ゆっくり優雅に舞う桜。その中に見える人影。そうだった──────あの時、はっきりと俺は見たはずだ。知らない女性がスキマをくぐり、妖夢を連れ去って行くのを。
ショックで何が起こったのか、あの時はうっすらとしか覚えていなかった。でも今もう一度見て確証がついた。スキマを操れる人なんて今考えたら1人しかいないじゃないか。絶対に聞き出すんだ。そしてあの女性はいったい何のために、妖夢を連れ去っていったのか。妖夢は無事なのか。
聞きたいことは山ほどある。そりゃそうだ。長年分からなかった謎が今は手の届きそうな所に近づいているのだから。
ここで泣いていた俺のためにも今の俺がやらなくちゃならない。また会いたい、会って話がしたい。そう考えると心の底から力が沸いてきた。拳をギュッと握りしめ、下を向いていた顔を上げる。きっとここでの俺はかなり気合いの入った表情をしていただろう。
「絶対にやるんだ……どれだけ時間がかかっても」
妖夢だけは───────。
と、ここで映像はプツンと切れた。
「……ううっ」
「お、目覚めたかい?」
「君は……っ痛!!!」
「あっ、まだ安静にしてないとダメだよー全身骨折してるんだから」
布団から起き上がろうとすると体中に稲妻のような痛みが走る。恐らく穴に落ちた時の衝撃だろう。しばらくは起き上がれなさそう……はあ。そんな俺の考え事も気にせず少女は続ける。
「でも君の回復力にも驚いたよー全身骨折なのに全治2日でいいんだもん何したらそうなるの?」
多分霊力を勝手に回復力に変換しているんだろう。後になってわかったのだがどうやら傷を負ったら霊力を自動変換して回復に専念するらしくなんとも便利な能力だと思う。でもそれは攻撃にあまり霊力を割けないという短所も兼ねていた。
とりあえず少女には自分の能力を説明し、なぜ回復力がここまで早いのかを順を追って説明した。
「なるほど、ねえ……それだけ出来るって君、妖怪かなんかなんかかい?」
「いや全然。俺はれっきとした人間ですよ?」
「そうかい。でもここまでの再生能力を持つのはみたことないね、いや驚いたよ」
うんうん、と頷きながら少女腕を組んだ。
「そういえば、あなたの名前は?」
「あたしかい?あたしは黒谷ヤマメだよ、君は?」
「俺は風乃龍真っていいます。よろしくお願いします、ヤマメさん」
俺がそう言うと、ヤマメさんは苦笑いで首を横に振った。
「敬語じゃなくていいよ~そういうの慣れてないからさ、もっと気を楽にしていいんだよ?」
「そう。ならお言葉に甘えてもっと気軽になろうかな、でも呼び方は変えないからね?」
呼び方まではさすがに気が引けるしね。そこは何があっても変えないつもり。
「うん、いいよ。それでこそお互い変に気負うこともないしね」
了承されたようで何よりだ。………ってそうそう、聞きたいことがあったんだった。夢のことが印象に残りすぎて忘れてたよ。
「そういえば、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい?答えられる範囲ならいくらでも答えるよ」
「古明地さとりって知ってるかな?これからその人のいる地霊殿ってところに行きたいんだけど………」
「ああ、あそこの主人なら知ってるよ、さとり妖怪で心が読めるんだってね?さぞかし大変だろうに」
そうだ。さとりちゃんは心が読めることで人間からは避けられる存在になってしまっていた。本人もそれで地底に来たとか言っていたな。
「そうそう。でもあんまりだよ……心が読めるだけで避けられるのは……」
そう答えると、ヤマメさんは苦笑いを浮かべた。それもなぜか、悲しそうな、嬉しそうな、なんとも言い難い表情だ。
「ねえ……一つ話しておいてもいいかい?」
「どうしたの?」
「私の能力はね、病気を操る程度の能力なんだよ」
病気を……操る?
「そう。私は人に病気をさせることが出来るし病気を治すこともできるんだ。でも地上の人間にはそれを恐れられたみたいでね……仕方なしにこの地底に来たっていう訳さ」
「えっ……でも俺はなんともないんだけど?」
たしかに恐れるのは分からなくもない。しかし調整が出来るなら話が別なのだが……どうなんだろう?そこも踏まえて聞いてみることにした。
「ああ、今の私には出来ることなんだけどあの時の私は能力の調整が出来なくてね……勝手に人間達を病気にさせてしまうから嫌われてしまったんだよ」
「……………」
「もう、分かっただろう?この地底は、地上の人間に妬み、嫌われた者の集まる所なのさ」
そんな悲しい笑顔で話すのは頼むから止めてくれ……。
「……………」
「あーなんかごめんよ。暗くなっちゃったね!さて私は買い物にでも行ってこようかな!」
「……本当に全てがそうなのか?」
ボソッと俺が言うと部屋を出ていきかけたヤマメさんは背を向けたまま立ち止まった。
「ホントのことを言うと、楽しかったんじゃない?地上での生活が。病気を操る能力のせいなんかじゃない、裏切られたんでしょ?既にその時は能力を操ることは出来ていたんだ」
「え!?」
ヤマメさんは驚いて振り向いた後、また俺の寝ている布団のすぐ横に座り直した。
「どうして…分かったんだい?かなり昔のことなのに……。誰から聞いたの?」
「誰にも聞いてなんかないよ。……記憶さ」
「記憶?」
と、首を傾げる。まあ誰もがそう反応するだろう。
「うん。俺の能力は記憶を読み取る程度の能力なんだ。だからさっき、申し訳ないけど遡らせてもらったよ。……とんでもない絶望の感情が飛び込んできたよ。それとは裏腹にまだ信じたいって思いもあった」
「感情の記憶まで読めるんだね……。地上の人間で君だけは私たちの気持ちが分かってくれそうだね」
ここでふっとヤマメさんの表情が和らいだ。そして何か決心を決めたような、そんな感じだった。
「じゃあ今度こそ買い物に行ってくるよ。夕飯にでも地底のことを色々話してあげるから」
「うん、分かったよ。行ってらっしゃい」
そうして部屋の襖の開けて出て行った……かと思いきやまた戻ってきた。
「ちゃんと寝てるんだよー?」
「言われなくても分かってますよ、ははっ」
じゃあ行ってくるね、と、今度こそは出掛けて行ったみたいだ。俺も早く直さないとなあ……でも回復力がどれぐらいかなんてわかんないし。
しかし地底の妖怪達はいったい過去にどれぐらいの悲しみを背負ってきているのだろうか……?そう考えると胸がチクリと痛む。
「やることもないし寝るか……」
少し動いて布団に潜りなおした時、下の床がギシッと嫌な音を出した。
「ここ直した方がいいんじゃないか?……ま、いいか、寝よう」
ここで再び俺は眠りについたのだった。
ヤマメさんの過去、気になりますね。この後にも地底の仲間達と会っていくのですがちょくちょく過去話を挟もうかなーと検討してみたりみなかったり。そんな中途半端な所にきてます。
では今回もありがとうございました!感想お待ちしております!