機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
数秒の沈黙の中、パーディは静かに自身の口を両手で覆っていた。
ようやく口を開いたのはアレハンドロで、
「俺が出る……発進の準備を!」
と少々荒くヘッドホンを取り、ドアの方へと走り出した。
しかし、彼の歩みはそこで阻まれてしまう。
またしても自動ドアが開いたのだ。
そしてそこには、ポケットに手を突っ込んで立つ能面男がいた。
「ギドー」
とはじめ呼び捨てにしたハビエルだったが、
すぐにハッとした表情を見せ、
「……大隊長」
と付け足した。もっとも、ギドー本人は見向きもしないが。
「これは……どういうことだ?状況を説明できる者はいるか?」
ギドーは周囲を見渡した。
その表情からかはいかなる感情をも見受けられない。
淡々な口調と相俟(あいま)って、
聴衆は機械の話しかけられているような錯覚を覚えたことだろう。
最初に反応したのはハビエルだった。
顔は画面の方に向けつつも、ゆっくりと口を開いた。
もう2、3秒与えていたなら、
彼女の口から真実は語り始められたであろう。
しかし、実際に語り出したのは、ほんの1秒遅れて、
小さく右手を挙げたアレハンドロであった。
「俺が……話します。見てましたんで。一部始終ってヤツを」
周囲の視線もアレハンドロに向く。
「……アーモリー・ワン上空に、所属不明の戦艦が現れました。
自分が見た限りでは、ザフト脱走兵のロディニア級戦艦のようです。
巡回中の隊員が警告を行ったところ、
モビルスーツを出してきました。現在、交戦中です」
「了解した……」
ギドーの返答の直後、
ここまで唯一、振り返る素振りを見せていなかったパーディが、
急に立ち上がると、
「副艦長!……出撃の許可を!」
そう声を張り上げた。一瞬の静寂を経て、ハビエルは、
「ええ、許可しま」
と言いかけて、またも制止される。今度はギドーに。
『私が許可を出そう……』
ギドーはゆっくりとした足取りで前に出て、
空いた中央の席に腰を下ろしてしまった。
『ここからは……私が指揮を執る』
反論する者は誰もいなかった。
ハビエルだけは、気付かれないように小さくため息を漏らしたが。
『戦艦(フネ)を出す……モビルスーツ隊も出動させろ』
返答する者はいない。ただ隊員同士で互いの顔を見合せるばかり。
数秒後、ドアを開けてアレハンドロが外に出る、
そんな音が意外な程に大きく聞こえる中、
戦艦《フレイヤ》は確かに動き出した……
翻(ひるがえ)って、こちらはモビルスーツデッキ。
俺はモビルスーツのコクピットにいた。
画面にはブリッジの光景が映っている。一連の流れをここから見ていた。呼ぶ声も聞こえた。
勿論、真っ先に俺の目についたのは、
中央に座(ざ)すギドーの姿だったが。
驚き閉口(へいこう)したが、向き直ったハビエルが、
目を閉じ、首を左右に振る呆れた表情を見て、
およその状況を察して、こちらも顔を引き締める。
「出撃許可をいただきたい……ギドー大隊長」
ギドーは口以外にはどこも動かさず、かつ短く、
『許可する』
とだけ返答した。すぐにパーディのアナウンスが始まる。
『……カタパルトオンライン、射出推力正常』
アナウンスと共に、2本のアームに肩から持ち上げられ、
モビルスーツの体は左側に移されていく。
この機体には、鋳型のようなものに填(は)められ、
背中にはケーブルもつけられた。
また正面では、蓋となっていたハッチが上向きに開き、
小さな灯りが疎(まば)らに照らす町並みが映し出される。
目前よりレールが真っ直ぐ延びる。
『……進路クリア』
俺の機体はゆっくりと下ろされ、
足が型のようなものの上に固定される。
斜め上のパネルに出た3つの文字がポンポンと「CLEAR」へ、
黒に赤字の「ABORT」が青に黒字の「LAUNCH」へと変わる。
そこでパーディは勢いよく顔を上げた。
『……《1号機》、発進どうぞ』
力強く、そう言い放ったパーディ。
その瞳は潤(うる)んでいた。
今にも、涙が溢(こぼ)れてしまいそうに。
「シン・アスカ、《インパルス》……」
加速が始まる。
「……行きます!」
すぐに機体が押し出され、レールの上を進んでいった。
ケーブルはここで外れる。レールはすぐに途切れた。
発艦の直前、
咄嗟(とっさ)に俺はパーディから目を背(そむ)けた……
戦艦より射出された俺のIm/A-Pは、
台形型を描く背部スラスターの下に火をつけ、多少高度を上げ、
それから数秒程度、同じポイントに浮き続けていた。
この間、戦艦《フレイヤ》は前進を続けた為、
機体の下はカタパルトより後方の位置となった。
そこで、俺は火力調整して、機体をゆっくり下ろした。