ワールドリワインド   作:恒例行事

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決意/始まり

 ゆっくりと、目が醒める。

 

 これまでに一度も見た事のない景色――というより、若干古びた木の板。俺たちの言葉風に言えば、それは天井と呼ぶのだろうか。

 

 周りを見渡そうとするも、周りは白いカーテンで区切られているので全く様子を窺うことができない。

 

 腕には点滴だろうか、液体の入ったパックがいつもの銀色の奴に引っかかって俺の腕に繋がっている。

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

 どうやら冗談を言う程度には回復出来た――始めて見た景色ということは、俺はどうやら生き残ったらしい。

 

 

 一

 

 

 暫く何もせず布団で睡眠を貪ることにして、誰かが来るまで待つ。仮にここが軍の基地だったとしたら、目を覚ましたことで何らかの処遇があるだろう。ああでも待て、奴隷兵士に処遇を与えるような気はあるのだろうか。

 

 目が覚めた次の瞬間、次の戦場へ行ってこいというパターンも無くは無い。ああクソ、考えがまとまらない。

 

 ここはどこだ。俺は今生きているのか。死んでいるのか。考え事が出来ているのだから生きているに決まっている。だが、俺は何度死んでも思考を繰り返した。その事実から考えると、今の俺は死んでいると言っても過言ではないのじゃないだろうか。そもそも生きてるとは何だ。何が基準だ。

 

 そんなことはどうでもいい。切り替えろ。

 

 あの後どうなった。俺の腹が刺され、空腹少女が泣き、鎧姿の変なのがトリオン兵をぶった斬っていた。最後に見た景色はそれだった。

 

 簡単に状況を整理すると、鎧姿の変なのが俺たちを助けてくれた――つまり友軍だったのだろう。友軍……今さら考えるのもアレだが、果たしてこの星?世界?の人間を仲間だと思っていいのか。

 

 侵略者で、略奪者で、支配者だ。奴らは俺たちをゴミだとしか思っていない。

 

 それを仲間だと思っていいのか?

 

 違うだろう。仲間というのは、空腹少女や他の連れ去られてきた同じ人たちのことを言うのだ。好き勝手に俺たちを利用し、その命を無駄に散らして盾になれと命令してくる奴は仲間とは――呼べない。

 

 そうだ。仲間なんかじゃない。俺が命を張るのは、捨てるのは、あくまで俺達のためだ。

 

 それは連れ去られた仲間たちであり、空腹少女であり――ああいや待て。そうじゃない。俺の命は、たった一人のためのものだ。そう、■■■子。■■響子。そうだ。思い出せ。忘れるな。俺は彼女に会うために生きるんだ。間違えるな。

 

 そこを履き違えてはならない。そうだ。

 

 

「あ、目が覚めたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 どうやら俺たちは簡単な防衛拠点まで下がって来たらしい。アレクセイ率いる本隊が、俺たち奴隷兵士が正面から囮をやっている最中に横から突撃して前線を押し上げる――そういう作戦だったらしい。

 

 勿論作戦を立てたのはアレクセイではなく、本部の連中だそうだ。

 

 そんなことは心底どうでもいいが、少女曰く先程の闘いで特に活躍したと証言された俺と少女はアレクセイに呼ばれているらしい。目が覚めたら即戦場では無くてよかったと安堵する――が、束の間その思考を捨てる。

 

 次は何だ。また戦場か?また捨て駒か。肉壁になれと?

 

 ああ嫌だ、嫌悪感しか生まれない。人のことを人だと思っていないクソ野郎共。勝手に攫って、お前らは無能だと烙印を押し死ねと命令する。

 

 クソだ。人の形をした別の生物。しっかりと刻み付けろ。

 

 

 

 

 

 アレクセイの話を纏めると、俺達二人は特に使える奴隷兵だと本部に認識されたそうでこれからあちこちの前線へ投入されることが決まったらしい。本当にクソったれだなこの国。

 

 それについてアレクセイも思うところがあるらしく、申し訳ないと謝罪してきた。そう思うならせめてもう少しマシな装備を寄越せ。それか元の世界に返せ。まぁこいつに言っても仕方ないし、黙っておくことにした。

 

 もう少し人材を貴重に扱ったりしないのか――実は、本部の方で攫われた俺たちの内トリオン量が多かった連中は丁重に扱われているらしい。前線に投入されるのも少なくとも一年はされないという話で、装備もアレクセイが使っている全身を鎧に変換する武装――トリガーという物をわざわざ用意するらしい。

 

