ワールドリワインド   作:恒例行事

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節目Ⅰ

 ――深く、呼吸をする。いつも通りのリズムで、あくまで日常のままに振舞えるように整える。

 

 自然体で、緊張する事が無いように。別に緊張してもいいのだが、それが原因で失敗したりすると恥をかくから気を付ける。

 

 

「今日が正式配属日、か……」

 

 

 この国の正規兵になって、初めての実配備。訓練は一通り行ったが、それでもまだ自分の実力が戦場で生き残れるほど高いとは思えない。自分が一丁前に戦えると思うな――と、訓練校の教官は言っていた。

 

 これから殺し合いをするのだから、慢心や油断は捨てろ。

 

 心の中で何度も唱え、いざと言う時の為に自分自身に擦り込んでおく。それが最終的に自分の身を救う事になる。

 

 配属する基地に転送される時間を確認し、静かに覚悟する。自分の人生が、どう変動していくのかを。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

「――君達は、今日からこの基地に配属される。貴重な戦力として役立ってくれることを期待している」

 

 敬礼し、部屋から立ち去る。扉を開け、外に出ると涼しい空気が流れ込んできて少しだけ緊張した身体を解してくれる。

 

「よし、じゃあ一通り施設回ろうか。そんで後は宿舎の案内だな」

「はい!」

 

 俺ともう一人、そして案内役の上官について行く。

 

「ここは元々前線基地の一部だったんだよ。ある人たちが色々やって、今みたいに大きな中継地点として活用されるようになったけどね」

「前線基地、ですか……」

 

 噂に聞く、前線。死亡率が途轍もなく高く選ばれた精鋭でも全滅する事が多いと聞く。

 

「前線だった頃は、中々大変だったけどね。今ほど押してなかったし、寧ろ押されてたよ。昼間に敵が侵略してきたこともあったなぁ」

「……やってけんのかな」

「少なくとも今はそんなことないよ」

 

 ほっとする。そんな環境に置かれてまともに生きていける気がしない。

 

「ま、度々別の拠点に放り込まれることもあるけれど最初に来る場所としては良いんじゃないかな。即死はしないだろうし」

「そ、即死ですか……」

 

 はははと笑いながら説明する上官に冷や汗を掻きつつ、やはり戦場というものは恐ろしいモノだと再度認識する。

 

「それじゃあ取り敢えず、食堂にでも行こうか。腹減っただろ」

 

 確かに、朝からずっと食べてないしそろそろいい時間だ。

 

 食堂に向かいつつ、廊下を歩く。窓から日差しが適度に差し込み、俺の考えていた戦場の基地というイメージからは少しだけ離れている。もっとこう、暗くて、生活感が無い物を想像していた。

 

 到着し、中に入る。流石に案内役は慣れたもので、すらすら注文している。メニューはあるにはあるが、やはり所詮基地の物なのだろうか。味にはあまり期待できないかもしれない。

 

 定食を注文し、出てくるまで待つ。

 

 その間にもう少し話を聞こうとして――食堂の一角に、目が行った。

 

 暗い。物理的にではなく、空気が。重たい。あの場所だけ、空気が死んでいるというか、なんというか。

 

「……あの、すみません。あそこは……」

「ん? あぁ、先生(・・)か」

先生(・・)……?」

「こっちが勝手に呼んでるだけだけどね。……前は、もう少しまともだったんだけどな」

 

 白い頭に、死んだような顔つき。まるで死人と言われても納得できる、そういう領域。溜息をつきながら、飯を食らう。横に紙を置き、一本しかない腕を器用に使いまわしパラパラと捲りながら咀嚼する。

 

「大分前、それこそ一年くらい前(・・・・・・)かな。あの頃はまだ三人で、あの人自体もまだ奴隷兵士だったんだけど」

「奴隷、兵士……」

「そう。あの人出身が別の国だから、攫われてきたんだよ」

 

 愕然とする。存在は知っていたが、まさかこんなにも早く目にするとは思っていなかった。

 

「先生と、もう一人少女が居た。そして国の元階級持ちとのトリオだったんだけど……ま、色々あってね。変わっちゃったんだ」

 

 押せば折れそうな、叩けば潰れそうな。頼りないその姿を見て、何故先生と呼ぶのかが気になる。

 

「ああ、剣の腕が凄まじくてね。斬るという事に関しては多分、この国でもトップクラスだと思うよ。というか他に比肩する様な人居るのか……?」

「剣、ですか」

「うん。気づいたら首斬られてるからね。今はどうなってるんだか……」

 

 それは実力が測れない、という意味なのだろうか。ただ、少なくとも恐ろしさは感じ取れる。戦場に立ったことのない自分ですら、うっすらと感じ取れる。

 

