ワールドリワインド   作:恒例行事

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迅悠一①

 ──斬られる。

 

 建物が、人が、ありとあらゆるものが。

 

 抵抗していくモノも、抵抗しないモノも関係なく無差別になにもかも。蹂躙、と形容することすら生温い光景。

 

 先日まで話していた友人も、気の許せる幼い頃から仲の良い者も、世話になってばかりで恩がある人も。全員等しく斬り捨てられる。

 

 ああ、これは夢──いや、未来(副作用)か。何度も繰り返し見ている光景に思わず溜息をつきたくなる。けれど、目を逸らしてはいけない。

自分にしかできないことだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 どれだけ血反吐を吐くことになっても、この未来は避けてみせる。ずれ落ちる視界の中で、そう誓った。

 

 

 迅悠一は、未来が見える。

 

 これは嘘や誇張ではなく、真実である。トリオンによる副作用(サイドエフェクト)、その中でも最上位に存在する能力。

 

 自分の目で見た人間の、数秒先か数分後か数時間後か明日か一週間後か──もっと遠い未来か。戦っている際にいくつも未来が分岐して見えるし、街中を歩くだけである程度何が起きるか理解できる。

 

 ボーダーの中でも、未来視などと言う物を図らずも手に入れてしまったのは迅一人。

 

 これまで何度も利用してきた。情報を伝え、ボーダーの為にと願い続けて。──その果てに待っていたのは、恩師の死であったが。

 

 見えているのに回避できない、悔しさと情けなさでなにもできないこともあった。表面上誤魔化せていても、恐らくわかる人にはわかっただろう。未来がわかっても人一人救えないと、自分で絶望していたこともあった。

 

 けれど、一人ではなかった。仲間が居た。絶望の沼に浸かる身を掬い上げてくれた者達がいるのだ。

 

 だからこそ、諦めない。自分を掬って(救って)くれた人達のために、守りたい世界のために、想い描く未来のために。

 

 

 

 

 

 

「迅──自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

「えぇ、城戸さん。俺は自分が何を言っているのかはわかっているつもりです」

 

 左眉辺りに傷跡を残し、髪をオールバックにした男性──城戸正宗と迅は相対していた。

 

「お前は自分で風刃を本部に渡した。それを──返して欲しい?」

「そうするしか無いので」

「それは些か勝手がすぎるのでは?」

「ですから、用が終わった後はどうして頂いても構いませんよ。その時に必要なんです」

 

 ボーダー本部上層部、メディア対策室長である根付からも横槍が入るがそれをまるで受け流すように自分の意見を押し通す。

 

「……話にならないな。メリットが無い」

「メリットならありますよ。限りなく可能性の低いメリットですが」

「一応聞いてやろう」

 

 城戸の氷のような眼差しを軽く受け止め、真面目な顔で返す。

 

「俺が強くなる」

「話にならん」

 

 はぁ、と溜息をつく城戸と対照に笑顔を見せる迅。

 

「しょうがないじゃないですか、俺が証明出来るものは俺の副作用(サイドエフェクト)だけなんで」

「それは分かっている。だからこうして態々主要人物に召集をかけたんだ、詳細を話せ」

「ははっ、今のはあくまで最終手段です」

「最終手段で押し通すつもりなのか……」

 

 先ほどの雰囲気とは打って変わった空気になった会議室、ボーダーの主要人物達が勢揃いするこの場で話す。

 

「本題ですけど、簡単に言います。いつになるかは不明ですが、近い内に近界民(ネイバー)による侵攻が確実にあります」

「それは前言っていたのと一緒か?」

「うん、一緒」

 

 A級五位、嵐山隊隊長である嵐山(あらしやま)(じゅん)が質問を投げ掛ける。何やら事情を把握してそうな疑問に、別の人物が食いつく。

 

「それは前から予期できていたのか」

「漠然と。ですけど確定したのはちょっと前ですね」

 

 B級一位、二宮隊隊長二宮(にのみや)匡貴(まさたか)が口を開く。腕を組んで睨みつける二宮を軽くあしらい迅が続ける。

 

「それでちょっと困ったことがあってですね、皆さんに力を借りたいと思ってたんですが」

「困ったこと、か……」

「すごい簡単な問題なんですけど、一番難しいんですよね」

「回りくどいのはやめろ、さっさと話せ」

 

 いつもとの茶化した表情とは違い、神妙な顔つきで話す迅に誰もがふざけているわけではないと理解する。だからこそ早く話せと急かした。

 

「じゃあ簡潔に。──現状の防衛成功確率がめちゃくちゃ低いです。割合で言うなら九分九厘失敗します」

 

 シン、と会議室が静寂に包まれる。迅の発言の意図を読み取ろうとしている者、素直に受け止めた者、飲料を口に含んだ者──様々な人間がいた中、真っ先に口を開いたのは城戸だった。

 

「……仮に。仮にお前の言う通りに全て従った場合の勝率は?」

「変わらないですね」

 

 風刃という黒トリガーを握っても、ボーダー総出で戦っても、作戦を立てても──現状可能性は変動しない。

 

「原因は?」

「わかりません。でも手がかりが一つだけ」

「それは何だ」

 

 城戸に問われ、迅が一瞬何かを躊躇う仕草を見せた後にある人物を見た。

 

「──この場にいる全員、未来が同じなんです。トリオン体とかトリオン体じゃないとかそういうの全部吹き飛ばして、等しく死んでいるんです。でも、ただ一人だけ違う未来がある」

「それはこの場にいる人間か?」

「えぇ。その為に呼んでもらいました(・・・・・・・・・)──沢村さん」

「……え?」

 

