ワールドリワインド   作:恒例行事

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犠牲④

 七十六

 

 目を開け、状況を整理する。夜だった筈だが外は明るいし、俺は寝っ転がっている。

 

 何があったんだっけ、どうにも思い出せない。こんな最近の事すら思い出せないとか、いよいよ限界だな。

 

「あ、おはようございます」

 

 おはよう。でもなんだか久しぶりによく寝た気がする。

 

 ゆっくりと身を起こし、身体の感覚を確かめる。うん、問題ない。

 

 いつも通りする頭痛は放置して、目的地までどれくらいか確認する。大体あと一時間程度で着くみたいだな。

 

「おはよう、一気飲みしてぶっ倒れるとは正直思ってなかったよ」

 

 大丈夫、俺もそんな事思ってなかった。てか普通そんな度数あるとは思わねーだろ。

 

 凝り固まった身体をほぐすために、ゆっくりと柔軟をする。身体を前に倒し、背中と足を延ばす。

 

 自分の身体からポキポキボキ言ってるのを聞きながら、ゆったりと動く。別に今は急いでも仕方ないからな、休める時にしっかり休むのが大事だ。

 

 常に気を張って、神経を使っているといざという時に困る。集中力が切れたり、ふとした瞬間に手遅れになる。それだけは避けなければいけない。

 

「手伝いますよ!」

 

 お、ありがとう。身体を前に倒す俺の背後から更に背中を押す。グンッ!と押され完全に地面と俺の身体が水平になった。いや勢いあり過ぎじゃない?殺す気でしょこれ。

 

 明らかになってはいけない音を発生させた俺の背中を心配しつつ、少女に抗議するような目線を向ける。

 

 目を思い切り逸らしながら、真っ直ぐ立って後ろに手を回してもじもじしながら答える。

 

「あ、えーと、そのー……だ、大丈夫ですよ!」

 

 根拠が無ぇ!鬼だ、鬼がいるぞ。

 

「君達を見ていると退屈しないな」

 

 そこ、茶化してんじゃねぇ。割とマジで背中が心配なんだが?

 

 

 

 

 

 

 

 わちゃわちゃしながらも時間は進み、基地に到着した。手続等はアレクセイが既にしてくれていたらしく、するする拠点に入れた。

 

 指定の駐車場で乗物から降りて思いっきり伸びをする。ふう、やっぱり窮屈な体勢より広い空間で運動したほうがいいな。

 

「同じ姿勢でいると疲れますからねー。と言うわけであとはお願いします」

 

 はいどーぞと言いながら腕を広げる少女をシカトしつつ、これからの日程について考える。

 

 そもそも俺たちが移動している理由は応援だ。純粋に前線で戦う人間が足りない。黒トリガーに正規兵が殺され過ぎて、前線が崩壊しつつある。

 

 何故そこでトリオン体にすらなれない俺たちを招集したのか、全く理解に苦しむね。黒トリガー使い呼べよ。前線どうにでもなるだろそうすれば。

 

ほら、まだチャンスあるかもしれないだろ。元気を出せ。……さて、取り敢えずどうするか。私達の役割としては基本的に遊撃になるからな」

 

 仲間の顔くらいは覚えておいても損はない――と言うより、覚えておかないといけないだろう。腕を広げたまま動かない少女に声をかけるアレクセイがそう言う。

 

 悲しそうな顔で固まる少女がいつまでも動かないので、仕方なく頭に手を置く。手を置いてわしゃわしゃ動かして髪の毛を静電気で立たせる。よかったな、これでお前も電撃使いだ。

 

「こうじゃない……! 私が望んだのはこんなのじゃ……!」

 

 おうめっちゃシリアスに言うのやめろよ。髪を無言で元に戻す少女を尻目に役割を考える。

 

 そうか、また遊撃か。まぁこんなピーキーな連中勝手に動けとしか言いようがないよな。黒トリガー相手……か。嫌だなぁ。

 

「……仕方ないさ。それが私達の役割だからな。大丈夫だ、いざとなれば逃げればいい」

 

 黒トリガー使いだって最強ではあるが無敵ではない――つまりそう言う事だ。正面から戦ってダメなら、裏を掻けばいい。絡め手をどんどん使い、消耗させて消耗させて殺せるタイミングで殺す。

 

 遊撃と言うポジションなんだ。正面からかち合う奴らと違い、圧倒的に先手を取れる。それを活かせ。そうしなければ死ぬのはこっちだ。

 

 どれだけ相手の嫌な事を出来るかどうかにかかっている。これまでと同様――いや、これまでよりも数段以上格上だ。いつもと同じ動きをしていては詰まされる。そういう領域だと考えろ。

 

 考えることは沢山ある。せめて黒トリガーの詳細を知れればいいんだがな。

 

 対策をする。徹底的に不自由に戦わせる必要がある。地形を把握し、味方の能力を把握し、何が出来て何が出来ないのか。黒トリガー使いだって元は人間、手足を切断し首を断ち切ってしまえば活動は難しいだろう。

 

 そうと決まれば行動は早い方がいい。周囲の地形と、味方の総戦力の把握。

 

