ワールドリワインド   作:恒例行事

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始まり⑤

 九十六

 

 どうやら半分くらいの人達はやり方を教えると実行できるらしい。才能の塊すぎて凡人or平凡あたりな俺には辛い現実があったけど、そのお陰で助かるのでセーフ。非凡は平凡じゃないって意味です

 

 流石に空腹少女の説明は擬音だったから理解できる奴は居なかったけど、俺が少しだけ理論的に解説したらすぐ出来るようになるやつが数人いた。

 

 それと流石にこの一瞬だけ斬るやり方は無理らしい。こんな状況なら空腹少女ばりの才能持った奴らがうじゃうじゃいてくれてもいいのによ……。

 

 とりあえず剣にトリオンを込めて、それが正常に動くメンバーを集める。大体……うん、さっきも確認した通り半分くらいだな。これだけいれば二人一組で一体ずつ相手にするとして、理論的には一グループ一体で十五体のそれを二回のルーチンで三十体。俺と空腹少女でそれぞれ三十五体以上!

 

 アホか。

 

 ひとまずとりあえず武器を扱えるメンバーを中心に組みを分けて、それぞれ二対一の形に持っていくようにと伝える。さて、それじゃあ行ってみようか。

 

 

 

 

 

 九十七

 

 少し手が足りなかったな。あと半分まで持ち込んだんだが、そこでトリオン切れで俺が戦えなくなって手足もげて死んだ。いくら回避を重視して戦ってるとは言え、何手か躱したら斬る戦略なので無限に躱せるほど体力と力はない。

 

 普通に考えて無理だろ。俺と空腹少女で三十体以上はアホ。あーくそ、せめてトリオンがどちらか一方にもっとあればいいのに……と一瞬思ったけど、トリオンあったらミソッカス扱いされてねーな。

 

 どうしてもトリオンが足りない。どうするか。トリオンが足りないと確実に奴らに勝つ時がやってこない――ああまてやめろ。切り替えろ。無駄な思考をするな。

 

 暗い考えをするな、俺はまだやれる。才能がある。いける。倒せる。帰れる。またあの日々に戻れる。

 

 

 ――よし、行こう。

 

 

 

 九十八

 

 だーーくっそ、今度は空腹少女に頼りすぎた。かなりシビアだなこれ、空腹少女に頼りすぎてもダメだし俺が無理しすぎてもダメ……ある程度周辺の敵を倒したら仲間と合流してもいいかもしれない。

 

 仲間と合流して、周りを安全にして少し休憩を取るのはどうだろうか。トリオンが回復するしないにしても、精神身体共に回復できれば少しは変わるだろうか。

 

 

 

 

 九十九

 

 一度小休止を挟むことによって、遥かに進み具合が変わった。愚直に殺すという作戦だけではダメで、少女の体力や俺の集中力的に一度回復するくらいの余裕を持った方が良さそうだ。

 

 最後の十数体まで殺せたが、最後の最後で囲まれて砲撃によって死んだ。少女の動きも鈍っていたし、俺の集中力もそれなりに落ちてた。まぁ仕方ない、勝てる要素が逆になかった。

 

 くそっ、やっぱり課題は最後のあそこか……二人であの数を相手にするのに無理があるのか?いや、待てよ。

 

 俺が走り回ってなんとか囮になればいい……のか?空腹少女の最後の息切れと俺の息切れを防げばいいんだが、かなり前に走りまくった経験がある。自分の限界はある程度見極めた。

 

 一度に数十体相手にするのは流石に初めてだが、それまでを抑えながら戦おう。

 

 あと少し、あと少しなんだ。最後のあの十数体さえ相手にできればなんとかなるんだよ。だから、頼むぞ。

 

 

 

 

 百

 

 一、二、三四五。

 

 リズムに合わせ左右に揺れ動き、トリオン兵の攻撃を誘発させる。トリオン兵がブレードで挟み込むように動いてきたその瞬間俺の後ろにいた空腹少女が素早く前に躍り出てそのままトリオン兵を両断する。

 

「左に二体砲撃右三体」

「左カバーします」

「任せた」

 

 互いにたった今両断されたトリオン兵の亡骸を盾に直進する。砲撃が来る――何かが背筋を撫でるようなゾクリとした感覚に従い亡骸を投げつける。

 

 飛んでった亡骸に砲撃が直撃し、トリオン兵から俺の姿が直視できなくなった。その隙をついて姿勢を低くして更に加速し一気に懐に潜り込む。

 

