指揮官は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の一航戦2人の口にコーヒーと唐辛子をぶち込まねばならぬと決意した。指揮官には政治が分からぬ。指揮官は民間あがりの軍人である。鉄血の駆逐艦を高い高いし、ロイヤルのロリコン空母と熱く談義を交わし、東煌の軽巡姉妹を餌付けし、個性探しを名目にユニオン戦艦を着せ替え人形にし、アイリスのお菓子を食べながら、週5くらいのペースで現れるセイレーンをシバいて暮らしてきた。けれども(と言うかそれ故に)束縛に対しては、人一倍に敏感であった。
つまり何が言いたいかというと、
「赤城、わい当分おいん半径10mに寄っな」
「ご無体な!?!?」
彼は割と本気で怒っていた。
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事の起りは指揮官が翔鶴主催の酒宴で潰された翌朝、赤城に絡まれた際の一言であった。
『そうそう、巫狐として務める長門の護衛兼付き人に江風が内定しましたわ。本人には昨晩通達し、昼過ぎには正式発表がございます〜』
繰り返しになるが指揮官は激怒した。
たまたま近くにおり、たまたま彼の顔を覗き込んでしまった五十鈴が泡を吹いて倒れる程度には激怒した。
「し、しし指揮官様、赤城に近寄るななんて、そんな冗談を言われても赤城は反応に困っ「冗談ほいならんし反応しなくてもよか、ただもう
膝から崩れ落ちる赤城に目もくれず、指揮官は肩をいからせて高雄型の部屋へと向かう。途中、何人かの下士官や艦船に話しかけられたが全くもって耳に入って来なかった。
(認めよごたなかが流石赤城…おいん人事評価を熟知してやがっ。寄りによって江風を左遷か)
重桜駆逐艦四強の一角と称される武闘派であり、同時にどの派閥にも属さない一匹狼、江風。彼女は指揮官にとって最も信頼できる種の人物だった。
一航戦の発言力が強い現在も必要以上に媚びる事はせず、五航戦を筆頭に彼女達に反発する勢力にも靡かない。指揮官に心服とまではいかないものの、将としての能力は認め指示には従う。
指揮官は彼女のその在り方を高く買い、高雄にさえ話していない
直接の上司たる川内、神通が若干一航戦派に近いため赤城に睨まれる心配は無いと考えていたが、見事にしくじった。
栄誉ある連合艦隊旗艦の護衛、付き人などと抜かしているがその実単なる厄介払い。頭が痛くなる。
「くだらん。本の
正直に言えば、指揮官はアズールレーンとレッドアクシズの対立などどうでも良い。
彼は戦の玄人だが、同時に政の素人である。
身体や艤装にセイレーンの技術を取り入れようが取り入れまいが、勝てれば良い。勝って生き残り、
各国それぞれ好きな方法を取れば良い、だのに何故国家間の戦争なんぞに発展するのか…。
ただでさえこの戦争に意義を見い出せない男が、国家間どころか国内の内ゲバに巻き込まれている。
いくら好意を伝えてくる相手であろうと、長く同じ戦場に身を置いた身内であろうと、怒りと呆れを感じずに居られなかった。
「おう、摩耶!珈琲豆挽っで手伝うちくれ!」
「部屋に入ってくるなりなんだ、とうとう気が狂ったか指揮官。というか方言、方言」
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一方こちらは指揮官の心労の大部分を占める戦犯、一航戦加賀の居室。
「ふぅ…またつまらぬ勝負に勝ってしまった…」
「…この恨み、10倍にして返すッ…!!」
「いや花札でそのように恨まれても困るのだが!?」
意外にも軽口を叩きあい、遊戯に興じるのは高雄と加賀であった。
加賀は名高き一航戦の片割れであり、戦奉行等という適当にあつらえた職を指揮官に与えて前線から引き剥がした張本人の1人だ。にも関わらず、なぜ彼と深い関係を持つ高雄と和気藹々(?)と花札をやっているのか。
「ちょっとした冗談だ、ちょっとした、な…。ところで高雄、艦載機には目が付いていない。今度の出撃で背後と上空に気を付けることだ」
「そんなに悔しいか、そんなにか!?貴殿から仕掛けてきた勝負であろう!」
ここにもし、普段の2人の様子を知る者が居れば空いた口が塞がらなくなるに違いない。
軍議の席上では威圧的に場を仕切る加賀と、目を瞑り一言も発する事がない高雄である。どう考えても女子会という間柄ではない。
「はぁ…もういい、先程の江風の話だが」
