──頭痛が響く。
「──廻さん!」
ああわかってる、だからそんな大きな声を出すな。響くだろ。先程飛んできた攻撃に合わせて、剣を振る。赤い斬撃が迸って射撃が飛んでくるより先に相手を斬る。
「ランバネイン……」
面倒だ。火力の高さと飛び回る面倒さ。
──だが、もうそんなもの関係ない。
「迅」
俺は今、一人じゃないから。
「──風刃」
グア、と迅が崩壊した瓦礫を斬りつける。瓦礫を通って斬撃が伝わっていく。
迅の未来視──俺が死ぬ未来を見て、その上で相手の位置を把握する。高等技術どころではない、異常なほどの把握能力がなければ出来ない荒技。
ドン、と大きな特有の爆発音が聞こえ誰かがやられたことを表す。
「終わりだ、ヴィザ」
生身のままオルガノンを右腕に抱えたヴィザに剣を突き出す。
「……どうやら、その様ですね。我々の目的もまた、失敗したようだ」
気がつくとヴィザの真横に小さな穴が開いていて、それがミラの開けたワープゲート兼通信用の小さなものだとわかる。
「……退け。元から、俺とヒュースは置いていくつもりだろ」
「おやおや、それもお見通しですか」
「ハイレインの事だ。確実な手を打ちにくるとは思ってたさ。だからこそ、今回で──……やるしかなかったんだが」
チラ、と迅を横目で見る。目を三のような形に変化させのほほんとしている迅を尻目に、ヴィザに話す。
「悪いな。まだ俺は、諦めきれない。いや──諦める必要がなくなった」
「その青年がカギ、という訳ですか……」
「というより、俺も忘れていたが……どうやらここが俺の故郷らしい」
散々暴れたがな、と言葉を付ける。なにもかも覚えていない俺の空虚な記憶にはない俺の故郷。迅と、沢村が言っていた俺の真実。
「確かめないといけない。俺の全部、あいつらの全部──そして、救わなきゃならない」
だから、ここでお別れだ。
ヴィザのワープゲートを通じて、ミラにも伝える。声は帰ってこない、ヴィザの真横にゲートが開くだけだ。
「──いつか」
それこそ、またいつか──間に合うかはわからない。恨まれるかもしれない。でも、アイツはそんな事気にしないだろう。笑って気にするな、と言ってのけるに違いない。
「またいつか、そう遠くない内に」
やってくれるさ、お前の家族が。
ミラでもハイレインでもヴィザでもない何者かへのメッセージを残して、ヴィザを飲み込みゲートは消えていった。
「……さて、俺はどうすればいい」
「取り敢えず、武器を取り上げるのは無しの方向で。俺の上司に連絡して玉狛──俺のいる拠点で保護扱いできないか掛け合ってみるよ」
「すまん、助かる。それと──」
「ああ、うん。大丈夫、わかってる」
言わんとすることを理解し、交渉の鍵へとしてくれる。
「……晴れたな」
俺たちが来てからずっと曇っていた空は、いつしか晴れていた。眩しい蒼色に、太陽の光が煌めいている。
「……やっと、晴れたよ」
ヴィザが消えてから数分、迅と共にある人間を待つ。迅曰く、貴方を最も待ち望んでいた人──らしい。
「視えたか」
「それはもう」
肩をすくめておちゃらけて答える迅に、本当にどうにかなったんだなと思う。
俺は、未来なんてわからない。ただ、繰り返しているだけだから。何度も失敗して失敗して失敗して、その果てに首の皮一枚で繋いできたに過ぎない。
あの国でも、アフトクラトルでも、ここでの戦いも。だから俺には、迅の気持ちがわかるようでわからない。けれど、ひとつだけわかる事はある。自分にしかわからないことがある、それを解決しなければならないって言うのは──結構、堪えるものだ。
「──……廻」
気がつけば、先を歩いていた迅の横に先ほどの女性が立っている。黒い髪を肩辺りまで伸ばし、セミロングで纏まっている。どこか彼女に似た雰囲気に、思わず懐かしさを感じてしまう。
「私は、沢村響子。覚えていますか?」
──いや、すまない。覚えてない。
「…………そっか」
長い沈黙の後に、絞り出すような声が聞こえる。どこか無性に、苛立ちが募る──いや。苛立ちというより、不安感というか。
悪いな、俺には殆ど残ってないんだ。
沢村の顔が少し歪むのを見て、どこか悲しい気持ちになる。
俺の昔の記憶も、いろんなものが抜け落ちてしまった。空虚で哀れで、虚しい存在。それが俺なんだ。
「うん」
けど、俺にも大切なものはあったんだ。ずっと心に残ってて、今でもずっとそれを想ってる。
「──うん」
だから──それを終わらせた後。俺は、自分のことを知ろうと思う。
それを、手伝ってくれるか?
