ワールドリワインド   作:恒例行事

31 / 79
決別

 ■■■

 

 ――……光が、収まる。

 

 急な明暗の変化により見えない視界を、手探りで感触を確かめようとする。何かに当たっている。柔らかい――ベッドだろうか。弄って、右手が不意に硬いものに当たる。

 

 何だ、こんな物さっきまで有ったか……?

 

 少しずつ見えてきた視界に、赤いものが映る。なんだ、血か?それにしたって、こんな赤くはない。まるで、誰かの髪色のような(・・・・・・・・・)色。

 

 そう考えた瞬間に、思い出す。そうだ、二人はどこだ。アレクセイは、彼女は?

 

 どこからどう見てもベッドに彼女は居ないし、アレクセイもどこにもいない。どうなった、何があったんだ。

 

 ベッドに手を押し当て、それを軸に立ち上がる。クソ、何なんだ一体。どこに行ったんだ。あいつは一体何をしたんだ。この状況でふざけてる場合じゃないだろう。

 

 不意に頭痛がズキリと響く。クソ、イラつくな。ああ、違う。お前らにイラついてるわけじゃ無く――と。

 

 痛む頭を押さえようと手をのせ、視界に何かが映りこむ。パラパラと、白い粉のような物が零れ落ちていく。なんだ、これはどこから来た。乾燥しすぎた手の皮でも剥けたか、それとも血か。

 

 血にしては無色過ぎる、これは一体――

 

 

 

 

 

 

 息を呑む。手を見る為に視線を下に移動させ、見てしまう(・・・・・)。室内に、唐突に沸いた砂のような何かを。

 

 何だ、これは。さっきまで、こんな物どこにも無かった。

 

 地面に積もる、砂のような何かを追っていく。地面に薄く広がり、それがどんどん盛られていく。厚く盛られている面へと向かうほど、何故か息苦しくなる。

 

 なんだ、これは何だ。わからない、考えたくない。こんなものが発生する理由なんて、だって、一つしか考えられないじゃないか。

 

 やめろ、考えるな。悪い方向に持っていこうとするな、大丈夫。さっきは不穏な事を言っていたアレクセイだって、真実どうにかできるかもしれない。元階級持ちだぞ、実力があるんだ。

 

 そうだ、大丈夫だ。ああ、大丈夫。

 

 視線を先に向け、最も盛られている場所を見る。何故か人の形をしており、見覚えがある。顔の造形まで残ったソレは、見覚えがある――なんてレベルではなく、つい先ほどまで見ていた。

 

 自然と右手に力が籠り、ギリッと音を発する。頭痛が酷い。吐き気がする。体の震えが止まらない。ああ、待て。待ってくれ。それは、それは駄目だ。認められない、クソ、駄目だ。

 

 どこからどうみてもこれは、どうみたってアレクセイじゃないか。

 

 

 死のう、死ぬしかない。認められない、駄目だ、まだ他に方法がある筈だ。何か、まだ諦めるには早い。そうだ、やり直せば――元に、戻れる……筈、なんだ。

 

 元に戻れるはずなのに、死のうと思った手が動かない。何でだ、どうしてだ。何度も死んできただろう。そこに落ちてる、赤黒い剣で自分を斬って――赤黒い、剣?

 

 ふと、赤黒い剣を見る。両刃で、さっきまで持っていた俺達の剣に形は似ている。だが、決定的に違う部分がある。

 

 カラーリングは全く別物だが、それよりも――剣に、何かが付いている。鍔の部分、と言うのか。何とも言えない、黒と赤で剣が構成されている中で、鍔がやけに立体的な形をしている。ああいや待て。

 

 そもそもこれは何だ。剣なのか。ならば死ねる筈だ。手に取り、トリオンを流し込む。

 

 トリオンを流した瞬間、鍔の部分が淡く光る。何だ、俺はそんなにトリオンを流し込んだ覚えは――いや、待て。

 

 赤と黒。ここで、真っ白な砂の様な物になっているアレクセイ。消えた少女。そして、前に聞いた黒トリガーについて。

 

 動悸が激しくなるのを自覚する。力が入らない。アイツは言っていた。黒トリガーは、ある程度トリガーを理解していて尚且つトリオン能力が優れていないと作成できないと。

 

