ワールドリワインド   作:恒例行事

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神の国Ⅷ

 ふわりと、身体が浮いている様な感覚。

 

 何時もの様な鈍く押さえつけるような重さは無く、常に頭に響く痛みも無い。

 

 視界は闇に包まれているから、自分がどういう状態なのかは不明だが――ああ、夢かと理解する。

 

 微かに聞こえる声を頼りに、その方向を見る。身体の向きが変わった感覚は無いが、夢の中なのだから少しは好き勝手させてくれるだろう。

 

 

『――っ……みは……人……?』

 

 

 聞き覚えのある、言葉。何時の日かアレクセイに言われた言葉だろうか。

 

 懐かしい気持ちになり、そして即座に思い出す。

 

 忘れるな。俺は、二人を元に戻すんだ。この国で幸せに暮らすのが目的じゃない。充実した日々を送るのが目的じゃない。

 

 二人を戻さないといけないんだ。絶対に、何があっても。

 

 

 

 

 

 

 

『…………■■■』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 トントン、とドアがノックされる。

 

 その音で目を覚まし、何か夢を見ていたような気がするが――思い出せない。

 

 まあ、所詮夢だしどうだっていい。気にすることじゃない。

 

 入って問題ないという旨の回答をして寝床から身を起こす。相変わらず寝てかく汗の量が多くて自分でも驚くが、まあいいだろう。

 

 

「おはよう。調子はどう?」

 

 

 最早来ることが当たり前になりつつあるミラにいつも通りだと答え頭を抑える。

 

 深く空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

 こうすると、少しだけ頭痛が和らぐ。

 

 常に襲ってくる頭痛にも慣れてはいるが、ないなら無いでいい。そっちの方が気にならない。切り傷とかそういうのは感じない癖に何時までも響く頭痛にイラつきつつ着替える為に立ち上がる。

 

 コンコン、とドアがノックされる。エリンはノックしないし、いつも来るミラは既にいる。残る候補としてはヴィザかエネドラだが――ヴィザなら声をかけてくるだろうしエネドラの性格上しない。

 

 つまり――ヒュースか。

 

 

「……起きていたか」

 

 

 ドアを少しだけ開き、顔を隙間から覗かせてきた。……どこか幼いその表情が誰かと被って見え、頭痛が激しくなるが一瞬眉を顰めて堪える。

 

「む、どうかしたか」

 

 いや、何でもない。それより何の用だ。

 

「……まぁいい。いや、ちょっとした頼みごとがあって来た」

 

 俺の寝床まで歩みを進めて来たヒュースは、置いてある椅子に座る。

 

「これから定期的にオレと模擬戦して欲しい。条件は先日と同じで構わない」

 

 ……それは、こっちにとっても好都合だ。勿論構わない。

 

「ふ、助かる。……少し剣から離れただけで、まさかこうも変わるとはな」

 

 言葉の意味を察するに、最近あまり剣を使っていなかったからリハビリも兼ねてという事だろうか。

 

「まぁ、そうそう剣を使うようなことにはならないと思うがな。オレの使うトリガー――蝶の楯(ランビリス)は遠近中全て戦える万能型になっている」

 

 そう言いながら待機状態のトリガーをチャラリ、と手の中で鳴らす。

 

「……一緒に戦う場合、相性は悪くない。お前の黒トリガーがどんな効果なのか耳にはしている」

 

 その機会があれば教えよう、と言いチラリとミラに目線を送って話を続ける。

 

「その、なんだ。此間はすまなかったな。これから改めて、よろしく頼む」

 

 くるりと身を翻し、ドアへと歩んでいくヒュースを見送り俺自身も活動を再開する。ヒュースとの模擬戦で自分の技量はある程度理解できた、後はこれを仕上げて自分の目的――黒トリガーの情報収集を開始する。

 

 裏切ろうって訳じゃ無い、あくまで俺の目的の為に利用するだけだ。

 

 だから、悪い事じゃない。全然、良い筈だ。ああ。二人の為なんだから――そうに決まってる。

 

 『――……。……で――……か』

 

 立ち上がりながら、考える。俺の今の実力をアフトクラトル基準で測ってみよう。

 

 まず一番上に持ってくる人物――個人的にだが、ここのメンバーは全員実力が高い。

 

 黒トリガー使いの時点で実力があるのは当然で、その上それに平然と同行できる最新型のトリガー使い。

 

 単体で見れば一番手強い――……現時点で戦ったことは無いが、恐らくヴィザだろうか。底が見えない、壁の厚みが超えられそうにもない――あそこまで老練したトリガー使いに出会ったことは無かった。

 