 何という充実っぷり、才能ある奴らは羨ましいね全く。

 

 その代わりと言っては何だが、アレクセイが可能な限り便宜は払うと言ってくれた。ああ、ありがた――待て。洗脳されるな。等しくこいつらは同じだ。これも最初と同じで、上が鞭でこいつが飴だ。騙されるな、疑え、自分を確立させろ、簡単に覆させるな。

 

 取り敢えず、もう少しまともな武器はないか聞いてみた。

 

 

「あるにはあるが、その……君たちのトリオン量が微妙過ぎて、あまり使い物にならないと思う」

 

 

 喧嘩売ってんのかこいつ……悪かったな俺たちが底辺で。ほら見ろ!お前のせいで空腹少女もめっちゃ微妙な顔してんじゃねぇか!あんな射程足りない近接限定装備でどうやって前線を生き残れってんだよ。結局今回だって、俺と空腹少女の二人が幾ら頑張っても助かる未来は無かった。

 

 別の勢力の介入――まぁ簡単に言うとアレクセイの部隊がいなければまたループしていた訳だ。そういう所だぞミソッカス。

 

 まぁそんなことはどうでもいいので、切り替える。一番俺が聞きたいことはこれだ――元の世界に戻れるのか。

 

 

「……現状、君たちの世界に帰る方法は一つ。この国のトップクラスの実力者たちが戦力を求め近くに飛んできた国を侵略するのだが、そのタイミングで君達がそのトップチームに参戦するほか無い」

 

 

 そりゃまた、ミソッカスには厳しい現実だ。この世界から帰るには、この国でも有数の実力者にならないといけないらしい。その上、他の国、他の世界を侵略し戦力を補充する――つまり今の俺たちのような存在を新たに生み出す侵略に参戦するしかない。

 

 思わず、ため息が出る。ああ、やめろ。こんなところで折れるな。まだ終わらない。可能性はある。そうだ。たった今こいつが自分の口で言っていたじゃないか。この国有数の実力者になれば侵略に参戦できると。

 

 ならば逆に好都合だ。この国で上を目指すのなら、どちらにせよ実力が無いといけない。奴隷兵士の今の俺を認めさせ、侵略に出すような信頼を築く。

 

 そう考えれば、強制的に戦場に出されるのは好都合だ。俺は力をつけられる、国は戦争に勝利できる。あぁ、こうだな。

 

 だから余計な事を考えるのはやめよう。

 

 この国でも有数の実力者になり、侵略に参戦し、どんな国や世界を犠牲にして恨みを買っても――俺は■■響子に出会うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

『ようこそ、ボーダーへ』

 

 その言葉を最後に、城戸の挨拶が終わる。公式に新ボーダーとして創設してから初めての入隊式になるので、一番上の人間が挨拶に出てきた。

 

 そして、古株――旧ボーダーと呼ばれる組織の頃から所属する青年、迅悠一もこの場にいた。

 

 サングラスを常に頭に引っ掛け、飄々とした表情と言動で周りを混乱させ――そして、未来を見通す力を持つ。

 

 彼がいる理由――それは一重に、ボーダーの未来を案じて城戸に呼ばれたのである。その目で直接見た人の未来を確認し、ボーダーに不利益を見通す人物がいた時は早期に対応する為。

 

 そんな迅は、会場全体を見渡し未来を見続けた。知らない人間の未来を勝手に見るというのは気が引けるが、その重要性を知らないわけではない。伊達や酔狂でボーダーという組織に所属しているわけではないのだ。

 

(……ま、今のところそんな人は居なさそうだな)

 

 密かに安心する。自分達はトリオン兵や近界民から人を守るためにあるのであり、決して守るべき人を裏切り傷つける為にあるのでは無いのだ。

 

 問題も無さそうだと報道陣の方にも目を向けて、この生放送の直後SNSで話題になる未来を見通し苦笑し――そして、再度入隊する予定のメンバーに目を向けた時、見たことの無い未来が見えた。

 

 それは、一人の女性だった。硬い表情に、意志の強い瞳。

 

 加えて一人。顔が見えないが、体格からして男だろうか。ローブの様な服装に身を包み――彼女と話す姿。

 

 何だ、この未来は――そう思った瞬間、その光景は消えた。未来を見ては勝手に消えるなど初めての事だったが、それほど可能性の低い未来だったのだろう。

 

 仮に百回チャンスがあっても、一度訪れるか訪れないか――そういう領域の話だ。ならばそう気にする必要も無いか、そう判断し再度未来を見渡し始めた。

 

 

 


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