機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
──忘れもしない。あれはC.E.71年6月15日のことだった。
旧・オーブ連合首長国(現・オーブ共和国)のオノゴロ島へ、
当時の地球連合軍が攻め寄せた。
後に『オーブ解放作戦』と呼ばれたこれは、
主権返上などの要求を拒否したオーブの敗戦に終わる。
開戦の翌日のことだった。
……この日、俺たち家族はオーブにいた。戦うオーブ軍を尻目に、
一介の民間人だった俺たち家族は、
「大丈夫だ。目標は軍の施設だろ?……急げ!シン」
との父の言葉を信じ、山道を進んでいた。
途中、俺たちのほんの数メートル上空を、
モビルスーツが通り過ぎたかと思えば、比較的近場に着地、
妹マユの悲鳴を他所(よそ)に、銃撃戦を行ったりもした。
そんな中でも着実に前に進んではいたんだ。
まだ子供だったマユは母さんに手を引かれて、
「マユ!頑張って!」
などと声をかけられていた。そのうち、
揺れるカバンの中からピンク色をしたケータイが落ちる。
「ああっ!マユのケータイ!」
と立ち止まり、手を振りほどこうとするマユを、母さんは、
「そんなのいいから!」
とひき止める。ケータイは山道を転がり落ちていった。
一番後ろを歩いていた俺が、その場にバックを置いて、
数メートル下にあった木の根元の辺りまで取りに行った。
次の瞬間、傍らの木さえ吹き飛ばす強風が俺の体を襲った。
「大丈夫か?」
という男性の声に気が付き、振り返れば、
斜面に抉られたような大きな傷が出来ており、
その端に見えた岩陰の下に、妹の左腕が出ていた。
「マユ!」
駆け寄ってみて分かった。妹は死んでいた。
そこにあったのは、妹の左手だけ。
体はそれより数メートル先で捻れたように倒れていて、
その側には母さん、少し離れたところには父さんの遺体もあった。
俺は妹の左腕の傍ら、泣き叫ぶことしかできなかった。
幸か、不幸か。生き残った俺は避難船に。
俺を助けてくれたのは、とあるオーブの将校さんだった。
避難船に案内してもらった上、船の隅で膝を抱えていた俺に、
「君だけでも助かってよかった……
きっとご家族はそう思ってらっしゃるよ」
そんな優しい言葉をかけてもらった。ただ当の俺は、
唯一の形見となってしまった妹のケータイを握り絞め、
泣きじゃくることしか出来なかったが。
この将校さんの薦(すす)めで、
コーディネイターだった俺は単身プラントへ。
そして、そこで悩み抜いた末に、軍に入る道を選び、今に至る。
あの日、頭上には、オーブ軍に《フリーダム》という機体と、
連合に《カラミティ》という機体の姿があり、
少なくとみ一度ずつは、俺たちの側をも通り過ぎていった。
どちらが俺の家族を奪ったのか、それはもう分からない。
2機のパイロットとも、多分だが、もう生きてはいないだろうし。
ただ、道行く蟻のように容易に踏みにじられる己の弱さと、
青い空を恨むことしか出来なかった。
どうすれば強くなれる?
どうすれば大切な者を何も失わずに済む?どうすれば……
《カオス》は頭部のビームガンを乱射した。相手は例の下手物の方。
しかし、アイツは回避も速かった。
サムが数秒間撃ち続けて、一発たりとも命中しなかった。
嫌な汗が彼女の頬を伝(つた)う。ひとまず距離を取る。
敵は煙を吐き、視界を遮る。例によって、敵の位置が表示されない。
増幅する煙の動きから推測して、
サムは試しに右下辺りにビームライフルを撃ち込んでみたが、
逆に、弾道からこちらの位置を把握されたのだろう。
敵の反撃が始まる。煙が相手側から払われ、
指先からビームを放つ片手だけが現れた。敵に位置を悟られない為か。
サムはこれを避け、
一応、瞬間見的に見える、分離した腕と体を繋ぐ細いケーブルから、
大体の位置を確認し、サムも発砲するがまるで手応えがない。
ただ煙の中に小さな風穴が出来ただけだった。
機動性の差もある。こうして手を警戒していた隙に、
ほぼ同じタイミングで左から現れた本体・顔状の下半身から、
放たれたビームを捌(さば)き切れず、サムは左足をやられた。
「……サム!」
俺だって、まるっきり動けない訳ではない。
ヤツが放ったビームは、出力は高く、射程も長いようだが、
ビームを放っている時間もそれなりにあり、隙もできる。
さっき吹き飛ばしたシルエットを慌てて起動させ、
ガルムで砲撃中のアイツを撃てば避けられなかったようで、
分離していなかった右肘を撃ち抜くことが出来た。