ワールドリワインド   作:恒例行事

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神の国XIII

――高い。

 

それに厚い。

 

雲の果てまで届く様な高さに、山の如き厚さ。

 

目の前に相対するその人物から感じるソレは、恐らく勘違いでも何でもないだろう。文字通り【最強】、その称号が相応しい。

 

 

「思っていたより、慎重ですな」

 

 

マントを靡かせ、悠々杖を構える老人――ヴィザ。

 

アフトクラトルでも有数の実力者であり、国宝と謳われる黒トリガーの使い手。

 

 

お前(頂点)相手に……無警戒に行ける程、俺は死にたがり(無知)じゃない」

「ほっほ、そう構えなくとも問題はない。何よりそちらから来ないというのなら――こちらから行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば。ヴィザ翁が貴方に会いたがってたわ」

 

遠征の際、連携を高める為に戦闘時の打ち合わせや訓練を行っていた別れ際にミラがそう言ってきた。

 

「あぁ? 今はここ(アフトクラトル)にいねーんじゃねーのか」

「その筈よ。けれど今日の集まりで伝えなさいって言われてね。申し訳ないけど、私も詳しく聞いたわけじゃないの」

 

特に用事があるわけでもないし断る理由もない。それに、俺自身ヴィザの実力には興味がある。

 

どこへ向かえ、と言っていた?

 

「取り敢えず、前にヒュースと戦ってた場所にと言っていたわ。一応私が送る?」

 

あー……そうだな。頼む。

 

「ん、わかったわ」

 

ギュン、と開くワープホールに歩む。わざわざあの場所を指定するのだ――目的はある程度分かっている。入る直前に足を止めて、少し落ち着く。息を整え目を閉じて集中する。

 

遂に、か。

 

逆にここまで手を出されなかった事に疑問を抱く。ミラとエネドラと戦い、ヒュースと戦い、エリンや他のメンバーと少しずつ理解を示して――少しだけ、馴染めてきた今。

 

ヴィザに俺の目的を知られるわけにはいかない。いや、知られても問題ないのだろう。要するにハイレインまで情報がいかなければいい。

 

目的はなんなのだろうか。俺の実力――は既に分かっているだろう。となると、俺の勘の良さの正体を掴みにきたか?

 

ここで考えても仕方がない。仕方がないが、ある程度考えてしまう。

 

ただで戦いに来るなど意味がない。何か目的があるはずなんだ。

 

……いざとなれば、死に戻ってでも見つけなければ。数人に対して、理解はした。けれど上の人間というのは必ず裏があるものだ。ここまで大きい国なら、尚更。

 

覚悟を決めて、一歩踏み出す。

 

鬼が出るか蛇が出るか――少なくとも、鬼は出てる。ならば出てくるのは決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

鋭く振られた剣を首の動きで回避して、居合の要領で抜刀する。音を置き去りにして振られるその剣を受け流され、隙ができる。

 

その隙を逃さず突いてくるその剣を無理やり上げた脚で撥ねとばす。

 

「――やる……!」

 

大きく後ろに後退したヴィザに対し追撃、跳ね上げた足を地面に思い切り叩きつける。その衝撃が地面を大きく陥没させるが気にしない。若干の姿勢の変化などあってない様なものだ。

 

反発を利用して初動で最高速度の踏み込みを行う。

 

一気に懐まで突撃し、そのまま蹴る。まだ、まだ剣じゃない。この相手に生半可な剣は通用しない。全身全霊、己の全てを賭けて足下に届く。

 

蹴りが当たるが、明らかに軽い手応えに回避されたと舌打ちをする。

 

流石にそう上手くもいくはずも無い、俺の積み重ねよりも多く多くもっと大量の修羅場を潜り抜けてきた男だ。

 

 

「その若さでこの実力――これでまだ成長の兆しもある……」

 

 

楽しそうに呟くヴィザに、老練な相手ほどやり辛い相手は居ないと内心思う。

 

油断しないのだ。彼らは。

 

自らの理解できない領域の天才がいると、知っている。

 

自らの力の届かない領域の実力者がいることを、知っている。

 

自らの格下の決死の一撃が時に数多の強者を屠ることを、知っている。

 

余裕を持つのと油断をするのでは全然違う。引き出しの量が多いから、焦る必要も無いのだ。だから油断しない。余裕を持って冷静に、何処までも合理的に対応することが出来る。ある意味、俺の辿り着く場所とも言える。

 

「剣技がいい」

 

ポツリと呟かれたその言葉を聞き取る。

 

 

「片腕が無いということを感じさせない程身体能力も申し分ない。思考能力もよく鍛えられている、判断力も素晴らしい」

 

 

