ワールドリワインド   作:恒例行事

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地獄へ①

 一

 

 まぁ戦場に出るまで一週間程時間はあるらしいし、少しでも英気を養うかそれとも訓練するかで迷ったが折角だし試せなかった事を試そうと思う。

 

 空腹少女の限界とか、俺の限界とかちゃんと見極めないといけない。一応前回の戦いで限界は訪れているが、恐らくあの状況だと碌に理解できていないだろう。

 

 なので空腹少女に一度全力でトリオンを武器に注入してもらう。俺は何度も繰り返すことで必要最低限は覚えたが、まだまだ未熟。生き残るにはごく僅かなトリオンすら貴重だ。

 

 俺も全力でトリオンを注入した結果、一分程度で枯渇した。二人揃ってミソッカスすぎて笑ってしまった。笑った空腹少女の笑顔を見ると頭痛がしたが、ひさびさに笑いすぎて痛めてしまったのだろうか。

 

 どうやらトリオンも飯を食ったり休憩をとることで回復するらしい。俺があの時休憩をしたのはあながち間違いではない――のか。結果論的には。

 

 しかし――飯がまずい。というより、全然味がしない。こんな物を美味そうに食える辺り、空腹少女も割と過酷な生活をしてきたのかもしれない。飲み物すら味がしないしな。

 

 飯を食って、一先ず腹を膨らませたら剣を振るう。並のトリオン兵相手なら一対一で負けない程度の力は付けたつもりだが、やはり対人である程度練習しないと自分の粗や拙い部分の洗い出しが出来ない。空腹少女とアレクセイの両名に剣を見てもらう。

 

 

「スッと行ってズバーンですね!」

 

 

 アレクセイに助けを求める様に視線を向けると、それは無いだろう的な表情で空腹少女を見ていた。それは俺も同意するわ、仲間に教えるのに空腹少女が感覚派過ぎて全く参考にならなかった話するか?

 

「あぁ……た、太刀筋と言うか剣が奔っている部分はいい。抵抗なく、斬る事に特化した剣だな。トリオン兵を相手にするうえで困ることは無いだろう――そのトリオン量さえ気にしなければ」

 

 やっぱりか……トリオン量を増やすことは出来ないのか?

 

「一応、【トリオン器官】と呼ばれる場所を鍛えればトリオン量が増加する事は研究で発表されている。使えば使うほど増える筈――だが、その……君は増加量が著しく低いんだと思う。先日と今日、比べてみても大差ない」

 

 ミソッカスに変わりはねーじゃねーか!どうせ戦場に投入されるから、そう悲観する事でもないかもしれないが。

 

 結論、素の身体能力を強化することにした。筋肉を付け、体力をつける――トリオンなんかなくても物理でトリオン兵殺すわくらいまで強くならないとマジで厳しいかもしれん。

 

 オイ、何逃げようとしてんだ。お前もだぞ空腹少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日目、相変わらず飯がまずい。そこら辺の土とかと変わらないんじゃねーかこれ。飯を食い、湯で身体を洗ったら即トレーニング。ひたすら剣を振るって振るって振る。一人で二時間程振ってたけど、途中から空腹少女と模擬剣みたいので訓練する事に。

 

 まぁ対人も出来ていた方がいいに決まってる、アレクセイに聞いたが俺たちの武器――トリガーと呼ばれるモノらしいが、それを扱う他国の【トリガー使い】とやらとその内戦うことになるかもしれないのだから。そうだ、全員殺す。俺が生き残り帰るのに邪魔だ――だから死ね。

 

 そして相変わらず空腹少女は天才だった。普通避けれないだろそのタイミングって所で無理やり回避する。どうしてその身のこなしが出来て体力がないのか。走り込みだ、体力付けるぞ体力。

 

 二人でわいわい走っていると、アレクセイの部隊の奴らがちょっかいかけてきたから走り勝負をした。お陰で体力が無駄に削がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにやら外が騒がしい、もう真夜中だぞ全く。アレクセイのお陰で与えられた部屋の窓から外を見渡してみると、びっしりとトリオン兵で外が埋め尽くされていた。オイオイマジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 二

 

 窓から少しだけ顔を見せただけで撃ち抜いてくるとかやべーな。つーか巻き戻る時点はここかよ。

 

