ワールドリワインド   作:恒例行事

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遠征I

――狭い。

 

シンプルに狭い。

 

部屋の大きさはそこまででもないが、この密室空間に人間が七人は多すぎる。

 

「……狭いなオイ」

「フン、こっちだって狭いんだ。文句ばかり言うな」

「いや狭いもんは狭いだろが」

「やめなさい、ただでさえ狭いんだから」

 

あーだこーだ話を続ける三人組を放置して、目線を他所に送る。

 

腕を組んで面白そうにその様子を見る赤毛の男――ランバネイン。こいつ、遠征のメンバーだったのかよ。そうなると射撃型ってこいつか。

 

嘘だろ、どっからどう見ても肉弾戦メインだろうが。

 

「お、どうした剣鬼」

 

何でもない。見た目で判断するのは良くないな。

 

 

 

――遠征開始二日目、既に船内の光景に慣れ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠征艇――実は、狭い。

 

少なくとも七人もの人間が不自由なく暮らせると言う程広くはなく、制限がある。一応一人一部屋付いてるが、寝床が付いてあとは空間なしの様な感じ。

 

寝れるだけマシっちゃあマシなのかもしれない。少なくとも行軍中に完全に安全に寝れると言うのは素晴らしいことだ。

 

誰か一人が起きてレーダー見張りをする、それだけで済む。

 

隊長であるハイレインが動けないというのが起きるとマズいので、ハイレイン以外のメンバーで周回している。

 

今日は俺の番であり、反応があるかどうかを確認するだけ。

 

 

円卓の様な長い机の端に座り、待つ。

 

この国――アフトクラトルに囚われ、前に進んだ。あの国で絶望して絶望して、半ば折れていた状況が覆った。

 

まだ先がある、未知がある。手段がある。

 

……今思えばやはり、あの国では手詰まりだった。認めようと何てしないと思うが、恐らく。少しだけ考える余裕が出来たから、過去を思い出してしまう。そんなことやってる暇なんてない。

 

そっと、腰に携えた(二人)を慈しむように撫でる。

 

随分変わった。あの頃の地獄の環境から、今の環境に。

 

頭痛はする。だけど、あの絶望感は無い。何をしても駄目で、考えても考えてももう先がないと理解しているあの感覚。

 

心が少しだけ、楽になった。ヒュースやヴィザと剣の鍛錬を行うのは心地いいし、ミラやエリンが俺に気を回してくれてるのもよくわかる。

 

だからこそ、俺が――いや。俺だけは、ここで納得してはいけない。

 

足りない。俺が満足するには、人として生きていくには足りない。人として生きていけなくたっていい、二人の存在があれば。

 

こうやって強く想い続けなければ――いつか忘れてしまうような気がして。それだけは嫌だ。

 

たとえ人間ではないと否定されても拒絶されても、俺だけは何時迄も抱えてないといけないんだ。救われたんだ。

 

頭痛が鈍く響く。重くのし掛かってくるその痛みに歯噛みしながら考える。

 

ハイレインがどういう人間なのか、俺は知らない。遠征の指揮官であり、国の四大領主の一人。

 

黒トリガーを元に戻すのも、ハイレインの協力が無ければ難しいだろう。黒トリガーというのは国の機密的にも最上級のものだ、それは恐らくどの国でも変わらない。

 

ミラやエネドラの使用する黒トリガーだって機密情報の筈だ。……ミラは国中に名が知れ渡っているが。

 

スパイや潜在的な捜査員と言うものは配置しないのだろうか。少なくとも前の国のやり方なら幾らでもスパイを入れ放題になる。

 

アフトクラトルの場合はどうなのだろうか。俺はその部分には触れてない、というより運営体制にどうこう言える立場ではない。それを考えるのはハイレインやエリンの仕事で、俺やエネドラが口を挟むことではない。

 

だが、対策してないとは考え難い。何かしらの方法は取っているのだろう、多分。

 

ガタリ、と後ろから音がする。振り向くと、何故かそこにはミラが居た。

 

「……目が覚めたのよ」

 

そう言いながら隣の椅子に座り、何処からか持ってきた飲み物を置く。俺の前にも差し出されたそれを受け取り礼を言う。

 

