機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
西ユーラシア連邦の大統領、
エルキュール・リヨン・サン=ピエールの仲介で、
フランス革命の引き金となった歴史的大事件に合わせ、
締結された本条約は、
プラント最高評議会議長アンドリュー・バルトフェルドと、
大西洋連邦大統領ウォルター・サトクリフが、
バスティーユ・オペラハウスで共にオペラを鑑賞、
後に握手する場面がメディアに取り上げられると、世界中で、
『因縁深き2か国が歴史的な和解を果たした』
と報道されたが、その内容は手放しに称賛できる話ではない。
プラントの国民を大西洋連邦リンカーン市へと、
国費による移住計画が採択されたが、
コーディネイター人種の保護の名目で、
渡航の実質的な制限および管理も採択されており、
また、おおよそ連邦の中央部に位置するこの都市への移住は、
かつてユダヤ人を強制的に住まわせたゲットーのような、
被差別部落の設置に他ならないとの批判の声も挙がっている。
他にもいくつかの協定が結ばれたが、
そのうちのひとつが、『公海での戦闘の禁止』であった。
ここでいう、海には単に地球上にある海だけではなく、
宇宙空間のことも含まれる。これを遵守(じゅんしゅ)する限り、
国家は互いの領域外で戦闘を行うことはなくなり、
必然的にどちらかの国が領域を侵害したか明確となる。
その意味では確かに画期的な条項ではあったのだが、
そもそも国家として認定されないテロリスト相手には無力であり、
むしろ公海まで逃げたテロリストを追跡できないという、
デメリットすらあり、現在、問題視されているが……
……折り畳んだ紙の新聞に一頻(ひとしき)り目を通すと、
俺はそれを荒っぽくテーブルに投げ捨てた。
あの戦いの後、大破した《Im/A-P》ごと『フレイヤ』に回収され、
それから既に数時間、
俺は『フレイヤ』の待合室のソファーに腰を下ろしていた。
「……ハァ」
と俺は溜め息を漏らした。
「どうにかならないんすかねぇ……公海の話は」
向き直ると、アレハンドロは翼を広げるように肩を上げ、
腕を背もたれの上に乗せている。
「こういうの……何て言うんすかねぇ」
そう言い、後頭部をかきむしるアレハンドロ。
「なんか……考えませんか?脱走兵の連中はどこから来たのか」
言葉の意図が分からず、俺はしばらく黙っていた。
「どこからってのは、つまり、あれっすよ。
連中の本拠地っていうのか、補給はどことか、そういう……」
言葉に合わせ、両手首をクルクルと動かすアレハンドロ。
その様はまるでペンギンのようだ。
「……わからないことはねぇが」
直後、テーブルに紙が叩きつけられる音に、俺は顔を上げた。
「少し……調べたんすよ。それ」
それは、一束にまとめられた数枚の紙だった。
ゆっくりとこれを自身の方に寄せ、胸の前辺りへ。
一目、添付されていた写真で分かった。
頭蓋骨(ずがいこつ)が剥(む)き出しになったような、
頭部左側に埋め込まれたレドーム。
そして、青っぽいグレーと茶色からなるカラーリンク。
ヤツだ。市街地で戦った……
「……《GAT-X272 ダーティ》」
アレハンドロの声に反応し、俺は相手の方に顔を向けた。
「大西洋連邦が開発した実験機です。
コンセプトはガンバレルの操作性向上と《デストロイ》の小型化」
《デストロイ》。正式には《GFAS-X1 デストロイ》。
20mそこそこのモビルスーツの中で、50m越えとバカでかい体で、
身体中に火器を内蔵した、モビルアーマー以上の戦略兵器。
そう言われれば、確かに似ている。
分離してビームを放つ両手もそうだし、下半身についた顔など、
《デストロイ》のものによく似ていた。
「このデータじゃ、いくつかの実験の後にパーツごとで解体されて、
売却されていたことになってますけど……
恐らくはそのままの形で流れされたんでしょ。脱走兵に」
顔はアレハンドロに向けたまま、目線だけ下ろして、
用紙の内容を確認する。
「そういや、ここから近いっすもんねぇ。大西洋連邦の『オバマ』。
……こりゃ、闇が深いかもっすなぁ」
また溜め息が漏れた。
「……俺にどうしろってんだ」
片手で覆い、顔を伏せた。
「どうって……そりゃ、選ばなきゃダメでしょ?
この先、どういう選択をするのか……」
俺は顔を上げない。
「……いっそ、一緒に脱走兵へ行きますか?」
ふと見ると、アレハンドロは冗談っぽく笑っていた。
「……不謹慎(ふきんしん)だろ?まったく」
呆れ気味に、しかし俺は俺で笑ってしまった。
「さぁーせぇん……」