 今度は何が起きているか把握している為、肌身離さず持っている剣を握りしめ一先ず仲間との合流を目指す。俺に与えられた部屋はアレクセイの部屋からそこまで離れてはいない。歩いて三十秒と言ったところだろうか。

 

 その間に空腹少女の部屋もある為、ついでに寄れば一石二鳥。地味に変な所で天然だからまだ寝てるかもしれないし。

 

 部屋を出て、トリオン兵の目が無いか身を伏せながら周囲を見る。窓の外を見れば大量にいたが、どうやらまだ中には入りこんでいないらしい。

 

 廊下を音をできるだけ出さずに移動する。廊下の窓から見えないように度々屈みながらも、なんとか空腹少女の部屋までたどり着いた。

 

 ドアを開けて少女のベッドを見る。そこには膨らみがあったので、まだ寝ているのかと安堵の息をつく。窓から見えないよう、回り込んでベッドに接近して少女を起こす。

 

 ゆさゆさと動かしてみたが、どうやらかなり熟睡しているらしい。あんだけ走ればまぁ疲れるよな……仕方がないので少女を背負い、少し重量は感じるがまだまだ余裕だ。走って逃げるくらいの体力はある。

 

 部屋の外に出て、アレクセイの部屋を目指す。と言ってもほぼ一直線の廊下を駆け抜けるだけなので、先程までと同じように時に屈みながら部屋に向かう。爆発音や叫び声が外から聞こえるが、一切を無視する。悪いな、俺は俺だけで忙しいんだ。

 

 アレクセイの部屋の前まで到着したが、この状況下でこいつが黙って部屋に居る気はしなかった。でも一先ずは合流すべきだろう。駄目なら死ねばいい(・・・・・・・・・)

 

 そう思いながらドアを開けると――

 

 

 

 

 

 

 

 

 三

 

 空腹少女を抱えてからじゃ遅い……のか?既にアレクセイの部屋にはトリオン兵が侵入していて、アレクセイの手足が飛散し既にこと切れた死体が一つあっただけ。

 

 あの感じだと助けてからじゃ遅いが、そもそも今の時点でアイツ生きてるのか?戦闘音が聞こえないし、窓が割れたような音も聞こえなかったが外の音に紛れただけという可能性も無くは無い。

 

 一先ず空腹少女を置き去りにして、アレクセイの部屋へと向かう事にする。何故か頭痛がしたが(・・・・・・・・・)そんなのは無視、さっきの要領でアレクセイの部屋まで忍び足。

 

 アレクセイの部屋のドアを蹴破り侵入すると、ちょうど窓の外にトリオン兵が張り付いていた。うわ、マジかよ。

 

 咄嗟にドアを投げ飛ばし、窓に引っ付いたトリオン兵を叩き落とす。ダメージは入らないが時間は稼げる。その間にベッドに寝ているアレクセイの頭を掴み一気に廊下に躍り出る。

 

 廊下に出て後ろから追いかけてくるトリオン兵から何とか逃げる様に全力で駆ける。目標は空腹少女の部屋である。

 

 わき腹を砲撃が掠めていって肉が抉られたが、死ぬほどじゃないし痛みも少ないから気にしない。そのまま空腹少女の部屋まで転がり込む。流石のアレクセイも砲撃の衝撃や走る振動で気が付いたらしい。俺の腹を見ながら大丈夫かと聞いてくるが、問題ないことを伝えて空腹少女を起こす。

 

 ゆさゆさ揺さぶっても目が覚めないあたり、本当に筋金入りだと思う。

 

「まさかここまで早く侵略されるとは思っていなかった。指揮官の私の失態だな」

 

 そう言いながら絶望した顔で言うアレクセイだが、生憎そんな泣き言を聞いている暇はない。こっちは次から次へと思考を繰り返し実行する必要があるのだ。そうしなければ、いつまでたっても明日への手掛かりが掴めない。

 

 悪いがこのクソトリガーで我慢しろ、そう言いながら空腹少女の剣を投げる。

 

「……まさか再度これで戦うことになるとはな」

 

 少し気になることを呟くアレクセイだが、口ぶりから察するにこの剣で戦ったことがあるのだろう。そもそも戦力として心配はしていない。俺達ミソッカスないない尽くし奴隷兵士とは違って、階級も持っているのだから。

 

