機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
街角から音を奪う程の豪雨に見舞われた、3月25日のこと。
シャッターが並ぶ街の片隅にポツリと建った一軒のラーメン屋に、
俺たちはいた。
店の奥、天井を支える木々の角に合わせて、
神棚のように置かれた板の上、小さなテレビが置かれている。
この日は、
オルランド・マッツィーニという軍のお偉いさんの誕生日で、
派手なパーティーが開かれたと報道されている。
「ばか騒ぎってのは……こういうことを言うんだろうな」
向かいの相手に苦笑気味に同意を求めたが、返答はない。
それどころか、顔を下げた彼は、紅葉みたいな前髪に隠して、
その目さえ見せてくれない。
「……ヴィーノ?」
こう彼のことに気を取られていたもので、反応が遅れた。
「……豚骨ラーメンのお客様?」
そう言われて、慌てて顔を上げた。右手側には店員が立っている。
「あぁ」
などと曖昧な返事を返せば、相手は訝(いぶか)しげな表情で、
テーブルにラーメンを置くと、静かに去っていった。
それからすぐ、テレビの音声が耳に入ってきた。
『……丁度、7年になる』
そんな一言と共に、彼の演説は始まった。
『我々の苦難の歴史が始まって以来、
間もなく7年の時が過ぎ去ろうとしている』
何本ものマイクが並ぶ壇上に立った彼は、
角刈り気味に切り揃えていた白い髪を軽く撫でたり、
顎髭を触ったかと思えば、
『君たちには自由がある。選ぶべき未来がある。
ラクスに付き従うもよし。
尊厳を奪われて、奴隷のように生きるとしても、
平穏無事に過ごせるかもしれない。
しかし、あえて言う。その道に希望があろうか?
私は、たとえ一人でも、ラクスの帝国に立ち向かう。
全ては我が子の為に。また、その子の子、
ひいてはコーディネイターの未来の為に……ラクス・クラインを除く。
その為ならば、私は喜んで、この命を差し出す。
我が手に「自由」を!プラントに「正義」を!』
そう宣誓し、その腕を天高く振り上げた。
……俺はまもなく、小さくため息をついて、箸を割った。
それから、いざ食べようと箸を伸ばしたが、
ヴィーノがゆっくり顔を上げた。
「……俺、行くつもりなんだ。あそこに。
今、テレビに出てた、あの人……
マーシャル・オートクレールのところに」
しばらく何も言えなかった。ようやく口をついて出たのは、
「自分が何を言ってるか……わかってるのか?」
との一言だけ。更に数秒の沈黙を経て、伏し目がちに、
「……わかってるさ」
とごく小さな声で答えたヴィーノ。
「いいことじゃ……ないとは思う」
「当然だ……どう正当化しようと、
奴等のやろうとしてることはテロだぞ?」
「でも、シン……ラクスだって、やったことだろ?」
ゆっくりと息を飲んで、それからまた顔を上げた。
「……アーモリー・ワンが襲われて、ショーンやデイルが死んで、
ユニウス・セブンが落ちて、
それからよくわからないまま地球に降りて、あちこちで戦って、
ヴェステンフルス隊長が死んだりして、
タンホイザーを破壊されたときなんか、整備士にも犠牲が出て、
次は自分かもしれないと思ったり……それも、ロゴスを潰して……
それで、もう終わると思ったのに。思ってたのに……」
思わず目を逸(そ)らした。
代わりに、ヴィーノの手元に目を向けた。
その拳は強く握られている。
「オーブ征伐をやって、次は北アフリカを攻めるって話だろ?
……ラクスのせいで、また関係ない人達が犠牲になる。
シンは、それでもいいって言うの?」
深呼吸をして、目を反らしたままに、静かに答える。
「……いいさ」
一口、茶を飲んだ。
「マシだ。奴等に任せるよりは、いくらも」
「シン!」
俺はやはり目を合わさなかった。
「俺はこれで……今日、俺とオマエは会っていない。
だから、今の話も聞いていないことにする。いいな?
……あとはオマエの好きにしろ」
席を立ち、出口へと向かう。
「……本気で言ってるのか?」
振り返らずに答える。
「ああ」
と一言だけ。
「ヨウランは?レイは?
グラディス艦長だって、デュランダル議長だって……」
「だったら、次は俺を殺せばいい……それで、何かが解決するならな」
そこまで言うと、店を出た。豪雨の下に、傘も差さずに。
数歩先で、割れる音がわずかに聞こえて足を上げると、それは鏡で、
バラバラになったいくつもの破片が俺の顔を写していた。
それはまるで、顔を何度も切り裂いたみたいに……