ワールドリワインド   作:恒例行事

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大規模侵攻⑩

「──……そうか。エネドラは予定通りか」

「はい」

 

 薄暗い部屋の中、二人男女が何かを話している。

 

「金の雛鳥が手に入れば、楽になるがな……」

 

 ボソリと呟き、指を額へを当てる。

 

「……俺も出る」

 

 腰を上げ、椅子から立つ。

 

「ミラ、お前はサポートに回れ。それと──よく監視しておけ(・・・・・・・・)

「……はい」

 

 ゲートが開き、その場から男性が消える。その後ろを、女性が歩く。机の上に何かを置き、そのままゲートをくぐっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほ、よく動くものだ」

 

 オルガノンの高速周回軌道に、接近も難しくなりつつある空閑。どんどん離れていく距離に少し焦りを感じつつも冷静に行動する。

 

「どうしよっかな」

『自分の手札と、相手の持っているモノを比べよう。その上で対抗策を考える』

「いま武器は殆ど見せた。瞬間的な対応力も、総合的な自力も圧倒的に向こうが上。攻める手段も大体防がれたし、そうなると──そういうのとは関係ない、常識の範囲外から攻撃するしかない」

 

 ぐるぐると回転し続けるオルガノンをなんとか回避しつつ、次の手を考える。戦争において、参った許してくれは存在しない。ボーダーの演習では命の取り合いにはならないが、近界民同士の戦いでは常に命の危険があるのだ。

 

 空閑は、そんな戦いをずっと続けてきた。純粋な【殺し合い】に関してはボーダー内部でも相当なモノだろう。

 

 現にこうして圧倒的不利な状況でも、常に思考することを続けている。どこまでも合理的に、その場を解決する手段を理論立てて考える。

 

 ──そんな空閑でも、手詰まりに近い状況。それでも抵抗を続けるのは、自分の後がない事を知っているから。空閑が抜かれれば、戦力が大きく落ちる事になる。

 

 そうなれば負けが決まってしまう。自惚れではなく、黒トリガーというのはそれだけ強力なのだ。

 

「トリガー……歴戦……達人……」

 

 老人の強い、重要な要素を並べていく。相手の情報を並べた上で、レプリカとともにプロファイリングを行なって正確な対策をとる。空閑とレプリカ、二人いるからできる事だ。

 

「不意打ち……無駄。でも虚を突くしかない」

『経験を逆手に取るのがいいだろう。そうはこない、と確実に思うような一手をとる』

「そうはこない──……ひとつだけ思いつくけど、リスクが高い」

 

 ザ、と一旦瓦礫に足をかけ静止する。射程はまだまだ伸びそうだが、なぜかそこで回転を止めるオルガノンに疑問を抱きつつ作戦を練る。

 

「左腕もない。手数があんまりない」

『ならば一撃で決められる選択をするべきだ。射程の中に入る必要がある』

「それはまた厳しい」

 

 オルガノンを縮めて、再度大きく開いてを繰り返す老人を見つつゆっくりと呼吸を整える。

 

「『強』印と、『鎖』印と……後は何だろ」

『速度を生かすのなら『強』印は二回使用するべきだ』

「じゃあそういう事で、後は──隙を伺うくらいか」

 

 よく目を凝らしてみれば、老人の耳元に黒い小さななにかが現れている。ボソボソと何か話しつつ、情報の共有でも行なっているのか口を動かす老人。

 

「──……どうやら、こちら側の目的も着々と進んでいるようですな」

「ふーん……」

 

 睨むように目線を老人へと向け、真偽を確かめる。

 

「レプリカ」

『今確認している──どうやら、アフトクラトルの黒トリガー使いが一人死んだようだ』

「死んだ? ボーダーの人が殺したの?」

『いや、裏切りだそうだ。ワープ使いが殺したらしい』

 

 本当である事を確認し、それを計画の一部と言う老人に何か疑問を抱く。

 

「……なんか、一枚岩じゃないの?」

「我々もトリガー使いとは言え、人間ですから。色んな要素が絡むのは仕方のない事」

「よく言うよ」

 

 再度オルガノンを回し始めた老人に、少しだけ距離を詰める。

 

「『響』印+『強』印──五重」

 

 右手を大きく振りかぶり、老人に向けて勢いをつけて振り下ろす。

 

 ド、と大きな音が響き衝撃波のような物が飛んでいく。速度をつけ、大幅に強化された『音』が暴力的な勢いで老人に直撃する。

 

「ぐ……っ」

 

 顔を庇うように左腕を前面に押し出し、足で踏ん張れるように肩幅程度まで広げる。キ、と不快な音が爆音で耳に響くがそれの耐え暴風のように一瞬で過ぎ去った瞬間に顔を上げ、空閑の様子をみる。

 

 刹那、オルガノンの高速周回を擦り抜け瓦礫が飛んできた。特に焦ることもなく対応して、左腕で払い落とす。

 

「──……どこへ?」

 

 気がつけば空閑の姿は無く、そこには瓦礫の山が残されたままだった。

 

 じ、とその場で回転させながら待つ。

 

「失礼、ミラ殿」

 

 耳付近に開いたワープゲートから、通信を行う。

 

「黒トリガー使いを一人逃したかもしれません。其方側の具合はどうですかな」

『現在追跡中です。残存ラービット十体投入していますが玄界の兵士の抵抗が中々崩せない状態です』

「ふむ……ヒュース殿は?」

『玄界の部隊と交戦中です。ランバネインも手が離せる状態では無く』

「では私が行って斬りましょう。そちらの方が早い」

 

 ツカ、と足を進める。オルガノンの周回軌道を維持したまま進行を始めて、災害と言っても差し支えない被害を生み出していく。

 