 そして、あいつ自身――自分のトリガーを作る為に勉強したと。

 

 やめろ、やめてくれ。点と点が線によって結ばれていく。繋がっていく。いやだ、やめろ。こんな現実俺は認めない。

 

 彼女を生かす為に、俺を生かす為に、三人で生きて帰るという約束を守るために。

 

 やめてくれ、やめて、くれよ……。

 

 何度だって、死んで見せるから――頼むよ、なぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 ――目を開ける。そこにあるのは、変わらない景色。先程までそこに居た彼女も、アレクセイも居ない。その事実が俺に強く深く圧しかかる。

 

 思わず、込み上げてきた吐き気に逆らわず嘔吐する。二人の居なかった、どうでもいい床に向かって。中身をぶちまけ、それでもまだ続く吐き気に耐えながら赤と黒の剣(アレクセイと彼女)を手に取る。

 

 頭痛が酷い。眩暈もする。今すぐ座って休みたい。死んで解放されるなら今すぐ死にたい。けど、死んでも死んでも死ぬことは出来ない。

 

 ……死に戻り何て、できなければよかったのに。

 

 悔やんで悔やんで、悩んで悩んで、苦しんで考えて考えて何度も死んで――今。認める。認めたくなんてない。でも、認めるしかない。この、クソッタレな理不尽に包まれた現実を。

 

 俺達が、何をしたって言うんだ。ただ、帰りたいと。故郷に帰りたいと願う事は、悪い事なのか。三人で共に、戻りたいと。うまい食事を味わいたいと。別の文化を楽しみたいと。薄れた人間性の中で、楽しめる娯楽を探したいと。

 

 そう願う事は、悪かったのか。何故だ、何故なんだ。なぁ、俺達が何をしたんだよ。……誰も、応えてはくれない。

 

 声をかけてくれる彼女も、アレクセイも、もう、居ない。すぐそばにいるのに、声は届かない。

 

 いつか、こうなる気はしていた。だからこそ、ずっと注意をしてきた。備えてきた。こうならないようにと。積極的に自ら死んで。なのに、なのに。

 

 見通しが甘かった。考えが浅かった。現実は甘くなかった。それだけの事実が、どうしようもない程俺に降りかかってくる。今すぐにでも折れたい。折れて、考えることを放棄したい。俺と言う人格を放り捨てて、楽になりたい。

 

 

 ――でも、それは出来ない。

 

 

 

 だって、こんな所で折れたら――それこそ、あの二人を犠牲にしてしまうから。

 

 

 

 アレクセイは言った。いつか、彼女を救うためにと。

 

 彼女を生き残らせる方法が、これだと。

 

 ならば、信じる。あいつが信じてくれたのに、俺が裏切るわけにはいかない。死なせはしない。二人とも、死なせはしない。

 

 黒トリガーが人からできているのなら、逆も可能なはずだ。

 

 俺が、いつか必ず助ける。アレクセイの黒トリガーを解除し、彼女を治療し、そして、そして――いつか三人で、また笑い合おう。

 

 その日を迎えるんだ。手繰り寄せろ。そのためなら、どんな地獄だって這いずって見せる。ごめんな、絶対元に戻すから。頑張るから。何度死んだって良い。

 

 

 刺され、焼かれ、潰され、叩かれ、割られ、千切られ、斬られて息絶えても――貴女(貴方)を救うその日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーに反応無し、トリオン体は存在しません」

「はん、って事は生身の死に損ないが数人いるだけか」

 

 手こずらせやがる、そう言う男の顔は少し笑っている。

 

「何笑ってんだよ、もう何人もやられてんだぜ」

「ハッ、何言ってやがる。トリオン体を作れねぇ程度の落ちこぼれに、俺たちは此処まで粘られたんだぜ。これを笑わずにいられるかよ」

 

 拳に爪を生やし、身体全体から微かに白い粒子を漂わせ皮肉気に笑う。

 

「黒トリガー一人、黒トリガーを討伐できると判断された精鋭十数人、トリオン兵、その他諸々……それだけ合わせて、取れるのはこのちっぽけなしょぼい基地一つ」

 

 割に合わない、そんなレベルじゃないと吐き捨てる。

 

「あり得ない、どう考えたって理解できねぇ。ただの生身で、斬る事しかできないクソトリガーで、俺を、黒トリガーを凌ぎきる? 普通じゃねぇ、狂ってやがる」

 

