ワールドリワインド   作:恒例行事

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始まり②

 一

 

 友軍の居る場所への行軍とは名ばかりの、俺たち奴隷兵を体よく処分する作戦が始まった。食料がそもそもないし、服装も皆スニーカーとか革靴とか安全靴とかバラバラである。そんな状態で行軍とか言われても出来るわけがない。

 

 戦場からは離れてるからそこまで敵襲的なモノは警戒しなくてもいいかもしれないが、如何せん何もない。この絶望的な状況じゃ普通の人間は何も考えられずパニックになるだろう――そう、普通なら(・・・・)

 

 生憎俺は普通じゃない。確かにあいつらが求める条件には何かが達していないんだろう。

 

 だが、俺には皆にない――やり直しが存在する。

 

 セーブを勝手に世界によって決められ、【最善】と思われる行動を行えば次に進む――それは果たして、人間と呼べるのだろうか。

 

 こんな俺の(ざま)でも、たった一つ――一つだけ、胸に抱く思いがある。

 

 俺を救ってくれたたった一人の人間を救う事。

 

 それだけを胸に――何度死んでも、生き延びてみせよう。

 

 

 

 一先ず愚直に進んでみることにする。皮肉なことに時間は無いが時間がある、なんという矛盾だろうと思ったがその通りだ。例え世界に時間が無くても、俺には何時までだって時間がある。

 

 思考しろ、実行しろ、練り直せ、思考しろ、実行しろ――これの繰り返し。思考と実験の連続――科学の実験に似たような物だ。

 

 進んで一時間程だろうか、仲間の一人が小休止を取っている間に消えた。仲間?ああ、仲間だよな。殺してこないし、同じ待遇なのだから仲間で間違いない筈だ。

 

 消えたのは男性が一人――大方現実に耐えれなくて逃げたのだろうか。まぁ実際逃げ出したくもなる。

 

 俺の様に現状命に限りは無い無限コンティニューを持っているならまだしも、たった一つの命でこの道を歩き戦場に行って死んで来いなんて命令されたら普通逃げ出す。いや、でも……逃げ出せない程精神が疲弊していたら別だが。

 

 そういう意味ではここに残った人間はそういう意思がない――というより逃げたい、逃げなくちゃいけないという思いと逃げても意味が無いという諦観の想いが重なっているのだろう。実際今ここで逃げ出そうという事を切り出す人間は居ない。

 

 

「逃げても行く場所は無い」

 

 

 つまりそういう事だ。絶望して圧し潰されて諦めて――もう、心が死んでいる。

 

 このままじゃ駄目だ。この先の未来で、仲間が必要になるかもしれない。ならどうするか――具体的な方法は今はまだない。

 

 進んで進んで、解決策を考えるしかない。俺はまだ一度目、何度だってやり直せるさ。

 

 

 

 凡そ5時間程経っただろうか。一度休憩をとるために声かけをしてその場に座り込んだところ、ある一人の女性から大きな音が聞こえた。空腹の合図である。

 

 そう言えば食料も何一つ渡されていない――辿り着かせる気がそもそもないんじゃないか、いやきっとないな。

 

 ここまで歩いて来たが生物や食料になりそうなものは何一つなかった――詰んだなこりゃ。

 

 俺自身腹は減ってるから、この状況で一番避けるべきなのは――仲間割れである。仲間割れするほど元気があるかは謎だが。

 

 人間を食べようと思い始めたらもうそれは終わりだ、だからどうにかして生きてる人間以外に目を向けさせる必要がある。

 

 試しにそこら辺の土を口に放り込んでみる――うん、土の味だ。まずい、まずい――これ食って意味あるのかってレベル。

 

 俺のその姿を見て、腹を鳴らした女子が何かに耐える様に土を手に取った。やめとけ、別に土は食っても意味ないだろ。

 

 空腹の足しになる物は何もない――それが事実だった。だが、何もないとは言うが土はある。石はある。

 

 三十人ほどの人間の腹の中に収まるような物なんて地球でも自然じゃロクに遭遇しない。

 

 つまりこの時点で選択肢が分かれるのだ。

 

 

 一、死に戻って食料を要求する。

 

 これは意外といけそうな気がする、軽い食料程度なら持たせてくれる――かもしれない。成功率十パーセントくらいか?

