機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
話を戻すこと、数時間前。そのとき俺は会議室にいて、
黒板みたいな暗いスクリーンを背後に立っており、
居並ぶ薄紫色のイスへ腰かけた聴衆たちと向き合う構図にあった。
イスは列を成し、アレハンドロ、サムらパイロットが1列目に座り、
パーディなどのその他クルーが2列目以降に座っている構図だ。
部屋の一番奥で、ハビエルが壁に凭れ、様子を見ている。
「まず、最初に……クルーを集めた目的だが、
我々はグナイゼナウに向かう。準備が整い次第、
それも、現時点で動員できる全軍を率いて、だ」
ざわつく群衆の中で、アレハンドロがパッと手を挙げる。
「……どうした?アレハンドロ」
「質問いいっすか?」
「あぁ、いいぞ」
周囲の視線が心なしかアレハンドロに集中していくようだった。
「俺らは……昨日の夜てか、今日てか、
まあ、戦ってた訳じゃないっすか?つい、何時間か前まで」
「……あぁ」
「死人も出たし、
それで……体力的にも気持ち的にもキテる訳じゃないすか?
なのに何で……そんな鞭(むち)打つみたいに」
アレハンドロの言い方は微妙に要点を得なかったが、
要するにやる意味がわからない、といったところか。
「俺が……
説明されたことをそのまま伝えるなら、『戦術的見地』ってヤツだ。
もっと噛み砕いた言い方すれば、
非常事態に備えて、グナイゼナウに兵力を集中させたい、
ってことだ」
「回りくどいっすよ……結局、何がいいたいんすか?」
それを問われ、試しにハビエルの方を確認すると、
顔を右手で覆い、
左手はあっちに行けと言うようにこちらに向けて振っている。
勝手にやってくれというところか。
この場で俺の次に偉い女がそんな様子だから、
俺も思いきって、言うことにした。
「より端的に言えば……戦争の準備だ」
「えっ」
などとジョーンが声を漏らしたのを皮切りとして、
皆があれこれと呟き、騒然(そうぜん)とした。
もっともこれらは、
ハビエルが次の言葉を発した辺りで収まる程度のものだったが。
「あくまで相手はテロリスト……武力鎮圧ってのが正確よ」
話し始めると、皆一様に振り返り、ハビエルを見た。
反論したのはアレハンドロ。
「言い方はそうかもしんないっすけど……
結局、やってることは戦争と変わらないんじゃ……」
ふと見れば、ヴァイデフェルトは祈るように、
胸の前で両手を組んでいる。
「……そんなこと、言われなくともわかってるわ」
当のハビエルはやや俯(うつむ)いて、眉をかいている有り様。
「……作戦内容を確認するぞ」
そう呼びかければ、ハビエルの方を向いていた皆が、
ほぼ一斉にこちらへと向き直った。
俺は瞬(まばた)きしていたもので、その瞬間は見ていないが。
「グナイゼナウには、サーベラス艦隊と共に向かう。
戦艦3隻と、モビルスーツ数43機からなる大艦隊だ。
フォーメーションとしては……」
背後のスクリーンが光る。
次いで画面には、サーベラス艦隊の戦艦3隻と、《フレイヤ》とを、
デフォルメしたイラストが描かれた図が現れる。
俺は胸ポケットから指示棒を取り出し、柄の部分を伸ばす。
棒の先端部をスクリーンに近付けつつ、話を続ける。
「見てわかる通り、
……後衛に、例の陣形を展開するサーベラス艦隊、
前衛に《フレイヤ》が進む形だ。事態は一刻を争うからな。
機動力の高い《フレイヤ》を前にすることで話が着いた。
そして、図じゃ分からないが、
実際は《フレイヤ》の方が低い高度を飛ぶことが想定されている」
挙手したサム。俺は無言で首を縦に振った。
「その陣形の意味は?」
それがサムの問い。
「語弊(ごへい)を恐れずに言うが、
実戦では……《フレイヤ》は的になる。囮(おとり)ってもいい」
仕方のないことだが、皆の表情は硬くなるのが見てわかった。
「何せ……サーベラス艦隊は鉄壁の防御力を持っている。
敵もまともに戦おうとは思わないだろう。そこで、だ。
あえて《フレイヤ》を前に進ませて、敵に隙(すき)を見せる。
そうして敵がこの『フレイヤ』を攻撃してきたら、
反撃は程々(ほどほど)でいい。俺かハビエルが指示を出すから、
指示を聞いたら、一気に引き下がれ。
これに敵が有利と見て攻めてくれば、
上からサーベラス艦隊で集中砲火を浴びせるという算段だ」
この辺りで、指示棒を畳んだ。
「上や後ろからの攻撃にはサーベラス艦隊で十分対応できるし、
左右、下からの攻撃でも、同様の戦術が取れる。
まあ……完璧な戦術なんてものがあるとは思わないが、
この陣形なら、一応隙は出来ない」
周囲を見渡せば、まだ隊員たちの顔つきには緊張が見て取れるが、
それでも、悲壮感(ひそうかん)はもう感じられない。
「……俺からは以上だ。その他、質問は?」
俺がそう言ってから数秒後、手を挙げたのは、一人の青年だった。
「……何だ?マイク」
「これは……例えばの話なんですけど」
「おう……言ってみろ」
マイクは図を確認しながら、静かにこう告げた。
「もし、この陣形を相手に戦うとしたら……
副長なら、どう攻めますか?どう攻めれば……倒せますか?」
マイク・オルセン。18歳。軍に入ったのは、2年前。
士官学校の卒業順位は22位。モビルスーツのパイロットを志望。
特段才能のある訳ではないが、真面目で堅実な戦い方で、
部隊長ルシア・アルメイダからの評価も高かった。
もっとも、それは一昨年までの話。迎えた、C.E.79年末。
アルメイダ隊はアーモリー・ワンへの出向が命令されると共に、
戦艦《フレイヤ》と新型モビルスーツ8機を受給した。
しかも同時期、士官学校を1位卒業のサマンサ・スクリーチを筆頭に、
同じく2位卒業のダイ・フーディニー、
4位卒業のアレハンドロ・フンボルト、
7位卒業のジョーン・ウェールズという、エース級が入隊。
本来ならORDERがドラフト会議で獲得するレベルの人材を、
優先的にいち中隊に派遣するのは、
上層部のアルメイダ隊への、あるいは新型への信頼が見えるが、
そのしわ寄せとして、マイクには、
新型機のパイロットという役が回ってくることはなかった。