ワールドリワインド   作:恒例行事

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神の国Ⅹ

ブン、と一振り。

 

久しく使われていなかったその感覚を寸分違わず思い出し、呼び覚ます。握る感触は覚えてない、けれど力の入れ方は覚えてる。どれくらいの速度で振って、どれだけの力を入れて。

 

懐かしい――とまでは行かなくても、そういった感覚を感じる。

 

「……貴方、そんな顔出来たのね」

 

――……君、そんな表情も出来るんだな。

 

ズキリ、と頭が痛む。思わず顔を顰めるが、そのままを保つ。

 

自分が女々しくて、少し鬱に感じる。何時までも二人に頼りきりで、お前は進歩なぞしていないと言われているようで。

 

でも、それで構わない。

 

二人に頼りきりで、何が悪い。仲間なんだ、頼ってこそだろう。それこそ忘れてしまうより全然良い。俺は二人のことを忘れたくない。

 

どれだけの時が経っても、記憶に刻んでいたい。

 

「……ごめんなさい。迂闊だったわ」

 

ミラが謝ってくるが、別に気にしていない。こうやってふとした瞬間に言われると、自分の中の記憶から急に思い出せる。

 

ははは、と二人に笑われたのを思い出して哀しくなる。ああやって笑いあった俺たちの姿はもう無くて、二人に全てを託された俺という一人の小さな人間が居るだけ。

 

……だから、こうしてなんとかしようとしてる。

 

「――エネドラから連絡が来たわ。迎えに行ってくる」

 

ヒュ、とゲートを作り消えていったミラを尻目に考える。俺は、何をしているんだろう。二人の為にだとか言っておきながら、戦おうとしてる。

 

信用させるためとか、そんな言い訳はいくらでも出来る――けれど、それは本当なのだろうか。俺は本当に二人の為にと、心の底からそう思えているのだろうか。わからない。自分の感情がわからない。

 

自分の事が把握できない。そもそも俺のこの想いはなんなのだろうか。

 

疑問が疑問を生み、自らの形を保てなくなる。

 

ずんずんと思考の沼に嵌って、抜け出せない。そんな自分を嫌悪して、全身浸かっていく。

 

 

「――切り替えよう」

 

 

声に出して、無理やりリセットする。頭の中で切り替えると念じるより、声に出した方が切り替えやすい。問題点として、声を出すのも辛いと感じる場合が殆どという所。

 

昔の俺は、どんな風だったかな――それも、二人にまた会えればわかるか。

 

 

「……おう、待たせたな」

 

 

ぬるりとゲートから身を乗り出してきたエネドラに対して、そんなに待っていないという旨の事を伝えて剣を握る。

 

ス、と無言でいつもの形に持っていくとエネドラも静かに構えを変えた。前とは違い、マントから手を出して腰辺りで構えている。

 

 

「――ムカつくが、テメェに負けてからずっとあの時の事を考えてた」

 

 

目を細め、思い出すかのような仕草でこちらを睨む。

 

 

「初手で、確殺できる状態だった。別の手を考える必要がないと思う程度にはな」

 

 

そう言いながらハァ、と息を吐き項垂れる。

 

「――だが、殺せなかった」

 

だから――そう続け、語りだそうとした瞬間に違和感に気が付く。手に持った剣が、赤く胎動している。ドクン、ドクンと何かを吸い続け――まるで生きているかのように。

 

 

「――こうすることにした」

 

 

――瞬間、俺の胸の中から刃が飛び出してきた。喉の奥から何かがせりあがってくる不快感を感じつつ、それに逆らわずに勢いを保ったまま吐き出す。

 

多量の赤黒い血を吐き、緑一色だった地面を赤黒く染める。

 

 

 

「――エネドラ!!」

 

 

 

ミラの怒声が聞こえ、そちらを見る。俺の正面に立つエネドラに対し、ミラが横から詰め寄っている。

 

……いい加減目障りになったから、殺しに来たか? なるほど、無くはない。新たな使い手が現れれば俺は必要なくなるから、そう考えるのが一番正しいだろう。

 

次点として、エネドラの暴走。まぁ無くはない話だが、前提として領主がこうなる可能性を考えていなかったという事が出てくる。それほど無能には見えないし、そもそも最初から仲違いさせて殺すなんて面倒なことしないだろう。

 

そうなるとやはり、上で殺すという結論が出ていても可笑しくはない。

 

――やはり、どの国も信用出来たもんじゃないな。少し信じてまたこれか、俺も成長しない。

 

血を吐きながら、二人の様子を伺う。仮にエネドラの暴走だったとしたら、殺すのはまずい。だから、ここは素直に殺されておく。久しぶりに死ぬが――まあいい。減るものでもない。

 

右腕を動かし、力を籠めて思い切り剣を首に突き刺す。

 

赤黒い剣が俺の首を突き抜け、腹の奥から上がってきた血と混ざって大量に吐血する。ゲホ、と咳き込む音と共に地面を赤に染め上げる。

 