 名前を呼ばれた女性──沢村(さわむら)響子(きょうこ)は呆けた声を出す。まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのだろう、予想外と言った表情だ。

 

「貴女だけ、死ぬ光景が出てくるまでラグがある。ボーダー中、全職員はおろか街中を歩く関係ない人を見てもそんな人は連れ去られる人以外居なかった」

「わ、私が?」

 

 心当たりがない、というより全く訳がわからないと言った声を出す響子に別の場所から声が飛ぶ。

 

「彼がそう言うのならそうなんでしょう、何か思い当たるものはありますか?」

「……本当に、何にもないです」

 

 何かあったかと思い記憶を探るが何もない、答えようがないその問いに返事をする。

 

「ラグ……他に何か情報は?」

「申し訳ないですけど、これ以上は特に何も──ん」

 

 響子を見て目を細める迅。その仕草を見て、忍田が聞く。

 

「何か視えたか(・・・・)?」

「……うーん……少しだけ、見えた、かな?」

 

 歯切れ悪く答える迅だが、とりあえず見えたものを共有する為に口を開く。

 

「ええと、墓……が見えましたね」

「……それは、誰の?」

「誰のかは分かんないですけど、多分アレです。第一次侵攻行方不明者石碑だと」

 

 その場にピリ、と緊張感の様なものが走る。

 

「そこで沢村さんがなんかしてるとか、そう言うのでは無いんですけど……墓が」

「……そう、か。もしかすると、第一次侵攻と時期が同じなのかもしれない」

「なるほど、それは確かにありえますね。後一ヶ月もすれば四年目だ」

 

 B級六位、東隊隊長である(あずま)春秋(はるあき)が答える。

 

「辻褄は合う。だが疑問は俺達で視る事が出来るかだ」

「んー……いえ、見えないですね」

 

 二宮の言葉の意図を組み、迅が試すが効果はない。

 

「墓、墓か……あり得るとすればそれくらいだな。後は単純に墓のある場所を襲ってくるとか」

「それもあり得ますね。読み取れる情報が少ないですけど今はそれくらいしか」

「……だが、それでは終われん。我々は守る為にいるのだ」

 

 城戸が声を出し、会議にいる者全員が同じ感情を抱く。

 

「迅、先程の風刃の件だが──許可する。お前の裁量で使用しても誰に渡しても構わん」

「それは有難いですね」

「身内争いで防衛失敗では話にならない。これより二日に一度今いるメンバー全員集まり会議を行うことにする。すまないが、個人の予定がある者もある程度優先して貰いたい」

「玉狛は問題ないです。逆にひとつ提案したい事があります」

 

 短めに揃えた髪と、服の上からでもわかる筋肉で身を包んだ男性──A級ランク外、玉狛第一(木崎隊)隊長木崎(きざき)レイジが挙手をして発言権を求める。

 

「何だ」

「玉狛所属のメンバーを全員こちらに連れてきて会議に出席させてもよろしいでしょうか」

 

 ピクリ、と身体を反応させる者が一人いるがそれを気にせず木崎は話を続ける。

 

「構わない。情報の共有は何より大事だ──だが、防衛任務は行え」

「それはこちらで分けます」

 

 城戸の了承を得た木崎はそれで言うことは終わりだと言わんばかりに椅子深く座り直す。

 

「それでは今日の会議はここまでにする。この情報は各隊員に伝えて貰いたい。これは──ボーダー史上最大規模の戦闘になる」

 

 

 

 

 

 

 

 会議室を出て、人気のない自動販売機の前までやってきた。

 

 ここならば誰も見てないだろう──迅は一人ベンチに腰掛け、溜息をついた。

 

「……大丈夫、未来は動き出している。新しい情報だって視えた(わかった)、まだ大丈夫だ」

 

 ここまでどうしようもない未来を見てしまったのは初めてだ──胸の中央あたりがジクジク痛むのを自覚しながら購入した缶コーヒーを一気に流し込む。苦味と冷たさで頭がスッと切り替わっていくのを感じつつ、考えることは辞めない。

 

「やっぱりここにいたのか」

「……准」

 

 嵐山が通路の陰から出てきて声をかけてくる。

 

「あんまり悩むなよ、俺達も居るんだから」

「ああ……分かってる」

 

 自分一人にしか未来は見えない──それはとてつもないストレスだ。見たくないものだって見えるのだ、辛くないわけがない。他人には一切共有出来ず、その果てにあるものも孤独。

 

「なんだか久しぶりだな、そんな状態のお前を見るの」

 

 嵐山と迅は、割と長い付き合いになる。だからこそ、迅が最も荒れていた時期を知っている。掴もうとした未来を必死に追い続け、手に入れることはできなかった──あの時。

 

「あの時とは違うぞ」

「そう……だよな。わかってるつもりなんだけどな」

 

 これまで色んなものを視てきた。だからこそ今回は余計不安なのだ。このまま何も分からなかったらどうしよう、どうにもできなかったらどうしよう──この悩みは迅にしか分からない。

 

 城戸にも忍田にも嵐山にも、共有出来ない。

 

「……何かあったら教えてくれよ。頼りにしてるぜ」

「ありがとう、助かるよ」

 

 先に帰っていった嵐山を見送って、迅は一息つく。

 

 仮に共有できる(未来がわかる)人物がいたら──もっと楽だったのだろうか。そこまで考えて切り替える。あり得ないことを考えてても仕方ない、ありえる可能性を考えよう。

 

 未来を掴み取るために、可能性を探し続ける。それが今出来ることだ。

 

 ふらりと歩き出し、その場には誰も残らない。人気のない自動販売機が、明かりを灯しつづける。

 

 

 

 

 

 


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