機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
男がドアの開く音にゆっくり目を開ければ、そこは書斎。
タイミングとしては、俺たちが話していたのと、そう変わるまい。
ただ、時差がある。アーモリー・ワンが騒動の翌朝を迎えた頃、
部屋の中央、年代ものらしき木製のイスに腰を下ろす男の背中を、
窓の閉ざされたブラインドの隙間から、夕焼けが照らす。
バーテンダー風のスリーピース・スーツを着込む男の胸には、
金色のバッジがついており、夕陽に反射して光っている。
なおバッジには、『Noel De Keg』(ノエル・ド・ケグ)の文字。
……耳にもかかる金色の前髪をかき上げ、
机上に置かれた左手を見れば、そこには小さな文庫本がある。
手をどけ、確認する。タイトルは『信仰と孤独』。すぐに彼は、
「……どうぞ」
顔も上げずに、そう告げた。
「……失礼します」
音もない室内に、力強く踏み出す彼の足音だけが響く。
やがて、その足音は止み、彼の視線に相手の両足が映る。
「オートクレール殿下(でんか)はどちらへ?」
「……お出かけになっております」
この返答の後、彼──ノエル・ド・ケグはゆっくり顔を上げた。
「ご用時でしたら……私の方でお伝えしますが?」
「いえ……それほどのことではないのですが」
相手は後頭部を軽くかいた。
対するノエルは顔を下げ、机上に置いていた左の手首を返し、
掌を上にし、指先で向かいのイスを指差した。
「……どうぞ」
座れ、というのである。
相手は特に何も言わず、ゆっくりと向かいに腰を下ろした。
「丁度よかった……と、言わせてもらいましょう。
アナタとは、話しておきたいことがありましたから。
ホルローギン・バータルさん」
……当のホルローギンは数秒の沈黙を経て、ただ一言。
「ケグさんは、反対でしたか……今回の襲撃は」
「……クールカ隊長は?」
と問うノエル・ド・ケグに、
ホルローギン・バータルは淡々とした口調で、
「あの方なら、もうお帰りになった。
今頃は、娘さんと親子水入らずの時間を過ごしておいででしょう」
そう答える。
「指揮官が私事を優先するとは……」
「優先などと……とんでもない。
状況報告は私の仕事と一任されておりますが故のこと。
私が向かえない状態なら、
ここに座っていたのはクールカ隊長でしたでしょう」
ノエルは溜め息混じりに首を振り、
シャツの首元にある一番上のボタンを荒っぽく外した。
「それでは……
貴方が、クールカ隊長の代理として弁解していただけるのですね?」
「えぇ……何なりと」
「お疲れ様でしたなどと……
本来は労(ねぎら)うべきなのでしょうが」