機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

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謝ってはいるが、当のアレハンドロはそっぽを向いている。
冗談であるし、別に咎めはしないが。
俺は貰った資料をテーブルにゆっくり置いた。
「しかし、大したもんだ。
昨晩の今朝でよく……データベースから見つけられたもんだな。
まるで……『前から知っていたみたいだが』」
そこから奇妙な間があった。アレハンドロは何も言わない。
距離的にも、意外に離れているもので、よくは見えないのだが、
その視線の先は彼のほぼ後ろにある窓に向いているらしい。
ただ、こちらからは、アレハンドロの体が蓋になって、
窓の外もまた、ほとんど何も見えない。
「オマエ……確か南アメリカ出身の移民だったよな。
南アメリカは確か……大西洋連邦の属国だったハズだが」
アレハンドロの頭が下がったように見えた。直後、
「実は俺……連中のスパイでして」
横顔が見えたが、アレハンドロの口角は上がっていた。
妙な緊張感を感じ、俺も言葉に詰まる。そこから2、3秒。
外から近付いているらしい足音が妙に大きく聞こえる中、
「……なぁんて、言ったらどうします?」
振り返ったアレハンドロは尚も笑っていたが、
少し表情が柔らかくなったように感じた。
「からかうなよ……俺を」
俺がゆっくり目を閉じる。間もなく、足音がやんだ。
部屋のドアが開く。そこには……
「……マユ?」


PHASE-04 波の間に(2/7)

茶色い髪が棚引(たなび)いて、 紫色の瞳が俺を見つめていた。

そんな感情の風体(ふうてい)に、

何も考えずに、その名前で呼んでしまっていた。

ドアの外では、彼女が照れ臭そうに顔を下げている。いや違う。

本当は違うとわかっている。それは俺が思った彼女ではないことを。

俺はどんな表情を向けていいか分からず、顔を逸らした。

自然と向いたのは、アレハンドロの方だった。

見るとアレハンドロは、壁に頬杖(ほおづえ)ついて、

かつ半笑いで、逆にこちらを見ていたのである。

「うわぁ」

と言いはしなかったが、アレハンドロの口はそう動いた。

頬杖ついた手を開き、口元に当てながら。

「……何してんだ?オマエ」

「いやぁ……副長もやりますねぇ。ヴァイデフェルトちゃんと、

まさか、下の名前で呼び合う仲とはぁ~」

アレハンドロはえらく嬉しそうだ。

「おい……ふざけるな」

「そんじゃ……俺はこの辺で」

徐(おもむろ)に立ち上がるアレハンドロ。

「……おい!」

俺が声をかけるのを相手にせず、宣言通り、

ドアの方へとアレハンドロは歩いていく。ただ、その中途に、

一度だけ振り返り、

「……ごゆっくりぃ」

と、憎たらしい程の満面の笑みで、そう言った。 

俺がゆっくり目を閉じると、足音は外へと出ていった。

「……ハァ」

と俺が溜め息を漏らしたとき、

ポンとテーブルに缶コーヒーが置かれた。見上げれば、

「……どうぞ」

と彼女こと、ヴァイデフェルトがこちらへ笑いかけていた。

俺は杖をつくように缶に両手を重ね、

「……悪いな」

そう微笑(ほほえ)みがちに軽く頭(こうべ)を垂れた。

「いいえ~」

ヴァイデフェルトの返答は、

そう語尾の「え」が間延びする言い方だった。

テーブルとソファーの細い間を、気持ち屈(かが)んで、

ヴァイデフェルトは、ゆっくり進んでいく。

そうして俺が貰った缶の蓋を開ける頃、彼女が隣に座った。

俺はコーヒーを飲んだ。すると、彼女はこちらにすり寄る。

それはもう、互いの腕が軽く触れる程、側に。

「……何だ?急に」

肩が当たった拍子に、そんなことを口走ってしまった。

「いいえ……」

ヴァイデフェルトはもう少し、こちらに身を寄せた。

肩口に、彼女の頭がもたれ掛かる。

そこから、1分ぐらいだったろうか。

ヴァイデフェルトは一向に口を割らないまま、

俺もこれといって話す言葉がないまま、時間が過ぎた。

しかし、やがて、彼女は俺の脇の辺りに額を当て、

「少しだけ……聞いてもらえますか?」

と囁(ささや)いた。

「……あぁ」

「パーディさん……泣いていたんです。ハサン先輩のことで」

ヴァイデフェルトの声は震えていた。

「ちゃんと話せるうちに……話さなきゃって、思って」

上目遣いでこちらに顔を寄せる。

鼻と鼻とが当たるかといった程に近付いている。

「私……」

慌てて彼女の肩を押さえて、動きを制止する。

「あのなぁ……」

思わず、俺は立ち上がった。

「気持ちは嬉(うれ)しいが……」

言葉に困り、顔を逸らす。そこから更に1分程度の沈黙を経て、

「すまんが……結構年も離れているし……」

そう言い、彼女の方を改めて見たときには、

その口が「そ」という言葉を紡(つむ)いでしまいそうだった。

だから、慌てて、それを遮るように、

「それに……俺はバツイチだ。別れてから、そんなには経ってない。

いくらか別れたからって、そう簡単に切り替えられねぇって……」

きっと傷付くだろうと、見当がついた。

だからついつい、話していく内に、顔を逸らしてしまった。

「そう……ですよね」

彼女の言葉に、視線が戻る。

「いえ、いいんです……伝えることが、大事だと思ったから」

いつの間にか、離していた俺の両手。

彼女の体はその隙間を抜けて、離れていった。

「すいませんでした……急に」

その場で頭を下げながら、膝で徐々に後ろへと下がっていく。

最終的に立ち上がると、

「ちゃんと聞いてくれて……ありがとうございました」

そう、もう一度頭を下げて、振り返り、足早に部屋を出ていった……

──マユ・ヴァイデフェルト。それが彼女の名。

奇(く)しくも、かつて亡くした妹と同じ名前の少女。

それが今、静かに俺の側を離れていった……

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