ワールドリワインド   作:恒例行事

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節目Ⅱ

 ■■■

 

「――オイ」

 

 その声に合わせ、剣を振る。背後にいる黒いマントで身体を隠した野郎の首を切断し、そのまま赤い斬撃を放つ。

 

 顔に斬撃を当て、そのまま枝分かれさせ身体に突き刺しまくる。トリオンを吸収し、トリオン体として機能できないようにする。

 

 吸収する度に脈打つ斬撃(・・)を見ながら、トリオンを漏らすことなく吸われ続ける敵を見る。

 

 するとその場でぐにゃりと形を崩し、液体となってその場からずれる。横に移動し、斬撃の範囲から避けるその姿を捉えながら斬撃を元に戻す。

 

 

「チッ……やり辛ぇな」

 

 

 液体で身体を作り直し、再度こちらに構える。ああ、面倒だ。一瞬で終わってくれれば楽だったのに。

 

 舌打ちして、斬る。斬撃を飛ばし、もう一度吸収するために斬りこむ。

 

 液体化し、斬撃の当たるその場所だけピンポイントに避けられる。ムカつく、面倒くさい。黙って死ね。

 

 

「ハッ、雑魚が――何度も見てりゃ避けれんだよ」

 

 

 液体をそのまま伸ばし、斬撃が届かないまま刃を放ってくる。その刃の軌道を読み、足場にして接近する。遠距離の斬撃が通用しないならば接近して斬る。

 

 次々と生まれてくる刃をそのまま足場にする。地面から伸びる刃、空気中から伸びてくる刃、その二つを交互に足場にする。

 

 どんどん狭くなっていき、皮膚を斬られるが問題は無い。毒が塗っている訳でもないし、死んでもやり直せばいい。

 

 剣を振り、届かせる。物理的には届かない距離だが、伸ばせばいい。

 

 刃と刃の間、ほんの少しの隙間を狙って伸ばす。真っ直ぐ突き進む赤い斬撃の軌跡を目に入れつつ、体を捻り刃を潜り抜ける。

 

 一振りで刃を破壊する為に、その場で回転する。足に力を込め、思いっきり蹴り上げる。その反動でくるりと回転し刃に向かって剣を振る。

 

 バキバキと壊れていく刃を見つつ、敵の方向を見てみると奴もまた移動して回避している。

 

 地面に着地し、赤い斬撃も回避されたことを見て更に苛立つ。面倒臭い奴だ。さっさと死ね。

 

 

「チッ……めんどくせぇ奴だ。生身の癖にトリオン体についてくるとか頭おかしいんじゃねーのか……?」

 

 

 周りの砕け散った破片がゴポリと音を立てて奴の方向に向かっていく。面倒臭い。ただただ面倒臭い。

 

 全身貫いて駄目なら、細切れになるまで刻んでやろう。そうしてゆっくり全身からトリオンを吸収すれば良い。

 

 剣を振り、黒い斬撃を放つ。刃で防御しようとするが、残念ながらこの斬撃は切れ味特化なんだ。スパスパ斬り裂き、奴の腕を切断する。そのまま元に戻し、再度振るう。

 

 今度は首を斬り落とす。そのつもりで剣を振るがそれは回避される。イライラする。苛立つ。

 

 

「――何手こずってるのかしら」

 

 

 胸から黒い何かが突き出てくる。この感じだとさっきまでの刃では無いだろうし、新手か。

 

 そのまま抜けて血が溢れ出るが、特に気にしない。それよりも新手の正体と、何処にいるのかを見なければ。

 

 

「ッチ……別に手こずってねぇよ。俺を雑魚と一緒にすんな」

「いい勝負してるように見えたけど?」

「ああ? 殺すぞ」

 

 

 頭に角が生えた女――ああ、よく見ると二人とも黒い角が生えてる。成る程、遂にこういう変な奴が現れるようになったか。

 

 

「それにしても……本当に生身なのね」

「そのくせ身体能力はトリオン体と差がねぇ。こんなトリオン体すら作れねぇ雑魚が……」

「でも黒トリガーらしい反応はあったわ。トリオン量はそれなりにあるはずだけど」

 

 

 ああ、喧しいな――……喋るなよ。殺す。今すぐ殺してやる。邪魔だ。お前らの全てが、存在が鬱陶しい。

 

 お前らと遊んでる暇はないんだ。やらなきゃいけないことがある。この国の中枢に潜り込んで、情報を探さなきゃいけない。構ってる暇はない。

 

 

「……来るわ。ヴィザ翁が来れるまで大体十分って所かしら」

「ハッ、そんだけありゃ十分だ。それまでにぶっ殺してやるよ」

 

 

 失せろ、失せろよ――死ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ☆

 

 

 赤い軌跡が奔る。地を這い空を駆け、幾つにも枝分かれして奔る。まるで斑模様みたいに空間そのものを埋め尽くしていく。

 

 相対する二つの人型は、それぞれの手段を用いる。

 

 一人は液体にも気体にもなれる対人最強クラスのトリガーを。

 

 一人はワープゲートを作り出し、縦横無尽に戦場を支配するトリガーを。

 

 

「時間を稼いで頂戴。そうね……二十秒でどうかしら?」

「舐めんなクソが、稼ぐどころか――俺が始末してやる」

 

 

 赤い軌跡に対し、黒い刃がグワリと地面から発生し伸びる。その数は膨大、視界を埋め尽くすと言っても過言ではない程。

 

