「…………」
「…………」
ヤマメさんに泊めてもらった次の日の朝、怪我が治っているか確かめるためにゆっくりと布団から起き上がる。もちろんいざという時のためにヤマメさんもそばにいてくれていた。………よし!ここまではオーケーだ。からの右足を立て、力を入れてみる。
「……これなら、いけるかな」
「絶対いけるよ!頑張って!」
ぐっと力を入れると──────しっかり立てた。痛みも何もない。
「よし!」
「おお、すごいね……ここまで人間の回復力が増幅できるなんて」
確かに、たったの一日で全身骨折を治してしまうとは妖怪技でも出来ないことだ。今回でどれくらいの回復力があるかははっきりと証明されたようだね。
「俺でも驚いてるよ……。でも何より、あの時ヤマメさんが助けてくれたおかげだよ、ありがとう」
「そんな、私はそんな大したことはしてないよ。一晩君がいてくれて楽しかったしね。こちらこそありがとっ」
ほら、やっぱりヤマメさんはいい人だ。嫌われる要素なんかどこにもないじゃないか。
「じゃあ、朝ご飯にしようか。手伝ってくれる?」
あ、いや、ちょっと待った。
「朝食は俺が作るよ。泊めてくれたお礼と言ってもなんだけどね」
「そうかい?じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな。楽しみ♪」
「はは、期待に答えられるように頑張るよ」
さあ、て!久しぶりに手の込んだ物を作りたいなあ!と思って冷蔵庫を開けてみると………。
「これさ、ほぼ何も出来ないような気がするんだけど……」
冷蔵庫にあったのはニンニクとオリーブオイル、パセリと……少量のウインナーか。調味料にはコショウと塩がある。ここまでで分かる人もいるだろう。アレがあったら作れるのになあ、という料理が思い浮かぶはず。そう、そのアレがないのだ。
「ヤマメさん、これで何作ろうとしてたの……?」
「えーっとね……ごめん、考えてなかったよ、あはは……」
そんな苦笑いで言われてもこっちが困るだけなのだがね。後から聞くとどうやら昨日の夕飯でほとんどの食材を使ってしまったらしい。買い物行ってたのは夕飯のためだけだったのかっ……!
「でもな~、パスタ麺さえあればな~」
「お困りの方に、ゆかりん運送!!!」
「うわっ!びっくりした!?」
いつの時からか同じような感じでどこからともなくスキマが現れ、紫さんの声が後ろから聞こえてきたのだ。今度は運送会社ですか。
「何か用ですか?紫さん」
「いやだわあ、助けに来たんじゃない。ほら、パスタ麺」
そういうとスキマごと移動し、俺にパスタ麺を手渡してくれた……のだが
「まあ、無償ということはないんですよね?」
「ええ、そうだけど?」
あ~やっぱり罠だった。まあでもヤマメさんに料理作ってあげたいし……いいか、それくらい。
「ま、今はありがとうございますと言っておきますよ」
「そうそう、素直でよろしい。まあそれは後のお楽しみにとっておくとしますわ。ではまたゆかりん運送をごひいきに~♪」
それだけ言い残し、紫さんはスキマとともに消えていった。やれやれ、いつもあの人の考えてることは分かんないなあ。下心があることだけは言うまでもなく分かってるんだけどね。
さてさて、そんなことはよしとして材料が集まったのだからやらないと。ちなみに作るものは決まっている。パスタの定番の一つ、ペペロンチーノだ。パスタの本場、イタリアでは貧乏人のパスタとか言われてるけど俺はあのオリーブオイルとニンニクのハーモニーがたまらなく好きだった。
決まったら即実行だ。麺を茹で、茹であがったらニンニクとオリーブオイル、塩コショウを入れ、一緒に炒める。
「ほほー、いい匂いだねえ♪」
ヤマメさんのためにも最高傑作を作らなければ!
「……よし!出来たよー」
出来たペペロンチーノを盛りつけ、テーブルに運んでいく。
「おお!美味しそう!なんて言うんだいこれは?」
「ペペロンチーノってパスタ料理なんだ。まあ食べてみてよ」
「へえ、面白い名前だね。じゃあ食べてみようかな?いただきまーす」
フォークでパスタを巻き、口に運んでいく。果たしてヤマメさんの評価は……?
