機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

30 / 91
PHASE-05 駆け抜ける嵐(2/7)

話を戻すこと、数時間前。そのとき俺は会議室にいて、

黒板みたいな暗いスクリーンを背後に立っており、

居並ぶ薄紫色のイスへ腰かけた聴衆たちと向き合う構図にあった。

イスは列を成し、アレハンドロ、サムらパイロットが1列目に座り、

パーディなどのその他クルーが2列目以降に座っている構図だ。

部屋の一番奥で、ハビエルが壁に凭れ、様子を見ている。

「まず、最初に……クルーを集めた目的だが、

我々はグナイゼナウに向かう。準備が整い次第、

それも、現時点で動員できる全軍を率いて、だ」

ざわつく群衆の中で、アレハンドロがパッと手を挙げる。

「……どうした?アレハンドロ」

「質問いいっすか?」

「あぁ、いいぞ」

周囲の視線が心なしかアレハンドロに集中していくようだった。

「俺らは……昨日の夜てか、今日てか、

まあ、戦ってた訳じゃないっすか?つい、何時間か前まで」

「……あぁ」

「死人も出たし、

それで……体力的にも気持ち的にもキテる訳じゃないすか?

なのに何で……そんな鞭(むち)打つみたいに」

アレハンドロの言い方は微妙に要点を得なかったが、

要するにやる意味がわからない、といったところか。

「俺が……

説明されたことをそのまま伝えるなら、『戦術的見地』ってヤツだ。

もっと噛み砕いた言い方すれば、

非常事態に備えて、グナイゼナウに兵力を集中させたい、

ってことだ」

「回りくどいっすよ……結局、何がいいたいんすか?」

それを問われ、試しにハビエルの方を確認すると、

顔を右手で覆い、

左手はあっちに行けと言うようにこちらに向けて振っている。

勝手にやってくれというところか。

この場で俺の次に偉い女がそんな様子だから、

俺も思いきって、言うことにした。

「より端的に言えば……戦争の準備だ」

「えっ」

などとジョーンが声を漏らしたのを皮切りとして、 

皆があれこれと呟き、騒然(そうぜん)とした。

もっともこれらは、

ハビエルが次の言葉を発した辺りで収まる程度のものだったが。

「あくまで相手はテロリスト……武力鎮圧ってのが正確よ」

話し始めると、皆一様に振り返り、ハビエルを見た。

反論したのはアレハンドロ。

「言い方はそうかもしんないっすけど……

結局、やってることは戦争と変わらないんじゃ……」

ふと見れば、ヴァイデフェルトは祈るように、

胸の前で両手を組んでいる。

「……そんなこと、言われなくともわかってるわ」

当のハビエルはやや俯(うつむ)いて、眉をかいている有り様。

「……作戦内容を確認するぞ」

そう呼びかければ、ハビエルの方を向いていた皆が、

ほぼ一斉にこちらへと向き直った。

俺は瞬(まばた)きしていたもので、その瞬間は見ていないが。

「グナイゼナウには、サーベラス艦隊と共に向かう。

戦艦3隻と、モビルスーツ数43機からなる大艦隊だ。

フォーメーションとしては……」

背後のスクリーンが光る。

次いで画面には、サーベラス艦隊の戦艦3隻と、《フレイヤ》とを、

デフォルメしたイラストが描かれた図が現れる。

俺は胸ポケットから指示棒を取り出し、柄の部分を伸ばす。

棒の先端部をスクリーンに近付けつつ、話を続ける。

「見てわかる通り、

……後衛に、例の陣形を展開するサーベラス艦隊、

前衛に《フレイヤ》が進む形だ。事態は一刻を争うからな。

機動力の高い《フレイヤ》を前にすることで話が着いた。

そして、図じゃ分からないが、

実際は《フレイヤ》の方が低い高度を飛ぶことが想定されている」

挙手したサム。俺は無言で首を縦に振った。

「その陣形の意味は?」

それがサムの問い。

「語弊(ごへい)を恐れずに言うが、

実戦では……《フレイヤ》は的になる。囮(おとり)ってもいい」

仕方のないことだが、皆の表情は硬くなるのが見てわかった。

「何せ……サーベラス艦隊は鉄壁の防御力を持っている。

敵もまともに戦おうとは思わないだろう。そこで、だ。

あえて《フレイヤ》を前に進ませて、敵に隙(すき)を見せる。

そうして敵がこの『フレイヤ』を攻撃してきたら、

反撃は程々(ほどほど)でいい。俺かハビエルが指示を出すから、

指示を聞いたら、一気に引き下がれ。

これに敵が有利と見て攻めてくれば、

上からサーベラス艦隊で集中砲火を浴びせるという算段だ」

この辺りで、指示棒を畳んだ。

「上や後ろからの攻撃にはサーベラス艦隊で十分対応できるし、

左右、下からの攻撃でも、同様の戦術が取れる。

まあ……完璧な戦術なんてものがあるとは思わないが、

この陣形なら、一応隙は出来ない」

周囲を見渡せば、まだ隊員たちの顔つきには緊張が見て取れるが、

それでも、悲壮感(ひそうかん)はもう感じられない。

「……俺からは以上だ。その他、質問は?」 

俺がそう言ってから数秒後、手を挙げたのは、一人の青年だった。

「……何だ?マイク」

「これは……例えばの話なんですけど」

「おう……言ってみろ」

マイクは図を確認しながら、静かにこう告げた。

「もし、この陣形を相手に戦うとしたら……

副長なら、どう攻めますか?どう攻めれば……倒せますか?」




マイク・オルセン。18歳。軍に入ったのは、2年前。
士官学校の卒業順位は22位。モビルスーツのパイロットを志望。
特段才能のある訳ではないが、真面目で堅実な戦い方で、
部隊長ルシア・アルメイダからの評価も高かった。
もっとも、それは一昨年までの話。迎えた、C.E.79年末。
アルメイダ隊はアーモリー・ワンへの出向が命令されると共に、
戦艦《フレイヤ》と新型モビルスーツ8機を受給した。
しかも同時期、士官学校を1位卒業のサマンサ・スクリーチを筆頭に、
同じく2位卒業のダイ・フーディニー、
4位卒業のアレハンドロ・フンボルト、
7位卒業のジョーン・ウェールズという、エース級が入隊。
本来ならORDERがドラフト会議で獲得するレベルの人材を、
優先的にいち中隊に派遣するのは、
上層部のアルメイダ隊への、あるいは新型への信頼が見えるが、
そのしわ寄せとして、マイクには、
新型機のパイロットという役が回ってくることはなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。