機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
赤やら青やらのネオンサインだけが疎(まば)らに照らすばかりの、
暗い路地裏。同じ頃の話になろうか。
そこに今、2人の男がフラフラ歩いている。
いや、正確には2人ともそんな足取りなのではない。
片方がつま先立ちになりながら、右へ左に揺れていて、
もう1人が肩を貸し、揺れる度に踏み留まっては、相手を引き寄せる。
背格好は、肩を貸している方のが一回り小さく、
揺れる毎に、フラフラの男の白髪混じりの黒髪のうち、
結ばれたバンダナの影響で、獣の耳のように跳ねている部分が、
前に倒れたり、逆に後ろへと流れていったり、忙(そわ)しない。
しばらく歩いたところで、このフラフラした方が、
揺れた拍子に、
「……ウッ」
と声を漏らして、肩を組んでいない右手で口を覆った。
「スマン……アレハンドロォ……」
そう言って、男は組んでいた肩を振りほどき、
目の前に建つ電柱へとフラフラと近寄っていった。
やがてもたれかかるように、電柱を両手で掴み、前傾姿勢となる。
「絶対……飲み過ぎたっしょ?ワイリー先輩」
アレハンドロと呼ばれた彼は、そんな言葉を呟きながら、
振りほどかれた辺りに立ち、相手の様子を窺っている。
とはいえ、相手からの返答はなく、その代わり、
彼が嘔吐(おうと)する際に漏らした呻(うめ)き声が聞こえ、
その足場に広がる液状の吐瀉物(としゃぶつ)が見えた。
「……ウヘッ、ゲヘ」
一頻(ひとしき)り吐き出した後も、こうして咳(せき)が出て、
しばらく止まなかった。
アレハンドロは1、2歩下がり、首を気持ち斜めにした上、
右手の親指と人差し指で、鼻を摘まんだ。
やがて咳が収まるとワイリーは、
「オマエは……結局、一滴も飲まなかったなぁ?アレハンドロ」
そう背中で語りかけてくる。横顔だけアレハンドロに向けながら。
「そりゃ、俺は兵士ですからね……いつでも戦えるように、っすよ」
ワイリーの電柱を掴んでいた両手が開き、
代わりに、その両肘が電柱へとぶつけられた。
「そんなこと……何時起こるんだぁ?」
ワイリーは半笑いでそう告げる。
「さぁ?」
アレハンドロは開いた左腕を広げ、その掌を上へ向けて開いた。
「……わかんないっすよ?今日かもしれないし、明日かも?」
水溜まりを踏んだときのように、ベチャベチャと音を立てながら、
ワイリーが振り返った。顔は下がっているが。
「戦場は……生易しいものじゃない」
ワイリーの物言いに、流石のアレハンドロも、顔つきが真剣になる。
微(かす)かに上がるワイリーの顔。
だらしなく下がった額のバンダナに隠れて、右目は見えないが、
左目は隠れておらず、目の下のクマも含め、見えている。
「オマエは知らないから、そんなことが言えるんだ」
「……うちの隊で実戦経験しているパイロットなんて、
副長とワイリー先輩だけっすもんね」
踏み出そうと動くワイリーの足は、
先程彼の口から出てきたものに阻まれ、ツルッと滑(すべ)る。
慌てて膝を曲げ、電柱を掴むワイリー。
水飛沫(みずしぶき)のように飛び散ってボトムズにかかったが、
尻餅(しりもち)だけは着かずに済んだ。
「あ~あ……」
と目を半開きにするアレハンドロに、
ワイリーは電柱を頼りにゆっくりと立ち上がる。
「……例の演説のこと、気にしてるのか?」
そう話すワイリーは、アレハンドロの方には脇目も振らず、
電柱にもたれながら、徐々に持ち直していく。
「考えないことだ……俺みたいに、なりたくなきゃな」
ようやく立ち上がったワイリーは、なおもフラフラのまま、
ゆっくりとどこかと進んでいく。
その後ろ姿を見ながら、アレハンドロは一言、
「……俺だってエースだってこと、忘れてませんか?」
そう呟いた。