機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
「あー……もしもし、俺だ。ハサンだ」
スマートフォンを耳にあて、彼はそう話しかける。
明るい茶色をした彼の髪だが、
丁度スマートフォンと接している、もみあげの部分だけ、
何故か赤い毛となっている。
『あぁー、ハサン先輩っすか!……お疲れっす!』
電話の相手も男性のようで、そのキーが高く、また大きな声の背後、
何やら人の話し声やら音楽やらが漏(も)れている。
「あー、お疲れ……今どこだ?アレハンドロ」
そうハサンがやや顔を下げがちに告げる。
『はい、はい……そのうち帰りますってぇ』
この一言の後、相手の方からは、声が小さくて聞き取りにくいが、
『ねぇ?誰と話してるのぉ?』
と女性の声が聞こえてくる。
『……先輩だよ。軍のね』
ハサンの口からフッと小さく漏れる息。左手を口にあて、小声で、
「今日も風俗か?」
とハサンが問えば、
『おっパブですよぉ……おっパブ』
アレハンドロはこの調子で、これにはハサンも苦笑い。
「……早めに帰ってこいよ」
『はーい』
そんなところで通話は終わり、スマホの画面も真っ暗となる。
「……アイツはいつも楽しいそうだな」
苦笑いそのままに、ハサンが振り返った。
ハサンのトルコ石のような鮮やかな青い眼には今、その背後に立つ、
ギャル風のメイクをした若い女性の姿が映っている。
「……ドン引きなんですけど」
そう言うと、彼女はその後ろにあった白いベンチに腰を下ろした。
さて、この二人が今いるここは、廊下(ろうか)の一角で、
頭上には白いライトが光っており、青白い壁や人を照らしている。
壁も床も天井も、金属製の空間に、
ただ唯一非人工的なものがあるとすれば、それは四角い窓より、
その明かりを射し込ませる、満月を置いて他にはない。
「アレハンドロは……まぁ、何というか……」
後頭部を右手でかきながら、ハサンがゆっくりと口調でそう話す。
「……聞こえてましたよ。目的地がどこかは」
ハサンの手が止まる。目線も自然と女性から離れていく。
「まあ……アレハンドロも、軍規を破ってるとかじゃないからなぁ……」
「キモいです」
即答する女性に、ハサンの視線は戻り、また笑いが溢(こぼ)れる。
あの苦々しい笑いが。
「風紀の乱れですよ……全く。
先輩からもガツンと言ってくださいよ!」
「……そうは言うがなぁ、パーディ」
「まだあの演説から、一週間も経ってないのに……」
この一言を受け、ハサンは視線を下げ、自身の腕時計に目を向ける。
デジタル式で、日付を3月31日、時刻を20時11分と表示している。
「アレハンドロには、アレハンドロなりの考えがあるだろう。
あまり、とやかく言うのはなぁ……」
パーディの顔を確認すると、その顔つきはなおも険しい。
ハサンが顔を逸らすのも、必然だったろう。
横を向き、まもなく右手を目の辺りにあて、顔を覆った。
「まさか……アイツと同じこと言うとはな」
小さな声で漏らすように、そう呟いた。