機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
「……あぢぃ」
と漏らし、手を団扇(うちわ)のように動かすアレハンドロは、
軍服の胸元が開き、髪も多少乱れている。
顔も、汗の跡なのだろう、輝いて見える。
そんな彼がモビルスーツデッキから食堂に至る通路を、
如何にも気だるそうに歩いていると、一人の女性が現れる。
対照的といえる程、堂々と胸を張り、歩いてくる彼女。
一歩進む毎に、そのほとんど白っぽい銀色をした髪のうち、
唯一金髪で、鳥のクチバシのように垂れた右の前髪が、
右へ左へサッサッと揺れて、そこから彼女の右目が見え隠れする。
「……おおっ!サム」
アレハンドロがそう手を挙げれば、
「ああ」
と相手も返事を返す。
「パーディのヤツ……見てないか?」
「パーディなら……さっき食堂で一緒だったが?」
「……どうだったよ?」
サムが首を斜め下へと振った。前髪がまた揺れて、顔が隠れる。
表情が見えない程に。
「正直……元気そうとは言えないな。
顔色も悪かったし、食欲もないみたいだった……
本人はダイエット中だと強がってたが」
「やっぱ……そうなるよなぁ」
アレハンドロの顔も自然下を向く。
「ハサン先輩だけじゃなくて……4人も仲間が殺られたんだ。
無理もねぇか」
サムが小声で、
「……すまない」
と言葉を続けた。
「何でサムがあやまんだよ……全く」
アレハンドロは笑いかけるが、サム表情は硬い。
居たたまれなくなったのか、そこからアレハンドロが歩き出して、
サムとすれ違い、更に数歩、互いに振り返りもしない。
ただ、すれ違う間際、アレハンドロは顔を見れなかった分、
視線が下がっていたのだが、するとサムのボトムズのポケットから、
タバコの箱が顔を覗かせているのに気付いた。
なお、銘柄はラッキーストライク。
ただ、サムは喫煙者ではない。何故そんなもんを、
とアレハンドロは考えてながら、目線を上の方に移していく。
そんな中で、サムが尋ねた。
「今日も、朝練(あされん)か?」
「あぁ……実戦やって、色々思うことがあったんだよ。俺も」
苦笑がちに、アレハンドロが首だけ振り返る。
「まあ……ちょっと、今朝は張り切りすぎたかも」
丁度、アレハンドロの首筋を一滴の汗が流れていった。
「……アスカ副長に勝つ、だったか?」
「まあ……それもあるんだけど」
アレハンドロは首を元に戻した。
奇しくも、それはサムが後方を確認するよう横顔を向ける、
ほんの1秒程、前のことだった。
「サム……オマエ、アーモリー・ワンの戦い、手ぇ抜いてたろ?」
横顔だけで見ていたサムが、体ごと向き直った。
頭の先から爪先に至るまで、サムの体は今、
アレハンドロの方を向いている。
鋭い眼光がアレハンドロに向けられているが、
向けられた方はそれを知ってか知らずか、特に反応しない。
「……何だ?急に」
「いや……別に?……ただの直感だよ?」
サムが首を斜めに振ると、また前髪が頭から少し離れて、
浮いたようになる。
丁度、毛先がアレハンドロの方に向いているせいか、
猛禽類(もうきんるい)のクチバシが獲物を狙っているかのようだ。
そんな気持ち前傾姿勢でもって、アレハンドロに告げる。
「オマエは私を買い被り過ぎなんだ……」
と。そこまで言うと、サムは今度は頭を上げ始めた。
「それとも、まだ……
士官学校の卒業成績で負けたことを、根に持ってるのか?」
呆れたように笑うサム。
「うるせぇ……言うなって、それを。マジで萎(な)えるから」
後頭部をかくアレハンドロ。
「自分では、もう少し出来ると思っていたんだがな。
その点、副長には驚かされた。あんな戦い方があるものか、と。
……レベルが違うと、言わざるを得ないな」
「……でもよぉ」
アレハンドロが首を後ろに振った。
上を向いているらしいその顔は、サムの位置からは見えない。
辛うじて見えるのは、ヤナギの葉みたく垂れた髪と生え際ぐらい。
「いつかは来るかもしれねぇ……
俺たちだけで、戦わなきゃいけねぇときが」
サムの目が少しだけ大きくなった。
「そう……だな。ところで……その副長だが」
アレハンドロの顔がサムの方に向いた。
「どこにいるか知らないか?少し、聞きたいことが……」
「あぁ、それなら、さっきまで待合室に……」
そんな話をしていると、突然、
『……アスカ副長、ギドー大隊長がお呼びです。至急、艦長室へ』
とのアナウンスが流れて……