 勢いを殺さぬまま、奴の胴体の下を滑る――腹部から胴体を断ち切るために地面とトリオン兵に挟まれる形になるが、問題ない。

 

「オ――ラァッ!」

 

 胴体を斬り裂き、真っ二つにする。その瞬間左右にいるトリオン兵が此方を認識してブレードを振ってくるが、右のトリオン兵に接近することでブレードを回避する。

 

 真横から振るわれるブレードに対し、上空に身を捻りながら跳ぶことで確実に避ける。地面に身を伏せる、と言うのは基本的にあまり得策ではない。

 

 後ろにもう一体いて、ブレードを振り翳している状況だから上に避けた。これが砲撃の準備をしていた時は砲撃を優先して躱す。

 

 それだけ砲撃というのは厄介だ。なにせ気がつけば次のループに突入するのだから。だからこそ一体に集中するのではなく、複数の視点を持ち様々な作戦を考える。

 

 上空をすれ違いざまにトリオン兵を両断し、地面に着地する隙を晒さないように、着地と同時に転がり止まるタイミングを無くす。

 

 その瞬間着地した場所に砲撃が飛んでくる。ドゴン!と陳腐な爆発音が響き渡るという訳の分からない状況だが落ち着いて対処する。

 

 焦るな、冷静になれ。仲間はちゃんと戦えてるし、空腹少女も複数体を相手にしてまだ生存してる。トリオンが無くならないよう一瞬だけ斬るこのやり方は空腹少女の生存率を大幅に向上させた。

 

 流石に他の仲間にこんな事の出来る奴らは居なかったが、一人いるだけで大分助かる――というより、正直な話この子が居なければ俺の精神は折れていたと思う。

 

 もう一体近くにいるトリオン兵が砲撃を放とうとしている。しかしその直前に再度背筋に凍りつくような感覚が現れたので、直感に従い斜め左に上半身を一気に下げ、速度を落とさず走り続ける。

 

 先程まで上半身があった場所に正面と背後から砲撃が飛んできて、目の前のトリオン兵に背後からの砲撃が直撃する。

 

 グラついたその隙を見逃さず、一気に肉薄し両断する。

 

 背後からの砲撃が先程あったので、その場に留まることなく走り始める。ただし全力ではなく軽く流す程度に。

 

 一番良くないのは見晴らしの良い場所で動きを止めること。

 

 現在荒れ果てた荒野で、石くらいしか身を隠せるものが無い上に死角がどこにあるのかすらわからない。

 

 戦闘の音が少し離れた方向で聞こえるので、友軍の場所と方向だけはわかる。つまり音とは反対方向に敵がいるという事だ。

 

 一旦空腹少女と合流する為に後方へ下がる。一人で突出しすぎても良いことは無いし、仲間と足並みを揃えるのが大事だ。

 

 時々飛んでくる砲撃を気にしつつ、空腹少女と合流する。既に五体撃破したようで若干肩で息をしているがまだ戦えそうだ。

 

「一旦皆の所まで下がろう。この付近のトリオン兵は大体片付いたから、少しは休憩出来るはずだ」

「はい、わかりました」

 

 二人で後ろを警戒しながら仲間の元へと後退する。トリオン兵の姿はちらほら見えるが、まだこっちまで射程が届くような距離ではないのか砲撃を撃つ様子はない。

 

「攻撃してきませんね。これくらい距離があるとこっちに届かないんでしょうか」

「どうだろうな。こっちにとっては好都合だ、さっさと合流しちまおう」

 

 

 

 仲間達と合流すると、どうやらこの付近のトリオン兵は粗方片付けたみたいだ。大量のトリオン兵の残骸が残っていて、それに身を隠しつつ休んでいる。

 

 やはりこのやり方が正解か、少し安堵の息を吐く。

 

「にしても、すごいな嬢ちゃんに兄ちゃん」

「そうだそうだ、お陰で助かったぜ」

 

 先程まで死にそうな絶望しきった顔をしていた仲間達が話しかけてくる。その表情に疲労は見えるが若干目に光がある。

 

「いやいや、私なんかよりお兄さんが、ですよ」

「……お前の方が多分すごいぞ、最初は格闘漫画の世界から連れてこられた人間なのかと思ってた」

 

 えっ、とその場でビシリと固まる少女に、お前も同じだと周囲の人間に目を向けられる。やめろやめろ、俺はお前達と一緒だ。無いもの同士仲良くしようじゃないか。

 

 それにしても、と仲間の一人が切り出す。

 

