機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
二日酔いで痛む頭を抑えながら、卵を割り、コップに入れる。
ウスターソース、タバスコ、ケチャップ、酢、胡椒(こしょう)、
適当にその辺りのものを足して、
「……健康第一」
と言い聞かせ、半ば無理矢理喉(のど)に通す。
タバスコの量が多かったのか、少しむせた。
顔を上げ、鏡を見つめる。
その表情はまだどこか疲れたものには見えるが、
昨日よりはまだ血色がいい。
右目を隠す形に下がってしまったバンダナを外し、
額の部分で結び直す。
それでも、バンダナが大きく、
末端は眉にかかるくらいに低い位置だったが。
次いで両手で両頬を同時に三度ばかりポンポンと叩く。
それから、
「よし……」
と言って、ワイリーはその場を離れた。
呼び出しくらった俺が言われた通りに艦長室までやってくると、
ドアが独りで開き、ある女の後頭部が目に入った。
一瞬、頭が2つ並んでいるかと思った。
それほど綺麗に、正確に、中央を境として髪が塗り分けされており、
左はグリーンで、右は暗い褐色。
すぐに彼女はゆっくりと振り返り、
それぞれの方向に跳ねた襟り足の左右の端が、
鳥の翼のようにはためく中で、
やがては毛髪の隙間を抜いて、赤い瞳がこちらへと向けられた。
ライチの実にも似た、鮮やかなその瞳は半分だけ開いており、
彼女はこちらに一礼すると、右手側に一歩退(しりぞ)き、
「お待ちしていましたよ……アスカ副長。どうぞ、中へ」
と、こちらに道を開けてくれた。
開いた口より見えたのは、
舌の右端につけられた魚の形をした翡翠色(ひすいいろ)のピアス。
……色々聞きたいことはわかったが、あえて何も聞かなかった。
部屋に入って1歩、周囲を見渡す。
右手の背中側に彼女がいるのは勿論、
左手側にはハビエルがおり、正面にはギドーが座っている。
「これはまた……どういう状況で?」
俺は後ろの彼女に向かって聞いたが、ギドーが、
「俺から話そう……」
と切り出した。自然、俺もそちらに視線を移す。
「まずは……昨晩の奮闘ぶり、私からも礼を言わせて欲しい。
御苦労だった、アスカ副長」
「……どうも」
ひとまず頭を下げておいた。しばらく顔を下げたままにしていると、
彼の腕が前に突き出されてきた。握手を求められたらしい。
「……はぁ」
顔を上げ、ひとまず、握手に応じた。
「それで……」
ギドーの手が離れる。
「……どうして、自分を?」
「あぁ、そのことだが……」
ふと確認してみれば、ギドーの目線はハビエルに向いている。
俺も横目で確認すると、
「……昨日の今日で、用心なしに動けないって話」
と漏らすようにハビエルは答えた。
俺は特にかける言葉が見当たらず、
またハビエルもハビエルで、顔を下げており、
何か付け足す様子はない。対して、口を開いたのは、
またもギドーだった。
「1時間後だが、私の直属の部下たち、
つまり、サーベラス艦隊が……アーモリー・ワンに入港予定だ。
まあ、あそこへはツーより、ワンからの方が近いからな。
こういう対応になる訳だが……」
「……はぁ」
ハビエルの方をチラチラ確認するのだが、
頭を下げたまま、特に何も言ってはくれないどころか、
目も合わない。
「到着次第……サーベラス大隊、フレイヤ中隊は共に、
グナイゼナウへと向け、発進する予定だ」
「……はい?」
ギドーの言う意味がわからなかった。
いや、何故そんな話になったかがわからない、というべきか。
「これは……歴(れっき)とした総司令官からの要請です」
背後からの声に、俺は振り返る。
例の茶色い瞳がこちらをじっと見つめている。
胸の前で、両腕を組みながら。
彼女は目を閉じて、話を続ける。
「このような状況、私(わたくし)どもも無理は承知していますが、
命令には従っていただかないと」
ハビエルはその大きな鼻をかいているのか、触っているだけか。
とにかく、何か言ってくれそうにはない。
またギドーについても、すっかり蚊帳(かや)の外といった感じで、
もう口を挟む様子はない。
俺はついつい溜め息を漏らしつつ、
「理解に苦しみますね。何でそんなこと……
そもそも、何でアナタがここにいるんですか?
姫(フェイ)・デ・カイパー総司令官補佐」
そう、彼女に詰問(きつもん)した。