機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

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「このパターンは……正直、かなり条件が限定される。
ただ、まあ、副艦長の言う通り、
それに合致するモビルスーツが確認されている以上は、
起こることを念頭に入れておいた方がよさそうだな」
会議室にて、そんな講釈を垂れれば、周囲の表情が硬くなる。
試しにハビエルと顔を見合わせれば、
続けろと言わんばかりの威張(えば)り顔。
そんなんだから、いくら有能でも出世コースから外れるんだ、とは、
まあ、流石に面と向かっては言えないが。
「基本的にだ……ジズのカタログスペックは意外に低くない。
パルジファルの威力は破格。可変機故の高い機動力。
反応速度もいい。そして、高い整備性。
色々言われてるが、ジズは名機だ。少なくとも俺はそう思ってるが」
「……機動力だけなら、ダーティのが上だと?」
アレハンドロの問い。
「機動力だけの話じゃないが……まあ、要するに、そういう話だ」
ワイリーにアレハンドロ、サム、マイクなどはもう心得ている様子。
他方、ジョーンは微妙で、ヴァイデフェルトなどは首を傾げている。
「……ずっと話しているが、手数の問題なんだよ。結局は。
密集体形自体でかなり機動力は殺されているが、
ジズの反応速度を生かせば、接近戦でもそれなりには戦える。
ビームガンとビームサーベル、ビームクローなんかがあるからな。
ただ、もし機動力でジズを圧倒的に凌駕(りょうが)する相手なら、
隙の多いビーム砲を撃っている隙に近付かれ、
何も出来ないままやられる可能性が出てくるって話だ」
「……ヤバいじゃないっすか?」
アレハンドロが半笑いでそう言った。
「だがな……よく聞けよ。
ジズを圧倒的に凌駕する機動力だぞ?考えてみろ、
ジズの反応速度は、パイロット次第だが、カオスやセイバーと同等。
量産機としては破格(はかく)の水準だ。
それこそ……ダーティ級の化け物が何機もいるなら、話は別だが……」  


PHASE-06 その手に剣を(2/7)

そのとき、ギドーは言葉を失っていた。

『ヨーハン・ヴァイヤー』は炎上しつつも、

少しの間、その形を止めていたが、そう長く続かなかった。

更なる爆風に、ギドーは機体を踏みとどまらせることもせず、

ただ灰塵(かいじん)に帰す艦の姿をぼんやり見つめる。

それしか出来なかった。

『まさか……そんな……』

『隊長!ギドー隊長!……指示を!』

そんな部下の声にも反応せず、ただ虚(うつ)ろな表情で、

艦のあった方向を向いているギドー。

『所詮キサマは「軍学者」……机上で勝手に騒いでいるだけなら、

よかったものを……戦場などに立つから、こんな目に遭(あ)うのだ』

そう笑い、散った『ヴァイヤー』の内から姿を現す、

1機のムナガラー。

『お務めご苦労……ギドー大隊長。ゆっくり休め。あの世でな』

そうしてワイヤーが彼らの旗艦『ヘーシオドス』へと延ばされるが、

その先が『ヘーシオドス』に届くことはなかった。

あるモビルスーツが、ビームサーベルでその糸を切り落とし、

このムナガラーの前に立ちはだかったから。

「アナタは……私がお相手します」

声の主は、あのフェイ。機体は『ZGMF-23R2 ジ・ゾウム』。 

濃いイエローのボディに、ブラックを差すカラーリンク。

それがジズの上級機として開発された新型であるとは、

ムナガラーのパイロットは知らなかった。

コクピットに座る彼女は、何故か宇宙服を着ていない。

『リタ、ウィルマ……手を出さんでいい。コイツは私が……』

そう言いかけるのは、ムナガラーの男のパイロット。

だが、最後までは言わせてもらえなかった。

『いや、俺の獲物にさせてもらうよ……カーン・カーァ!』

そんな叫び声がそれをかき消すからだ。

口調は男っぽいが、

声色(こわいろ)からして女のものと分かる叫びに、

カーン・カーァことこの男は、

『……カトリーナ!』

と呼び止めるが、フェイの背後に迫る彼女を制止するには至らない。

やがてカトリーナ乗せたムナガラーのアンカーが延び、

ジ・ゾウムへと接近。しかし、

「ギドー大隊長!陣形を変えます!指示を!」

とのフェイの発言が聞こえてきて、

『何に話してんだ……こっち見ろっての!』

そうカトリーナが嘲笑したところ、

ジ・ゾウムの背中にあったH型のコンテナが動き出す。

Hでいうところの縦の2本線より、

蓋となっていた上部が引き戸みたくスライドし、

中にあった左右合わせ30余りの小さなミサイル弾を露出させる。

『……ああっ?』

カトリーナがこう声を漏らしたのが、

奇しくもミサイル射出のタイミングとほぼ同時であった。

放たれたミサイルらは一斉に後方へ飛び、

うちの1発がアンカー先端のビーム刃と接触。

爆発すると共に、例によってビームを撒き散らして、

刃の元を破壊しただけでなく、ワイヤー部分をも切断した。

『……チッ』

カトリーナの舌打ちが聞こえる。

残りのミサイルらがカトリーナを追っている。

そんな中、フェイはというと、

「ギドー大隊長!……ギドー!」

と何度も呼び掛けている。ただし、一向に反応はなく、

正面からカーン・カーァのアンカー攻撃が飛んでくる中、

回避行動を取りつつ、画面を切り換え、

戦艦のブリッジの様子を見るが、

そこにあるギドーの姿は肘を立てて顔を下げ、

両手にて自身の顔を覆って動かないというもの。

よくよく耳を澄ましてみれば、微(かす)かにギドーの、

『何で俺が……こんな。バカな……』

とボソボソ漏らしているのが若干聞き取れる程度。

到底、話の出来る状態ではあるまい。

ステュアートは画面よりブリッジの様子を消してしまうと、

広域の電波にて、

「これ以後、

ギドー大隊長に代わり、私が艦隊の指揮を執ります。いいですね?」

こう流せば、誰も反論する声は上がらない。

「至急、この海域を離脱します。取り舵(かじ)いっぱい!

モビルスーツ部隊は分散し、敵を撹乱(かくらん)するよう……」

フェイが言い終わるより前に、

カーン・カーァはビームサーベルで彼女に斬りかかるが、

その腕ごとビームガンで破壊されてしまった。

『……アイアイ、サー!』

との応答をしたアレハンドロ。

カーン・カーァの腕を撃ち抜いたのは他ならぬ、彼のアビスだった。 


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