 

 二、ひたすら進行してさっさと目指す。

 

 これが一番現実的か。只管進んで進んで、友軍とやらに合流する。友軍が全滅してたら死に戻って別の道を探すし、友軍がまだ粘っていたら恐らくセーブポイントは新しくなるだろう。

 

 

 なら最初は二番を選択する。一先ず友軍への合流を目指す。

 

 

 その旨を仲間に伝えると、微妙な反応ではあるがとりあえずついていくという反応が返ってきた。

 

 まだ意外といけるかもしれない、ここで絶望するのは早いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二

 

「援軍……いや、奴隷兵士か」

 

 しまったな、そう言えばあいつら白い変なのを忘れてた。

 

 結局戦場まで一気に行くのがよさそうだな。戦い方に関しては徐々に慣れていくしかない――今回は何度も休憩を取ったから遅くなったがもう少し早く行けば仲間ともっと早く合流できるはずだ。

 

 今回の死因としては、シンプルに色々試しながら向かったからだ。着いた頃には友軍とやらはかなり追い詰められてて、合流するにはしたがその瞬間敵の白いのが襲い掛かってきて仲間の半分くらいを殺された。結局俺もそこから逃げられず死に戻った。

 

 ならばさっさと行く――前に食料を要求してみる。

 

 

「は? 食料……ふむ、まぁ転送はそう何度も出来ないが食料程度ならいいだろう。ただし二日分だ」

 

 

 意外と行けた。もしかして転送出来ないのは本当にできないからなのか?だとしたら別の日に向かわせろよコンチクショウ。

 

 

「転送はトリオンが大量に必要なんだ、お前らミソッカスを送るために私達隊長クラスのトリオンが丸一日分使われてはたまらん」

 

 

 結構話すじゃねぇか。説得したら行けそうな気がしてきた――けど、多分そこは無理。食料もらえた上に、この現場指揮官みたいな奴が結構喋れるって分かっただけ儲かってる。

 

 仲間に一声かけてから歩き出す、その歩幅は割と早めに設定している。前回とは違い食料がある為、休憩時間を食料を食べ終わる時間と設定すればさっきの様に不規則な休憩はとらなくて済む筈だ。

 

 

 が、現実は非情。貰った食料の半分を奪ってさっき脱走した男と他三名が逃げ出した。全員男。まぁそうなるよな、あいつみたいに絶望の中でも逃げれるようなメンタルがあればそりゃあ飯持って逃げるわ。

 

 逃げたもんは仕方ない、次に回そう。

 

 そうすると食料が減るのは当たり前のことで、三十人の二日分の食料のうち半分でなんとか食い繫ぐ。俺は幸い前回土を口に含める事が判明してるので、さっきの空腹少女にでも食料を分けて最低限で食っていく。

 

 そうして進行しているとあっという間に友軍と合流。所属を聞かれたが奴隷兵だから「奴隷兵です」と答えたら、さっさと前線に行って死ねと言われた。

 

 普通少しはねぎらいの言葉のひとつでも掛けるだろ、こいつらほんと頭おかしいな。まぁ言われたもんは仕方ない、しょうがないと前線に向かいだした俺に空腹少女が声をかけてきた。

 

 

「本当に行くんですか?」

 

 

 そりゃあ行くよ。それ以外にやる事ないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 へぇ、ここからになるのか――アレが最善?いいやそうではないだろ。

 

 前回までは【最善がセーブポイントになる】と思っていたが、どうやら違うっぽいな。流石に最善で固定だったらなんてご都合主義、俺はそんな舞台装置ではないという事か。

 

 余計条件が分からないな、メタ的な考えをするとイベントフラグが進むのか?なんにせよもう少し条件に付いて考える必要が出てきた。

 

 前回は問答無用で死ねだった。奴隷兵で所属が無いのが問題なのでは、と思ったので今回は所属を聞いてみる。くそ、こうなるんだったら階級とか名前とか(・・・・・・・・)もっと聞いておくんだったな。

 

 

「俺は三等級十五位、アレクセイ・ナンバーだ」

 

 

 三等級十五位――がどれくらいすごいのかは知らん。けど、ある程度の階級であることは間違いないのだろう。

 

 三等級十五位のこの情報からわかることは、何等級に分かれている――簡単にいえば、一二三に分かれている可能性があるという事。そして更にその等級の中に順位という物が存在してることも理解できた。

 

 

「お前たちは――ああ、証無し(・・・)という事は奴隷兵か。なら早速で悪いが前線へ向かってもらう」

 

 

 さっきより柔らかい言い方。ファーストコンタクトの差によって扱いが若干変わるのだろうか――いや、その場の気分だな。二日ほど歩き通しで合流した兵に向かって奴隷兵なら死んで来いと命令するような奴がまともな筈がない。