 

「――なに、を、してるの……?」

 

 

ミラの呆然とした声が聞こえる。この感じだとミラは今回の件に関与してなさそうだな。わざわざ俺を無力化するなんて手間を使う必要は無いだろうし、殺すつもりなら殺す計画だったのだろう。

 

エネドラの体内への攻撃――トリオンを吸収する剣が反応していたから、恐らくそこに理由はあるのだろう。気体にでもなって、風に流したか……まあ、種さえ割れてしまえば問題ない。

 

そのまま首を切断する様に剣を横に振り抜き、首の皮一枚で繋がっている状態になる。この状態でも死に戻りが発生しないって言うことは、まだ生きている判定か。つくづく人間離れしたな。

 

ズレていく視界の中に、呆然とするミラと怯える様なエネドラを捉えて――どこか、懐かしい様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こうすることにした」

 

――瞬間、大きく息を吐く。身体の中の酸素全てを吐き出す勢いで、全てを出し切る。

 

気体になって俺の身体に侵入しているとすれば、無理やり排出する事である程度軽減出来るはずだ。

 

そのまま無呼吸で剣を振る。半ば居合に近い形での抜刀だが、リーチがこちらは幾らでも伸ばせる。

 

赤い斬撃を飛ばして伸びきるその寸前でスパッと斬れるようには力を調整する。吸い込まれるようにエネドラの首を貫いた斬撃を操作して、さらに周囲に張り巡らせる。

 

 

「ぐ……!」

 

 

苦し紛れに腕を大きく凪ぎ、その手からブレードが飛び出してくるが――これはブラフ。本命は俺の周囲に巡らせたトリオンを利用した不意打ち。

 

こんな正面から叩き潰す、みたいな口調をしておいて不意打ち上等という精神には逆に感心する。これもまた一つの戦い方――ああいや、前の奴も似たような感じだった。案外こういう搦め手を使う奴は荒い口調になりがちなのかもしれない。

 

斬撃を維持したまま、真後ろに思い切り飛ぶ。

 

刹那、俺の元々いた周囲から斬撃が伸びてくる。エネドラが目を見開くのを見て、少しだけ頭痛が引くのを実感する。

 

 

「……テメェ、トリオンの感知でもできるってのか……?」

 

 

身体の至る所に斬撃を突き刺されているエネドラが、呆然と呟く。感知なんざできやしない、ただ異常なまでに勘がいいだけだ。

 

そう告げると、エネドラが有り得ないモノを見たような顔をする。

 

 

「……終わりね。エネドラ、あなたの負けよ」

「……クソッ、タレが……」

 

 

終わりと言うので、取り敢えずここで斬撃を納める。ただしいつでも何かしらの攻撃に対応できるように剣を構えて、目的を理解するまで警戒を続ける。

 

先程まで赤く胎動していた剣が鈍く収まっていくのを見て、本当に納めているのだなと少しずつ理解する。

 

「……チッ、認めてやる。俺じゃテメェに勝てねぇ」

 

睨みつけるような、諦めるような視線をこちらに送ってくる。恨み言、と言うより自分に言い聞かせているという意味合いの方が多いかもしれない。

 

「――けど、それは今だけだ」

 

一層鋭さが増した目からは、叛逆の意図が見て取れる。

 

貴様なんぞに負けてたまるか、俺がお前に負けてたまるか――ひしひしと伝わってくるその感情に、単なる敵意や殺意とは違うものを感じた。

 

……成る程。

 

つまり奴は俺に対して本気の殺意を持って純粋に挑んできていたらしい。それで一度殺されてる身としては何とも言えないが、それだけしないと俺には勝てないと踏んだのだろう。

 

つまりこれはエネドラの暴走――というより、最初からただの模擬戦だった。ただし、死んでも事故という条件が密かについた。

 

本気で俺を殺そうとしていたエネドラに気がついたミラが詰め寄るのを眺めつつ、考え過ぎだったかと自嘲する。そもそも人との関わりなんて、あの二人を除けば殆ど居ない。

 

 

……俺も、少しずつ変わるべきなのだろうか。今の状態で二人に会っても心配されてしまうだろう。

 

こんな俺を人間扱いしてくれた、数少ない仲間なのだから。

 

 

「わーったようるせーな、次はやんねーって言ってんだろ」

「そういう問題ではないでしょう! 生身なのよ?」

 

 

わーわー言い合う二人の姿を見て、どこかとても懐かしい感覚を覚える。二人ともどうでもいい事でわいわい騒いだ記憶がある。

 

懐かしいな。本当に、懐かしい。

 

 

「……何だテメェ、何笑ってんだ」

 

 

エネドラに突っ込まれて、思わず顔に触れる。

 

 

「……いや、何でもないさ」

 

 

僅かに胸の中に灯った、痛みとは別の何かを少し感じながら二人の元へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 


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