ワールドリワインド   作:恒例行事

2 / 79
始まり①

 ――目が覚める。

 

 ガバっと起き上がり周りを見渡しても、独房に入れられてるようで何もない。視界すら満足に見えない程の暗闇に包まれている為、響子がどうなったのかすらわからない。

 

 音も何もない空間に一人――いや、周りに本当は人がいるのかもしれないが、暗くて見えない。

 

 俺の心にあるのはただ一つ――響子は無事なのか、そうじゃないのか。

 

 ここで一度自殺をしてみるべきか?いや、上手くいったかもしれない。ここで巻き戻すともう一度やり直す事になる――いや、もう一度やるべきだ。

 

 その場で舌を噛み切り自殺するために出血する。激痛に身を悶えもがくが周りが動く気配はない――つまりそう言う事だ。

 

 次第に意識が薄れ――意識を失った。

 

 

 

 ―――

 ――

 ―

 

 

 ――目が覚める。

 

 体を動かす事なく、周りを見渡すために目を開ける。

 

 そこにあったのは闇。只々闇としか形容しようのないほどの暗闇。

 

 成る程、ここが次の巻き戻しポイントになるらしい。響子は助かったのだろうか?だが確かめたくても確かめられない。死んでも巻き戻らないというのは思ったより心に来る。

 

「ああ、くそ、何で……」

 

 言葉が漏れる。心の奥底で思っていた言葉は、何の抵抗もなくするすると口から出てきた。

 

 俺は彼女を守ると誓ったのに――◼︎◼︎響子を。

 

 

 絶望に包まれて、心が折れそうになりながら――冬の寒さに耐える雑草のように、ゆっくりと意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

「三十五番、起きろ」

 

 前回とは違い、響子の声じゃない目覚めの声――不愉快だ、消え失せろ。そう思いつつ目を開けると独房の前に三人の男が立っていた。

 

「貴様らはトリオンが最低限しか無い落ちこぼれだ。戦場じゃ役に立たない――だが、素手で戦場に送り込むつもりもない。あとで武器を支給してやる。有り難く思えよ」

 

 こっちの意見など無視して一方的に言葉を紡ぐ男に思うところはあったがそれはそれ。こっちは攫われてきた言わば奴隷、そんな存在に一々丁寧に説明する奴がいるのだろうか。

 

 だが、さっきの自殺で既に分かったことがいくつかある。

 

 一つは確実にこちらの命をどうでもいいと思っていること。

 

 暗闇の中薄れゆく意識で、音だけは何とか聞こうとした。だが、決してどこかから慌てるような音や動く音は聞こえなかった。

 

 仮に監視しているなら、様子を見にきたり何かしらのアクションがあるはずだ。それすらないと言う事は、こちらの命をどうでもいい正しく奴隷だと思っているのだろう。

 

 もう一つは、他にも攫われた人間が居るという事。

 

 この偉そうな奴の口ぶりから察するに、三十五番と言うのは俺の事。そして三十五番という数字が上からか下からかは如何でもいいが、三十五番という数字をつけるくらいには人がいるという事。

 

 そして、言語が通じる事。

 

 脳に細工でもされたのか、それともたまたまかは知らないが――どうしてか日本語が通じる。英語でもない日本語が、だ。

 

 薄暗いので相手の顔は見えないが、カタコトな様子はない。つまり日常的に使用しても支障の出ないほどに言語に慣れている事。

 

 魔法かなんかを使って翻訳してるならまだしも、あんな非科学的な機械か生物かも分からない変なのを使ってきてるんだしもう訳がわからん。

 

「明日、お前には戦場に出て貰う。精々壁になって死ね」

 

 ここまで清々しいといっそ感動すら覚える。奴隷という扱いを完全に理解して行動している。

 

 そう言って出ていく偉そうな男と付き人の兵士を見送って、俺は再度自殺した。

 

 

 

 

 

 

 

「三十五番、起きろ」

 

 前回との変更点――いきなりこの偉そうな男と会話していること。どうやら何らかのタイミングの後に更新されるようだ。

 

 この状況的に言えば、【絶対に覆せない物】を通り過ぎた後だろうか。

 

 諦めたくは無いが、響子を助けるのはアレがベストだったのだろう。いや、そう思わないと生きていけない(・・・・・・・)。頭がおかしくなりそうだ。何度も死んだのに覆せなかったなんて――耐えられない。

 

