腹少女軍属じゃないよな?奴隷兵士だよな?

 

 

「ここかなーって感じがしたら身体が動きます!」

 

 

 この子やべぇな、勝てる気がしねぇや。逆にこれだけ心強い存在が居ることに感謝するべきだな。

 

「もっと早くこの子が居ればこの国はもう少し前線が安定していたかもしれないな……」

 

 まぁトリオン無いから少ししか戦えないバッドステータス、てか全てにおいて弱点過ぎるだろ。避けて避けてじゃ殺し合いには勝てないからな、相手を明確に殺害する手段が必要だし。

 

 結局あれ以来トリガー使いとは戦ってないから、自分がどれくらい戦えるようになったかというのはこの模擬戦でしか分からない。流石に普段の防衛任務でミスるような動きはしないけど、たまに頭痛が酷くて全然思うように動けないってときはある。

 

 そういう時は二人がカバーしてくれるから正直助かる。……やっぱ一人じゃ限界あるなぁ。

 

 痛覚は少ないのに頭痛は異常に感じるから余計イライラする。どうせなら全部の痛みが少なく感じるようになりゃいいのにな……。

 

 んな事はどうでもいい、切り替えろ。

 

 これまで何度も死んだり殺したりしてきたが、一番の問題として一番重要なのはやはり機動力。今は周りが森だったり建物があったりとかで割と戦いやすいが、最初の頃みたいに荒野で足場を作れないとかそういう状況だと本当に厳しい。

 

 即興で地面を蹴り上げて足場にしたりとか、そういう技は少し扱えるが……一番は空中で更にジャンプする技術だな。これが出来れば戦闘が本当に楽になるんだけどな。

 

 流石に空腹少女も無理だろうな。これは純粋に身体能力の問題だから、アレクセイなら出来るかも?

 

「む、空中でジャンプ? トリオン体ならできなくも、ないかもしれないが……君は何を目指してるんだ?」

 

 ただ必死なだけだよ。文字通り、な。

 

 

 

 

 

 

 

 身体が浮遊感に包まれている。ここはどこなんだろうか、またよくわからない内に死んだのだろうか。

 

 一先ず死ぬか――そう考えて常に腰に差していた剣を手に取ろうとしたが、何故か存在しない。いや、そもそも手が動く感覚が存在しない。どういうことだ――そう思ったその時、唐突に視界が暗闇に包まれた。くそ、どこだここ。状況がさっぱり読めない。

 

 

 ――■。

 

 

 うん?何だ、何かが聞こえたがする。

 

 

 ――(■■■)

 

 

 ……何だ?ノイズがかってるから聞き取れない。ただ、どこか懐かしい声だな――そう思う。

 

 

 ――■……■って■ね。絶■■■けるから。

 

 

 何だ、何て言ってるんだ――そう答えようとして、声が出ないことに気が付いた。クソ、何だ、何を伝えたいんだ!俺に何を、一体おまえは誰なんだ。

 

 そう心の中で思ったとき、唐突に腹部に衝撃が来て――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 ――

 ―

 

「あ、やっと起きましたね!」

「いや、明らかに魘されてたと思うんだが」

 

 目が覚める。何だこの腹の圧迫感、まるで人一人が乗っているかのような――いや乗ってんじゃねぇか。目を開けると横になっている俺の腹部に空腹少女が馬乗りしていた。そりゃ息苦しいわ。

 

「え、なんでしょ――あだだだだッ!!!」

 

 取り敢えず空腹少女の頭を掴み、握りしめる。この野郎、よくも快眠の邪魔してくれやがったな……!ま、そうは言ってもかなり眠れた方だ。寝る時に何度も自分の死ぬ映像を見てきたが、見なかったのは今日が初めてになる。

 

 そう思った途端変な声に呼ばれる始末――全く、どうにも神様ってのは俺の事が嫌いらしい。寝る時くらい休ませてほしい。

 

「ふっ、まぁそのくらいにしてやれ。こう見えて彼女、結構心配してたんだぞ?」

「あっ、ちょっと何言ってるんですか!」

 

 本当君達仲いいな――響子もこんな感じだったか。ああうん、そうだったな。

 

 すまん、ありがとうな。心配かけた。

 

「……いえ、いいんですよ!」

「気にするな、私たちの仲だろう?――所で、一体どんな夢を見ていたんだ?普通じゃない魘され方だったぞ」

 

 ああ、うーん……夢って言うのかな。誰かが、俺を呼んでた気がするんだ。遠い所から、誰かがさ。

 

「そうか。……いつか、はっきりするといいな」

 