 黒と赤が衝突してその場でぶつかり合う――ことは無く、黒い刃が赤い軌跡を貫き進む。

 

 赤の軌跡を放った男はその場から退避しようと後ろに跳ぼうとするが、その瞬間背後から伸びてきた黒く細長い何かを察知し剣を後方に振る。

 

 

「残念、本命はこっちなの」

 

 

 背後から迫りくる刃を避ける為に、動こうとする男の足に女の放った攻撃が刺さる。黒い細長いソレは鋭く、容易く肉を突き破り貫通する。通常であれば痛みで動けない傷だが――男は気にせず走る。

 

 走りながら、横にくるりと一回転し剣を振る。黒く、闇と形容しても差し支えない程暗い色が真っ直ぐ刻まれていく。刃を突き抜け、その先に居る男に突き刺さる。

 

「だからよ――無駄だって言ってんだろうがぁ!」

 

 斬られた場所が、再生していく。切断された部位と本体がくっつき何事も無かったかのように元に戻る。

 

 だが、その刹那に刃を超えて上空から赤い軌跡が降り注ぐ。

 

「チッ……猿の一つ覚えかよ、邪魔くせぇ!」

 

 再度刃を生成し、そちらにリソースを割く。勢いよく上に広がっていく刃を見て満足げに笑い、高らかに言う。

 

「テメェのその赤いのは、トリオンを吸収する効果だ。そしてトリオンならほぼ何でも斬れる――だが、物理的なものは斬れねぇ」

 

 ぱらり、と手に握った土を地面に落とす。

 

 

「ちょっと混ぜただけでこれだ。そんなゴミトリガー(・・・・・)で何ができ」

 

 

 ――スパリと首が落ちる。気が付けば伸びていた黒い斬撃に首を落とされるが、再生する。

 

 

「ハッ、喰らわねーよ雑」

黙れよ

 

 

 ピクリと反応する。後ろに対して刃を展開するが、既に遅い。次の瞬間に身体を五分割され、更に刻まれる。暇なく一ミリの隙も無く。

 

「手間がかかる……!」

死ね

 

 背後から再度蜂の巣にしようとゲートを展開していた女は、男の黒い斬撃によって腕を真っ二つに叩き落とされる。

 

 

死ねよ。死ね、今すぐ死ね。カスが。今すぐだ。死ね。消えろ

 

 

 ブツブツと、何かを呟き続けながら斬る。

 

 黒い刃を放っていた男の身体を斬り刻み――最早斬られていない場所は存在しない。

 

 ドン、と大きな音を立てて煙幕を発生させる男に対し更に剣を振る。ヒュンっという音と共にその場で手応えがない事を確認し再度周りを見渡す。

 

 

「……冗談はやめて欲しいわね。エネドラ」

「チッ……悪ぃな」

 

 

 声を聞き、その方向へと放つ。黒く、暗い色が刻まれ煙幕を掻き分けて進んでいく。振り切ったその姿のまま、後ろに軽くステップを踏む。

 

 横から飛び出てきた自分の攻撃を見て、晴れてきた煙幕の先を見る。先程までのマント姿とは違い、ただの服を纏った黒い角の生えた男と片腕を斬り落とされ断面を抑えている角の生えた女。

 

 

「……誰が、何だって?」

 

 

 ゆらりと、不気味に動く。俯きながら、少しずつ歩き出す。

 

 

「おい。何が、クソトリガーだって?」

 

 

 ふらふらと、今にも倒れそうな足取りで歩く。反撃に繰り出されるワープゲート越しの攻撃を適当に捌き、更に続く。

 

 

「……ああ、思い出した。そういえば、元々お前みたいな奴の、所為だったな」

 

 

 顔を上げ、はっきりと二人の事を見る。青白く、全体的に白い印象が感じ取れるその風貌は不気味に、悍ましく受け取れる。

 

 

「なあ。いつも、いつもいつも、いつもいつもいつも――……いつだって、お前らみたいな奴が。俺たちの邪魔をする。何でだ。何でなんだ」

 

 

 吐き出すように言う男に対し、二人は何も答えない。二人が行えるのは、この場で死なないために最大限の注意を払い備える事である。

 

 

「いい加減にしろよ。俺達が何をしたってんだ。何もしてねぇ。生きようと、必死だっただけなのに。こんな訳の分からない場所に連れてこられて、頑張って、必死に、必死に――……やって、来たのに」

 

 

 ギシリ、と剣を握り睨む。

 

「……防げる確証はないわ」

「チッ、クソが……」

 

 

 

 

「なぁ、頼むからもう――死んでくれ」

 

 

 剣を振る。黒い軌跡が真っ直ぐ伸びて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサリ、と音が鳴る。

 

 ワープゲートを用意していた女の目の前で突如止まった黒い軌跡に困惑しつつ、目の前を見る。

 

「……倒れたの?」

「……そういや生身だったな」

 

 血を流して倒れた男を見て、若干安堵の息を吐く。

 

「……一応、ハイレイン隊長に聞いてみるわ。目標の一つである訳だし(・・・・・・・・・・・)

 

 大きめのワープゲートを作り、別の場所へと繋ぐ。

 

 

「それに、貴方も彼を雑魚とは言い難いでしょう?」

「……チッ」

 

 

 さっさと戻せと言わんばかりに舌打ちをする男を見てクスリと笑いつつ、女がワープゲートの先へ消えていく。それに男も付いて行き――やがてその場には、倒れた男のみが残った。

 

 

 

 

 


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