 

 脳に刻め。こいつらは人間じゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・)。こいつらは侵略者だ、人の皮を被った悪魔だ。

 

 無害で何の責任も持ってない俺たちを攫い、人権を無視する奴らだ。普通じゃない、付け込まれるな、事情を理解しようとするな――そう自分に暗示する。

 

 

 アレクセイと名乗った男と対面していた状況から、無言で踵を返し向かう。

 

 

 

「本当に行くんですか?」

 

 

 

 ああ、行くよ。

 

 

 

 

 

 

 四

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 うーむ、あの白い何かがまるで倒せる気がしない。味方と協力して斬りつけてみたが、支給されたこの変なロングソードが弾かれて反撃されて胴体に穴を開けられて死んだ。

 

 勝てる気がしないが、どうやってこいつらは倒しているのだろうか。

 

 

「奴らを倒す方法?ああ、トリオン兵の事か――いや待て。そんなことも知らずにきたのか?」

 

 

 そんな事なんも知らされてない、変な武器を渡されただけだ。そう伝えるとアレクセイは頭を抱え、その中世の騎士のような鎧をガシャンと音を出す。

 

 

「何考えてるんだ本部の連中、これじゃ無駄死にさせるだけだろ……本当上層部ってアレだな。いや、申し訳ない。せめて使い方くらいは伝えとけよ……」

 

 

 ぶつぶつと頭を抱えて何かを言うアレクセイに、僅かな親近感を持ち――一瞬で全てを捨てた。

 

 騙されるな、アレは演技だ。中身は悪魔、人間ではない。あの仕草も俺たちの理解を得るためにやっている仕草の一つだし、俺たちに気を許させるためにやっていることだ。

 

 わざわざあの最初の場所にいた奴らが何も言わずに送り込んだ理由もこれだろう、飴と鞭――その言葉に尽きる。騙そうとしてるのが見え見えだ。

 

 他の連中は一度で終わりだが、俺は違う。何度でもやり直してお前たちの企みは全て理解してやる舐めるなよ――

 

 

「ああ、そうだすまないな。これの使い方は簡単だ。握って体の中の血を操るような感覚でトリオンを流し込めばいい」

 

 

 感覚派過ぎて理解できん、扱えるようになるのは何時になるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 五

 

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 無理だ。俺にこれを使いこなせる気がしない。

 

 例の少女は一瞬で扱えるようになってた――やはり……天才か。俺は全く扱えなかった。ただ少女も限界はあるようで、前回の戦場では五体程斬って真っ二つにした直後に斬れなくなってその場に倒れこんだ。

 

 俺が前に出て試しに血液を操作するとかいうバカみたいな感覚を練習してみたが、さっぱり理解できずにそのまま白い奴――そういえば、前回奴がトリオン兵と言っていた――に斬りかかって殺された。

 

 まぁ幸いなのは俺に武器を使う才能が無くても、何度も練習できるところだろうか。

 

 要は死に続けるしかないという事――クソったれめ。

 

 

 

 

 

 

 六

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 少女にコツをいっそのこと聞いてみた。

 

 

「なんかぎゅーってやればうまく行きますよ!」

 

 

 だめだこりゃ、お前ら分かる?わからんか、俺もわからん。

 

 

 

 

 

 

 七

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 若干分かった……かもしれない。前まで微塵もダメージの入っていなかったトリオン兵の身体に、少しだけ傷がついた。少女みたいにズバァン!真っ二つ、とはいかなかったけど十分進歩しただろう。

 

 感覚を思い出す為に何度か握ってみてるけど、正直分からん。実際に斬れるか斬れないかで何度も繰り返すしかないのか。まぁそれだけが俺の唯一ある才能だと思えばいい。

 

 

 

 

 八

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 駄目だな、どうにもダメージが入らない。もしや本当にその手の才能が無いのか?戦う事が出来ないとなると、正直無理だ。これから生きていく自信は無い――死ぬことは無いわけだが。

 

 ああ、クソ。どうするか。でもまだそんなに繰り返してない筈だ、漸く死ぬのにも慣れてきた。落ち着け俺。敵に咀嚼されて死ぬわけじゃないし、身体を遊び感覚で千切られるわけじゃない。いつか見た創作物の人物たちよりまだまだマシだ。

 

 安心して死ね、何度でも繰り返せ。それが俺に出来る唯一なのだから。

 

 

 

 


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