ワールドリワインド   作:恒例行事

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大規模侵攻②

 

『新型トリオン兵──おそらくそれはラービットだ。映像はあるか?』

「ああ。沢村くん、映像を抽出して送ってくれ」

「はい」

 

 ボーダー本部、本部長である忍田はレプリカと通信を行なっていた。

 

『先日話をした通り、ラービットはアフトクラトルで実用化へ向けて開発されていた新型トリオン兵だ。データスペックだけでも、正直な話B級隊員では歯が立たない位の性能がある』

「二宮隊で良かったな……」

 

 これが諏訪隊や柿崎隊であったなら、申し訳ないが全滅していたと心の中で思う忍田。信頼していないわけではないが、未知数で強力な相手に対して確実に勝利できる実力は無いと考えている。

 

「現在二宮隊が三体の新型を相手にしている。実力的に問題はないと思うが、緊急時や念のために影浦隊を派遣中だ」

『影浦隊がどれほどの実力を持っているのか不明だが、生半な部隊で相手をさせないほうがいい。それこそA級部隊で相手をするべきだ』

「影浦隊は元A級だ、実力に関しては問題ない」

『そうか。……ラービットに、何か変な要素はあるか?』

「変な要素……?」

『すまない、言葉が良くなかった。変な要素というより、他の個体や先程の個体と比べて違和感はあるか?』

 

 そう言われ、戦闘中の二宮隊の映像を見る。辻が前方へ突出し、それを犬飼がカバーする。二宮は単体で二体のラービットを相手に抑え込んでおり、その実力の高さが伺える。

 

 そして辻と犬飼が相手にしているラービットが、不自然な動き──というより、何かを振るように腕を回す。すると両腕から赤と黒の何かが飛び出し、犬飼の左腕を斬り落とした。

 

「あれは──!?」

『映像をリンクさせてくれ──成る程、ラービットに個性を持たせているのか』

 

 片腕を落とされた犬飼へ追撃の何かを飛ばすが、それは辻の孤月によって阻まれる。

 

『ふむ、赤と黒──何か意味があるのだろうが、今は解析不能だな。とりあえずアレに触れてはいけないという事だけはわかる』

「厄介だな。辻と犬飼程の使い手でこうなるとA級隊員を当てなければ……」

「忍田本部長、風間隊より通信です!」

 

 考察の最中、唐突にA級の風間隊から通信が入る。

 

「諏訪隊、諏訪隊長が新型に捕獲された──これより新型と戦闘を開始する!」

 

 

 

 

 

 

 

「チッ──!」

 

 アステロイドを展開し、正面のラービットへと放つ。煌めきを残し、四方から迫り来る弾丸を全て回避し接近してくるラービットに対し更にアステロイドを放つ。

 

 グワ、と振られる腕に対しシールドを展開し防御する。高いトリオン量からシールドの硬さも他の比肩を許さぬ硬度を誇る二宮のシールドはそう易々と破られたりはしない。

 

「ぐ──」

 

 しかし、衝撃は通ってくるもの。突き抜ける様に襲ってくる衝撃を堪えつつその勢いを利用して一気に下がる。

 

「──メテオラ」

 

 勢いを殺しきる前にメテオラを放ち、一気に爆撃する。爆煙を突き抜けて再度突撃してくるラービットに対し、合成弾を使用。ギムレットを放ち不意打ち気味に装甲を削る。

 

『隊長、後ろから来てます!』

 

 オペレーターから通信が入り、急ぎ左に回避行動をとる。

 

 先程までいた場所にゾン!! と斬撃の様なものが奔り地面諸共斬り裂いていく。進行方向にいたラービットに直撃する寸前でふ、と消え失せる。

 

「うはー、やり難いことこの上ないね」

「こっちの奴が放つアレ──射程が不明だし、何より不規則過ぎる」

 

 辻と犬飼も合流し、三人で警戒する。気がつけばラービットが近くまで寄ってきており、ちょうど目の前に一体ずついる形になった。

 

「……チッ、面倒だ。どの程度やられた」

「腕一本持ってかれました」

「こっちは擦り傷幾つか程度です」

 

 戦況で言えば五分五分と言ったところだろうか。どちらも突出した一体が残りをカバーする形になっている。

 

「僕が崩します。追撃お願いします」

「賛成」

「右から仕掛けていくぞ。犬飼は真ん中の面倒臭い奴の相手だ」

「えぇーマジすか」

 

 口では嫌そうな素振りを見せながら、隻腕で銃を構える犬飼。

 

「──行きます」

「メテオラ」

 

 辻が腰に孤月を納刀した瞬間、二宮がメテオラを放つ。榴弾のような爆発力を伴い、大きな爆煙が広がる。

 

「──旋空」

 

 ス、と辻が孤月を引く。爆煙を振り払うようにラービットが二体前に出てくるが二宮が前に出るように動く。その二宮に対して横から赤と黒の何かが飛んでくる──が。

 

「残念」

 

 犬飼が足から生やしたスコーピオンと呼ばれる近接用トリガーによって半ばで折られる。

 

「──孤月」

 

 ブア、と辻の孤月から斬撃が飛び突出してきたラービットの顔を二つに断ち切る。その先を見逃さず、残った二体のうち無個性の方を対象に二宮が動く。

 

「──アステロイド」

 

 背後に巨大なトリオンキューブ、残り防御態勢をとるラービットの身体に突き進み──そして、寸前で全てのキューブが背後に回り込んだ。

 

「馬鹿が」

 

 完全に無防備な背中に大量のアステロイド──否、追尾弾(ハウンド)を直撃させる。背中からズタズタに破壊して、ラービットの活動を停止させる。

 

