ワールドリワインド   作:恒例行事

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遠征Ⅱ

それなりに綺麗に整えられた居住地に、白い怪物――トリオン兵が押し寄せる。

 

民族的な衣装を身に付けた人間達が、次々と捕まる。

 

捕らえられ、そのままキューブ状にされる者も居れば鋭利な爪によって胸を引き裂かれ絶命する者もいる。

 

阿鼻叫喚、地獄と言うほか無いその光景に思わず言葉を吐き出しそうになりながらも堪える。

 

今更俺が何かを言う権利は無い。これまで散々殺してきたんだ、何も言えない。

 

例え過去の連中と同じ事をしていても、それを受け入れなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時にも増して頭痛がする。

 

ズキズキと、ガンガン鈍器で殴りつけられたかのような痛みが走っている。

 

あまりにも酷く響き続けるそれに、眉を顰めながら耐える。

 

……やるしかない。決めたんだ、俺は。

 

何を犠牲にしても、二人を助ける。そのためには手段は選ばない。そう決意したんだ。

 

 

「――ミラ、北東から攻める数を増やせ。誘導して黒トリガー使いがいるかどうか調べる」

「はい」

 

 

その光景を見て、複雑な気分だ。

 

実際に調べられて炙り出された身としては、こういう風につられていたんだなと戦場の動き方を把握できる。

 

画面を見てみれば、既に複数人見たこともない衣装に身を包み鎌のような物を振り回している連中が出てきた。これがこの国のトリガー使いで間違いは無さそうだ。

 

……二人に、同じ罪を背負わせる訳にはいかない。全部俺が決めたのだ。責任は俺にある。

 

 

「……反応無し、か。ラービットの実戦投入にはちょうどいい」

 

 

ハイレインが言うその言葉に、少しだけ反応する。ラービット、そんな奴が居ただろうか。

 

後ろの蜂の巣状の保管箱に手を伸ばし――ああ、成る程。トリオン兵か。ゲートを開くと同時に画面にラービットと呼ばれた二足歩行の怪物が現れる。

 

目の前にいたトリガー使いを一体叩き潰し、そのまま残った二人のうち一人を巨大な手で殴りつけ吹き飛ばす。

 

残った一人が立ち向かった瞬間、手で掴み動けなくなったところで腹を開く。うねうね何本か触手のようなものを出しながらそのトリガー使いを収納した。

 

捕獲も出来て、単独の戦闘力も高い。並のトリガー使いでは勝てないだろう。

 

これはある意味切り札と言える。三体もいれば黒トリガーの無い小国ならひねり潰せるのではないか。

 

そんなラービットの前に、新しい四人組が現れる。三人が鎌を持ち、一人が拳銃のようなものを両手に持っている。

 

「お? こいつらは中々やれそうだな」

 

ランバネインの言葉を聞き、それに誰も反応せず画面を見る。

 

確かに画面上ではラービットの攻撃を避け、どこが刺さりやすいか探っているように見える。

 

「それなりに優秀な戦士だな」

「ハッ、実戦投入間もないトリオン兵にこんな手こずってるようじゃ程度が知れるだろ」

「とは言えラービットは莫大なトリオンをつぎ込んで作成している。トリオンが強さを決める訳ではないが、少なくとも頑丈さ素早さなどはトリオンによって決まるだろう。

 

――つまりラービットはそれなりに強い」

 

そう、あくまでそれなり。俺が斬れば一太刀だろうし、エネドラがやっても五秒と持たない。ヒュースも完封するだろうし、ミラに関しては勝負にならない。

 

「駒にはなり得ない。このままラービットを潰されても勿体無い――エネドラ、剣鬼」

 

ピクリと反応する。

 

「黒トリガー使いを探して確保する。それがお前達の任務だ」

 

命じられたそれを実行するべく、頭痛を無視して立ち上がる。ああクソ、最悪な気分だ。やってる事は奴らと変わらない、俺たち三人があれだけ否定した連中と――違う。

 

仕方ない。やるしかない。だって、俺の邪魔をしたんだから。

 

俺の目的を邪魔した。ならどうする。斬るしかない。全部斬り捨てるしか無い。運が悪かった。それで諦めてくれ。

 

二人は関係ない。俺の、俺だけの目的の邪魔をしたんだ。恨むなら俺を恨め。

 

開いたゲートを通過して、地面に降り立つ。ラービットと戦闘中だった四人がこちらに反応して隙を見せる。

 

――刹那抜刀、赤黒い斬撃が伸びてその内の一人の首を切断する。

 

 

「――首、置いてけ」

 

 

 

 

 

 

制圧し、その場にごろりと転がった四つの死体を一瞥して切り替える。ころころと転がってくる生首を避け、その場を後にする。

 

黒トリガー。どこだ。何処にいる。数が増えて余裕ができれば、研究に使用する事が可能になるかもしれない。俺が確保して手柄を立てなければいけない。

 

 

――頭痛は治まった、気分は最悪だ。

 

 

そんな事関係ない。俺がどれだけ悪だと見做されようが関係ない。二人を助けさえすればそれでいいんだ。

 

