ワールドリワインド   作:恒例行事

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神の国Ⅶ

ハァ、と息を吐く。

 

吸って吐いて、吸って、吐いて。呼吸を合わせる。

 

右手に握る感覚に懐かしく感じながら、構える。構えと言っても我流、そんな大層なものではない。腕を降ろし、いつでもどうにでも対応できるようにする。腕の振りが遅れればその分不利になるが、身体全体を使用する。

 

目を閉じて、音に集中する。風が草を掻き分ける音を聞いて、心を落ち着かせる。

 

「……どうかしら。何か違和感はある?」

 

いいや、無い。はじめて握る物だけど、どこか懐かしい。一振り、下から上に斬り上げる。空を斬る音を聞き、そこまで調子が落ちていないことを確かめる。

 

そのまま一度、更にもう一度と振る。

 

「問題なさそうね」

 

ああ、と答えてそのまま目を開く。地面を見れば一面緑に包まれゆらゆらと揺れ、自然に静かな空気にしてくれる。

 

身体を動かすのも久しぶりだから、ある程度身体を解さなければ。トレーニングはやっていたが、使えていない部位は勿論ある。そういった場所を動かす方法――は、正直分かってない。俺は専門家じゃない。

 

構造で理解できてるのは、斬れば死ぬ場所とかそんな感じだ。自分で必要だと思えなかったところの知識は当然少ない。

 

そもそも痛みとか無視して無理やり動かせるから、気にしてすらなかったとも言う。それが原因で死んだら巻き戻るだけ。

 

ああ、死んだのか。なら何故死んだのか。原因はこれか。なら別の手段を試そう。

 

このサイクルだ。……守る筈の人は、守れなかったけど。もっと別の方法があったんじゃないか。他にやりようがあったんじゃないか。そうやって思考の沼に嵌まることは何度でもあった。

 

そうやって悔いて悔いて悔やんで悔やんで、諦めきれなくて――でも、だからこそ覚えてることだってある。悔やむ事は、悪い事じゃない。

 

「準備が良かったら呼んで来るけれど、どう?」

 

思考を中断し、ミラの問いに問題ないと答える。

 

トリガーを使用して穴を開き、何処かに向かっていったミラを見送って切り替える。まぁ模擬戦だ。そんなに気を張る必要はない――きっと。

 

風が吹き、びゅうびゅう音がする。ああ、この音も久しぶりだ。

 

「――お待たせ」

 

ワープホールからぬるりとミラが出てくる。

 

今回の模擬戦を行うに当たって、念には念を入れてヒュースはトリオン体、俺はそのままで頼んでいる。ヒュースには舐めているのかと文句を言われたが、仕方ない。生身同士での斬り合いなんて随分久しぶりなんだ。

 

彼女との斬り合いは絶対回避されるしこっちもなんとなくでわかるから勝負にならないし、アレクセイの時はトリオン体になって貰ってた……筈だ。

 

生身を斬るなんて、それこそ最後のとどめを刺す時位しかやってない。だから不安だ。

 

「……一つ確認しておく」

 

ミラと共に現れたヒュースがマントを靡かせ問いかけてくる。

 

「加減はしない。貴様の剣の腕が、恐らくオレより上なのはわかっている」

 

だからこそ、トリオン体で来いと言ったのだろうと続けて更に言葉を紡ぐ。

 

「それに生身で黒トリガー二人を相手にして戦えるという事は既に証明されている。……よく考えなくても、わかる話だ。生身で猛獣に戦いを挑めば大半の生物は勝てない、という事」

 

剣を抜き、構える。向こうも気合十分で今にも飛びかかってきそうな空気を醸し出している。

 

ハァ、と一拍タイミングを計る意味を兼ねて呼吸をする。瞼を閉じて音に集中し――目の前のヒュースが動く気配を察知する。

 

服のこすれる音、呼吸の音、剣に力を入れる音。ありとあらゆる音を聞く。

 

ここまで集中するのは随分と久しぶりだ。記憶の限りでは、本当に数少ない位――ああ、懐かしい。

 

