ワールドリワインド   作:恒例行事

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犠牲⑦

七十七

 

振りかぶった剣の先を見る。

 

黒い髪に、強い意志の宿った瞳。顔立ちの整ったその表情は綺麗というより可愛い、笑顔のよく似合う表情。

 

――慌てて剣を上に斬り返し軌道をずらす。

 

「――……ちょっと、ビックリしました」

 

馬鹿野郎、心臓止まるかと思ったぞ。あ――……マジでビックリした、俺じゃなかったら死んでたな。主に心臓止まって。

 

「えへ、すいません」

 

すいませんじゃねーよ。コツンと額を小突いてあうっと言いながら仰け反る少女に安堵の息を吐いて、周囲の警戒を再開する。今みたいに騒いでもあまり変化がなかったが、それでも怪しい事には変わりはない。

 

ていうかお前何で来たんだ、持ち場はどうした。

 

「あ、そうだ! そうですよ! 私が誰も来ないからこっちに来たら何か森に突撃してくし、何でだろうと思って付いてったら凄い目立つ行動してるし……こっちの台詞ですよ! 何してるんですか!」

 

待て待て声がでけぇ!これ絶対気付かれたパターンだろ、俺にはわかる。

 

少女の口を押え、横抱きにして抱える。その場を跳び退き走り出す。くそっ、こんなことならもっと後ろ警戒しとくべきだった。

 

もごもご唸りながらじたばた動く少女を抱えて走る。いつ敵が来るかもわからない現状、下手な行動は出来ないが――こうするしかない。あんな大声で話した時点でバレないわけがない。

 

はぁ、ままならないなどうにも。

 

 

 

 

 

――刹那、背中にゾワリと何かが這い上がってくるような感覚が襲ってきた。

 

 

 

この感覚はマズイ。今の状況で喰らう訳にはいかない。少なくとも少女が死ぬことの無いように感覚的に大丈夫だと判断した方向へ投げる。

 

そして感覚に従い、後方に下がって回避を試みる。何が来るかもわからないが、何故かこうするほかないと勘が告げている。

 

前方に突如爪が現れ、それに付き添う様に徐々に粒子が集まってきて形を成していく。腕、胴、足、顔――これが、黒トリガー使い。

 

 

「――黙って死ね」

 

 

 

剣を振

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七十八

 

 

「――黙って死ね」

 

マジか、さっぱり捉えられなかった。どう動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七十九

 

「――黙って死ね」

 

考えるより先に身体を動かす。現状やられ方がわからないから、とにかく色々試してみるしかない。取り敢えず前方に出現している事だけは確かな筈、後方に下がって射程から下がれないか試してみる。

 

スッと身を翻し、目に見えて危険そうな爪を注視する。どこからどうみてもアレがトリガーにしか見えないが、消えて出てきた時点で搦め手も行けるに決まってる。

 

ならば今確かめるべきは死ぬタイミングと方法、相手の手をとにかく探し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八十

 

「――黙って死ね」

 

シンプルに爪で貫かれた。現状直接攻撃しかされて無いが、恐らくあのテレポートを利用した戦法も出来るだろ。取り敢えず相手の力を引き出すしかない。

 

後方に避けるのではなく横に避ける。少女が俺から見て右側に居る筈なので、攻撃に合わせて左側へ避ける。

 

真っ直ぐ突きだされる爪に対し左に転がり避け、そのまま手に持った剣で斬り返す。狙いは首、黒トリガーだろうがなんだろうが殺せる可能性があるのは人体と同じ箇所である。

 

脚を斬れば動けなく出来るし、腕を斬れば剣が振るえない。胴を切り離せばトリオン体を解除できるし首も同様だ。黒トリガー相手に徐々に戦力を削るなんて真似出来っこない、速攻で殺す。

 

いつもと同じように剣を振るい、斬る。殺す、必ず息の根を止める。そう意思を籠めて斬る。

 

敵の黒トリガー使いと目が合う。人を、明確に敵だと認識している敵意の籠った目。

 

――斬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八十一

 

「――黙って死ね」

 

純粋に技量の問題か――切り返した刃が到達する前に爪で身体を縦に割られた。死ぬ間際の目線がグラついてたから今も若干違和感があるがそこは切り替える。

 

先程同様左に転がり剣を振るい、前方に動く。

 

爪の射程圏内というのを正確に理解できていないから駄目なのか。常に殺すという意思を籠めて、尚且つ相手を把握しようとしなければ。

 

このタイミングで殺す、そう決めつつも次につなげる為に相手をしっかりと注意する。大丈夫、現段階で少女がターゲットに向いていない。

 

完全にターゲットは俺に向いている。ならば何度死のうと問題はない。

 

繰り返し、考えて、実行して、繰り返し――やがて成功を引け。

 

先程同様真正面から振るわれる爪を注視して、その爪目掛けて剣を振る。爪の軌道上に完璧に割り込まれた剣は爪と接触し、その勢いを止めることに成功した。

 

