機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
コロニーの外壁から、
海面より顔を出すクジラのように姿を現した《フレイヤ》に、
相手のロディニア級戦艦が後退を始める。
外壁付近にいた《ダガー》もどきも同様に引き上げようと動き、
攻撃を受けたが、《フレイヤ》から分離した砲の一つを狙撃し、
破壊した上、その煙で視界を遮(さえぎ)らせ、
悠々(ゆうゆう)と後退していってしまった。
なお、俺がいた位置には《ZGMF-X88SR ネグロガイア》という、
獣のような4足歩行の姿をした機体が居座っており、
また戦艦の周囲を6機の同じ機体が飛んでいる状態だった。
これらの機体は《ZGMF-23R1 ジズ》という名前で、灰色のボディで、
開いた口のような黒いゴーグルから蒼い目を覗(のぞ)かせる。
ただし、皆完全に同じかというとそうではなく、
肩にナズナの花のパーソナルナークがついた機体も1機いるし、
ある2機などは《カオス》と同じ、航空機のような姿になっている。
彼らの先には、例のロディニア級戦艦の姿があり、
戦艦の周囲をリックドムの他、
名を《ZGMF-1000FZ ザクウォーリアFZ型》という機体もある。
丸い頭をした、グリーン系統のモビルスーツだ。
これらと共に、あの《ダガー》もどきの姿もある。計7機。
逃げる《ロディニア級》に対し、
噴水のように《フレイヤ》の周囲ビームの弾幕が展開されている。
まず、《ダガー》もどきの一撃が弾幕の隙間を抜いて、
《ガイア》の側にいたある《ジズ》を撃ち抜いてしまう。
次いで、《ロディニア級》の付近から離れた3機のモビルスーツが、
弾幕を避けながら、接近する。向かうは、
アレハンドロなどがいる戦艦の左側だ。
『……クライン「教徒」に誅伐(ちゅうばつ)を!』
ある《ザク》のパイロットがそう吠え、
90mm口径のビーム突撃銃を乱射する。
ちなみに、これは《ドミンゴ》のものと同口径。
《ジズ》らはビームシールを展開、
《アビス》も肩のシールドの角度を調整、
その多くを避けるが、散弾は厄介で、
その手数の多さに1機の《ジズ》は右膝に穴が空き、
またある《ジズ》などは頭に当たり、それも運が悪かったようで、
そのまま撃墜されてしまった。
「誅伐だと?」
アレハンドロは苦笑した。マシンガンにより、
斜めに描かれるビーム弾の点線をなおも避け続ける一方で、
肩のビーム砲2門の照準を《ザク》に合わせるアレハンドロ。
「……騙(かた)んなよ!」
の一言に前後して、両門は火を吹いた。
ザクはその片方は右肩に張られたシールドで耐えたが、
もう片方はそうもいかず、左腕を持っていかれてしまった。
撃破には至らないが、その衝撃で《ザク》は吹き飛び、
マシンガンも止んだ。しかし、《リックドム》たちが近付いてきている。
《ザク》も《ザク》で、
『オマエらなどにぃ!!』
の彷徨と共に、また間髪入(かんはつい)れず、
マシンガン掃射(そうしゃ)を再開する。
攻撃は何も彼らだけではない。例の《ダガー》もどきから、
ビームライフルで撃たれ、航空機形態の《ジズ》が撃墜されてしまった。
「動けよ!皆ァ……殺られるぞ?」
直後、《アビス》が変形した。《リックドム》の片方は、
もうビームサーベルが届きうる程の至近距離に達していたが。
《アビス》の変形は、
両肩の大きなシールドが蓋(ふた)のように閉まるというもので、
変形した姿は魚か、細みのカブトガニかといった風で、
突然のことに、《リックドム》の動きが止まる。
次いで《アビス》は武器を展開せずに《リックドム》へ近付き、
相手の懐(ふところ)に飛び込む形で押し出した。
次いで、モビルスーツ形態に戻ると、
こともあろうに《リックドム》をマシンガンの盾として使った。
マシンガンだけではない。味方を誤射する危険を考え、
もう1機の《リックドム》がビームサーベルで斬りかかれば、
直前で身を翻し、荒っぽく投げ捨てて2機を鉢合わせさせ、
サーベルがぶつかった拍子に右肩を斬る中、
両肩のビーム砲でもって、2機まとめて射抜いてみせた。
ただし、隙も大きく、マシンガンで両足首より下を失い、
頭も《ダガー》もどきに撃ち抜かれてしまった。
なお、両足首を撃ち抜いたザクの左肩に、
笹(ささ)と雀(すずめ)のマークが見えた。
「……ふざけたヤツめ」
と苦笑したアレハンドロの背後で、
『撤退しましょう?このままじゃ殺(や)られますよ?』
ブリッジからそんな声が聞こえたが、次にはギドーの声で、
『敵を見逃す気か!?』
と叫ぶのが聞こえてくる。
「勇敢なのか……バカなのか」
アレハンドロが苦笑し、機体を多少後退させる中、
その横から、《ガイア》が思いきって前に出た。
「気をつけろよ!……ジョーン!」
アレハンドロは叫んだが、はたして聞こえたのか?少なくとも、
返事はなかった。