「…お前の説教は聞くに耐えん。指揮官に絆されて柔らかくなったと思ったが、相も変わらずだな」
彼女達2人は、ここには居ない何隻かも含めてアズールレーン時代から指揮官の元で戦ってきた旧友である。言うなれば、指揮官の最古参。
今でこそ重桜を率いる加賀、権力争いに目もくれず戦場に居続ける高雄と対極のような位置にいるが、それこそ昔は同じ釜の飯どころか同じ返り血を浴びた仲だ。付き合いも長ければ気心も知れている、腐れ縁だった。
ただ重桜がアズールレーンから脱退して以降、自らが政治に向いていない事を自覚する高雄が戦場に
妹と共に軍議に顔を出しても、先述の通り興味無さげにやり過ごして言われた通りに出撃する。傍目には指揮官を慕う高雄が一航戦に無言の抗議を行っているように映った。
確かに、強引な手腕を見せる加賀、その姉の赤城に思う所が無い訳では無い。だがしかし、高雄としては忌み嫌うという程ではなくただ単に、『生きる場所が違う』と考えているだけなのだ。
「あのな、確かに指揮官殿に影響を受けた部分がないとは言わぬ。だが昔も今も拙者は拙者、律すべき所は律し「首筋に口付けの痕を付けた女が吐く台詞かそれが」うごっふぇ!?!?」
強烈なクロスカウンターに、高雄がつまんでいた加賀手製の和菓子を喉につまらせた。慌てて右手を首筋に当て、耳の先まで二重の意味で顔を赤くする。
「汚い、もっと上品に食べろ。忙しい合間を縫って拵えたんだぞ」
「なぜ早く言ってくれない!!こっ、この部屋に来る前に何人の艦船にすれ違った事か!あぁまた愛宕にからかわれるぅ…」
「心配するな、嘘だから」
「悪即斬ァ!!」
「強化油圧舵が無ければ死んでいた…」
「そのまま死ねこの破廉恥狐!そんな性悪だから指揮官殿に疎まれるのだ」
何故自室に汎用装備を持ち込んでいたのかはさて置き、盛大なブーメランである。
「なっ、奴は関係ないだろう!そもそも先の言葉に引っかかるような貴様にだけは破廉恥呼ばわりされたくない!どうせ昨晩も最後は貴様が指揮官に跨っていたのだろうが年中発情期!」
「なぁっ!?!?にゃ、にゃにを根拠にっ!!」
「おい待て図星か最強重巡」
互いの頬を引っ張りあい、ギャーギャー騒ぐ2人。数年前までは日常茶飯事だった光景である。
暫くやり合っているうち、ふと加賀の手が止まった。
「…らぬ」
「?」
それは、蚊の鳴くような声だった。細く、小さく、常人には聞き取れないほど微かな弱音。しかし長い付き合いの高雄は、これ以上なく重い音色を感じ取る。
「変わらぬな、高雄。お前は指揮官の寵愛を受け、あの頃と変わらぬ。いや、むしろあの頃よりも生きているやもしれん。」
「何を…言い出す。変わったのは貴殿と赤城殿だ。」
「フン、変わったか。そうか、そう見るか。羨ましいぞ、
少なくない衝撃と共に、高雄が加賀の瞳を見やった。
そこに写っていたのは仄かな、それでいて確かな嫌悪の色だった。
「加賀殿…もしや貴殿」
「叶うならば!」
立ち上がり、背を向けた加賀の表情はもう高雄には見えない。だが理解した。してしまった。彼女の懊悩、そして怒りを。
「死ぬる前に、今一度我が全てをあの男に預けたい。闘争の意義も、行先も、何もかも…一切合切、奴に預けて海を駆けたいッ…!」
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もう疲れたから、と一言告げられ、高雄は加賀の部屋を出た。
当人達は決して認めないだろうが、親友とも言うべき存在である。強者がルールを地で行く女があのような言葉を吐いた事に、高雄は驚きと後悔を隠せなかった。
「分かって、いなかった…!一航戦がこの国を主導などしていなかった…!」
「加賀殿は、我を抑えている…!!」
『落ち着け指揮官、食べ物を粗末にするな!愛宕ねぇ、鳥海、そっち抑えてッ!!』
『何があったの指揮官!?お姉さんが相談に乗るから、ね、ね!?』
『そうですよ、だから取り敢えず右手の唐辛子下ろしましょうっ!?珈琲にそんなドバドバ入れるものじゃないですよぉぉ!!』
一航戦は一枚岩だと思った?残念、割とギスギスでした!っていうオチ。
加賀は姉に対して不満はあっても黙って腹に押し留めるタイプな気がします。
あと摩耶が先輩呼びしてないのは使用です。
次回辺り、駆逐特集したい。
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