よし、爪自体は止められるな。形状の特殊さに初見殺しされたが、現状判明している消えて出てくる能力は確定と見て良さそうか。

 

ともかく通常攻撃を防げるようにならねばなんの対処も出来ない。爪自体にワンオフの能力が付与されてる可能性も考えて、取り敢えず吐き出させる。

 

そのまま受け止めた爪を弾き、少女の方を気にしつつ再度斬りかかる。

 

黒トリガーだけを相手にしているわけではない、これは戦争である。必ず他の通常トリガー使いがいる筈。そいつらが少女の方に行くのを少しでも見たらリセットせねばならない。

 

……いや待て、ここで無理に詰めるべきか?一度引いてアレクセイと合流するのもいいかもしれない。少女を向こうに任せて、黒トリガーは俺が相手をする。

 

二人いれば通常トリガー使いに負けることは無いだろう。そうするべきか。

 

振りかぶった剣を無理やり止め、即座に後ろに跳ぶ。若干怪訝な顔をしてこちらを睨みつける黒トリガー使いを警戒しつつ、その場で剣を構える。

 

チラリと少女の方を覗いてみれば、既に立ち上がってこちらへ向かってきている。

 

どうにか少女とアレクセイを合流させたいが、この状況じゃ逃げれるか不明。というかそもそもこいつテレポートみたいな行動できるし、逆に逃げるような行動は良くないかもしれない。

 

……危なかった、冷静に考えていかないと。死んで戻るとは限らないんだ。詰まされるのだけは回避しろ。

 

 

「……トリオン体じゃないのか」

 

 

黒トリガー使いがそう言ってくる。

 

「成程な、道理でレーダーにもかからねぇわけだ。アレはトリオンに反応するもんだからな」

 

怪訝な表情から、納得したような表情で頷く黒トリガー使いを警戒しつつ少女とアイコンタクトを取る。

 

 

――逃げられるか?

 

 

目をぱちくりさせる少女。あっ駄目だこれ通じてねぇわ。

 

 

 

――瞬間、目の前に突如黒トリガー使いが現れる。先程同様粒子の揺らめきがあるが、断然早い。

 

だが対応する。既にその攻撃は見た。

 

目の前に現れきるより前に近くまでやってきていた少女を抱える為に後ろに跳び、剣を持ってない方の腕で抱え込む。ぐえっという声を少女が発したのを耳にしながら、目に黒トリガー使いを捉えたまま下がる。

 

 

「逃げるなよ、黒トリガーを潰すチャンスだぞ? ま、逃げようとすれば潰すがな」

 

 

今更その程度の挑発には乗らない。乗らないが……考えろ。

 

事実、今の状況はかなり有利だ。どこかに潜んでいる通常トリガー使いも、少女なら急な襲撃に対応できるだろうし俺も死んでも戻れる。尚且つ黒トリガーが目の前に居て、現状は戦おうという意思を見せている。

 

このまま逃げる事を選択すると、まだ黒トリガーの見せてない能力で追ってくるかもしれない。粒子になって移動できるのは把握したが、まだ隠していることがあるに決まっている。粒子になれる時点で、サイズも同様に弄れたり数も弄れるとすれば――駄目だ。

 

逃げるのはリスクが高すぎる、かと言って正面から戦って少女が死ぬ可能性も無くは無い。けれど、ここで退くという選択を選んだ場合のリスクの方が高い。

 

……選ぶ、しかない。逃げて死を無理やり回避し続けるか、戦うか。

 

自然と足を止め、依然としてその場から動かない黒トリガー使いを睨みつけながら考える。

 

腕に抱えていた少女も降ろし、考えろ。どうすればいい、どうすればいい。

 

戦う?死なせたくはない。だが逃げても死ぬ。戦いから逃げれば生き残れる訳では無い。ならばやはり戦うしかない。二人で?黒トリガー相手に。リスクがありすぎる。だが、これ以外に現状道がない。

 

剣を握る力が強くなる。ギシリと音を発しながら揺れる剣を更に握りしめ、必死に考える。どうする、どうする。

 

少女を横目で見る。俺を見るその瞳には、強い意志が見て取れる。

 

……本当に、強い奴だ。俺なんて、こんなに情けないのに。怖くて怖くてたまらない現実を、足りない頭で考えてるのに。

 

お前は何時だってそうだ。あの時(最初の絶望)あの時(夜の森を彷徨ったとき)も、あの時(基地を防衛した)も、何時だって。

 

 

 

 

 

 

『別にそんな無茶言いません! そういう大事な時に頼って欲しいんですよ!』

 

 

 

 

 

……ああ、わかった。今が、その時なんだな。

 

頼らせてもらうぞ、お前の事を。

 

 

「――任せてください」

 

 

本当に、頼もしい奴だ。じわりじわりと歩いて距離を詰め始めた黒トリガー使いを再度睨みつけ、覚悟する。

 

ここが正念場だ。戦って、繰り返して――勝つぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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