『対象沈黙──残りは特殊個体のみです』

「やっと二体かー……」

 

 いつの間にか合流した犬飼の前に辻が立ち、一定の距離を保つ。

 

「正直かなりめんどくさいですね」

「一体に減ったとは言え、個体差が激しい。どうします? 他にも似た様なのが居るとすればもう少し情報が欲しい所です」

「……一体撃破した直後に増援が送られている。今の俺たちの状態も監視されていると考えた方が妥当だ」

「そうなると時間稼ぎはしても意味ないですね」

 

 こうやって相手している間にも、背後から急に襲われる可能性も無くはない。

 

「考える時間が無駄だ。現状本部から何も指示が来ない以上、俺たちで撃破するのが任務だ」

 

 残りは一体、たとえ特殊な技能を有していたとしても所詮はトリオン兵。三人で連携すれば打ち崩すのは難しくないと二宮は判断した。

 

「了解しました──旋空」

 

 辻が旋空孤月という遠距離に斬撃を飛ばす技を用意し、その間犬飼が屋根伝いに移動していく。ラービットが危険度を優先したのか辻に対して赤い(・・)何かを放ってきた。

 

「フルガード」

 

 旋空孤月で浮かせ、それを犬飼が掬い、さらに二宮が追撃する。シンプルな作戦にはなるがそれ故に連携がしっかりと生きれば強力な技となる。

 

 だからこそ二宮はフルガードを使用し、確実な一手を選んだ──が。

 

 放たれた赤い何かはサク、と何の抵抗もなく二宮のガードを貫通しそのまま辻へと突き刺さった。

 

 

「な──!」

「チッ」

 

 ガードを切り替え、咄嗟にアステロイドを展開して放つ。苦し紛れで辻が旋空孤月を放つが、先程の一撃よりも短くなった斬撃は届くことが無く二宮のアステロイドも容易に回避される。

 

「──無傷でやる訳には行かないなぁ」

 

 未だに赤いなにかを辻と繋げたまま移動するラービットに対し、完全な死角からスコーピオンを振る。空中で動くことの出来なかったラービットはその一撃を脇腹から一閃、後ろから前までスッパリ斬り捨てられたラービットはバランスを崩したまま着地した。

 

 さり気無く退く最中に赤い何かを切断した犬飼はそのまま二人と合流する。

 

「大丈夫辻ちゃん」

「何とか……っ」

『辻くん、トリオンが異常なほど減ってるわ』

「なに……?」

 

 元々二宮や犬飼に比べればあまり多くはないトリオン量の辻だが、流石に数度の旋空孤月やたった一度のダメージで危険領域まで落ちる程少なくはない。

 

「犬飼よりもか」

『はい、片腕のなくなっている犬飼さんと比べても』

「それはまた厄介だなー」

「……すみません」

 

 トリオンが漏れている訳ではないが、既に長い間戦えるほどトリオンの残っていない辻が小さく謝る。

 

「あいつの赤と黒──恐らく赤色にトリオンを削る能力でもあるのか知らんがそういった能力がある事は間違いなさそうだ」

『敵新型のトリオン量が先程よりも少し増加しています。傷の修復等は行われていますか』

「うわ、折角斬ったのに」

 

 自分でつけた傷が少しずつ塞がっていく様子を見て犬飼が嫌なそぶりを見せる。

 

「トリオンを吸収、その上回復も可能か……」

「火力で押しつぶすしか無いですね。うーん……」

「……ふん」

 

 二宮がアステロイドを展開し、ポケットに手を入れたまま言う。

 

「──ならば別から火力を補えばいい(・・・・・・・・・・・)

 

 

 ──瞬間、ラービットへと大量の爆撃が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『強』印(ブースト)五重(クインティ)

 

 ドゴッ!! ととてつもない音を立ててラービットを吹き飛ばす。十メートル、二十メートルと吹き飛び漸く止まったラービットを無視して倒れている三雲の元へと走る。

 

「大丈夫かオサム」

「空閑、お前……黒トリガーは使うなって──」

「けど、このままじゃマズイだろ。チカ達はまだ避難誘導してるし、新型も出てきた上にこれだけ沢山トリオン兵がいるとなると結構難しいぞ」

 

 空閑のいう言葉に納得する三雲。しかし、それで空閑の立場を悪くしてでも使わせてしまう自分の弱さに内心嘆くが──それどころでは無いと切り替えて先頭へと思考を変える。

 

「出し惜しみしてる場合じゃ無い、だろ?」

「……ああ」

 

 吹き飛んだラービットがむくりと起き上がるのを見て空閑が再度警戒する。先程までのボーダーのC級隊服を真っ黒に染めた服とは違い、黒トリガー使いとして戦場で戦ってきた慣れた姿へと変わっている。

 

『ユーマ、ラービットは捕獲用のトリオン兵だ』

「例のアフトクラトルのやつか」

 

 その場から跳躍し、異常な速度で突撃してくるラービットに対して三雲を腕に抱え足元に何かを展開する。

 

『弾』印(バウンド)

 

 大きく空に飛び、三雲を別の民家の上へと移動させる。

 

「うわ、すごいパワーだな」

 

 地面が大きく陥没しており、ラービット本体の戦闘力が伺える。

 

「あれじゃ『盾』印(シールド)もやめといた方がいいな」

『正面きっての殴り合いは分が悪い。分散させて攻撃、若くは『響』印(エコー)で反応するかは試してみてもいいかもしれない』

「いいね。オサム、こいつは俺が抑える。他の連中頼んでもいいか」

「……わかった。頼んだぞ!」

 

 屋根伝いに移動していく三雲を見送り、下から見あげるラービットに対し空閑は獰猛に笑った。

 

 

 

 

 


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