ワールドリワインド   作:恒例行事

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選択

 八十三

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 嘘だろ、悪い冗談だ。

 

 思考がうまく纏まらない。ああ、違う。そうじゃない。

 

 取り敢えず死ななければ。

 

 彼女の腹を突き抜けた爪が引き抜かれ、力なく彼女が倒れ込んでくる。ドスンと音を立てて倒れ込んできた彼女の表情は、薄く笑っている。

 

 ――手に持つ剣にトリオンを込め、少女を抱えながら自分の首に突き刺す。突き刺した剣を更に捻り、確実に自分の息の根を止める。

 

 ぐちゃぐちゃと音を立て、血液と肉が混ざり合う不愉快な音が耳に入るが気にしない。それより早く死ね。

 

「……気……狂っ……」

 

 黒トリガー使いが何か言っているが、耳に入れるつもりもない。

 

 早く、早く死ななければ。

 

 ごめんな、今すぐ巻き戻すから。

 

「な………で……」

 

 彼女のか細い声が聞こえてくる。大丈夫、大丈夫だ。次は俺が先に動く。

 

 だから、早く。薄れていく意識の中、死に近づく為に更に手を動かす。もう面倒だ。出血多量で死ぬのではなく、首を断ち切る。

 

 これで死

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八十四

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 ――酷い頭痛がする。

 

 再度、剣を振るい自らの首を切断する。

 

 頭が胴体から切り離されていく間の視界のブレに既視感を感じながら、さっさと息絶える。

 

 駄目だ、これは駄目だ。さっさと死ななければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八十五

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 まだだ、まだだ。

 

 決して、認めるわけにはいかない。認められるわけがない。こんな現実、俺は認めない。

 

 再度首を切り落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八十六 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 また首を斬り落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八十七

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 認めるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八十八

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 駄目だ。それだけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 認めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 

 認めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 認められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 ……認め、られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 認めるわけには、いかない。認めてしまったら、俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎五

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 ………………ク、ソったれ。

 

 何だ、何でこうなってしまった。分かっていたはずなのに、理解していた筈なのに。

 

 認めるわけにはいかない。認め何てしない。だが、だが……もう、元には、戻れない。それを理解してしまった。

 

 頭痛がやかましく鳴り響く、痛みという領域ではない程の頭痛を堪え、倒れてくる彼女を抱えて後ろに下がる。

 

 ああ、吐き気がする。気持ちが悪い。頭が痛い。動悸が止まらない。呼吸が出来ているのかすらわからない。 自分に嫌悪感しか沸かない。今すぐ死ぬことで元に戻れるのなら、何度だって死んでみせるのに。

 

 彼女を抱え、その場から走る。まだだ、諦めるわけにはいかない。諦めてたまるか。まだ死んでない。生きてる。走る。足を動かせ。

 

 基地に戻れば、治療が間に合う。

 

 そうだ、まだ死んでない。失ってない。

 

 走れ、只管走れ。それ以外考えるな。

 

 間に合わせろ、救え。お前が出来ることはそれだけだ。自分に刻め。最悪を考えるな。救える、そうだ生きてるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、背後に強烈な寒気が――どうでもいい。

 

 

 そんな事より、今はただ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■八

 

 ――身体を貫かれ、口から勢いよく吐き出された血が俺にかかる。

 

 その瞬間飛び込み、少女を腕に抱く。

 

 勢いを殺さぬまま少女に負担をかけないよう、()を蹴り飛ばして後ろに跳ぶ。

 

「っ、おい……滅茶苦茶やる」

 

 話を聞く気なんぞ一ミリもない、跳んだ勢いのまま駆ける。走りながら肩辺りから腕の服を食いちぎり、剣を握ってないフリーの指で少女の腹に巻き付ける。出血の量が兎に角やばい、止血しなければ間に合わない。

 

 血を止める為に少し強めに締めて、少女が呻き声のような声を上げたのを聞いて胸が締め付けられるような感覚を感じる。大丈夫、ここではこうするしかない。それは既に、何度も経験した(・・・・・・・)

 

 とにかく、とにかく急ぐしかない。時間との戦いになる、今更一人(・・)如きに手こずっていられない。

 

 

「ぁ、は、ぁ……す、みません」

 

 

 えへ、と顔に汗を滲ませながら無理やり作った笑顔で言う少女に胸を引き裂かれるような感覚を抱くが、全てねじ伏せる。振動で揺れてしまうが、それも最低限にするために工夫する。少女を抱えていない腕――つまり剣を持っている腕に力をかける。