「ああ、そうだ。大丈夫、アレが最善なんだ、これ以上は無かった。しょうがない、違う大丈夫、これしかなかった。これ以上の終わりは無い、俺は生きてるしあいつも恐らく助かった、な?アンタもそう思うだろ?」

「……大尉、これは……」

「壊れて使い物にならんか。殺せ――ああいや、待て。せめて肉壁にはなってもらう。今から送り込むぞ」

 

 ああ、そうだ。だから許してくれ。分かってくれ。生きててくれ。俺が俺で有る為に、どうか弱い俺に生きる理由で居てくれ。

 

「転送しろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい新入り! いつまで寝てやがんだ!」

 

 怒号で意識が覚醒する。ああ、クソ、どこだここはお前は誰だ響子はどこだ無事なのか今すぐ帰らせろいや帰るぞ死んでやる。

 

「――おい、お前頭おかしいんじゃないのか…?」

 

 止めるな、死なせろ。そこらへんに落ちてる木材でも目から本気で貫通させれば脳味噌はぶち抜けたし、頭蓋骨も貫通できた。人間意外とやろうと思えばできるものだ。

 

「誰か! そこの馬鹿ども! 手伝え!」

 

 近寄るななんだお前ら俺は響子に会いに行くんだどけよクソ野郎お前らは呼んでない必要じゃない俺が求めるのは■■響子だけだ。

 

「クソっ、押さえつけろ! すげぇ力で自殺しようとしやがる!」

 

 うるせぇ、死んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい新入り! いつまで寝てやがんだ!」

 

 ――はぁ、取り乱した。死にたくなってくる。

 

 この死に戻りに目覚めてから度々混乱してしまう。これも恐らく、心の何処かで否定している自分がいるからなんだろう。

 

 大丈夫、響子は死んでない。天下の自衛隊だ。守ってくれる。それよりも、どうやって再会できるかを考えよう。

 

「聞いてるのか!!」

「うるせぇな、聞いてるわボケ」

 

 ああイライラする。お前らなんぞどうでもいい、俺は響子に会いたい。こんなどこの国のどんな奴なのかも知らない奴の声を聞き続けるより、響子の声が聴きたい。

 

「貴様、奴隷兵の分際で……!!」

 

 そう言って腰に携えていた剣を振りかざしてくる。オイオイ死んだわ俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい新入り! いつまで寝てやがんだ!」

 

普通に人の事殺すんだな。まぁこれではっきりした。確実にここは正常な世界じゃないってことが。

 

「俺はお前らゴミムシ以下の存在を押し付けられた憐れな士官だ。お前らには何の期待もしていない、さっさと盾になって道を作って死んで来い」

 

お前らという言葉に反応し周りを見渡すと、確かに日本人の――と言うより、アジア系と言った方がいいのだろうか。確実に俺の同類の様な奴らが死んだ目をして佇んでいる。

 

三十人ほどだろうか、それだけの数の男女が呆然としている姿は流石に恐怖する。

 

「む? 何だ貴様、武器も持ってないのか。仕方ないな……ほら、これをやるから適当に突っ込んで死んで来い」

 

其処ら辺に立てかけてあった剣を渡される。マジ?そこらへんにあったもの適当に渡すのは流石に予想外。

 

「ふん、精々壁になってこい」

 

光があたりを包む―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――過剰なほどに与えられた浮遊感と、それに伴う不愉快な感覚でゲロを撒き散らしながら光から覚める。

 

「援軍……いや、奴隷兵士か」

 

ゲロを吐きながら声の主の方を見ると、そこに居たのは騎士の様な鎧が立っていた。

 

「ちょうどいい。ここから南東に50キロ進んだところで友軍が交戦中だ。行ってこい」

「……歩いて?」

 

「そうだ。お前たちに何度もワープを使うのは勿体無い」

 

 

……は、はは。どうやら、覚悟はしてたけど甘かったらしい。

 

本気で人間だとみていない。奴隷は奴隷だと割り切っている。

 

生きてても死んでても変わらない――人間以下の何か。それが俺たちの価値なんだろう。

 

 

「……行こう」

 

 

歩き出す。ともに送られてきた仲間が付いてくるかは知らないが、とにかく進む。もう元には戻れない、幸せだったあの頃は帰ってこない。

 

ならば、もう一度取り戻す。

 

響子は助かり、俺は生きて地球へ帰る。

 

死んでも元に戻るのだ。何度繰り返すことになっても――必ず会って見せる。

 

それが、沢村響子に救われた星見廻の使命なのだから。

 

 

――長い戦いが、始まった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。