「うん!すごく美味しいよ!こんな食べ物初めて!!!」
「喜んでくれたみたいでよかった。じゃあ俺もそろそろ食べようか……って」
しまったあああ!自分の分量考えてなかったあああ!!!なんという失態を……。
とかそんなことを考えていたら察したのであろう、ヤマメさんが悶えている俺に近寄ってきた。
「少ししかないけど、食べるかい?もうお腹いっぱいでさ、食べておくれよ?」
「いやそんな、俺なんか気にしないで」……グ~~ッ。……あちゃー。
「ほら、やせ我慢なんかしてないで、どうぞ♪」
こうとなってしまった以上、仕方なく差し出されたパスタの皿を受け取る。
「なんかごめんね、いただきます」
「いえいえ、男の子はいっぱい食べなくちゃだからね」
ヤマメさんの言葉に甘えてフォークを使い、半分以下になったパスタを淡々と食べていく。味に関してはいつも作ってた味なので今更驚いたりはしない。でもニンニクとオリーブオイルってすごいよね。まだ言ってるのかと言われてもおかしくないほど俺はオリーブオイルとニンニク信者だった。
「ふう、ごちそうさま。ありがとうヤマメさん」
「これくらいどうってことないって♪あ、片付け手伝うよ、さすがに一方的ってわけにはいかないよ」
「ありがとう、ではまたお言葉に甘えて」
こうして2人で片付けをしていった。
片付けが終わる頃にはヤマメさんがお茶を淹れてくれていた。
「はいよ、お疲れ様」
「あ、わざわざありがとう、いただきます」
種類としては緑茶だった。茶葉の香りが心地よい。
「これから地霊殿に行くんだったよね?」
「そうなるね。出来れば昨日のうちには行きたいところだったけど……」
昨日の降ってきたのはなんだったのだろうか?うーん、いまいちわかんないや。
「あはは、それは無理な話だったね。そうだ、地霊殿に行くなら私が案内してあげるよ、どうだい?」
是非お願いします、と頭を下げ、地霊殿までヤマメさんが付いてきてくれることになった。いやはや、地底のことを何も知らない俺にとってはほんとに心強い。
「じゃあ、いこうか」
俺は軽く頷き、地霊殿までの案内をヤマメさんに任せ、ついに出発した。
「ふふーん♪やっとこっちに来るね、楽しみにしてるよお兄ちゃん♪」
龍真たちの行動を影で見ていたのは古明地こいし。地霊殿の主、古明地さとりの妹だ。黒の帽子、特徴的な目と髪にサードアイ。さとりのサードアイは開いているのだがこいしのサードアイは閉じているままだった。サードアイを閉じると心が読めなくなる代わりに、無意識で行動が出来るようになるのだ。
彼女が龍真たちを付いてきているのは好奇心という名の無意識。相当外の人間のことが気になっていたのであろう。
「お、出発するね、私も付いていかないと……ってうわ!」
建物の陰から出ようとしたとき、周りが見えてなかったせいか誰かとぶつかってしまった。
「誰だ!?」
近くにいたのだがこいしの目には建物の暗闇であまりはっきりとした姿はわからなかった。気付かれないよう口に手を当て声を潜める。
「ちくしょう、なんでわかんねえんだ…?まあただの妖怪ではなさそうだな、妖力を完全に隠すことが出来るなんてな」
何を言ってるの?この人は……。
「まあいい。ぶつかった時に多少は存在を感じるものがあったからな、ここにいることは間違いないが今回は勘弁してやろう。しかし今度会ったときは……」
「!!?」
何者かがそう言った瞬間、すごく濃い殺気を感じた。それも殺気だけで殺されるような。身体に力が入らない。こいしはその場にへなへなと座りこんでしまった。本能的にこいつはヤバいと告げている。頭の中で警告音が鳴っていた。
「忠告は以上だ。そうだ、助言としてこれだけ言っておこう、地霊殿には近づくな。死ぬぜ?」
そうしてぶつかった相手はニヤリと笑いどこかへ去っていってしまった。
「はあ……はあ……なんなの?あいつは……」
息切れが止まらない。身体はまだガクガクと震えて怯えていた。殺気だけで殺されそうになるのは初めてだ。最も、こいしは妖怪の中では最強クラスにいるためあまり危険に晒されなかっただけだが。
「……お姉ちゃんに、知らせないと!」
弱っている身体に喝を入れ、こいしは走り始めた。
ヤマメさんとの新婚夫婦みたいな生活!うらやまけしからん!
では次回は地霊殿に行って参ります!黒い闇の正体とは……。波乱の地霊殿編、いよいよ開幕です!