 それに、と言葉を続ける。

 

「自分の事は全く考えねぇ立ち回りだ。腕を斬り落とされたってのに、即座に仲間を回収して逃げようとしやがった。イカれてやがる、気狂いだ」

「……さっさと、殺しちまおう。黒トリガーになられたらお終いだ」

 

 そう言って、大きめの銃――ライフルと呼ばれる類の物を手に取り伏せて構える。狙う先にあるのは建物、彼らが基地と呼んだ場所である。

 

「ひたすらぶっ壊すから、逃げたらヨロシク」

「しゃあねぇな、お前ら準備しろ」

 

 構えた銃の先から、光が飛び出て――建物に着弾し、大きな音と共に一角を吹き飛ばす。続けて二発、三発と撃ち続けその手を止めることは無い。

 

 面積を徐々に削られていく建物にを眺めつつ、手に爪を持った男は警戒を怠らない。目を集中させ、視覚で見落としが無いか確実に確認する。飛び散った破片の中に人体は?

 

 人の影は?隠れられそうなスペースはないか?

 

 最大限の警戒を持つ。黒トリガーという無敵に近い物を持っていても、油断はしない。何故なら、これまでの経験がそう告げているから。油断をすれば足元をすくわれるどころか、首を食い破られると。

 

 その間にも砲撃は続き、じわりじわりと削られていき――建物は、倒壊した。

 

 ガラガラ崩れ落ちた建物を、警戒しながら近寄る。少しずつ、少しずつ距離を詰めていき倒壊した建物に近づく。

 

 十数人で近寄り、どこか不穏な空気を感じながら確認する。

 

 

「……流石に、死んでるよな」

「……腕斬り落とされてアレだけピンピンしてたんだぜ。そう簡単に逝くか?」

 

 

 会話しながら破片を撤去して捜索する二人組に、緩み過ぎだと注意しようとし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、黒い斬撃が二人組の首を斬り飛ばす(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 トリオン体を一瞬で解除させられた二人を確認し、どこからだと確認しようとして――視界がズレる。

 

 

「あぁ゛……!?」

 

 

 舌打ちを挟みつつ、自らを転移させる。転移する場所は後方、砲撃手が居た場所まで粒子となり転移する。

 

「チッ、一体何が――」

 

 そう言い、視界を瓦礫の山に向ける。

 

 先程まで十数人近くいた筈の仲間たちは、全員既に瓦礫に身を伏せ、悉くが首を既に切断され息絶えている。

 

 

「……オイオイ、マジかよ」

 

 

 瓦礫の山から、ゴトリと音を発しながら起き上がってくる。パラパラと破片を散らしながら、隻腕で右腕に剣を持った白髪の男。

 

 

 幽鬼の様に、ゆらりと身体を揺らす。不気味な雰囲気を漂わせ、こちらを覗くその眼に瞬間的に恐怖を覚える――が、そこで退かない。

 

「こっちはテメェよりどれだけ黒トリガー(これ)を使ってきたと思ってやがる……!」

 

 口は獰猛に、獲物を見つけた肉食獣の様に吊り上がる。カタリ、と腕に装着した爪が鳴る。

 

 

「オイ、退け」

「……あとは任せた」

 

 

 砲撃手に退くように伝える。ここで全滅のリスクを増やすより、一人逃がして確実に情報を与えた方が良い。もしもの為に、そう言う部分は無くさない。

 

 

「さて、やるか気狂い。仲間の黒トリガーでどれだけやれるか見物」

 

 

 ――スパッと、何の躊躇いもなく黒い斬撃が伸びてくる。首を斬り落とし、そのまま消える。

 

 

「……オイオイ、マジ」

 

 

 更にもう一度、黒い斬撃が振るわれる。身体を縦に割られるが、まるで効いていないかのようにそのまま元に戻る。

 

 

「……喋ることは無い」

 

 

 幽鬼の様な、死者の様な空気を漂わせて言う。その空気に圧されつつ、その場に踏みとどまる。

 

 

 

 

 

 

「――殺す」

 

 振るわれる斬撃を、これまでと同じように受け止めつつ反撃しようとして――その赤い斬撃(・・・・)に、身体を両断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。