機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
壁に突っ伏し、その両手で顔を覆い、自嘲めいた笑い声と共に、
「何してんだかよ……俺は」
と呟いていた。
アレハンドロの言葉が脳裏を過(よぎ)る。
『俺は兵士ですからね……いつでも戦えるように、っすよ』
「……何歳下だって話だよ。アレハンドロのヤツ」
空になった一升瓶(いっしょうびん)を地面に叩きつけるワイリー。
彼は自分を嘲笑(わら)わずにはいられなかった。
そんな心持ちのままに、向かえた出撃の一時間も前、
顔を合わせるのが嫌で、真っ先に部屋を出て、
モビルスーツデッキに向かった。
そんな道すがら、逆立った赤い髪が目に入る。
正確にはソフトモヒカン。逆立った部分だけが赤で、他は明るい茶色。
そんな髪型だ。
「……マイク」
ごく小さな声ではあったが、つい名前を呼んでしまった。
目が合う瞬間に、相手は侮蔑(ぶべつ)するように目を細めた。
妙に後ろめたくなり、ワイリーは顔を下げた。
そこから徐々に近付いてくる足音。
文句を言われることを覚悟し、思わず目を閉じたワイリー。
しかし、当のマイクは一礼して、そのまま横を通り過ぎてしまった。
勢いよく上げるワイリーの顔。
そんな中で、背中合わせの位置でマイクが口を開く。
「今日は……呑んでないですよね?」
恐る恐る首を回し、ワイリーは横顔でマイクを確認したが、
相手は背中を向けたままだった。
「……あっ、あぁ」
ヘンに上擦るワイリーの声。
「何ですか……その反応。
てか、えらい早くないですか?今からなんて……」
後ろ姿にも、マイクが腕時計を確認する様子が窺えた。
「い、いや……
はっ、早めに持ち場に、ちゅ、着いておこうとおも……って」
自分の方が先輩だというに、
ワイリーは緊張した面持ちで、何度も舌を噛みながら答えた。
「……そうですか」
対するマイクの声に特段の変化は見られない。
「くれぐれも気ぃつけくださいね……ワイリー先輩」
そう付け加え、マイクはついに振り返らぬまま、去っていった。
ワイリーはその背中を目で追った。
少し考え事をしながら。
下の戦場。脱走兵側の、
『もう……イージスは終わりか?』
『……えぇ』
『クソ。もう少しだというに』
なんてやり取りが聞こえていた頃、
ワイリーがセイバーを戦闘機の形態へと変形させると、
赤いボディも闇に潜むような黒一色へと変貌させ、
下から突き上げるマシンガンの弾幕を上手く避けながら急降下する。
こうして敵陣深く斬り込んだワイリーは、右端にいたザクへ、
目前で再度モビルスーツとなって襲いかかる。
両手に素早くビームサーベルを構えたセイバーに対して、
相手のパイロットがサーベルに手をかけたのは遅く、
抜いたときには、もう降り下ろされていた。
セイバーはザクの顔から腹部にかけて、
2本の線を描く形で切り裂くと、瞬く間に機体は爆発した。
一撃離脱とばかりに、
セイバーはまたも戦闘機形態となると、一気にその場を離れた。
『右翼3機は……セイバーを攻撃しろ!』
そんな声と共に、アダガが右へと体を向けた。
男性の声だ。そして、アダガのパイロットらしい。
指示を受けたザク2機とそのアダガの3機がセイバーを砲撃するも、
黒いボディが宇宙の闇に紛れて視認し難いのか、
はたまたセイバーの機動力か。兎に角まるで当たらない。
『……スゴい』
というヴァイデフェルトの声。
しかし、当のワイリーの額には汗が流れている。
「……ビビっちゃらんねぇよな。後輩たちの前で」
画面の端には、変わり果てたマイクの姿が見えている。
位置的に、足がワイリーの方に向いている分、
なくした首から上は見えていないが。
「アスカ……前の連中は俺が押さえるからよ。指揮を頼むぞ!」
『……副長ぐらい付けろっての』
俺の悪態をサッと聞き流し、ワイリーは、
「無様だがよ……俺も戦場は長いんだ。俺には俺の意地がある。
ガキどもにばっか良いカッコさせっかよ」
低く、落ち着いた声でそう。
聞いてる俺なんか笑っちいそうだったが、
画面で俯きがちにそう語るワイリーは真剣そのもの。
『……頼みますぜ。ワイリー先輩』
少しからかうように言った俺のそんな台詞に、
「あぁ」
とワイリーは短く、力強く応じた。
そこで俺は回線を切った。
上昇を始める『フレイヤ』とモビルスーツたちの中で、
セイバーだけが低位置に止まっていた。
当然モビルスーツたちの攻撃が飛んできている。
『ワイリー・スパーズ……オマエの首は俺が!』
と吠える相手のアダガのパイロット。
アダガがビームサーベルを抜き、
後続のザクらもビームアックスを構え、一気に接近してくる。
「俺も……ナメられたもんだな」
シールドも構えず、それどころか両手さえ下げ、
接近する敵を待つワイリー。
『……貰ったぁ!』
アダガより撃ち込まれるビームガン。
それをワイリーはほとんど動かず、
ただ右へ左へ体の向きを変えるだけで避けてみせる。
『なっ……クソめが!』
突きの動作で襲いかかるアダガのビームサーベル。
それでもワイリーの動きは変わらない。
向き直ってギリギリで刃を避けると、相手の両腕を掴んだ。
正面にはアダガを避けるように右と左に分散したザクが接近中。
「面倒だ……一気に倒してやる」
いなすようにアダガの体を揺さぶれば、ビームの刃は右を向き、
丁度間合いを詰めたところだった右のザクを貫いた。
体は左を向いていた。これまた丁度、左のザクの刃の盾となる位置に。
それぞれが傷を負った2機のモビルスーツが爆発四散するのは、
それから何秒とかからぬ内であった。
『そんな、バカな。こんな戦い方が……』
残されたザクのパイロットが漏らした声。
「……出来るんだよ。ビビんなきゃね」
そう答えたワイリーのセイバーの姿は、ザクの後ろに。
ザクの腰の脇にビームサーベルが当てられている。
いや、ギリギリ当たらない位置というのが正確か。
無論、サーベルの持ち主はセイバー。
サッと身をひっくり返し、ザクの体を迫る敵の盾とした。
次いで真っ黒になっていたセイバーのボディが、また鮮やかな赤に。
そして、その左肩にはコヨーテのマークが。
「……投降しろ。命は助ける」