ワールドリワインド   作:恒例行事

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大規模侵攻⑦

「──知らん。お前はなんだ」

 

 沢村の放った言葉に、剣鬼が言う。

 

「……え? で、でも……」

「お前の事など知らない。俺の名前なんぞ知らん」

「え? 名前を知らないって、どういう」

「──そんなもの知らん」

 

 突き放すその言葉に、思わず後退る沢村。

 

「俺の名前など必要ない。俺の事なんぞ必要ない。……もう、何も……」

 

 声を小さくして、少し呟く。

 

「斬る。斬るしかない。全部、斬って斬って斬って斬り伏せて、救わなくちゃいけないんだ。やらなくちゃいけないんだ。これだけは、諦めちゃいけないんだ」

 

 カタリ、と剣を再度構える剣鬼。相対する沢村は未だ戦闘状態を取らず、絶好の的になっている。剣を振りかぶり、斬撃を飛ばし──受け止められる。

 

「待ちな」

 

 横から入ってきた男──迅悠一が受け止めながら声をかける。

 

「沢村さん、勘違いとかではない?」

「……っ、え、ええ。覚えてるもの、それにほら」

 

 鎖のついた、時計のようなもの。コートのポケットから取り出して迅に見せる。

 

「この、隣の男の子」

「あー……たしかに面影があるように見えなくもない」

 

 目を凝らし、剣鬼を見る。

 

「ん、成る程成る程……そういう訳か」

 

 微かに覗き見た未来を把握して、次にする行動を決める。

 

「ん……? え、ああ。あーっ……」

 

 一人でもごもごと言葉を紡ぎ続ける迅に痺れを切らして、剣鬼が剣を振る。横薙ぎに振られる黒い斬撃に対し、沢村は避けることを選択して迅も上体を捻って回避する。

 

「あぶねっ」

 

 続いて風刃を振り、相手の手足を狙う。容易く回避され、反撃を振られるがそれは復帰した沢村がなんとかカバーする。

 

「いやー助かります」

「それより、廻がどうして……? 何で、わかんないよ」

 

 若干焦燥が感じられる声を上げる沢村に、迅が言葉を返す。

 

「んー……多分大丈夫。見えました」

「見えた……って言うことは」

「全部じゃないすけど、結構」

 

 ニヤリと薄ら笑いを浮かべて、はっきりと言葉を示す。

 

「改めて──俺は実力派エリートの迅悠一。結論から言うと、俺ならアンタの目的を手伝えるよ。廻さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ったく、雑魚共の相手はつまんねーな」

 

 一人、また一人とベイルアウトさせ建物の上に佇む男──エネドラ。欠伸をかき、つまらなそうにボコボコ液体を鳴らす。

 

「おーおー、大暴れしてやがったな剣鬼の野郎。クカカ、こんな所まで斬れてんじゃねーか」

 

 ま、こっちとしては手数が増やしやすくていいと内心思いながら同僚の活躍を賞賛する。

 

「玄界の猿なんぞ、何やってもつまんねーな……なぁオイ、そこら辺で透明になってんだろ?」

 

 先程から透明のまま攻撃を仕掛けてこない敵を挑発するように声を出すが、誰一人として返事を返さない。よく訓練されている、と思うと同時につまらないとも感じる。

 

「チッ……もうめんどくせー。あいつがあんだけ暴れてんだから俺も行くか。それに、全部あいつに擦りつけりゃいいしな」

 

 その場から歩き出し、大きな黒い建物のある方向へと向かう。周囲にいるはずの透明な連中のことは無視し、真っ直ぐ。

 

 その場所は──ボーダー本部。

 

 

「──旋空」

 

 聞こえた声に反応する。完全に戦う気分ではなかったのを切り替えて、戦闘時の高揚感を瞬時に引き出し反撃の形をとる。

 

 声の方向を見てみれば、割と近い道の先に一人の男が片膝をついて腰に手を当てている。その手には孤月が握られており、既に構えに入っている。

 

「(あぁ? その距離から届くのかよ)」

 

 先程までスコーピオン使いと戦闘を行っていたせいで、中距離への攻撃はないかと考えていたエネドラ。しかし、この攻撃によってその考えを改めることになる。

 

「──孤月」

 

 ズア、と一瞬視界に斬撃が残ったあとにパックリと二つに割れる。

 

 その光景に見覚えがあり、あれと同じだと考える。そう、同僚であり非常に腹立たしい事に自分より実力の高い変態。斬撃を操る男──剣鬼に斬られた時と同じ。

 

 つまり身体が半分に割られた、という訳だ。ぐねぐねと身体を動かし、元の形に動かす。

 

「──あれ、なんや斬れてないやん」

「いやいや斬れてる斬れてる。ちょっと死なんかっただけや」

 

 ゴーグルをつけて、髪を少し逆立てた男に同じ服を見に纏った男。

 

「そんじゃもう一回──旋空孤月」

 

 再度ズア、と視界に斬撃が映り今度は身体を斬られる。バランスを失うが既に何度もやられ対策済みなため特に慌てることもなく対処する。

 

「いや死なんやん」

「なんやこいつ」

「うるせぇな猿どもが……」

 