「あいつらなんなんだ? 兄ちゃんの説明のお陰で何となくわかったが――生物?」

「機械だろありゃ。あんなヘンテコ生物いてたまるか」

 

 俺の説明――アレクセイに毎度のことそれとなく聞き出し、仲間に噛み砕いて説明する。そうすれば怪しまれないし、ただ理解力のある人間の一人として思われるだけだと判断した。

 

「トリオン兵――そもそもトリオンとやらが何かわかってないから現状不可解なモノであることだけは間違いない。それに、一つだけ分かってることがある」

「分かってることですか?」

 

 そう、何もわからないこの状況でも俺たちに分かることがある。

 

 

「――あいつらは敵だ」

 

 

 

 

 

 ―――

 ――

 ―

 

 小休憩を終え、再度戦う。

 

 仲間達には相変わらずの戦法で戦って貰い、俺と空腹少女の二人で数を減らす。

 

 ここ数回で、俺にも直感というかなんか変なのが備わったのか知らないけど躱すタイミングとかが分かるようになってきた。お陰で戦いやすくていい。

 

「どうします?」

「前に四体、その後ろに一、ニ、三四五………どうにか出来るか?」

「二人なら出来ますよ」

 

 空腹少女の信頼が厚く涙が出そうだ、こんな醜い嫉妬だらけの男なのに信用してくれてるのは非常に嬉しい。

 

「カバーするから好きに動いてくれ」

「――はいっ!」

 

 そう言って二人で駆け出す。左右見渡しても近い距離にトリオン兵は見えない為、少しだけ警戒を緩めて正面のトリオン兵に相対する。

 

 空腹少女が一気に加速し、トリオン兵の砲撃の照準から外れる。その代わりにターゲットが俺に変わるが、問題ない。

 

 その隙を突いて空腹少女が肉薄し、眼前にいた四体の内二体を両断しすぐさま後方に跳ぶ。その姿を再認識しトリオン兵がブレードを振るおうとしたその瞬間――俺が懐に入り込んでいたことに気が付かないトリオン兵は、そのまま両断される。

 

「来るぞ」

「はい」

 

 互いに口数が減ってくる。流石に一度に沢山の相手をすると精神的に疲弊してくるのだ。死への恐怖や、痛みへの恐怖が――俺はそこまで響かないが。

 

 死――今現在最も俺と遠く俺と近い物だ。

 

 痛み――気がつくとあまり感じなくなっていた。身体の危険信号が痛みだと昔なんかの本で読んだことがあったが、それを是とすると俺の身体はどんな刺激を受けても危険信号と受け取らないのだろう。

 

 人間は適応する生物である――つまり、【死】と【痛み】に若干耐性ができたという訳だ。数え切れないほど手足が千切れてればそりゃ慣れるよ。

 

 先程の四体の後ろに控えていたトリオン兵達――ざっと見て十体ほどだろうか。この数を相手にするのは正直厳しい。いくら小休止したとは言え俺たちのトリオンは回復してるのかどうかも分からないものだ。

 

 精神面で少し回復しているのはまぁ認める。肉体的にも。

 

 しかし一番肝心なトリオンは謎――絶望しか感じない。

 

「でも、やるしかないんだよ……」

 

 心に言い聞かせる。勝てる。やれる。負けない。俺たちは強い。自分の心を無理やり奮い立たせろ。俺が折れない限り、この戦いは終わらないのだから!

 

 

「やるしか、ないんだよ!」

 

 

 ――瞬間、加速する。正面に散らばっていたトリオン兵の亡骸を蹴り飛ばす(・・・・・)。少し離れた所に居たトリオン兵に直撃し、その身体を巻き込んで跳ねる。

 

 直後、砲撃が吹き飛んでくるので右に旋回して回避していく。正確に俺の動く未来を予測して放たれるその砲撃を心底厄介だと心の中で悪態をつきながら、次々飛んでくる砲撃を辛うじて避ける。

 

 そして俺が半周ぐるりと回って奴らが完全に後ろを向いた瞬間――左の一体が突如半分に割れた。俺が囮で空腹少女が本命であり、基本俺は逃げ回る。流石に少女よりかは男の俺の方が体力があったので俺が役割を担う事にしている。

 

 半分にしたトリオン兵を足場に、いまだにターゲットが俺から移っていないトリオン兵を飛び移りそのまま斬り結んでいく。そして残り四体まで減った段階で漸く空腹少女を認識した奴らの隙をついて俺が接近する。

 