ここまでやったんだ。躊躇いなんかしない。

 

首にピリついた感覚が発生したのでその方向に対して剣を振る。伸びた斬撃の先にいた狙撃手の様な遠距離攻撃をしてきた者をもう一手振るって殺す。腰から上が半分になって血液を噴き出しながら死んだその姿を確認する事なく、次の方向へと剣を振る。

 

同じ様に当たった相手のトリオン体が解除され――近くの建物から鎌を持った奴が二人飛び出してくる。

 

ほぼ同時に近づいてくるが関係ない。左を優先して殺すために左に剣を振り、斬撃を伸ばす。伏せて回避されるがそれも織り込み済み、斬撃を変化させ地面ごと突き刺す。

 

両手足を切断した所で右から近寄ってきた奴に剣を振る。近距離が出来ないとでも判断したのか既に射程内だった為普通に斬る。

 

「ぐ、くそっ……!」

 

生身になり、既に動きもしないトリガーを構える男。後ろを見れば両手足がない為に達磨状態でごろごろ転がってる女。

 

……まぁ、いいか。無力化してしまえば別に。

 

二人を一瞥してその場を後にする。全員殺す必要はない。

 

「ま、待て!」

 

倒れた女が声をかけてくる。気が付けば先程の男は既に女の近くまで寄っており、庇う形でトリガーを構えてる。

 

「何が目的だ! 何で俺たちを――」

「うるせぇなカスが、死ね」

 

続いて喋った後この体をズシャ、と地面にから生えてきた刃がズタズタに突き刺す。白目を向いて全身から血を流して絶命したその男だった物を見た後、やった本人を見る。

 

「どいつもこいつもクソつまんねー奴らしかいねぇ。黒トリガー使いが一人はいるって話だが――この感じだと雑魚だな」

 

ほいほい黒トリガーを出している俺たちが異常――生身になって逃げていく女を見て、そのまま無視する。

 

「あ? おい猿、何処行ってんだよ」

 

エネドラが追撃しようとして――止める。

 

「……んだよ」

 

別に殺さなくたって問題無いだろ。それより先に黒トリガーを見つけるのが優先だ。

 

「わーってるよ、ったく……」

 

渋々といった様子で追撃を辞めたエネドラを連れて歩く。先程の連中を除いてこの地域にトリガー使いは居なくなった。捕虜にするのと殺すの。どちらも差はない。

 

それに捕虜にするのはトリオン兵がメインでやっている。俺たちは相手の戦力を削るのが仕事だ。

 

「ああ?」

 

エネドラの胸を何かが突き抜けていく。高速で突き抜けたそれを目で軽く捉えて、弾丸が飛んできたのを認識する。

 

遠距離からの狙撃――まぁ、別に手を出さなくてもいいだろう。エネドラも場所は見つけてるみたいだし俺が手を出す必要はない。

 

『剣鬼、聞こえる?』

 

ミラからの連絡――腕につけたミラのトリガーを通して通信を可能にしている。

 

『そこから真っ直ぐ中央に向かった辺りで大きなトリオン反応が発生したわ。トリオン量からして――黒トリガーよ』

 

 

 

 

 

 

――黒トリガー使いは焦っていた。

 

予想もしない大侵攻、正体不明のトリオン兵。戦闘力の高さから前線を支えるための人員が多く狩られてしまった。

 

その後エース部隊がいくつか出て、前線は安定した様に思えたのもつかの間。敵のトリガー使いが現れ、上位チームを瞬殺。東には動く砲台と称しても申し分無い程の火力を保有した男、西には謎の技術を操り次々とトリガー使いを撃破していく青年。

 

北には――エース部隊を瞬殺した、恐ろしい斬撃使い。躊躇いなく四人を殺害して中央へ歩みを進めるその姿は画面越しであっても恐怖でしか無かった。

 

恐らく同じ黒トリガー、勝算はある。

 

こちらは相手の情報を知っていて、相手はこっちの情報を知らない。

 

初手で潰して優位を取る。他にも優秀な戦士が何人も送り込まれているが、自分がいる限りまだ可能性はある。

 

そう思い拳を握り、レーダーで反応があると通信が来たのでそちらを見る。

 

ゆっくりと道の真ん中を歩いてくる、白い男。ゆらゆらと足取りが若干不安定なのが更に不気味な感覚を増すがここで構える。

 

発動に必要な条件を考え、改めて黒トリガーを展開する。通常の鎌より漆黒に染まり、装飾も少し施され荘厳な雰囲気が漂う。

 

武器を敵に向かい放り投げ――唐突に相手の目の前に瞬間移動する。

 

投擲後に座標移動による奇襲を可能とするこの黒トリガーは、この男より前の時代に作られたものだ。その背景やストーリーに男は興味を持ったことは無かったが、黒トリガーになった時点で相当な覚悟や戦いがあったのだろうと確信している。

 

だからこそ敬意を持ち、それを扱うに値すると判断された自分の実力を疑っていなかった。

 

確実に殺った。回避できるタイミングでは無い。

 

白い男の首に鎌が到達するその瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

――視界が反転した。

 

 

 

 


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