 日頃から同じような斬撃にボコボコにされてる上に、勝てる事が減ってきたエネドラは激怒した。普段から溜め込んだ苛立ちがここにきて爆発した。

 

「クソ猿が──ぶち殺してやる!」

「うわ、急に大きな声出すなや」

 

 B級三位、生駒隊。

 

 その象徴とも言える旋空孤月が、エネドラと衝突する。

 

 

 

 

 

 

 

 膝をつき、無くなった左腕からトリオンの漏出が止まらない。右脚も斬られ、既に満足な機動を行えなくなっている。

 

「──さて、こんなものでしょうな」

 

 キン、と剣を鞘の中に収めた老人が仄かに笑う。

 

「おいおい、そのタイミングで解放はずりーよ。避けれる訳ねーだろ」

「いえいえ、避けるものも居ますよ。流石に初見で躱して反撃してきたのは一人しかいませんが」

「そいつ本当に人間か?」

 

 右腕に孤月を持った太刀川は老人を見上げる。とても接近戦をする距離では無く、中距離と言った方が正しい程の距離。

 

「それに、躱したではありませんか。これでも胴体を狙ったのですがね」

「腕切れちゃあおしまいだっての」

 

 ヘラ、と笑う太刀川。

 

「だけどまあ──諦めるとは言ってない」

 

 下から斬り上げる形で孤月を振る。斬撃が伸び、老人へと迫っていくが──その場で一歩動くことで避けられる。

 

「もう間合いは把握しましたので、無駄な足掻きはやめておいた方がよろしいかと」

「バケモンかよ」

 

 それでももう一度、孤月を振る。斬りさげ、下に思い切り。

 

「ふふ、無駄な──……っ!」

 

 その場で剣を抜刀し、後ろを斬る。スパ、と飛んできた弾丸が斬れて爆発を起こす。爆炎に包まれながら孤月を回避して、話している場合ではないと判断し黒トリガーを解放する。

 

 幾多もの円が剣に浮かび上がり、瞬間的に広がる。

 

 ──その刹那に、孤月が振るわれる。爆炎を斬り開き、太刀川の放った旋空孤月が振り抜かれる。

 

「──面白い」

 

 ニ、と口を僅かに歪めた老人の目の前まで迫った孤月が唐突に割れる。

 

「うそだろ」

 

 そのまま広がった円上にあった太刀川の首が切断される。少し離れた場所にあったビルも斬れて、周囲の建物が壊滅していく。バラバラと崩れていく建物を尻目に老人の周囲を円が回り続ける。

 

 ベイルアウトの光に包まれて太刀川が転送されていく。

 

 回る円の軌道上を何かが目で捉えられない程の速度で移動していく。

 

「──ふむ。このまま気を引け、と。そちらはどうなっておりますかな? ……成る程、ハイレイン殿自ら。ええ、お任せします。陽動は承知しました」

 

 トス、と。僅かに足を踏み出す。向かう先は黒の建物、ボーダー本部。奇しくも単独行動を行おうとしたエネドラと同じ場所を目的地にし、黒トリガーによって災害同然の被害を撒き散らしながら歩く。

 

「さて、先程の攻撃は中々刺激的でしたが……まだ底がある。次はどなたですか」

 

 チラ、と遠くに目を凝らし先程まで黒い斬撃の飛びまくっていた地点を見る。建物が斬られて崩れてるとはいえ、距離があるため肉眼で捉えることは出来ない。

 

 けれど簡単に捕らえられるような人材でもない。

 

「──まあいいでしょう。取らぬ狸の皮算用、とも言いますしな」

 

 ──瞬間、老人へ向かって遠くから飛んできた何かが激突する。黒いボディスーツに、白い髪の毛。

 

「白──おや、成る程。玄界にも白髪の少年はいたのですね」

「何言ってんのかよくわかんないけど、あんた強いみたいだね」

 

 ゆらりと立ち上がる老人から一歩引いて話す少年──空閑遊真。ボーダーに三本しかない黒トリガーを携えて、立ちふさがる。

 

「成る程、その出力──黒トリガーですか」

「それが何?」

「いえいえ、何も。随分と躾の効いた(・・・・・)少年だなと」

「……アンタ意地悪いね」

 

 孫ほどの年齢差もある二人が対峙する。

 

「ノーマルトリガーが通じないのならば黒トリガーを──合理的ですね。ですが少々見通しが甘い」

「……?」

「我々は別に、黒トリガー以外が普通のトリガーであるなどとは言ってないのですよ」

 

 ──バゴ! と大きな音が鳴り響き少し遠くに見えるビルが倒壊する。大きく穴の開いた場所から徐々に崩れていく様を見ながら老人が語る。

 

「汎用ではなく、ワンオフ。それが我々精鋭の考えでして」

「なんだ、奇遇だね」

 

『強』印を結び、その場で構える空閑。

 

「俺も実は、近界民(そっち側)なんだ」

『いくぞユーマ。油断はするな』

「……成る程。面白い」

 

 ニヤ、と笑った老人が手を置く杖が光って──刹那、高速の衝撃が空閑を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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