――瞬間、ゾワリと明確な死を自覚する。

 

自分の勘に従い、身体を思い切り伏せる。

 

ヒュバッ!と大きな音を立てながら自らの真上を剣が通過していくのを見届けて追撃を警戒する。

 

「ほほ、 星の杖(オルガノン)を初見で躱すとは――」

 

ヴィザを中心に、凡そ三本の円軌道が佇んでいる。大きく円を描くのもあれば、ヴィザのすぐ周りにあるのも。

 

そしてその円にそれぞれいくつかの剣が取り付けられ、回転している。

 

 

「やはり、その勘の良さ(・・・・)――……何かがある」

 

 

グア、と急激に広げられた円軌道に対して一瞬で目を通す。

 

通り抜けられる場所、安全圏を探す。一番接近してきている円軌道の隙間を縫って進んで、その先に安全地帯が存在しない。

 

となると――下がるしかない。

 

後ろに跳び、距離を取る。

 

「それは悪手だ」

 

再度大きく広げられた円軌道から剣が伸びてくる。――が、それは読んでいた。

 

同じトリオンで生成された円軌道を斬れない筈がない。このタイミング、一本だけ先に回ってくる剣に狙いを定める。

 

居合の形に構え直してインパクトのタイミングを調整する。感覚的にどのタイミングで斬ればうまく行く、とかそういうのはある程度理解している。

 

下から上へ、全力の力を籠めて振る。

 

 

――だが、それは無駄に終わる。

 

円軌道を行なっていた剣が、唐突に速度を遅くした。対応出来るはずもなく、無様に空振りして空いた胴体に剣が突き刺さる――寸前で、止められた。

 

 

「……ふむ。ここまでですかな」

 

 

そう言って剣を納めるヴィザに、思わず困惑する。

 

「ああ、これは申し訳ない。此方としても貴方と本気で戦いたいのですが――少々時期がよろしく無い」

 

遠征を控え、戦力の休息と鍛錬をそれなりに計画して行い始めている時期。俺は正直寝てエネルギーさえ補給できれば幾らでも活動出来るが、他のメンバーはそうじゃない。

 

「次の遠征で共に戦う、その信頼を確かめるためとでも思って頂きたい」

 

ほほ、と笑うヴィザが何かを隠しているのはわかる。わかるが、それに対してどういうアクションも取れない。

 

 

――負けた。完膚無きまでに、完全に負けた。

 

 

殺しにすら来てなかった。あくまで俺が対応出来るギリギリを突いて、如何にも全力であると見せかけていだだけ。黒トリガーを解放されただけでこれだ。

 

 

――……強い。今の俺より、これまで戦ってきた相手より。

 

 

全部総合してもこの高みには登れない。今の俺では、勝てない。

 

直接的に殺しに来るような人間ではない――そこが唯一の救いか。老練で熟成された経験とは、これ程のものか。

 

情けない。やはり俺一人ではこの程度。二人さえ、二人さえいればもっともっとやれるのに。いや、俺が居なくたって二人なら。

 

 

「…………さて、私は戻る事にします。剣鬼殿もお早めに」

 

 

歩いていくヴィザの背中を見届けて、思わず息を吐く。

 

ここで俺の弱さが露呈した。圧倒的な格上で、殺意をあまり持たない相手に対して俺は弱い。自殺できれば問題ないが完全に封殺されていると――勝てない。

 

自力を底上げするしかないが、それが一番難しい。

 

今はまだ、敵ではない。その事に安心する。

 

いつか倒さねばならん時が来る――そんな予感を感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツカツカと音を立てながら、ヴィザは廊下を歩く。

 

今回、自らの上司であるハイレインに「剣鬼の秘密」を暴く、もしくは感じ取って来いと命令され戦ってきた。

 

戦闘時の異常な勘の良さ、 確実に彼はそれを感じ取っている。それでいて利用している。

 

やはりトリオン能力の副作用なのか――それとも。

 

「根っからの戦闘狂――いや、修羅か……」

 

こちらとしては今回殺す気は一切無かった。これまでのヒュース、エネドラ両名は毎度殺すつもりで戦っているという。ならば今回はある程度余力を残して戦おう――そういうつもりであった。

 

普通の攻撃に関しては、実力は申し分ない。だが、即死に繋がるような攻撃は今回対応できていなかった。

 

これまでありとあらゆる初見殺しに対応して来たはずなのに。

 

「そこに何かがある……まぁ、それがわかっただけでも十分ですかな」

 

部下を預かるという立場上、疑いから始めなければならないハイレインとは違いヴィザにはまだ余裕がある。

 

ほほ、と笑いながら歩き続ける。

 

 

 

その顔には、笑みが浮かんでいた。


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