 基本若者がトリガー使いとして中心を担うのが当たり前――というより、年を取ればとるほどトリオン能力は劣化していく。それは既に理解している。

 

 その中で、どれだけ使い成長させ続けたかによってトリオン能力の衰弱という物は決まる。つまり、この段階で黒トリガー使いであるヴィザは少なくとも衰弱することが無い位には闘い続けているという事。

 

 俺のようなループでもしてるなら別だが、その線は無いだろう。俺の惨状とはあまりにも違いすぎる。

 

 つまり純正の実力のみで生き残っている――という仮説。

 

 他にもいくつかヴィザが一番実力者だろう、と思う材料はあるがカット。現時点でトップはヴィザで問題ないだろう。

 

 その下はそれなりに平行線だが、順当に見るならばエネドラだろうか。エリンが前に紹介した時にもう一人いた筈だが、忘れた。だからエネドラだ。

 

 単純に黒トリガーとしての性能と扱う技量がマッチしている。後はあの慢心癖が無ければもっと強いと思うが――あれは気性だ。簡単に治せるようなものでもないし、治してほしいとも思わない。簡単に言えばどうでもいい。

 

 そして次点にヒュース。遠近中をこなせるという点でミラより戦闘面でのバリエーションは広い。恐らく二人とも連携で光るタイプのトリガーで間違いないだろう。

 

 ミラと誰かが組めば、それだけでかなり戦いづらくなる。現に俺はやり辛かった。

 

 服を支給されたものに着替え、腰に剣を付ける。ホルダーを付けてくれたのは有難い、これで手で持つ必要がなくなる。

 

 剣を揺らし、懐かしい感触に口角が上がるのを自分で理解する。ああ、俺は思っていたより待ち望んでいたらしい。

 

 俺の今の実力は――決してヴィザには届かず、それでも他の連中に負ける気はしない。いつか届かせて見せる。

 

 二人の存在証明を、俺が絶対に――叶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 食堂へ向かう廊下の途中、偶然エネドラに遭遇した。いつも通りキレ気味の表情と仕草を見せていることから、やはりこの気性を治すのは無理だなと再度思いつつ歩く。

 

「オイ」

 

 呼び止められたので、後ろに振り向く。

 

「……相変わらず死んだ目してやがる。まあいい。テメェ、今度俺と戦え」

 

 ……模擬戦、という事だろうか。今後エネドラの様な奴に遭遇しないとも――いや、既に遭遇してるな。エネドラが、二人目だ。

 

 問題ない、という事を伝えて食堂に向かうために身を翻す。

 

 

 

「――次戦り合う時は、テメェも黒トリガー使え」

 

 

 

 ピタリ、と歩む足を止める。

 

 

「条件はあん時と同じ、俺とお前で一対一だ」

 

 

 互いにある程度初見殺しの戦法――一度対策が出来てからが本番、と言うのもわからなくはない。実際、何度かあの頃にやった。一度戦って手を抜いて、相手が勝てると慢心したところを容赦なく踏み潰す。

 

 こうすることで、相手の指揮系統に罅を入れられる。自分たちの作戦が通用しない、実力が違いすぎる――勝てないと。そういう風に戦う意思そのものを折る。

 

 そもそも俺が一番最初から戦場に出ることは殆どなかった。それこそエネドラとミラを迎え撃ったのが、緊急扱いだったから。

 

 国も流石にこいつらを警戒していたのだろうか――どうでもいい、カット。

 

 構わないと告げ、先程と同じように前から見る。

 

「……次は勝つ。ボコボコにしてやるよ」

 

 そう言いながらどこかへ歩いて行くエネドラの後ろ姿を見送り、改めて食堂へ向かう。

 

 ……何故だろうか。とても、懐かしい気持ちになった。こう、言葉に表すのが難しい。幸せ、とは違う。少しだけ、満たされたような感覚。

 

 互いに模擬戦を行って、実力を高め合い、認め、協力する。

 

 懐かしい。あの二人が居た頃、散々やったことなのに――とてつもなく、愛おしく思える。

 

 相手は全然違うのに。肝心の二人は居ないのに。何故なんだろう。

 

 

「――……あ、れ」

 

 

 ふと、涙が零れ落ちるのを自覚する。一滴、また一滴と左右両目から少しずつ。それに困惑して戸惑いつつ、右手で擦って拭いて行く。

 

 少しで止まり、何だったのだろうかと自分で思う。まぁ、そんなに重要なものではないだろう。切り替えて、再度歩み始める。

 

 

 

 

 

 そういえば――こんな風に味方に話しかけられたのは、いつ以来だったかな。

 

 そんな他愛もない事を、考えながら。

 

 

 

 

 


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