「次は誰を斬れば良いのか、それとも──」

 

 ピク、と反応する。何かを感じとり、再度足元へと警戒する。

 

 刹那、手に鎖を巻き付けた空閑が飛んでくる。オルガノンを全て擦り抜け、老人本体へと接近した。円軌道で勢いを増して、強化された足で助走を付け一気に飛び込む。

 

「──『強』印──」

 

 攻撃の準備を整えて、老人へと足を動かす。これだけの速度であれば、ただ強化しただけでも十分トリオン体を破壊することが可能だ。

 

 しかし老人も慌てる事なく、待っていたと言わんばかりに口を歪ませる。

 

「──少々、正直すぎる」

 

 ス──と空閑の視界がズレ、右目と左目の見えてる位相が変わる。その微妙なズレを不愉快に感じながら、空閑のトリオン体が壊れる。

 

 ド、とトリオン体が壊れる時特有の大きな音が鳴り煙が舞う。

 

「ふむ……自棄にしては妙ですな」

 

 違和感を抱きつつ、老人は既にやることは終わったと考え次を考える。

 

 ──そこが唯一の隙となった。

 

「──『強」印」

 

 ブワ、と煙をかき分けて制服姿の空閑が飛び出してくる。指輪からは光が出て、その効果を確かに発揮している。

 

「な──」

 

 生身でトリオン体は破壊できないはず。

 

 老人はそう思い、そこで思考に疑問を抱いた。

 

 本当にそうだろうか。生身だからトリオン体を破壊できないことなどあるのか。いいや、そうとは限らない。

 

 何故なら、生身で自分に肉薄してくる人間を知っているから。

 

 生身でトリオン体を破壊する技術が生まれていても、そう不思議ではない。そういった専用のトリガーがあっても、おかしくはないのだ。

 

 刹那、オルガノンを振ろうとして──ズシンと重さが響く。

 

「あの時の──!」

 

 鉛弾をオルガノンに受け、咄嗟に右手を離す。国宝とすら謳われる黒トリガーを離すのは中々不安感があるが、そんなこと今は言ってる場合ではない。

 

「──く」

 

 身を捻り、空閑の攻撃に対して何とか対応する。胴体を狙ってきた攻撃に対し、左にスライドする事で攻撃地点をずらす。少しのかすり傷程度ならトリオン体は自動で傷を塞ぐが、大きな穴は塞ぐ事ができない。

 

 致命傷になってもおかしくない一撃が来ると考え、その場で全力を出す。

 

「──二重」

 

 空閑の腕が老人に振るわれ、真っ直ぐ胴体部分へと飛んでいく。

 

 ぐんぐん伸びて、老人にも焦りの表情が浮かぶ。しかしそれと同時に口元を歪ませ、左腕を突き出す。

 

 空閑の腕と左腕が接触し、胴体に当たる寸前の所で横に軌道をずらされる。真っ直ぐの攻撃に対して横から適切な妨害を入れられ、空閑の身体ごと軌道が横に向く。

 

 老人の右腕に辛うじて拳を当て、大きなダメージを与えることには成功した。

 

「……ほんと、やるね」

 

 地面に落ち、転がった場所で再度構え直した空閑が言う。

 

「いえいえ、此方もやられると思いました。まさかの手段だ」

「通用してないでしょ」

「まあ、似たような戦法を使う人間がいましてね。正確には生身ですが」

 

 左腕でオルガノンを拾い直し、空閑に近づく。

 

『ユーマ、ここは退け』

「退けない、後がない」

『いいから退くんだ、連絡が入った』

「連絡……?」

 

 既に老人の射程内へと入った空閑が、レプリカの言葉に疑問を抱く。

 

『ユーイチからの伝言だ──今すぐそこを伏せたほうがいい』

 

 瞬間、空閑が頭を下げ地面に伏せる。それを見てヴィザがアクションを起こすより先に──斬撃が横薙ぎに振るわれる。

 

 赤と黒の入り混じった斬撃を左腕に持ったオルガノンで防ぎ、円軌道をその場で復活させる。

 

「──それは見えてる」

 

 しかし、上から飛んできたある人影が空閑を掻っ攫って再度離れる。絶妙にオルガノンを回避しながら後退していくその青い服を身に纏った青年を見ながら次の攻撃に備える。

 

「いやー、遅くなってすまん遊真」

「いいタイミングで来るね、迅さん」

 

 はっはと笑いながら抱えたままだった空閑を地面に下ろす。額にかけたサングラスをつける事はしないまま、手に持った風刃を揺らす。

 

「悪いけど、メガネくんの助けに行ってくれるか。今秀次と加古さんが抑えてるんだけど突破されてもおかしくない状況なんだ」

「ん、今の俺でいいなら」

「遠くから一、二発撃つくらいで十分だよ。ボーダーのA級もなかなか頼りになるから」

「迅さん一人で何とかなる?」

 

 此方に向かいつつ円軌道を伸ばす老人を見ながら、空閑が質問する。空閑とレプリカの二人でかかって腕一本の相手が、果たして迅一人で何とかなるのか──。

 

 迅の腕を疑っているわけではない。未来を読むというその力は、先程のオルガノンを回避した場面で十分理解できた。目に見えないものをまるで見えているかのように動くそれは、空閑には出来ないことだ。

 

「ああ、大丈夫。そもそも一人じゃない(・・・・・・)

 

 ザ、と歩く音が聞こえる。

 

 空閑が後ろを振り向くと、ある人物が歩いてきた。

 

「ナイス攻撃、廻さん(・・・)

「……お前も、な」

 

 白い髪に紅い瞳──赤黒に染まった武器を手に持つ、剣鬼(星見廻)と呼ばれた青年がそこにいた。

 

 

 

 

 

 





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