ワールドリワインド   作:恒例行事

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星見廻⑥

「──よし。準備オッケーだな」

 

 複数の人間が集まり、白衣のようなものを着ている。男女様々な人数がいて──中には、見知った顔の男もいる。

 

「本当に問題ないな──迅」

「えぇ、これで大丈夫。応急処置と、血液採取だけ行って血液型を調べておきましょう」

 

 迅、悠一。その未来を見通す瞳に何が映っているのかは──誰も、わからない。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 毎日のリハビリ──というより、主に検査ばかりやっている。

 

 聴覚だったり、視覚だったり色覚だったり。身体的な検査も行うし、ありとあらゆるものを検査してる。今日は何やら身体検査──器具を使用して、どれ位の値が出るか測るらしい。

 

 ぐ、と持たされた器具に力を入れる。

 

 バキッ!と言いながら壊れた器具を医者に返し、不良品か?と尋ねておく。何やら白目を剥きながら手に持つ変な形の電子機器に値を入力していく医者。

 

「…………そんな気はしてたわ」

 

 今日もたまたま見舞いに来ていた沢村が付き添いで見てるが──何か悟った目をしている。

 

「ううん、なんでもないの」

 

 そうか。

 

 

 むしゃむしゃと差し入れの果物を食べながら、沢村と話す。

 

 昨日は何があったとか、どんなことをしたとか。簡単にだが、毎日起きたことを思い出すように。

 

「……そうなんだ。迅くんが」

 

 アイツも、苦しんでる。今の俺はそこまで酷い症状は無いが、迅はこれからもずっと戦うんだろう。俺も勿論、戦うさ。もう十分戦ったから、休んでいいわけじゃ無い。

 

 やりたいこと成したいことがあるから戦うんだ。

 

「私も、手伝うからね?」

 

 ああ、頼む。

 

 赤いリンゴ──そう言えば、エネドラの好物だったな。

 

 しゃり、と一口。

 

 散々甘いだのなんだの言って来たが──……ああ、そうだな。これも、美味いんだろうな。

 

 

 沢村も休憩が終わり、ボーダーの仕事へと戻っていった。特別に多く休憩を貰っているから、全然大丈夫だといっていたが──なるほど。

 

 あの指揮官、城戸と言う男性。

 

 裏があると思ったが──多分、それはこっちを害さない程度の裏なんだろうな。俺の黒トリガーの研究も許可する、と言ったのは。それの副産物で、黒トリガーの情報を手に入れる。そんなものだろうか。

 

 俺よりも付き合いの長い迅が何も言っていないんだ。なら大丈夫だろう。

 

 ペラ、と一ページ。一人一人写真を見て、名前を確認する。

 

 ……これは。

 

 名前を見る。ほの行、流し読みをしていたらふと目に付いた名前。黒い髪に、少しやる気のない表情。目付きは程よく柔らかく、瞳も特に異常は見られない。

 

 ──星見、廻。

 

 ……本当に、俺はこの世界に居たんだな。

 

 ページを開いたまま持ち上げて、ベッドから降りる。部屋に備え付けられている洗面台の前に立ち、自分の顔を改めて見る。

 

 痩せこけた頬、鋭い目付き。少し充血の残る瞳に、何より最大の違いは──白い髪の毛。

 

 随分変わってしまった、と自嘲する。これが、俺の歩んできた道だ。何で変化したのか、どうしてこうなったなんてことはどうでもいい。これが、俺が守りたいと思ったものに必死になり──俺が、生きてきた証なんだ。

 

 頬に触れてみるが、感覚がない。これもまた受け入れなければならない物の一つ。トリオン体になれば、また少し違うのだろうか。今は痛みを感じない。けど、急にわかるようになってしまったら俺はどうなるんだろう。

 

 痛みで、悶え苦しむかもしれない。泣き叫ぶかもしれない。やめろと大きな声で訴えるかもしれない。……もう、他の人間と同じ様には戻れない。

 

 けど、まあ。それでいいんじゃないか。

 

 ファイルに収められた過去の俺を見る。確かに、そっちの俺の方が楽しそうではある。けど、俺は今を否定する気はない。

 否定なんてしてしまったら、二人との想い出まで消えてしまうから。それだけは、したくないと思える。

 

「……な、星見廻。お前は、守りきったのか?」

 

 過去──恐らく、戦いが始まったその時。俺は、沢村を助けたらしい。何度も何度も繰り返して、未来を予習した上で。

 

 お前は凄い奴だな。二人を失った俺とは、大違いだ。胸を張れよ、星見廻(過去)今の俺(剣鬼)は、一人で生きていくことも出来ない愚か者だ。

 

 ペラ、とページをめくる。

 

 鏡に映る顔は、少しだけ笑っていた。

 

 

 

 コンコン、とドアがノックされる。

 

「──や」

『失礼する』

 

 空閑とレプリカの二人が入ってきた。なんだかんだ言って、一番見舞いにくるコンビだ。

 

「調子はどう?」

 

 可もなく不可もなし、いつもと変わらない。今は頭痛もしないから、少しずつ快調に向かっているんじゃないか?