 ああ、そうだな。いつか、いつかな。俺が地球に帰って、響子に会って、そのあとまた考えよう。

 

「とりあえずご飯にしましょうご飯!」

「君は相変わらずそればっかりだな」

「いいじゃないですか! お腹空くんですから、食べないと死んじゃいますよ!」

 

 ……そうだな。食事に、しようか。俺も何時か、また味わえるのかな。うん、いつかは味わえるだろう。なんてったって、俺に終わりは訪れないのだから。何時の日にか、また味わえる。

 

 

 

「ああ、そうだ。あと一ヵ月もすれば大々的な制圧作戦が実行されるそうだ」

 

 えっなんだその情報。はじめて聞いたぞ。チラッと空腹少女の様子を窺ってみたが、我関せずと言わんばかりに飯を頬張ってた。少しは話聞けや。

 

ふぇ~、ほうはんでふね(へー、そうなんですね)

「飲み込んでから喋りなさい。……んんっ、それでその制圧作戦だが。この基地と、もう一つの基地を中心に攻め込む――まぁつまり前私たちが居た前線まで押し返して、強固な要塞を建て直すらしい。正直やっつけ工事だったのは流石の本部でも理解してるらしく、今度こそはと意気込んでるよ」

 

 最初からそうして欲しかった――そう呟くアレクセイの表情は心なしか暗かった。……そうだよな。こいつの部隊はもう。

 

「ああいや、すまないな。食事の場で持ち出す話じゃなかったか」

 

 いや、気にするな。俺もたまにめっちゃ暗い顔するときとかあるしな。

 

「おかわりください!」

「……ふっ、そうだな。よし大盛りでいいか?」

 

 はい!と元気な声で返事をする空腹少女を見て苦笑しながら取りに行くアレクセイ。相変わらずこいつには弱いな……アレクセイの過去は知らない。けど、何かあったんだろうな。どこか彼女に弱いのは、そういう事なんだろうか。

 

 踏み込むべきじゃない、アイツが自分から近寄ってくるまでは。俺の事を理解してくれて、邪魔をしないように助けてくれた二人なんだ。少しは信用しろ。

 

 

 

「で、だ。その制圧作戦は私達も駆り出されるらしい」

 

 アレクセイは兎も角、ミソッカス奴隷兵士に頼るとかマジ?やっぱこの国クソだわ。

 

「戦果を挙げたものには褒賞を約束するだとさ。本部の事だ、どうせ適当な余り物を寄越すつもりだろう」

 

 よし、やろうか。褒賞を与えるって事は、どんな形にしろその存在を認知するという事だ。つまり、ただの奴隷兵士という認識から多少は戦える奴隷兵士という印象に変わる。

 

 それは好都合だ。どちらにせよこの国で実力を高めなければならない、非常に忌々しい事だが。

 

「君ならそう言うと思ってたよ。……トリオン体すら無いのに戦いたがるのは君達くらいだ」

 

 もしゃもしゃ飯を喰らい続ける空腹少女(満たしてる途中)と俺を見ながらそう言うアレクセイ。いや、俺はともかくこの子はあれじゃん。戦いのセンスがね?

 

「……! ……?」

 

 いやそんな顔されても……飯くらいゆっくり食べな。ああほら口元にガッツリついてんじゃねぇか汚れがよぉ!仕方ないからナプキン的な布で拭う。お前は子供か……ああうん、少なくともこの中で一番子供だな。

 

「むぐぅうぐぐ」

 

 呻いてんじゃねぇ!余計広がるだろ!黙って拭かれとけ。

 

「……続けばいいな」

 

 ふとアレクセイが漏らした一言を聞き取る。……そうだな。誰も欠ける事なんてないさ。俺がいるんだから。

 

 それに、ただ続くだけじゃない。俺たち三人で、地球に帰るんだろ?

 

「……ふっ、そうだったな。ああ、まだ君に『ふろ』とやらの詳細を聞いてない。あと『ぱふぇ』という食べ物もな」

 

 まだまだやりたいこともやるべき事も残ってる――そうだ。まだこの程度でくたばる訳にはいかない。

 

「ご馳走様でした! パフェは美味しいですよ!」

「新手の煽りか? ふむ、良いだろう受けて立つ」

 

 おいやめろ、お前大人気ないぞ。

 

「男には引けない場所がある……!」

 

 こんな所で意地張ってんじゃねぇ!お前もだ腹ペコ!煽るな!全くお前ら……

 

 そんな喧騒の中で食べる飯は、いつも通り味はなかったけれど――不快な感覚はしなかった。

 

 

 

 

 


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