「──……うん!」
その元気で、儚い笑顔と明るい声に──やはりデジャブを覚える。果たしてそれが彼女なのか◼︎◼︎なのかは、わからないが。
そこからしばらく三人で歩いて、会話しながら迅が呼んだ誰かを待つ。車でくる、という話は聞いているがいつまで時間がかかるかとかは聞いていない。そのためどうしても三人でいろんな話をすることになる。
「そう、なんだ……」
俺の話がメインになる。別に口外してマズイ内容なんて殆どないから、それなりにストレートに話す。
「ああ。一番最初──あの頃は最悪だった。奴隷同然の扱いで戦場に向かって、数少ないトリオンで戦えと強要される。そうしなければ軍人に殺されるし、食料が得られないから自然に死ぬ。そういう環境だった」
懐かしい、最悪の想い出といっても過言ではない記憶を呼び起こしつつ話す。
あの頃は三人いつも一緒だった。今も一緒なのは変わりはないが、そこには大きな変化がある。二人は身を呈して俺を庇って、俺は二人に救われた無能。
最悪だったが──今でも大切な記憶だ。これは、忘れたくない。
「……それは、あんまり言わない方がいいかもな」
迅が口に出す。
「第一次大規模侵攻──廻さんや、ほかの人達が拐われた四年前の襲撃。あの事件で家族を連れ去られたって人はかなり多くて、今でも生存を待ち望んでいる人がそれなりにいる」
あくまで希望的観測、本当に心のどこかでと言ってからさらに言葉を続ける。
「だから、現実の絶望的な話を聞くと──耐えられない人がいるかもしれない」
廻さんには申し訳ないけど、と告げて謝る仕草を見せる。
気にするな、俺のことなんかどうでもいい。俺にとって大事なのは、あいつら二人の事だけなんだ。
「……早く、助けたいね」
ああ、早く助けたい。そう願って、生きていたから。
ブロロロ、と独特の音を出しながら車が近づいてくる。かなり足場の悪い瓦礫がそれなりにある道だが、ガタガタ揺れながらも安定性を保って動いている。
「来たね」
すぐそこに止まって、運転席から腕を出してくる。
「今いくよ、レイジさん。ささ、廻さんもほら」
後ろから押されて、それに逆らわず歩いていく。どうやら沢村は来ないようで、後ろでこっちを見ている。
「──また」
また、会える。そう告げてボーダー本部へと向かっていく。
ガチャ、と扉を開いて乗り込むよう仕草を見せる迅。従って乗ると──先客が乗っていた。
「……ふん」
頭から角を生やし、まだ若さの残る表情──ヒュース。そうか、やはりお前も残されたんだな。
「貴様の裏切りでな。……冗談だ、どちらにせよ俺もお前も置いていかれただろう」
そうだな、俺も同意見だ。
「忌々しい。さっさと本国へと帰って阻止せねばならないのに……」
まあ、安心しろよ。そう悪いことにはならないだろうな。
「そういう事だ、えーと、ヒュース?」
「気安く呼ぶなっ」
ツン、と窓の外を眺めるヒュースに苦笑いする迅。
「とりあえず二人とも、このまま玉狛まで連れて行く。流石に本部に連れて行っちゃうと色々複雑になるからな」
俺はこっちでやることあるからと告げて、迅が扉を閉める。
了解、と言葉を継ぎ俺も外を見る。走り出した車から覗く視界には常に破壊の爪痕が残っており、俺が刻んだ大きな斬撃の痕も残っている。
……これが故郷、か。
未来がどうなるかなんて、分からないモノだ。特に、俺みたいなヤツは。