機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
それからの話をする前に、少し時間を戻すとしよう。
《リックドム》1機をハサンが撃墜した直後のこと。
「……何だ?オマエは」
ハサンは見た。突如現れたソイツは、
茶色いボディに、青っぽいグレーの装甲を持ち、
下半身には大きな丸い何かがついている。
また奇妙にも、左の側頭部に、半円状の物体が埋め込まれていて、
ガンダムタイプの顔付きながら、バインダーは右側だけ、
V字のアンテナは左だけ短く、
そしてその半円の縁に、《ザク》などと同じ赤い1つ目があり、
今、その赤い目が現れては消える。
いいや、きっとその縁が後頭部まで続いているのだろう。
前後、グルグルと回っていたのだ。
「……何なんだ!オマエは」
ハサンは肩のビームライフルの照準を合わせ、
その奇怪なモビルスーツへと発砲した。相手は向き直った。
すると、先程は角度の問題で、
大きな丸があるようにだけ見えていた下半身が、
ハサンの目に完全な形で現れる。
それは顔の形をしていた。ガンダムのような顔を。
「……なっ!」
ハサンが驚嘆したのは、そのスピードだった。
ビームライフルの攻撃が避けられてしまっただけではない。
ほんの数秒余りにして、数メートル先まで間合いを詰めてきた。
ハサンはビームサーベルを構えようとしたが、先に動かれた。
突然、敵機の口が開いたかと思うと、
ストロー状のものがそこから出てきた。ハサンの顔がひきつる。
ビームでも放たれると思ったろう。しかし、実際は違った。
ストローから出てきたのは、煙だった。
茶色っぽい暗い煙が周囲にゆっくりと広がる。驚き遅れながらも、
ビームサーベルを振り上げて応戦するハサンだったが、
当たらないどころか、
「何だこれ……」
敵の機体がレーダー上から消失してしまった。
闇雲に剣を振るっていると、煙はあっさり晴れたが、
当の敵の姿も消えていた。
「ヤツめ……どこへ……」
直後、急に背中を強い衝撃が襲う。
振り向いてビームサーベルを振るってみるも当たらない。
いや、敵を見ることさえ叶わない。
振り返ると、背後にまた煙が立ち込めていたからだ。
背中に損傷を受けていない辺り、あるいは衝撃からして、
蹴られたと考えるのが自然だった。
「……クソ、クソッ」
ハサンは背中のビームライフルをやたらめたら撃った。
次第に煙は晴れていく。
ビームサーベルが優に届く距離に、相手の背中にあった。
山のように突起した砲門が4つもある背中だ。
例の赤い目が後頭部に光っている。
このとき、ハサンは後頭部を見ていて、あることに気が付いた。
「……クソォォォォ!」
ビームサーベルを振るうハサン。
しかし、彼の刃が届くより先に、相手の4つの山が火を吹いた。
放たれたビームは《Im/A-P》の顔、左胸、腰、左足に命中。
胸部中央のコクピットにいたハサンも無事ではすまなかった。
コクピット左側が消滅。左側からプシューという音と共に、
空気が外へ漏れていく。ハサンはビームに左腕と左足を焼かれ、
ヘルメットも傷つき、左耳は消えて、
わき腹も抉(えぐ)られていた。そんな状態でも最後の力を振り絞り、
ヘルメットを通信機に当てながら、声なき声で告げる。それに対し、
『……どういうことですか?先輩!先輩!』
パーディの叫ぶ声が聞こえてきたものの、
それ以上を告げることは出来ず、口からダラダラと血を流しながら、
コクピットの中で、ハサンは静かに事切れた。
『先輩!……ハサン先輩!』
パーディは叫んだことだろう。
しかし、空気の抜けたコクピット内にはその声はまるで響かない。
……それがハサン・エルトゥールルの最期だった。
そして、今。煙からヤツの爪が現れた。
後に映像で確認したから間違いはない。ハサンを殺した機体である。
勿論、この時点の俺はそんなこと、知るよしもないが。
咄嗟にショートライフルを撃ち込んだものの、1射目、2射目を外し、
第3射目を前に、5枚の爪は5本の光線となってこちらへ飛んでくると、
ライフルと傷付いた右肩を一気に破壊した。
避けようと動いたものの、今度は削れた右足が文字通り足を引っ張り、
人間なら曲がってはいけない方向に曲がってしまう。
体勢を崩し、無様にも、前屈みに倒れてしまう。
ギリギリ受け身は間に合ったものの、倒れた場所の正面に、
《ドミンゴ》が立っていた。