 

 背後から迫る敵の気配を察知し、前方に向かって剣を振る。

 

 ――大丈夫、既に見た(・・)。粒子が正面に集まるが、集まりきる前に正面から叩き割り蹴り飛ばす。邪魔だ、お前如きが道を阻むな。

 

 上半身が完成する前に距離を取る。距離を詰めてきたら再度斬る。また距離を取る。

 

 これの繰り返しだ。ある程度までは見た(・・)のだから、対応できない理由がない。たかが一人の敵如きに邪魔されるわけがない。

 

 

「ごめ、んなさ、い。わた、し……」

 

 

 息も切れ切れに、少女が苦しそうに話す。ああ、話すな。傷に響くだろ。大丈夫だ、お前は死なせない。

 

 彼女の服が徐々に紅に染まっていくのを見て無意識に剣を握る手に力を込める。ギリッと剣が音を発するが構わない。大丈夫、大丈夫だ。まだ、彼女は一度も死んでない。だから大丈夫、うまく行く。助けられる。必ず。

 

 俺の腕の中で揺られながら、彼女がゆっくりと口を開く。その声を聞き逃さないと聴覚を集中させ、警戒しつつも耳を傾ける。

 

 

 

「わた、し……いつも、助けられて、ばっかり、で。恩、を。返した、くて」

 

 

 

 こんな風に、なっちゃいましたけど。そう今にも死にそうな顔で言う彼女を見て、どうしようもない程自分を責める言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 ――油断した。間抜けが。学習しないカスめ。だからあれ程。さっさと死ねば。俺が死んでいれば。俺が――最初から、死んでいればこんなことは。そうだ、俺に死に戻りなんてものさえなければ――。

 

 切り替え、ろ。切り替えろ。切り替えるんだ。今は自分を責めて心を安心させる暇はない。大事なのは彼女を生還させることだ。俺の事はどうでもいい。

 

 再度敵が背後から寄ってくるのを感じ、今度は右に避ける。先程まで走っていた場所に銃弾が飛んできて、俺が避けた先に粒子が集まってくるのを確認し――粒子の中に少女の剣を叩き込み、そのまま顕現した時に剣が内部から突き出てくるようにする。

 

 これで倒すことは出来ないが、時間は稼げる。

 

 そして更に接近してきて今にも飛び掛かろうとしている透明の野郎が居る事は既に知っているので、その場所を剣で斬る。

 

 ほぼ同時に四回、左右左右で上から斜めに斬っていく。トリオンは消極的に、それでいて大胆に斬っていく。

 

 トリオン体を解除された敵が生身を晒すが、そんなものに興味は無いのでそのまま剣で生成に手こずっている敵へとその生身を蹴りでぶち込み再度駆け出す。

 

 抱える少女の心臓の鼓動がわからないが、まだ死んでいない筈だ。声をかけると、少しだが呻き声のような物で返事が返ってくる。大丈夫、あと少しだ。あと少しで森を抜けて基地に着く。基地についたらアレクセイと合流して、いや、その前に治療室に突撃しよう。急げ、まだ間に合う。

 

 走って走って、ようやく森の終わりが見えてきた。大丈夫、間に合う。徐々に少なくなっていく木を尻目に、しっかりと基地へと目を向ける。

 

 ああ、やっと森を抜け――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げれると思ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から聞こえてきた声に反応し、咄嗟に前方へと転がる。勿論その際も少女に衝撃を与えないように自分を身代わりにする。少しおかしな方向に曲がった腕を無理やり直し、少女を抱えなおす。

 

 粒子化する、彼女の腹を開けた本人にその他数人がそこに居た。邪魔をするなよ、目的地はすぐそこだ。お前たちなんぞ、どうでもいい。

 

 

「……チッ、何て目してんだ」

 

 

 うるせぇ、喋るな。お前たちみたいな奴が居るから、俺達は――殺す。

 

 

 

 斬りかか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめ、んなさ、い。わた、し……』

 

 

 脳裏に彼女の姿が浮かび上がり、斬ろうとしていた手を無理やり止める。落ち着け、落ち着け。

 

 俺が今やるべきなのは、こいつらを殺す事じゃない。彼女を助ける事だ。

 

 そうだ。アレクセイと合流をしなければ。いや、基地に入って治療せねば。どうする、どうする。

 

 

 アレクセイを探すか、彼女を先に治療室に運ぶか。

 

 

 

 

 選ばなければ、いけない。

 

 

 

 


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