機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

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PHASE-01 星屑に潜む陰(1/7)

街角から音を奪う程の豪雨に見舞われた、3月25日のこと。

シャッターが並ぶ街の片隅にポツリと建った一軒のラーメン屋に、

俺たちはいた。

店の奥、天井を支える木々の角に合わせて、

神棚のように置かれた板の上、小さなテレビが置かれている。

この日は、

オルランド・マッツィーニという軍のお偉いさんの誕生日で、

派手なパーティーが開かれたと報道されている。

「ばか騒ぎってのは……こういうことを言うんだろうな」

向かいの相手に苦笑気味に同意を求めたが、返答はない。

それどころか、顔を下げた彼は、紅葉みたいな前髪に隠して、

その目さえ見せてくれない。

「……ヴィーノ?」

こう彼のことに気を取られていたもので、反応が遅れた。

「……豚骨ラーメンのお客様?」

そう言われて、慌てて顔を上げた。右手側には店員が立っている。

「あぁ」

などと曖昧な返事を返せば、相手は訝(いぶか)しげな表情で、

テーブルにラーメンを置くと、静かに去っていった。

それからすぐ、テレビの音声が耳に入ってきた。

『……丁度、7年になる』

そんな一言と共に、彼の演説は始まった。

『我々の苦難の歴史が始まって以来、

間もなく7年の時が過ぎ去ろうとしている』

何本ものマイクが並ぶ壇上に立った彼は、

角刈り気味に切り揃えていた白い髪を軽く撫でたり、

顎髭を触ったかと思えば、

『君たちには自由がある。選ぶべき未来がある。

ラクスに付き従うもよし。

尊厳を奪われて、奴隷のように生きるとしても、

平穏無事に過ごせるかもしれない。

しかし、あえて言う。その道に希望があろうか?

私は、たとえ一人でも、ラクスの帝国に立ち向かう。

全ては我が子の為に。また、その子の子、

ひいてはコーディネイターの未来の為に……ラクス・クラインを除く。

その為ならば、私は喜んで、この命を差し出す。

我が手に「自由」を!プラントに「正義」を!』

そう宣誓し、その腕を天高く振り上げた。

……俺はまもなく、小さくため息をついて、箸を割った。

それから、いざ食べようと箸を伸ばしたが、

ヴィーノがゆっくり顔を上げた。

「……俺、行くつもりなんだ。あそこに。

今、テレビに出てた、あの人……

マーシャル・オートクレールのところに」

しばらく何も言えなかった。ようやく口をついて出たのは、

「自分が何を言ってるか……わかってるのか?」

との一言だけ。更に数秒の沈黙を経て、伏し目がちに、

「……わかってるさ」

とごく小さな声で答えたヴィーノ。

「いいことじゃ……ないとは思う」

「当然だ……どう正当化しようと、

奴等のやろうとしてることはテロだぞ?」

「でも、シン……ラクスだって、やったことだろ?」

ゆっくりと息を飲んで、それからまた顔を上げた。

「……アーモリー・ワンが襲われて、ショーンやデイルが死んで、

ユニウス・セブンが落ちて、

それからよくわからないまま地球に降りて、あちこちで戦って、

ヴェステンフルス隊長が死んだりして、

タンホイザーを破壊されたときなんか、整備士にも犠牲が出て、

次は自分かもしれないと思ったり……それも、ロゴスを潰して……

それで、もう終わると思ったのに。思ってたのに……」

思わず目を逸(そ)らした。

代わりに、ヴィーノの手元に目を向けた。

その拳は強く握られている。

「オーブ征伐をやって、次は北アフリカを攻めるって話だろ?

……ラクスのせいで、また関係ない人達が犠牲になる。

シンは、それでもいいって言うの?」

深呼吸をして、目を反らしたままに、静かに答える。

「……いいさ」

一口、茶を飲んだ。

「マシだ。奴等に任せるよりは、いくらも」

「シン!」

俺はやはり目を合わさなかった。

「俺はこれで……今日、俺とオマエは会っていない。

だから、今の話も聞いていないことにする。いいな?

……あとはオマエの好きにしろ」

席を立ち、出口へと向かう。

「……本気で言ってるのか?」

振り返らずに答える。

「ああ」

と一言だけ。

「ヨウランは?レイは?

グラディス艦長だって、デュランダル議長だって……」

「だったら、次は俺を殺せばいい……それで、何かが解決するならな」

そこまで言うと、店を出た。豪雨の下に、傘も差さずに。

数歩先で、割れる音がわずかに聞こえて足を上げると、それは鏡で、

バラバラになったいくつもの破片が俺の顔を写していた。

それはまるで、顔を何度も切り裂いたみたいに……

 

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