 彼女に砲撃とブレードによる接近攻撃を仕掛けようとしたその隙に背後から二体斬る。両断されたその身体を蹴り、そのまま残った連中に叩きつける。

 

 錐もみ状態になったトリオン兵を空腹少女と同時に一体ずつ斬る。

 

 すぐさま亡骸になったトリオン兵に隠れて少しの間息を潜める。流石に死ぬのに慣れたとはいえ、ここまでうまく行ったのは初めてだ。だから緊張する。

 

 

「はぁ……ハッ……」

「大丈夫か」

「は、い。ちょっと、息が……」

 

 

 流石に空腹少女も限界が近づいて来たらしい。かくいう俺もそろそろ膝が笑い出すところだが。

 

 

「……戻る、か」

「でも、今は……」

 

 

 周りの様子があまり分からない。それが一番怖い所である。友軍の居る所とはあまり離れていない筈だが、戦闘音が聞こえないのだ。ここまで来て失敗か――いや、信じろ。こんなところで終わってたまるか。負けてない。そもそもあんまり数が向こうには回っていない筈だ。

 

 

「……動けない、か」

 

 

 現状動けないため、この場所で息を潜めるしかない。トリオン兵が近づいてこないことを祈る。味方は今頃どうしてるだろう。無事だろうか。誰か一人でもかけてないだろうか。

 

 不安だ。どうしようもなく不安だ。

 

 これまでは自分が戦場を理解していた――死に戻りという性質上、俺が一番戦場を理解していたのだ。殺しの空気、死んだ仲間、発狂する人間――巻き込まれて殺害される俺たち。それをこれまでも何度も見てきた。

 

 仲間が発狂して俺たちに被害が及ぶなんて、もう何度も繰り返した。斬る練習をしている頃なんて、俺は仲間に対して何もしていなかったからそれこそもっとひどかった。

 

 だが今は違う――戦場を支配しているのは、紛れもなくトリオン兵であり俺たちはあくまで戦場の駒。

 

 百対三十という数の暴力を何とか凌ごうと、生き残ろうと明日を掴むと意気込んでいる駒なのだ。

 

 だからこそ不安だ。何かまた新しい要素が来るのではないか、また変な敵が出てくるんじゃないか――ああ、不安だ。

 

 

「――大丈夫ですよ」

「……何がだ」

 

 

 空腹少女が若干震えだした俺の手を取ってそう言う。

 

 

「――誰も、死んでません。負けてません。私たちは、死にません」

 

 

 そうはっきりと告げる彼女に、俺は何も言えなくなった。

 

 違うんだ。もう何度も皆死んでいて、今回たまたま上手く行ってるんだ。本来呆気なく死ぬものなんだよ――そう心の中で思うが、決して口にはしない。そんなことをいって信じられる人間なんかよっぽどの物好きくらいだろう。

 

 

「だってほら。私は生きてます」

 

 

 そう言う彼女は、トリオン兵の亡骸で身を隠しながらも僅かに顔を覗かせ空を見る。何度も死に、絶望し、その命を散らした少女はこちらに顔を向けずに語りだす。

 

 

「こんな名前も知らない、どこかも知らない、地球なのかもわからない様な場所に放り出されて突如殺し合いをしろなんて滅茶苦茶です。でも――生きてます」

 

 

 そう言ってこちらを振り向いた彼女の顔は、とても輝きに満ちていて。

 

 

 

 

 何故だかそれが、非常に眩しく思えた。

 

 

「だから――え」

 

 

 

 少女が此方を振り返ると、なんだか奇妙な物でも見たかのような表情をする。なんだろう、変なものでもあったのだろうか。

 

 唐突に喉の奥から込み上げてきた吐き気と液体に驚愕しつつ、どうした、と声を出そうとして声が出ない。

 

「ぁ……?」

 

 辛うじて発した戸惑いの声と、腹に異物感がある事に気がつく。ふと見ると、背から腹にブレードが生えていた。

 

「は、ん……くそったれ」

 

 流石に意識が遠のいてくる。痛みが少ないとは言え、腹を突き破られて無傷で居られるほどではなかったらしい。ズブリと抜かれるそのブレードをどこか他人事のように見つつ、そのブレードの先にあるトリオン兵の姿を見た。

 

 既に真っ二つになっており、その背後には全身を鎧で覆われた人型の姿があった。

 

 目を閉じる瞬間、空腹少女の泣いている顔とその横に佇む人型の鎧(・・・・)を見つめながら、意識を落とした。

 

 

 

 

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