 

「ほう、頭痛……ずっとしてたの?」

 

 ああ。恒常的に、突き刺す様な痛みが。他の痛みは感じないのに、その頭痛だけは感じ続けたよ。ずっと、ずっとだ。

 

「……おれはさ、メグルさん」

 

 椅子に座って、話し出す。

 

「……人のウソが分かるんだ。例えば、此間メグルさんが言っていた美味しい、とかね」

 

 こっちを真っ直ぐ見てくる空閑。

 

「メグルさん──味覚も、無いの?」

 

 …………ああ、感じないよ。口に入れた物の味も、感触も。肌に触れた物の温度だって分からないし、それが鋭いのか、柔らかいのか、太いのか細いのかもわからない。

 

 熱も感じられない。何が正常なのかなんて──覚えてすら、ないよ。

 

「……こなみ先輩には、黙っておくね」

 

 ……すまん、助かる。別に人を傷つけたい訳じゃないから。あいつは、いい奴だから。知られたくない。

 

「ん」

 

 静かに、俺が一枚ページをめくる。

 

 ページの右端、ふと目線を通していると──とくん、と心臓が動く音がした。

 

 見覚えのある、いや。黒髪を肩付近まで伸ばし、快活な顔。意志の強そうな目つきに、それでいて幼さと女の子らしさが整った写真。

 

 ………………こ、の子は。

 

 名前を確認する。

 

 ──◼︎から始まる名前、そうか。

 

 こんな、名前だったんだな。

 

「……ちょっと売店行ってくる。レプリカも行こ」

『……ああ、そうしよう』

 

 出て行った二人を気にすることもできず、写真を見続ける。

 

 ──お疲れ様です!

 

 頭の何処かで、何かがガッチリハマった様な音がする。

 

 ──でもお兄さんもですよね?

 

 懐かしい、懐古の感覚が俺の中に出てくる。

 

 ──ごめん、なさい。

 

 ……ああ、俺もだよ。ごめんなさいは、俺の台詞なんだ。

 

 静かに嗚咽を鳴らす。ようやく辿り着けたそこに──涙は、止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……メグルさん、本当に苦しんでたんだな」

『メグルは自分を犠牲にして生きてきた。それこそ文字通り、命を捨てながら。果たして最初から痛みを感じなかったのか、その過程で感じなくなっていたのかは定かではないが──それでも』

 

 十分過ぎるほどに、戦っただろう。

 

「ボーダーじゃ数少ない、本当の戦争で戦ってきた人が……大丈夫かな。常識で言えば俺と同じくらいだと思うけど」

『それに関しては、我々がある程度援助すればいい。迅曰く、メグルが居なければ私は居なくなっていたそうだからな』

 

 感謝こそすれど、それを面倒に思うことはないと言うレプリカ。

 

「それもそうだ。て言っても俺もよくわかってないけど」

『……勉強のし直しだ、ユーマ』

 

 口を3の形に変えて歩く空閑。

 

 売店に到着し、飲み物を買っていく。わざわざ味を感じない、と言っている人物に味付きの飲み物を買っていくのは嫌味かと思い水を二本購入。

 

 売店を出て、少し時間を置く。すぐさま帰っては、邪魔になるかもしれないから。感傷に浸り、想い出を探っている最中に他人に邪魔されたくはないだろうとの配慮だった。

 

「……おれも」

 

 ポツリと空閑が呟く。

 

「おれも、もし親父が元に戻ったら──泣くかもな」

 

 色々と、我慢していることはある。だが、空閑遊真は──まだ子供なのだ。

 

 戦争を生き延びて、殺すという技術をひたすら磨いたこの数年間であったが。レプリカと共にいたおかげで、人間らしさと言うものは失わなかった。

 

 ある意味、似ている。空閑も、一歩間違えれば──いや。一歩違えば、同じだっただろう。それだけに、放っておく気にはならないのだ。

 

「お、遊真じゃん」

 

 そんな風に考えながら休憩していた空閑の元に、ある人物が話しかけてくる。

 

「──あれ?迅さん」

「よ」

 

 キラリと顔を輝かせ、当然のようにトリオン体で闊歩している。

 

「見舞い?」

「それもあるけど、他の用事もあってね。それが済んだからこれから廻さんの見舞いにいくとこ」

「だったらいまは行かないほうがいいよ」

 

 目を開き、空閑のことをみる迅。

 

「……なるほど、これはそうだな。俺も一緒にここで休むことにしよう」

 

 未来を見ることで、何があるかを把握する迅。

 

「遊真も結構きてるよな」

「うん、まあね。なんだか放っておく気にはならないんだ」

「……そう、だな。俺もそうだよ」

 

 迅と空閑──互いに黒トリガーの使い手であり、どちらも大切な人が黒トリガーになってしまった共通点を持つ。

 

 迅はいまは正確に言えば違うが、それでも同じだ。サイドエフェクトによって人のウソがわかるようになってしまった空閑と、サイドエフェクトによって未来がわかるようになってしまった迅。

 

 良くも悪くも、トリオンというモノに人生を狂わされた者達。

 

「……廻さんに、言われてさ。聞いただろ?」

「……うん」

 

 自分の苦悩や後悔。懺悔の言葉などいくら言っても飽き足らない。それくらいには、抱えているものが大きすぎる。

 

「俺は、自分で思ってるより──弱い」

 

 普段から、考えないようにしている事だ。考えてしまえば、心が折れてしまうから。出来るだけ考えないように、深く深く奥底へとしまいこんである感情と想い。

 

「あの人は、強い」

「……そうだね。強い人だ」

 

 戦闘力だとか、そういう話ではない。

 

「だからこそ、生きてここまで来れたんだ」

 

 ズズ、と先に購入しておいた缶コーヒーを口に入れる迅。

 

「……目が覚めたら、かな」

「何かあるの?」

「いや、何でもないよ。ただ──ちょっとした企みさ」

 

 缶コーヒーを一気に煽り、その場から立ち上がる。

 

「行こうか、遊真」

「……わかった」

 

 病室へと向かう二人。血の繋がりはない二人だが──まるで兄弟のような親しさを持っていた。

 




次回、最終回です。多分。

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