ヒュースの動く音を聞き、頭の中で考えるより早く体が動く。

 

 

これまでの経験――何十何百何千、数え切れないほどの死の感覚。それが身体に、脳に染み付いてる。

 

 

死ぬ、という感覚を身で感じるより先に反射で動ける。

 

ヒュ、と風を切る音が真っ直ぐ突き抜けてくるのを感じ取り首を捻る。真横から風が流れてくるのを感じて更に身体ごと捻り横薙ぎされる剣を回避する。

 

不安定な姿勢のまま足に力を込めてその場から飛びヒュースの顔を蹴り飛ばす。上手く当たった衝撃が伝わり、自分の身体から勢いが失われていくのを感じ着地する為に剣を地面に突き刺す。

 

突き刺した剣を起点にぐるりと回って着地、思ったより身体――というより勘の良さ。

 

それはまだまだ健在だった。少し安心する。

 

 

「……本当に人間か?」

 

 

相変わらず戦った連中に人間かと問われるが、いい加減慣れた。

 

剣を引き抜き、再度構える。

 

「……問題無さそうね」

 

ああ、と答えヒュースに相対する。

 

息切れとか、そういう具合も確かめなければならない。ヒュースには悪いが、まだ付き合ってもらおう。

 

 

 

「…………もう少ししっかり考えておくべきだったか」

 

 

 

自嘲気味に笑い剣を構えるヒュースに、既視感を覚え頭痛を感じるがそれを抑えて斬りかかる。

 

人と研磨するのは――何故か、少しだけ楽しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

少し離れた草原で、剣で斬り合う二人を見ながら顎に手を当てる老人――ヴィザ。

 

何かを思案するような仕草で悩まし気な表情を見せ、片方の手で杖を持っている。

 

「別に侮っているつもりはありませんでしたが――成程。こればかりはハイレイン殿の慧眼だ」

 

ふ、と笑いながら呟く。

 

 

星の杖(オルガノン)を持ち出してまで警戒しろとは、言い過ぎかと思いましたが……そう思わせるだけの実力は保有している」

 

 

そう言いながら笑顔で見つめ続けるヴィザの真横に、ミラの作ったワープホールが発生する。

 

 

「どうだヴィザ翁、剣鬼の調子は」

「おや、ランバネイン殿」

 

 

赤い髪に角――ランバネインがぬるりと出てくる。

 

「ほう、これは――……成程。噂通り、というか話に聞くよりアレだな」

「流石に見たことがありませんな」

 

生身でトリオン体相手に立ち回って、ダメージが与えられないのに殴ったり蹴ったり斬ったりしてるのを遠めに捉えて会話を続ける。

 

「ヒュースが可哀想に見えて来たな」

「トリオン体だから、生身相手に加減する等と言う甘えた考えは既に捨てているでしょうが――相手が悪い、ですな」

 

これが仮に戦場ならば、すでに何度も死んでいる。

 

「まぁ、そうならないための模擬戦だからヒュース殿の修練と剣鬼殿の勘を取り戻す為だと思えば良い事でしょう。生身であそこまで極まった人物は、流石に見たことがない」

「ほう、ヴィザ翁ですら見たことがないか」

 

興味津々、と言った様子で二人を見つめるランバネイン。

 

 

「俺では近づかれたらひとたまりもないな!」

 

 

ガハハと豪快に笑い、マントをひらりと翻す。

 

「全く、トリオン体になってからじゃないと見物を許可しないとはずいぶん慎重だと思ったが――これなら納得だ」

「もう行かれるので?」

「ああ。どうせこれから何度も顔を合わせるだろうからな」

 

トリガーを通じてミラに連絡をし、ワープホールを作ってもらいそのままその場から立ち去る。

 

まだ遠くで斬り合っている二人を見て、再度ヴィザが笑う。

 

 

「若い世代が着々と育つのを見ると――老婆心が疼く」

 

 

手に持った杖を両手持ちに変え、正面に構える。

 

 

「やれやれ、これからが楽しみだ」

 

 

一層笑みを深くして、その場から離れることなく見続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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