「変な事しない限り問題ないと思うよ。前に絡んだ人がぶった斬られたから気を付けとかないと」

「……もしかして、生身で?」

「流石にトリオン体だったよ。でもそれ以来、誰も近寄らなくなったかな……」

 

 少しだけ悲しそうに言う上官に、何とも言えない気持ちになった。

 

 ガタリ、音が鳴る。先程の、先生と呼ばれた男性がゆっくりと立ち上がりこちらへ向かってくる。

 

 脳に警笛が鳴り響く。こっちに対して向けられてる物でも何でもないのに、感じる。わかる。今こっちに向かってきているのは、濃密な死だと。

 

 薄っすらと汗をかき始め、無意識に手を握る。ぎゅっと力が入り込み、爪が食い込む。死ぬ。間違いなくここで死ぬ。

 

 足が震えるのが感じ取れる。嫌だ、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 脚が、腕が、首が斬られる。その未来を幻視し、更に汗が噴き出る。

 

 ゆっくりと、食器の乗ったトレーを持って歩いてくるその人を見て更に恐怖する。明確に、理解する。

 

 息が苦しい。焦点が定まらない。

 

 死ぬ、というのは。

 

 死というのは。ここまで恐ろしいモノか。

 

 助けて、誰か助け――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、目が覚めたら見知らぬ部屋に寝かされていた。あのまま倒れて、医務室に運び込まれたらしい。

 

 ……確かに今思えば、斬られるなんて事は無かったと思う。

 

 

 だけど。

 

 

 首を斬られる、と感じたこの感覚は正しい物だと思う。

 

 人間として、生物として。

 

 

 命の危険を感じ取ったのは、間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 怠い。剣を振り斬撃を飛ばしながら、ボソボソ呟く。

 

 怠い。重い。面倒くさい。もう、生きてるのが面倒くさい。

 

 死ね、死ねよ。トリオン兵如きが今更出てきてどうする。

 

 赤い斬撃を伸ばし、トリオン兵全てのトリオンを吸収し稼働できなくさせる。一体吸い取り更に枝分かれさせ次のトリオン兵、そして更に伸ばし――繰り返す。戦場を覆っていた白いトリオン兵は色を失い、ガラクタとなって転がる。

 

 失せろ。お前らに興味は無い。どうでもいい。邪魔だ。邪魔なだけだ。

 

 先程まで劣勢だった戦場が、一瞬で形勢逆転する。ああ、見慣れたものだ。押される味方も、押し返すこの光景も。

 

 

 こんな事をしている暇は無いんだ。もっと、もっと探さないと。中枢まで潜り込まないと。浅い部分の情報だけじゃ、何も解決できなかった。

 

 一番必要なトリガーの作成方法や、黒トリガーについての情報なんて一つも無かった。トリオンについてはある程度知れたが、それだけだ。

 

 足りてない。足りてないんだ。まだ。

 

 

「今回も助かったよ。ありがとう」

 

 

 次はどこにする。基地から繋がれる場所には粗方探った。なら、残ってるのは。

 

 国の中枢しか――

 

 

 

「――オイ」

 

 

 

 ……ああ? 邪魔だ。剣を振り、首を切断する。何の抵抗もなくするりと斬ったその首の行方を追う事もなく、踵を返す。

 

 思考を邪魔された。ああ、イライラする。クソが、消え失せろ。

 

 

 

 

 

 ――瞬間、腹を突き破り黒い刃が突き抜けてくる。

 

 ハァ、やかましいな。後ろを振り向き、何が起きたかを確認する。

 

 

 

「ハッ、(サル)が。舐めた態度取ってるからそうなんだよ」

 

 

 

 どうやらこいつも同類らしい。斬った筈の首が元通りになっている。ああ、そうか。

 

 

 なら、死ぬまで斬ろう。

 

 

 刃を引き抜かれ、血がボタボタと零れる。気にせず剣を振り、再度首を切断する。そして、そのままでは終わらせない。

 

 首を斬り転がり落ちる頭を両断し、両腕を切断。胴体と下半身を分け、更に分割する。どうせ再生系だろう、ならば殺す方法を見つけるまで殺す。

 

 バラバラになった身体がそれぞれゴポリと音を立て、鋭い刃となって襲ってくる。

 

 捌ける分は捌いて、捌けない分はそのまま喰らう。致命傷だけ避ければいい。グサグサと体中に突き刺さる刃を気にせず、思考する。どうせトリオンで構成されているんだから、吸収してしまえば終わりだ。

 

 ああ、次はそうしよう。斬るのすら面倒だ。

 

 トリオンを吸収して、トリオン体を維持できないようにすればいい。

 

 血が抜けていき、薄れていく。視界の端で、身体を構成していく姿を見て理解する。ああ、そういうことか。

 

 

 ならいい。次は殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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