 資料とかで確認できればいいが、現状そんな便利な物を見た記憶は無いので一人一人聞いて行く。相変わらずの非効率さだが、そこはもう慣れるしかない。

 

 一先ずやることを整理して、三人で纏めよう。俺だけでどうにか出来る規模ではない。使えるものを全て利用し、三人で生き残る。

 

「ここのご飯は美味しいんですかね? ここまで大きいのは久しぶりなんですけど」

「少なくとも不味い事はないだろう。あの謎デザートはよくわからんが」

 

 いつも通りの会話を交わす二人を見て安心しつつ、俺も会話に混じる。その謎デザート俺はよくわかんないけどな。

 

 大丈夫、なんとかなる。いざとなれば、他を犠牲にすればいい(・・・・・・・・・・)。大事なのは三人で生き残る事だ。

 

 他は切り捨てる覚悟を持て。全てを救おうなんて、自分の命ひとつ守れない男が出来るわけがない。心に刻むのはただ一つ(・・・・)、二人と一緒に帰る事だ。

 

 履き違えるな、間違えるな。ビキリと頭にヒビが入ったのかと勘違いする程の痛みが襲ってくるが、いつもより少し痛いだけなので無視する。

 

 俺が求めるのは――■■だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通り熱くも冷たくもない液体を身体全身に浴びながら、汚れを落とす。流石に車の中で身体を洗う訳にはいかないから、移動している最中は必然的に汚れる。

 

 流石に夜の森を歩き回ったあの時よりは汚れてないが、鼻の利かない俺はともかく少女やアレクセイは大変だろうな。

 

 汚れを落とし、自分の身体を見る。記憶にあまり残っていないが、少なくとも攫われる前よりは筋肉が付いたんじゃないだろうか。

 

 筋肉が増えたというより、身体が引き締まった――悪く言えば痩せた。

 

 ……栄養は取ってるはずなんだがな。少しずつ身体に変化が起きているのを自覚するのは、分かってても辛い。

 

 自分がどんどん人から外れていく――いい気分にはならない。

 

 駄目だな、一人になるとすぐこれだ。切り替えろ。大丈夫、未来を考えろ。

 

 未来を考える。本当に考える暇があるのか?脅威は目の前にあるんだぞ。そんな悠長にしていられるのか?

 

 そうやってまた繰り返すのか――切り替えろ。

 

 大丈夫、大丈夫だ。しっかり計算すれば大丈夫。失わない。死なない。大丈夫。平気だ。

 

 流れてくる水を止め、身体を布で拭き水分を取る。付いてても付いてなくても差は無いが、敢えて言うならばそういうものだから。

 

 未来で風呂に入るときに、俺が身体を拭きとらなかったらみっともない。だから忘れないように習慣付けている。

 

 下着を着て、アレクセイが押し付けてきたパーカーを羽織る。白い生地に軽く入ってる黒い線が特徴のごく普通のパーカー。こんなものが普通に存在してるなら軍隊の服装とかもっとちゃんと決めればいいのに。

 

 ズボンも普通のジーンズにそっくりな何か――まぁジーンズでいいだろう。

 

 そしていつも通り剣を腰にぶら下げて準備完了。うん、やっぱりこいつがないとしっくりこない。なんていうか、不安というか。気が付けば周りを警戒しながら歩いてしまう。

 

 シャワー室を出て、真っ直ぐまずは食堂へ向かう。

 

 どうせいつも通り飯を食べてるんだろうし、ゆっくり向かう。取り敢えず今この基地に駐在している正規兵の情報はある程度聞いた。まだ知れてない奴も多いけど、そこはアレクセイに任せた。元々あいつの方が顔広いしな。

 

 射撃型の正規兵が多めに駐在している。基地の防衛という性質上斬りこむ近接より遠距離で戦うことが可能なのを取ったのだろう。

 

 今回はそれが助かる。黒トリガーの詳細が分からない以上、不用意に近づいてはい死にましたじゃ話にならない。遠距離から時間を稼いで、じわりじわりと消耗戦にしなければならない。

 

 現状分かってる情報は味方が全滅させられているという情報だけで他には何もない。そこがまた困ったところだが――まぁいい。嫌でもわかる様になると思う。

 

 基地の運営体制は、五人態勢で三時間に一回見張りを交代しているらしい。そこに文句をつけるつもりは一切無いが、どうにか黒トリガー相手に先手を打ちたい。

 

 せめて近接か遠距離かどっちもか――それを知りたい。そうなれば色々対抗策を練れる。

 

 

「あ、もう上がったんですか?」

 

 

 通路を歩いている途中、少女とバッタリ遭遇した。珍しい……事も無いか。広いとは言え同じ施設内だしな。これから飯か?

 

「はい。一緒にどうですか?」

 

 勿論一緒に行くさ。俺の楽しみの一つなんだし、奪わないでくれよ。

 

 にぱっと笑顔を見せて歩く少女を見て、ズキリと痛む頭を無視しつつ一緒に歩く。

 

 

 ……ま、飯の間くらいは考えなくてもいいだろう。平和な時間は、しっかりと味わっておかないと。忘れないように。

 

 

 いつか平和な時間が来て、それが普通になるのだから。

 

 

 

 

 

 


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