ワールドリワインド   作:恒例行事

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計画

「――こんなものか」

 

 最後の詰めになって、ハイレインが出撃してきた。周囲を飛び回る動物の形をしたトリオンが手当たり次第にトリガー使いに飛び付き、その身をキューブへと変えていく。

 

 理解出来ないその攻撃に対応出来るものは少なく、呆気なく制圧されていく。既に黒トリガーも抑えて、相手は万策尽きた状態であろう。

 

 詰めの一手――成る程、ハイレインの黒トリガーはトリオン体に対して無敵だ。

 

 削られた体も周囲のトリオンキューブを使用して修復できて、相手への攻撃にもそのまま転用できる。普通はトリオン体を解除しないため、まさに戦争中の秘密兵器。

 

 重要度で言えばヴィザより高い。これ一つあれば確実に小国の一つは落とせるだろう。

 

 ――俺には意味ないが。そういう意味では俺との相性はいい。向こうはこっちへの誤射を気にしなくていいし、こっちは味方の援護を気にせず戦える。

 

 戦意喪失し、降伏を飲んだ事で戦闘状態を解く。ただ集中するのをやめるだけだが、この意識の変化は大きい。

 

「……終わりね。私達の勝ちよ」

 

 …………勝ち、か。何が勝ちで何が負けなのか――そんな事すら俺には分からない。生き延びれば勝ちなのか。相手を只管に打ちのめし、残虐な限りを尽くすのが勝ちなのか。一騎打ちに勝利して、華々しく終えるのが勝ちなのか。

 

 戦争とは何なのだろうか。

 

 俺には俺の目的がある。難しいと言われようと、出来っこないと言われても諦めるつもりは無い。

 

 それを邪魔されたら? 

 

 ――そういうことだ、戦争は。

 

 人が人としてある限り、戦争は続く。何処でも、何にでも。

 

 そしてまた新たな俺たちの様なのが生まれ、散っていく。巡り巡って続くのだ。

 

 ……許してなんて言わない。だけど、譲る気はない。俺は果たすと決めたから。

 

「おい、お前殺しすぎじゃねーか」

「お前が言うのか……?」

 

 エネドラが茶化す様に声をかけてきて、ヒュースがそれに突っ込む。二人の方を見るために振り返れば、その視界に崩壊した建物と荒れた道、血の赤に濡れる草木が映る。

 

 全部俺の作った景色――ああ、上等だ。全部抱え込んでやる。

 

 そうするしかないのなら、嬉々として踏み締めてやる。血に濡れた道で、その先に希望があるのだ。何を躊躇う必要がある。

 

「……その面やめろ。なんかアレだ」

「不気味を通り越して悍ましいぞ。取り敢えず顔の血を拭いておけ」

 

 ぼすんと投げられたタオルを手に取り、顔を拭く。ばっと見てみれば確かにタオルが血だらけである。

 

 気が付けば何時もの頭痛が響いている。いい加減治らないのかこれは……どうでもいいか。俺が耐えればいいだけの話だ。

 

 黒トリガーを確保したから、出来ればこの調子で数を増やしたい。黒トリガーを使用して確認したいことは無数にあるのだ。

 

 アフトクラトル所有の黒トリガーでやる、と言ってしまうと反逆行為と見なされ処分されるかもしれない。それ自体は特に問題ないが、それによって有用な研究施設を失うのが良くない。

 

 だから態々他国の黒トリガーを奪った。俺の意思で、必要だから。

 

 

 

 ――頭痛が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 遠征は成功――星を動かす元となっているマザートリガーも抑え黒トリガーも奪い完全な勝利となった。

 

 目的としてはこの二点が完全な目的であった。

 

 マザートリガーを抑えることで、国を完全に属国とする。配下と言っても差し支えないくらいに。とは言っても理不尽な支配体系があるわけではない、いざという時に盾になって貰う――そういう風に言っていた。

 

 力ある者が、この世界で権利を得る。

 

 それを体現する遠征だった。俺の試験でもあったのかもしれないが、ハイレインの考えてることは正直理解できない。自分と相対することも早々ないし、話す機会すらない。

 

 まぁでもそれでいい。邪魔してこないから。

 

 少しずつ有用だという所を見せて、引き出さなければ。ハイレインは領主である、この事実はどう頑張っても覆せない。ならば領主であることを利用する。

 

 新たに手に入った黒トリガーをどう使うのかはどうでもいい。まだ時間はあるのだ、一つや二つなら手に入るだろう。それを以て、どう交渉するかが大事。

 

 ヒュースは協力すると言ってくれた。……だが所詮二人ともただの遠征部隊で、権力や力は無い。

 

 せめて研究機関か何かに接触できれば進むのだが――……やはり、巻き込むしかないか。ヒュースには恨まれるかもしれないが、しょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

「――やあ、おかえり」

「……ただいま」

 

 少し広めの空間の中央に置かれている机――エリンが椅子に腰かけ書類と格闘している。

 