「私の部隊と合流したいところだが――この有様だ。もう間に合わないだろうな。先ず君の傷を止血する」

 

 わき腹の抉れた部分を覆う様に、アレクセイが空腹少女の寝ていたベッドのシーツを千切り巻く。その手慣れた動作に、やはりベテランは救った方がよかったと思い若干頭痛がしたが(・・・・・・・・)、気にせず作戦を考える。

 

 現在俺とアレクセイが動けて、空腹少女が戦えない。空腹少女を持つのがどっちになるのか――俺か、アレクセイか。何度か試してみてもいいかもしれない。

 

 

 先ずは俺が空腹少女を片手で持ち、右手に剣を持って移動することにした。アレクセイには驚かれたが、俺も■■で響子と暮らしていたころより力が上がっているのは薄々理解していたが、少女一人を抱えて移動できる程だとは思っていなかった。

 

「ここは説明した通り前線基地になっている。その所為で本部との場所はかけ離れているから、助かる方法は身を潜めてやり過ごすかトリオン兵より速く後退するしかない。だが、身を隠すのは得策じゃないな」

 

 一先ず、無難に後退する。身を隠しても、食料が無いのだ。例えこの侵攻をやり過ごせても、この基地に敵が必ず残る。発見されるのも時間の問題だそうだ。

 

 ならば――道を切り開いて突破する他ない。

 

「一応ここから三十キロ程で、別の前線基地がある。だが、そこが無事であるという保証はない」

 

 ここが侵攻されているのだから、他が侵攻されていないという理由は無い。簡単な話だが、残酷で現実的な話だ。現状そこを目指す以外に手が無いので、そこに向かう旨を伝える。全く、戦うのは一週間後だと思っていたんだがな。

 

「……とりあえず、向かう方向はあっちだ。私が基本先行するから、後ろは任せた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 四

 

「……とりあえず、向かう方向はあっちだ。私が基本先行するから、後ろは任せた」

 

 クソ、なんだかんだ言って荷物があるとかなり動きづらい。途中まではかなり順調に移動できていたが、アレクセイの部隊がトリオン兵に囲まれて蹂躙されている場面を見てからアレクセイが一気に変わった。

 

 トリオン兵の集団へ突撃し、十体くらいのトリオン兵に囲まれて全身滅多打ちにされて死んだ。その間にアレクセイの部隊も全滅し、残ったのが俺と空腹少女だけになって脱出は不可能だと判断。俺は空腹少女を地面に置いて戦闘した。

 

 結果、五体くらいは殺したが残りにバスバス撃たれた。まぁ今回は腕が片方無くなっても戦えるということを知ったいい経験だと思っておく。

 

 前回アレクセイが戦闘音がすると言って生き残りがいる可能性を考えてそっちに行ったが、今回は無視。無駄だと言って違う方向へと進ませる。

 

 お前らの所為でこれ以上死んでたまるか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、そう思うと頭痛がしたが構わずアレクセイに更に先導してもらう。

 

 ちょくちょく一体とか二体には遭遇するが、現状どうにかできている。実際アレクセイの戦闘能力は大したもので、俺や空腹少女より数倍速く斬り伏せている。そのおかげでこっちは楽だ。

 

「そろそろ基地の出口に差し掛かる。まだここまで侵入されてはいないと思うが、一応警戒はしておいてくれ」

 

 後ろからくる敵をちらちら探りつつ、アレクセイの言う通りにする。この前までしていた、背筋が凍るような感覚はしないし今はまだ大丈夫だろう。

 

 

 

 

 基地を脱出し、広がる森の中に駆けこむ。基地から聞こえる爆発音は次第に小さくなっていき、闇に包まれた自然の中に迷い込む。腕に抱えた空腹少女はいまだにぐーすか寝ているのがかなり腹立つ。こいつ天然にもほどがあるだろ。

 

 

「兎に角、基地から離れる。……幸いこの森だ、トリオン兵と言えども周囲の制圧を優先するから一直線で切り抜ければ何とかなる筈だ」

 

 

 本当かよ全く、背後にはトリオン兵に目の前には暗闇に包まれた森。トリオン兵の進行速度的にさっさと森を抜けて合流しないとすぐ追い付かれるだろう。何一つうまく行かないな、ため息をつきながら手に抱えた寝坊助を揺らして嫌がらせしつつ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

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