湯気が立っているが、変わらず熱気も感じない。手で触れても何も起こらない自分の指に相変わらずだと皮肉気味に笑いながら飲む。

 

二人分の飲む音が響く。互いになにかを話すことも無く静かに時間が経過していく。

 

「今度の遠征」

 

ミラが唐突に話し始め、それに耳を傾ける。

 

「基本はトリオン兵を出して、相手の戦力を引き出す。底が見えて、その上でこちらに得が多い場合に私達が前線に出るわ」

 

道理であの時唐突にエネドラが来た訳だ。黒トリガー使いを戦場に放り込むのは簡単だがハイリスクハイリターン。俺と言う得を見つけたから確実に潰せる戦力を送ってきた。

 

今度の場合もそうなるのだろう。とは言え俺は直接戦闘でしか戦力としてカウント出来ない。ミラやエネドラの様に絡め手を使用することはできないから。

 

そうなれば、相手は黒トリガーかそれに準ずる戦闘能力を持った奴。その事に対して不満は特に無い。死なないのだ、文句をつける理由も無い。

 

……うん? 待てよ。レーダーで識別していると言っているが、どうやって個人を判別しているのだろうか。

 

トリオンで認識しているのなら、そのトリオン情報を登録……?

 

仮にそうだとすれば、どうやってそのトリオン情報を登録しているんだ? トリオンに、まさか個人的な差でもあるのか?

 

トリオンそのものに何かしらのパラメータを割り振って登録しているという考えの方が可能性としては高い。

 

だが仮に、もし仮にトリオンそのものの情報を何かしら手に入れる方法があると言うなら――それは、鍵になる。

 

そこら辺も詳しく探らなければならない。この国の技術を担う人間を探さなければいけない……か。

 

恐らく接触はまだ出来ないだろう。ハイレインがまだそれを許可するとは思えないし――いやだが待て。

 

この遠征のメンバーに詳しい技術を持つ者が居ないのなら、それを理由に俺が教わると言うのはアリだ。

 

遠距離遠征中に機械トラブルが起きた場合対応出来ないし、ならばそれを回避するために一人くらい有識者がいても問題ない。もしかするとヒュースが既に習っている可能性はあるが――試してみる価値はある。

 

ずず、ともう一度飲み物を口に含む。思わず前進した可能性に少し嬉しくなる。

 

これで上手くいけば、俺の知りたい情報が手に入るかもしれない。いや、手に入らなくても何かしらのヒントは知れる。

 

「……どうかした?」

 

いや、何でもない。ありがとう。

 

 

「……………………え?」

 

 

まだ終わりじゃない。先がある。どうとでもなる。手遅れじゃない。

 

残ってる液体を全部飲み干し、持ってきたメモ帳に記す。ミラが目の前にいるが、そんなの気にしない。

 

見えない様に書けばいいだけだ。そして後はダミーのメモ帳とすり替えておけばいい。

 

最近どうにも記憶が飛ぶことがある(・・・・・・・・・・)から、その対策の一環として持ち込んだ。

 

どこか信じられない様なものを見た顔をしているミラを尻目に、作業を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……眠くなってきたし、先に寝るわね」

 

時間が経った後、ミラが眠そうにしながらそう言った。別に強制してるものでもないし、寝たければ寝ればいい。俺は見張り番だから寝れないが。

 

それにもうすぐ朝だろう。外の景色とかそう言うのは無いが、時計はある。人が起き始める時間だ。

 

「……え、嘘」

 

いや本当だが。

 

「…………やっちゃった」

 

頭に手を当てて悩ませるミラに少し笑いつつ、いいから寝てこいと伝える。1日くらいサボっても何も起きないだろ。

 

フラフラ歩いていくミラに気をつける様に伝えて、改めてレーダーを見る。反応なし、何事もなく平和に終わった。

 

これから俺たちは戦争を起こすって言うのに。自分があれだけクソだと否定した国と同じようなことをしようとしてる事に頭痛がする。

 

――構うものか。一切合切踏み抜いて押し退けて踏み台にしてでも、進むと決めたんだ。

 

退路はない。俺に許されるのは過去の全てを背負って進むこと。

 

この国の人間も利用して、二人を救うんだ。

 

 

ズキンと鈍く主張する胸の痛みに、気付かないフリをしながら。

 

 


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