 何時もはかけてない眼鏡をかけて、眉を顰めながら机に向き合っている。その姿を白髪隻腕の男がチラリと見た後に椅子に座る。

 

「遠征は成功、だったね。お疲れ様」

「……まぁ、そうだな。目的は達成したよ」

 

 俺にとっても、国にとっても。内心のその言葉を出すことなく答える男。

 

「ヒュースはどうだい? 実践を多く経験した君から見て」

「そうだな……まだまだ伸びる。あの年齢で豊富な戦闘の選択肢があると言う時点で優秀であることは間違いないが、今回の遠征でも攻めの起点として扱われていた。まだまだこれからだろうな」

 

 男が伝えると、そっか……と言い微笑む。

 

「なら安心だね。もうヒュースは子供じゃないって改めて感じれたよ」

「……まるで巣立ちの時を迎えたような言い方だな」

「アハハ、少し違うけどね。似たようなものさ」

 

 もう手のかかるだけの子供ではない――エリンの脳裏に浮かぶ幼いヒュースの姿はもう無く、一人の戦士として確固たる己を築いている。

 

「三年か、五年か、十年か――……いつになるか、分からないけどね」

「…………」

 

 エリンと男、共にタイムリミットを抱えた者同士――何か感じ取れるものがあるのか。不気味な程に静まった部屋の中で、二人の呼吸の音が微かに響く。

 

 

「……それで、何の用だい?」

「……悪い」

「気にしなくて良いさ。私は君の主人だよ」

 

 

 パッと笑顔を見せるエリンと仏頂面な男、美しいまで正反対な二人はそれを気にすることも無く話し始める。

 

「今回の遠征で黒トリガーを一つ確保した」

「マザートリガーと一緒に、ね。それは聞いたよ」

「単刀直入に聞く。――俺は、黒トリガーを元に戻す方法を探してる(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ――シン、と部屋の中が静まる。

 

 エリンも男も、声を発することはない。二人だけの空間で、二人が声を発しなくなる。

 

「……そう、だよね。ある程度予想はついてた」

「だろうな。ヒュースにも言われたよ」

「……ヒュース」

 

 その短い言葉で、どれだけの情報が詰まっているのか。そして、どれだけ情報を読み取っているのか。高度な情報戦と迄はいかない。会話での探り合い、腹の見せ合いと称した方が正しいかもしれない。

 

 男は覚悟を決めた。エリンも覚悟はしている。

 

「俺はお前に協力して欲しい」

「それは……エリンとして? それとも――」

「どっちもだ。お前としても、エリン家当主としても」

「……欲張りだね」

「よく言われたよ」

 

 軽口を叩きながら、エリンが改めて眼鏡を外して男の元へと歩いていく。男の前に向き合う形で設置された椅子に座り、正面から話す。

 

 

「じゃあまず簡潔に。――エリン家は、これより全力を以て支援します」

「…………は?」

 

 

 その答えに呆ける様に反応した男に対してエリンが口元に手を当てクスクスと笑う。

 

「何を言ってるんだい? 元からこのつもりさ、言っただろう? 君を幸せにして見せるって」

「……」

「信じてなかっただろう? それで良いのさ。君がこうやって私を頼りにしてくれて、その手段を話してくれる。そんなのでそれを実行できるとは思わないけど、大きな一歩だと思う」

 

「少しは信用がなければ、頼ることだってないだろう?」

 

 男は黙り込んだ。その通りだと考えたのか、何か否定する言葉を探しているのか。

 

「だが、全体でとなると――」

「そこは問題ない。縦社会とは言え、こう見えて結束が強いんだ。そもそも黒トリガーの研究自体はこれからもっと進むだろうし、研究機関が一つしかないより数多くあった方が確実に効率はいい。表立って研究だって実際不可能じゃないんだ」

「…………そう、か」

 

 何となく、苦虫を噛み潰したような表情に見えなくもない表情で頷く男にエリンは笑う。

 

「安心してくれ。未来の決まってる私だけど――身内の願いくらいは叶えて見せる」

「――…………ありがとう」

 

 ニッ、と笑うエリンに伝えたい感謝――その言葉にどれだけの意味が込められていたか。それは、本人にすら理解しきれないだろう。

 

「それで、どうする? こっちからアプローチをかけるという事も出来なくはないけど」

「危険だな。ある程度旨味を精査してハイレインが納得しなければ難しいだろう。エリンが関わる以上、発見されても無言で処罰は無いとは思うが」

「そうだね。ベストなのは発見される前に旨味を見つけて、見つかった時若しくはバレた時に同時に成果を伝える。それが一番かな」

「スパイは居ないだろうが、配下にハイレイン直属の兵がいたりは?」

「少なくとも二、三人はいるだろうね。でも参加させようと思ってるメンバーは私にとって信頼の置ける人間だけ。目星は付いてるからそこまで警戒しなくてもいいかも」

 

 緻密に続々と練られていく計画。そこにあるのは希望であり未知であり――絶望でもあり運命でもある。

 

 

 




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